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■オープニング本文 神楽の街の裏町にある店がある。 『孤栖符礼屋 西門』 看板だけでは絶対何の店か解らないその店は 「‥‥結婚式の晴れ着ですね。おめでとうございます。この刺繍の内掛けなどいかがでしょう?」 「ステキ。自分で買ったら絶対にこんな豪華な服は着れないもの。嬉しいわ」 「ありがとうございます。では、当日お届けにあがります。お化粧もついて1000文です」 要するに貸衣装の店なのであった。 客との応対を終えた少女は、店と奥の間を繋ぐ暖簾をくぐる。 「西門兄さん! 久しぶりの仕事よ!」 どこかイラついた声と視線の先には 「ふあああっ! 面倒くせえなあ〜。美波。お前が行っとけよ」 大あくびをする男がいる。兄さんと呼ばれたその男のやる気の無さに‥‥ 「何言ってるの! 兄さんの腕が無かったらお化粧付きで追加料金取れないじゃないの! 修行してきた腕の見せ所でしょ!」 美波と呼ばれた少女は頬を膨らませた。 「この間みたいに当日は逃げちゃ駄目よ。結婚式なんだから花嫁さんが困っちゃうでしょ?」 「どうせ、結婚式なんか白く塗りたくればいいだけだろ? 俺の腕はそんなものに使うもんじゃねえんだよ!」 「じゃあ、何に使うって言うのよ」 「そりゃあ、女を口説く為で‥‥」 「このバカチン!!」 バッチーン! 平手打ち一発。 兄の頬に紅い花を咲かせた美波はさらに頬を膨らませて、兄を睨みつけた。 「兄さんがそんなだから、お店にお客が来ないのよ! 父さんと母さんから受け継いだ大事なお店なのに!」 「いいんだよ。この店はこれくらいで。あんまりお客が来たら遊ぶ間もなくなるだろ」 「馬鹿!! そんなに仕事したくないならイヤでも仕事しなきゃならないようにお客を大勢集めてやる!!」 「美波!!」 店を飛び出していった妹を見送って、兄は大きくため息をついたのだった。 「仮装行列?」 そうです、と少女美波は頷いた。 「私は兄とこの神楽の街で小さな店を開いています。貸衣装のお店です。結婚式の時や礼装の貸し出しとかで細々やっていますが、できればもう少し客層を広げたいんですよ」 で、一般の人にも仮装を楽しんで貰えるようにしたい。 それで衣装を身につけ街でビラをまいたり、宣伝活動をしてくれる開拓者を募集する、という。 「やっぱり普通の人には仮装や変装って言ってもまだなじみが薄いじゃないですか? その点、開拓者の方ならあんまり抵抗ないかなあって。大してお給料は出せませんけど、店の服やその他は貸し出し自由です。本当は補償費込みで1回1000文貰うんですが、勿論タダで。食費込み。あ、勿論化粧、髪結いはサービスしますよ。兄は結構腕が良いんです」 差し出された衣装の品揃えを見る。 定番の振袖、羽織袴などから、浴衣いろいろ、鎧、武器、着流し、巫女服、もふら半纏、アクセサリー各種、お面にうさみみ。きぐるみやジルベリア風のワンピースやマントもある。 「メイド服にサンタ服? 随分変わった物も多いんだな」 「‥‥兄の趣味で。あと、父が集めたものもあって‥‥」 苦笑しながら少女は、言う。 「とりあえず今回は、こういう店があるよって皆に知ってもらえれば‥‥。なんとかよろしくお願いします」 と。 肩をいからせて出て行った妹を、兄はやれやれと、見送った。 「本当にこれ以上表の客を増やしたくも無いんだがな‥‥」 小さく笑う彼の本意や意味を知る者はまだいない‥‥。 |
■参加者一覧
万木・朱璃(ia0029)
23歳・女・巫
杜乃・縁(ia0366)
19歳・男・志
