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■オープニング本文 先の戦乱の直後、南部領主ユリアス・バートリが開設した傷病者救護の為のキャンプに、一人の人物が現れた。 「責任者はいるか?」 高圧的な態度に怪我人達の治療に当たっていた医者や女性達も驚いた顔を見せるがその人物が 「ガリ家次期当主 ソーン・エッケハルト。このキャンプの責任者に目通りを願おうか」 と言って来たら拒否するわけにはいかないし、下手な人物に相手をさせる訳にはいかない。 一吟遊詩人として動いていたユーリは身支度を整え、ユリアスとして彼の前に立った。 「この度はご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした」 「まったくだ。貴殿の物好きな行動で我々の予定も少なからず変更を余儀なくされた。以降はこのような勝手な振る舞いは慎まめよ」 「まことに。返す言葉もございません」 人命救助の為、とはいえ戦乱の最中の他領に勝手に足を踏み入れたのだ。 非は明らかにユリアスの側にある。 「まあ、結果として我が軍の兵士も少なからず助けられた訳でもあるし、今回の件に関してはこの場限りの注意で不問としようということになった。ただし、現時点で動ける神教徒は引き渡してもらう。よいな?」 「はい。まだ当分は動けない重傷患者などはいかがなさいますか?」 「それに関してはこちらで預かっても看護はできない。そのような人手もない。貴殿が責任を取ると言うのであれば任せるか?」 「解りました。当面我が領地内でお預かりすると言う事にさせて頂きます」 「ふむ。運の良い奴らだ。捕縛した神教徒の多くは強制労働区送りだというのにな」 終始下手に出るユリアスに調子を良くしたのか、一通りの交渉が纏まるとソーンは楽しそうな笑みさえ見せ始める。 「しかし、一度貴殿の顔を見ておきたかった」 そう言うソーンにユリアスは首を傾げた。 「貴殿の話は聞いている。庶民の中で育ち、最近領主として迎えられたと。だから、まだまだ世の中と言うものが解っていないようだな」 「どういうことでしょうか?」 「命を救いたいと言う気持ちは理解できなくもないがまだまだ甘いと言う事だ。神教徒まで助けるなど、立場を悪くするだけだろうに」 暫し、考えるように口をと閉ざしたユリアスは、そっと顔を上げる。 「私は確かに甘い夢を見ているのかもしれません。ですが、そうしたかった。いえ、そうせずにはいられなかったのです。命を見捨てることはできなかった…」 「やれやれ。保護した神教徒共の対応に苦慮させられている叔母上に聞かせたい話だな。あ奴らは厄介だぞ」 ワザとらしく肩を竦めるソーンの目と言葉は嫌味半分強、興味半分弱、というところだろうか? 「まあよい。他所に手を出すほど余裕があるのなら、その手腕を拝ませてもらおう」 「ありがとうございます」 「では、またいずれ。繰り返すが、以後はこのような行動は慎めよ」 「解りました」 最後まで高圧的な貴族の態度でソーンは帰って行った。 筋金入りの貴族との交渉を終え残されたユリアスは、ふう、と大きく息を吐き出したのだった。 何か胸に思うものをも吐き出すかのように。 それから暫くの後、開拓者達にユリアス・ソリューフの名前で一通の手紙が届いた。 表書きは依頼ではなく 「招待状」 中を開けると先の医師団の護衛に関する感謝の言葉と共に、開拓者をユリアスの街の秋祭りに招待する旨が書かれてあったのだ。 『先だっては医師団の護衛に協力頂いた開拓者の皆さんに心から感謝申し上げます。 つきましては今月末行われます我が街ラスカーニアの収穫祭に皆さんをご招待したく存じます。 リーガやクラフカウの祭りとは比べるべくもありませんが、良ければ我が街の実りを楽しんで頂ければと思います。 また、祭りを盛り上げて下さる方には些少ですが謝礼もご用意いたします。 ぜひ、お友達お誘いあわせの上、ぜひおいで下さい』 それだけであれば勿論、ただの招待状として貼り出すだけであった。 