弖志峰 直羽(ia1884)
23歳・男・巫
平野 拾(ia3527)
19歳・女・志
珠々(ia5322)
10歳・女・シ
シャルル・エヴァンス(ib0102)
15歳・女・魔
ブローディア・F・H(ib0334)
26歳・女・魔
キオルティス(ib0457)
26歳・男・吟 |
■リプレイ本文 ●夢の世界 一歩、足を踏み入れると別世界であった。 「うわあ〜。すごおぉい!」 少年も、少女も目を丸くする。そこには人々の夢が、あったのだ。 「孤栖符礼屋‥‥ですか。そのようなお店があるなんて。興味が‥‥ありますね」 その日、依頼を受けた開拓者達は一様にわくわくとした顔で、歩を進めていた。 「いや、でもいいアイデアだとは思うな。興味はあるけど、何となく躊躇ってるとか機会がなくて、とか、そういう人はきっといるだろうしな」 弖志峰 直羽(ia1884)は返事を期待してはいなかったであろう杜乃・縁(ia0366)にやっほ、と笑いながら声をかけた。 「それで、縁ちゃん。君は男の子、女の子?」 思わぬ人物からの明るい問いかけに、縁はおどおどしながらも答える。 「‥‥あ、はい。その‥‥男です」 女装、というほどではないが女性風の服を着ているから何か言われるかもしれない。そう身構えた縁に 「そっか、縁ちゃん、よろしくな」 直羽はわしわし、と頭を撫でると真っ直ぐな笑顔を見せた。それから 「朱璃姐! 何にするか決めた? 珠ちゃんは?」 旧知だという万木・朱璃(ia0029)や珠々(ia5322)の方へと近づいていく。 「なんだか、不思議な方ですね」 小さく苦笑する縁に 「大丈夫ですか?」 と拾(ia3527)が笑いかける。 「別にイヤだった訳じゃないから、大丈夫ですよ。一緒に頑張りましょう」 「そうですね。どんなお洋服があるのかな。ジルベリア風の服は着てみたかったので、とても楽しみです♪」 ワクワクを絵に描いたような表情を浮かべる拾を見てブローディア・F・H(ib0334)やキオルティス(ib0457)からも笑みが絶えない。 「良いね。良いね、うきうきするね。宣伝でも何でも楽しめりゃオールオーケー。やってやろーじゃん」 「そうね。せっかくだから楽しみましょう。裁縫の心得はあるから多少のやぶれ位なら直してあげられると思うわ。でも、やりすぎには注意してね。あ、あそこかしら‥‥」 シャルル・エヴァンス(ib0102)が指差した先には【孤栖符礼屋】の看板とのれんが見える。 「噂の孤栖符礼屋ですか‥‥既に一部の人たちにとっては聖地と化しているとかなんとか。いや知りませんが。でも、頑張っていきましょー!」 朱璃の言葉に開拓者達は期待にさらに胸を膨らませて、そののれんを潜ったのだった。 天井まで所狭しと並べられ、吊るされた服の数々。 「先代、先々代から集められた服の数々です。うちの店の宝ですよ」 自慢げに見せた依頼人美波の指差す先に 「うわあ〜。すごおぉい! き、きれいな服や、ドレスがいっぱああい♪」 声を上げうっとりとしたのは、勿論拾だけのことではない。 「これがきぐるみってやつですか。もふらに、とらさん。あ‥‥くまさんもありますね。なんだかわくわくです」 「このドレス、真っ白で、すごく綺麗ですよ」 「ああ、そのドレスはユノードレスって言って結婚の女神の祝福がかけられているって言われているんですよ。拾さんにはこのピンクのドレスなんかいかが? スプリングっていう春のドレスなんですよ」 少女達はもう衣装に夢中。美波も半ば商売口調は入っているが、同年代の女の子と話せるのは楽しいようでいろいろな衣装を出しては説明と小道具合わせに余念が無い。 「はあ〜、女ってのはどうしてこう、服とか外見とかにこだわるのかねえ〜」 彼女らを見つめ、ため息をつく店主西門におや、とビラ作りをしていた直羽は首を傾げる。 「それがこの店の売りじゃあないのかい? ちょっとしたこの非日常感、ってやつが、楽しいもんだよ」 「そうそ。人間楽しむ心を失ったら駄目だよ。兄さん」 目を瞬かせる西門を 「兄さ〜ん!」 と美波が呼ぶ。 「これから、ちょっと寸劇みたいにして皆さんが、外で客寄せしてくれるんだって。だから、彼女達の化粧と髪結いよろしくね」 「お前が勝手に依頼したんだろ。俺は‥‥」 「ちょっと! あなた!」 妹に反論しようとする兄、その間に割り込んでシャルルは兄を、キッと睨んだ。 「気が乗らないなら最初から引き受けない方が良いわよ。 綺麗になりたい女性に対してあなたの態度は失礼だわ。どんな理由があったとしても、よ。お金を取る以上自分の仕事に責任を持ちなさい!」 「あ、ああ‥‥。解った」 自分の三分の二程度の身長でしかない少女に怒られたことを、彼がどう思ったかは定かではない。 だが 「さあ、早く着替えましょう。どんな服が良いかしら」 「これもいいんだけど‥‥すこし胸元がきつような‥‥」 「はわ‥‥すごい。このドレス、かわいい‥‥っ! おひめさまみたい」 「じゃあ、いっそお姫様風にやってみませんか?」 「いいじゃん。街のオンナノコやオトコノコをイチコロにしちゃお」 「では、僕がメイドをやりましょう?」 「いいのかい?」 「ええと、実は‥‥一度着てみたかったんです‥‥メイド服‥‥」 「じゃあ、2チームに分かれてやりましょうか?」 その後、彼が施してくれた化粧と髪結いは素晴らしかった、ということが彼の答えなのだろうと想像するのみである。 ●お姫様と、執事とメイド その日、神楽の都の裏町は不思議な活気に包まれていた。 それを見るために人々は集まり、噂を聞きつけて表街からも人が沢山来ていたのだ。 「なんだ? あれ?」「可愛いお姫様ね」「私はあの執事さんが好き」「あれが、噂のメイドって奴か?」 人々の視線の先にいるのは、ピンク色のドレスを着た美しい茶髪の少女。桃色の唇に透き通った頬。 薄紅色のイヤリングに首飾り。真珠のティアラも映えてため息が出るほどの美しさであった。 そして背後に仕える様に控えているのは一人のメイドと、一人の執事。 彼らは右と左から優雅に手を取り楽しげにくるくる踊る薄紅色の姫君に礼を取る。 「おひいさま、あまりはしゃぎすぎませぬよう‥‥」 パフスリーブでロングスカートのメイド服を着た縁はフリルつきのエプロンドレスをくるりと回って躍らせると、手を差し伸べる。 「姫さま、裾が乱れております‥‥。さあ、お手を‥‥」 反対側から手を伸ばすキオルティスは黒い執事服。派手な飾りは何も無いが‥‥何故か見ているだけで胸がどきどきする程美しかった。 「縁さん‥‥、キオルティスさん‥‥ありがとう。へへ‥‥ひろいが、おひめさま♪」 「とっても可愛いですよ」 彼女の幸せそうな笑顔は、最高の客寄せでキオルティスの音楽と共に、人々を笑顔にさせる。 「し、しせいのみなさま、ごきげんよう」 最初はがちがちに緊張していた拾も徐々に慣れてきて笑顔が見えてくる。 「いつもと違うあなたにであえる、こすぷれ屋をよろしくなのですっ。ひろいのようにおひめさまになりたい方は、ぜひぜひこすぷれ屋へ!」 踊るように、くるくると回ってお辞儀をする拾に拍手が贈られる。 そのタイミングを見てブローディアはチラシを撒いた。彼女のチラシを受け取って男性の幾人かが顔を赤らめたのは、ブローディアの見事なスタイルのおかげだろう。 