だが、そうするのを迷った理由がある。一枚の手紙。 追記、として添えられたそれには今回の件における神教徒達の顛末と医師団が保護した神教徒達をユリアスの街で預かることになったことが記されてあったのだ。 『彼らは徐々に傷も回復に向かっておりますが、身体の傷以上に心の傷が酷いようだ、と医師団は申しておりました。 戦いに負けた事、預言者に騙された事、そして何より自分達が生き延びてしまったことに深い悲しみ、苦しみを抱いているようです。 動けるようになって後、自害する者もいるのではないか。と医師達も心配しております。 もし、可能でしたら彼らに何か言葉をかけてやって頂ければ幸いです』 自らの神と信念の為なら死を厭わない神教徒達にとってみれば生き延びてしまった事、は決して幸福ではなかったのかもしれない。 だからと言ってせっかく助かった命を散らしていい筈は確かにない。 そして彼らにとってもっとも心に響く言葉を発せられるのも確かに開拓者だろう。 係員は二枚の紙を掲示板に貼り出した。 ふと冷たくなった秋風が頬を掠めて行く。 紅い嵐の最後の風が、秋の落ち葉と共に踊り、静かに眠ろうとしているようだった。 |
■参加者一覧
フェルル=グライフ(ia4572)
19歳・女・騎
フェンリエッタ(ib0018)
18歳・女・シ
アイリス・M・エゴロフ(ib0247)
20歳・女・吟
クルーヴ・オークウッド(ib0860)
15歳・男・騎
アルマ・ムリフェイン(ib3629)
17歳・男・吟 |
■リプレイ本文 ●祭りのその影に 秋祭りが近いという南部辺境、ラスカーニア。 その賑わいを見ながら (生きている、それだけの事が堪らなく辛い) フェンリエッタ(ib0018)はそう思っていた。 一緒に来たクルーヴ・オークウッド(ib0860)は街中を明るい顔で見て回り、何やら買い物をしているようだった。 イリス(ib0247)も祭りや人々の様子を見て回っている。 アルマ・ムリフェイン(ib3629)などは祭りの楽隊に加わって楽しい音楽を奏でている。 子供達は彼を取り囲んでワイワイと大騒ぎだ。 「なかなか元気で優しい町ですね。活気もあって。ほら、こんなに美味しそうなものが!」 嬉しそうな顔で籠を見せるクルーヴの言葉も、街の賑わいももしかしたら彼女の耳には届いていなかったかもしれない。 彼女は目を閉じた。 忘れられるはずはない。 あの惨劇を。流れる血を、悲鳴を。もしかしたら生きたまま埋められたかもしれない人々を。 (今尚罪悪感は苛み死は囁き続ける) 「フェンちゃん」「フェン?」 思いつめたように目の前の光景では無いものを見つめるフェンリエッタを心配したのだろうか? フェルル=グライフ(ia4572)が優しく声をかけた。祭りの輪の中から抜け出てきたアルマも同じように彼女を見る。 「ありがとうございます。大丈夫ですから」 親友たちに小さく頷いたフェンリエッタは、だからそんなことなど知らないかのように笑いさざめく人々に軽く視線を贈って後、背を向けて歩き出した。 笑顔の輪から零れ落ちた人々の所へと。 さて、賑やかな秋祭りの準備たけなわなジルベリア、南部辺境ラスカーニア。 その領主館の執務室にて 「ユーリ様」 そう呼ばれた領主ユリアス・バートリ、ユーリは自分を呼んだ人物に顔を向けた。 「どうしましたか?」 「開拓者の皆さまがお見えです」 秘書の青年はそう言って頭を下げる。 「そうですか。来て、下さいましたか…」 ホッと胸を撫で下ろす様に微笑むユーリは仕事の手を止めて立ち上がった。 「はい。ただ、来賓としての扱いは皆様ご遠慮する、とおっしゃっています。神教徒達の所で過ごさせて欲しい、と…」 「問題ありません。皆さんの思う様にして頂いて下さい。必要な物資などがあれば手配するように」 「解りました」 退室した秘書を見送ってユーリは窓際に立つ。 眼下に見下ろす街は祭りを前に賑やかで、人々の笑顔が花咲いている。 しかし、あの日から彼らの顔に笑いが浮かんだのをユーリは見たことが無かった。 生き残りの神教徒達。彼らの苦悩は痛い程に解る。 だからこそ、見捨てたくは無かったのだ。 「皆様、どうぞお願いします」 ユーリはそう言って深く頭を下げた。街の外れに見える小さな屋根に向かって…。 そこは今は使われていない集会所であると案内してくれた医師は教えてくれた。 白いカーテンに清潔な絨毯。大きく開かれた窓。 思っていたより明るく、清潔に保たれて、数十人の神教徒達がそこに暮らしていた。 だがそこは思った以上に静かな空間であった。 働く女性や医師たちの他には殆ど動くものも無く、声も聞こえない。 部屋の白さと相まって不自然なまでの静寂を感じる。 一瞬、顔を見合わせた開拓者達であったが、その行動に躊躇いは無い。 「こんにちは。お邪魔してもよろしいでしょうか?」 そう微笑んで白い部屋に足を踏み入れたのだった。 ●言葉にならない声 まずは部屋の雰囲気を変えることから彼らは始めることにした。 「こんにちわ。お見舞いに参りました。お邪魔します」 明るい挨拶をして中に入るとお湯を沸かし、盆にお茶や甘いお菓子を並べる。 窓辺には真心を示す秋桜の花が揺れていた。 「これも一緒に並べて下さい」 クルーヴは籠から焼き菓子や、甘い果物で飾られたパンなどを取出し、フェンリエッタが用意したものの側に並べた。 そして自分でも持って歩けるようにと盆に乗せる。 神教徒達の反応は固い。 特にイリスやフェンリエッタ。あの戦場で出会った二人の顔を見た瞬間の彼らの顔はさらに氷のように凍りついた。 「お加減はいかがですか? パンと今年のワインを買ってきました。ご一緒して頂けませんか」 「うるさい! 近寄るな!!」 クルーヴが足を止め、そんな声をかけた男の声と共に風を切る音がする。 そして一瞬の後に広がったのはガシャン! と言う音。酒の匂い。 「…あ」 そう呟いたのは誰であったか。 だが手伝おうとする女性を手で制してクルーヴは黙って木のカップとパンを拾って落ちたパンを齧った。 「干し果物がたっぷり入っていて美味しいですよ。まだたくさんありますから」 微笑むクルーヴの後ろでは柔らかい音色の音楽が聞こえる。 最初に聞こえてきたのはイリスの歌う「ある王の歌」 イリスの朗々たる声が高い屋根の天井まで届きそうな程に響く。 それはかつて人々の為に神の名を掲げて戦った英雄の物語。ジルベリアを分けた戦乱の伝説。 はっきりと名前を上げているわけでは無いが、聞いていれば解る。 それが誰を称えているかは…。 「コンラート…様?」 強く、優しく響いた歌声が終わると途中軽い伴奏を添えたアルマが、後を引きつぐように今度はバイオリンを弾きはじめた。 「これは…」 そのメロディーラインに彼らの多くが目を瞬かせた。 アレンジこそしてあるが、これは古い讃美歌の一つ。神へ捧げる歌である。それにフェルルが舞を捧げる。 どちらの歌も帝国軍に聞かれたらタダでは済まないかもしれない「演奏」。 それを目の前で、敵である開拓者が… 「お前達は…一体何をしに来たんだ?」 アルマの演奏とフェルルの舞。その両方が終わった時、搾り出す様に吐き出した男性にイリスは静かに答える。 「お話を伺いたいと思います。皆様の神の教えについて…、そして、思いについて…恨み言でも構いません。どうか、聞かせて頂けませんか?」 戦場で危険を顧みずに神教徒達に呼びかけたイリスの姿を覚えている者もいる。 「私達にできることはないかしら? 聞かせて。貴方達の思いを」 フェンリエッタの言葉に返事は返っては来なかった。だが… 「…僕は話を聞かせて貰いたいんだ。側に行ってもいいかな? フェンちゃん達が用意してくれた美味しいものもあるからさ」 歩み近寄ってくる開拓者達を再び振り払う手は無かったのである。 ●伝えたい思い まず開拓者達は話を聞くことから入った。 一人一人の側にそっと寄り添ったのである。 「私の名前はフェンリエッタと言います。お名前を教えて頂けませんか?」 