「姫様」 呼び止めるキオルティスに拾は回転を止めて駆け寄ろうとする。 だが、 「あっ!」 長いスカートは彼女の敵。用心はしていたが。踏んづけて転倒する! 目を閉じかける拾。だがそこに二本真っ直ぐ伸びて黒い手が伸びて彼女をしっかりと抱きとめた。 「お怪我は? 姫君」「ご無事で何よりです」 「あ、ありがとうございますです」 可愛らしい執事と、カッコいい執事が両方から姫の手を取る。 恭しい態度で一礼した後悪戯っぽくウインクしたシャルルとキオルティスに 「キャアア」 見物の少女達の黄色い声が響いた。 メイドたちの撒くチラシは完売。 姫だけではなく、執事やメイドたちにも固定ファンをつけた彼らはやがって、ゆっくりとお辞儀をすると、次の開拓者達にその場を譲ったのだった。 ●美しき花嫁 「さあさあ、こちらへ。まだまだ終わりじゃありませんよ」 透き通った翼をつけたシャルルの誘いに客達は再び足を止める。 さっきまでは執事服を着ていた彼女は、素早く着替えて今度は楽しげに踊っている。 伴奏はキオルティス。パートナーは‥‥ 「もふら?」 もふらのきぐるみを着た珠々と手を取って楽しげにリズムを取っていたシャルルは、やがて‥‥仲間達に目配せをしてそっと珠々を下がらせた。 「さあ、おいでの皆様、本日のメインです!!」 脇に下がった姫君やメイドが拍手をする中、 パッ! いつの間に現れたのか、可愛い白いミニスカートの少女が籠の中の花を、中央に、そして客達へと撒く。 やがて、キオルティスの竪琴が荘厳な音を奏で‥‥ 「うわああっ!」「綺麗」 人々の歓声の中、純白の花嫁が現れたのだった。金の髪に青い瞳の美女が、燕尾服を着た男性にエスコートされているのだ。 まるで、遠い国のおとぎばなしのよう。 見つめる少女達の口から吐息がこぼれる。 「ほら、笑顔で手を振って朱璃姐。表情強張ってるよ」 「わ、わかっています」 からかうような直羽に言われそう答えても朱璃の足取りはどこかぎこちない。 「あれ? もしかして緊張してる? 可愛いとこあるじゃん♪ やっぱ女の子だもんねえ〜」 けらけらと笑った直羽は朱璃の答えを聞かず 「わっ!」 朱璃をそっと抱き上げた。いわゆるお姫様だっこ。 「わあっ♪ ステキです〜」 拾は頬を染めて微笑む。だがそれ以上に紅いのは朱璃の顔。 「ちゃ、ちゃんと打ち合わせどおりにして下さい。て、照れるじゃないですか」 「もう照れてるじゃない。大丈夫。ほら、ここからは無礼講のダンスだよ」 花嫁を観客達が見つめる舞台の中央まで運んだ花婿は、膝をつき優雅に花嫁をダンスに誘う。 「神楽の要領で。ね?」 片目を閉じた直羽の笑みにボッと音がしそうな程上気した朱璃は、胸の心臓の音が聞こえないように手を胸に当てると、一生懸命自分に言い聞かせた。 (お、落ち着くのです朱璃、確かにいつものほわほわと違ってカッコいいけどこれは演技、演技ですよ) 丁度曲調も明るく変わり、仲間達も、周囲の客を誘ってダンスを始める。 「ほら! 朱璃姉!」 差し出された手を 「し、仕方ありませんね。では」 朱璃はしっかりと握って踊り始めた。 「さあさあ、人生の晴れ舞台に、宴会の盛り上げに、気になる人へのアプローチに! いつもと違う自分を演出してみないかい?」 明るい声で笑いながら呼びかける直羽の声を聞きながら、朱璃はその手の下でくるりと回る。 頬を美しい薔薇色に染めたままで‥‥。 そうして、賑やかなパフォーマンスは夕方近くまで観客を大いに集め、続いたのだった。 ●孤栖符礼屋 繁盛記始まる。 そして、日もそろそろ暮れようか。という頃。 「お疲れ様でした!」 美波は開拓者達に食事と、甘酒を振舞う。 