そう聞いた開拓者に自分の名前を名乗った者は殆どいなかったが 「…ごめんね、傷つけて」 優しく重ねられた手を振り払う者も、またいなかった。 「喜び、楽しみ、悲しみ、恨み、何でも。伝えたい言葉があれば僕が手伝うよ。生き延びた貴方だから、伝えられるんだ」 アルマはそう言って、今も床に伏したままの神教徒の一人に声をかけた。 「お前に何が解る。石を投げられ、迫害されてきた者達の苦しみが解るか! 仲間達も…友も死んだ。願ったのは神の国の復活、ただ、それだけであったのに…」 布団の下から嗚咽が聞こえる。アルマはバイオリンを構えるとそっと鎮魂の祈りの歌を奏でるのだった。 「神は、全てをご覧になっておられる。そして審判の時に神は人を裁かれる。教えに従い、正しく生きた者は永遠に神の国で幸せに生きる。だが、神の教えに背く生き方をした者は闇の世界で未来永劫苦しみ続けるのだ」 あの時、聞けなかった彼らの教義や思いを書きとめながらイリスは聞いていた。 目の前の男性の瞳にはまだ力がある。もし身体が動くのであれば再び剣を持つのでないかという信念さえ、感じる程に。 クルーヴはさっきの男性の杯にワインを注ぎ、差し出すと 「僕の実家は父の代からの魔術師で姉はやや過激な人ですが、長兄も国に勤める魔術師なんですよ。僕は魔術の出来が今一つで家の支援を受けて騎士を目指したわけなのですけどね」 横に座って、明るくそんな自分の家族の話をした。 さっき手を振り払った男は、今度は杯を受け取るとクルーヴの話に応えるようにぽつり、ぽつりと戦乱の前に別れた妻と、息子の話をする。 神を信じている。それだけで迫害され続けてきたこと。信じる心の支えを折られた時の苦しさ。 愛する者達を守りたいと言う思いを。 だからこそ彼らと共に神の国にある為に自分は命を賭けたのだ、と。 「それなのに…私は、生き残ってしまった…。妻も、息子も、私をどんなに不甲斐なく思っているだろう…」 手を握り締める男の目をクルーヴはまっすぐ見つめる。 「僕も神教徒についての知識は、少しですが、あります。殉教を極端にみる解釈もあって微妙ですが、本来は自死は否定されるものだったと記憶していますが違うのですか?」 クルーヴの視線の先にはフェルルがいる。 さっき彼女はこう語っていた。 『皆さんを操っていたアヤカシの心の内を見る機会がありました。 その時に、皆さんの苦しみをまさしく我が身の事として、感じる事ができたんです。神教徒が想像を絶する悪意に晒されていたことを。何か拠り所を求めていた。それも解ります』 「確かに、そういう説もあった。だが、預言者は我々に…神が救いを与えて下さる、と…」 「その預言者というのはアヤカシであったのではないかと言う話を仲間から聞きました。もし根拠が預言者の言葉だけであるというのならば、もう一度考え直して頂くことはできませんか?」 「…」 クルーヴの言葉に男は首を背ける。 ずっと信じてきたのだ。正しい異教徒は死んだ異教徒だけ。神と預言者の言葉を信じることこそが永遠の幸せを得ることなのだ、と。 預言者がアヤカシであったという噂は聞いている。 だが、それを認めてしまったら、あまりにも愚かではないか…。 男の様子を見ながらクルーヴは自分の杯を見た。 並々と黄金色の酒が注がれて白い泡を弾けさせている。 「麦も葡萄もいつでも十分なわけではないけれど今年もこうして頂く事が出来ました。上手く伝わるか自信がないのですが、折角生き残る事ができた命事故の為だけととらえず活かしてもらえたらと思うんですよ。生きているからこそ、できる何かがある筈ですから」 くいと、杯を呷るとクルーヴは笑った。 さっきのフェルルの声が、今も耳に残る。 『それを知った上で、言わせて下さい。私は、あなたが生きていてくれた事に感謝しています』 フェンリエッタも言っていた。 「有難う。私嬉しいの、貴方が生きていてくれて。 こう言うと重荷になるかもしれないけど、それがきっと自分の命の重みなのね」 「僕もそう思いますよ。貴方が生きていてくれてよかった」 そして自分の手と彼の手を重ねあわせ、握り締めたのだった。 ●祭りの意味と思い 見舞いを終えた開拓者達は帰路、ラスカーニアの秋祭りを少し覗いてみることにした。フェンリエッタもフェルルに手を引かれ、楽しそうな人々の笑顔を遠巻きに見つめていた。 祭りの輪の中に引き入れられたクルーヴ。 イリスは既に歌を歌って、祭りに花を添えている。 尊い者を信じる人々との祈りを詩にした歌。神教徒との出会いを歌にしたと言う。 (いつか皆さんの祈りが咲き誇れるように…) イリスの願いが込められている。 (ユーリさん… 例えどんなに長く大変な道のりであったとしても、 徒労に終わるかもしれなくても…これが私のやり方です) …人々の生きる力で満ち溢れたこの街は、あの戦場や白い部屋とは本当に別世界のようだ。と二人は思った。 「明るくて活気のあるいい町ですね。彼らもいつかあの白い部屋を出てきてくれるといいのですが」 フェルルの笑顔と言葉にフェンリエッタはさっきの事を思い出す。 青年に語った自分の思いを…。 『なぜ人は己と違う者を排除し貶め相争うのかしら。 あの時のように血が流れるのを止められない私もそう、時々堪らなく嫌になるの。 絶望して自棄になって…でも結局まだ生きてる。 私を引き留めてくれる人がいて、今こうして一緒に居たい人もいるから』 フェンリエッタはあの部屋で、青年にそう語ったことを思い出した。 『命は等しく尊いもの…民も貴族も皇帝陛下も、テイワズも信仰を持つ者もね。 区別なく皆幸せになる権利がある。 私は、例え信じるものが違っても尊重し合い誰もが大切なものを失わず共に幸せに生きていける道を探したい…。 でもその為に自分と異なる「敵」を討つのは本末転倒だわ。 折角生きていてくれる貴方達にも、誰にも二度と戦って欲しくないもの。 …そんな理想叶いっこないって呆れるかしら。 ふふ、愚痴になっちゃったかな。 聞いてくれて有難う』 彼は本当に最後まで、黙って話を聞いてくれた。 彼女の言葉に何を思ったかは解らない。でも否定することなく受け入れた彼は最後、彼女に自分の名を教えてくれたのだ。 「有難う。アレクさん…」 フェンリエッタが目を閉じた時。 「あら?」 フェルルが声を上げた。 ふと前を見れば友が子供達に囲まれて演奏をしている。 肩には白いカーディガンを羽織るアルマ。 「外は寒くなる。持って行け」 帰り際、神教徒の一人がそう言ってくれたものだった。 彼らには自分の持ちものなどないに等しい。その中で僅かな衣服を与えてくれたのは彼らなりの礼だろうか? (きっと、解ってくれたよね) 時に、思う事がある。 …彼らも傷が治ったら、労働か処刑の罰が下されるのかもしれない。と。 『処刑されるために助けたのか?』 悔いてもいないし、あの時掛けられた言葉にも言い訳もない。 怨は死なない。身に染みてる。 でもそれは…連鎖させちゃいけないことも、同じだ。 彼らを思う人が笑えなくなるから…。 「…懐かしい歌をありがとう」 彼らと再会できた機会と、あの言葉が何よりの報酬であるとアルマは思っていた。 ふと、アルマは演奏の手を止める。 フェルルとフェンリエッタがいた。さらに後ろにユーリの姿が見える。 悩みを抱くフェンリエッタの味方でありたいし、ユーリに伝えたい思いもある。 「フェンちゃん。一緒に歌おう? やっぱり自分も楽しくないと人を楽しませられないんじゃないかな」 アルマは声をかけフェンリエッタに手を振り、彼女はそれに応じるように頷いた。 やがて街に響くのは戦場で歌ったのと同じ、命の尊さを歌う歌。 笑顔での再会を願って紡がれた歌は、イリスの歌や祈り、アルマのメロディと共に町の人々やユーリの心に届いたのは勿論の事、白い部屋に臥せる人々の胸にも小さな灯を灯したのだった。 その後神教徒達は少しずつであるが、自らの意志であの部屋を出て新しい生活への一歩を踏み出し始めたと言う。 彼らの歩む道の先が、心の行く末がどこに繋がっているのかはまだ解らないが、それが未来への一歩であることは間違いないだろう。 |