「ふ〜〜。疲れましたね。でも、楽しかったです!」 甘酒を飲み干した珠々の言葉に、それぞれの開拓者達も同意、というように頷く。 「タマちゃん、軽業チョーカッコ良かったぜー♪ フラワーガール姿も似合ってた!」 頭を撫でる直羽の手を 「タマちゃん呼び、禁止だと言ってるでしょう!」 珠々は払うが、口ほど嫌な顔はしていないようだった。 「朱璃姐もおつかれさん。お姫様みたいで綺麗だったぞ!これでいつでも嫁に行けるなあ。あー拾ちゃんも、縁ちゃんも、シャルルちゃんも可愛かったぞ〜。ブローディア姐さんもかっこよかったし。なあ?」 「まあね。楽しかったよ。違う自分になりきるのもさ」 キオルティスと顔を合わせた直羽の賛辞に照れる者、顔を背ける者、顔を紅くする者。女性陣の反応はそれぞれだが、等しい笑顔は確かにあった。 お客の反応も良かったし、服も破いたり汚したりせずに返すことができた。 十分、成功であったと言えるだろう。 「本当にありがとうございます。もう、結構問い合わせあったし、皆さんのおかげでお客さん、きっと増えてくれると思います」 嬉しそうに言う美波に頷きながら 「あといろいろ工夫してみるといいと思うわ。そうね。例えば特典をつけてみたらどうかしら。カップルでの利用割引とか追加料金で絵師による姿絵作成とかしたら、きっとお客さん増えるんじゃないかしら。 使える期間が短い品を増やしてみても良いかもね。例えば冠婚葬祭。夏しか着られない絽の喪服とか成長が早い子ども用の服とか」 開拓者達はアイデアや感想をさらに出し合う。 「店で一番のオススメや人気の衣装を絵付で載せてみたり、あと、先着順で割引をしてみるのもいいとおもうよ。最初は損だと思うかもしれないけど、絶対後で取り戻せるから‥‥」 「はい。特典や割引は、いいですね。今度やってみます。キオルティスさんの歌も、好評でしたね。覚えて時々歌ってみようかしら」 「お仕立てやリメイクが必要なら友情価格で引き受けるわよ」 「もう少し胸の大きい人用の服も用意しておかないと‥‥」 「ブローディアさんほどの方はあんまりいないと思いますけど‥‥検討してみますね」 開拓者達の意見を書きとめながら、美波はやる気満々である。 元々楽しい店であり、人々に店を知ってもらうきっかけができ、なおかつ店主がやる気を持っている。 開拓者は確信していた。この店はきっと繁盛する、と。 「あの‥‥」 そんな様子を斜めに見ていた西門に自分が着た服を、拾はそっと名残惜しそうに差し出した。 「ん?」 西門は服を受け取りながら見る。 丁寧に畳まれ、埃まで払われた服。大事に着てもらったのがよく解る‥‥。 「あの‥‥このふく、また着にきてもいいですか?」 躊躇いがちに言う拾の髪を 「‥‥こっちの方が服も喜ぶかな‥‥」 「えっ?」 西門は撫でて頷いた。 「いつでも来るといい。また、化粧、してやるよ」 「ありがとう!」 「よかったわね」 「今度は、振袖着てみましょうか」 楽しげな開拓者達を見つめる彼を 「西門」 静かに誰かが呼んだ。彼はふと、真面目な顔になり一度だけ開拓者の方を見た。 「‥‥解った。今行く」 その後、そっと彼が部屋を出たのを賑やかに打ち上げを楽しむ開拓者達は最後まで気付く事はなかったのだった。 それから孤栖符礼屋はかなり増えた客に嬉しい悲鳴を上げたという。 沢山の衣装に加え、早朝割引や、いろいろなサービスの充実も人気の、源であることは間違いないが、何より自分以外の者になる喜びを知らせたのが大きいだろう。 かくして孤栖符礼屋の繁盛記は始まる。 後に一部の者達に聖地として称えられるようになる‥‥かどうかはまだ解らないが‥‥。 |