|
■オープニング本文 その噂を偶然聞きつけたのは下町のチンピラと呼ばれる者達だった。 「ブローチにケープをつけた犬がいる?」 頭が働く者達ではないが、金目のものの匂いには敏感だ。 「飼い犬にブローチなんて付ける奴は金持ちに違いない。それも紅玉というのであるのなら、いい金づるになるに違いない」 そして彼らは迷わず犬を拾った少女の家に向かい、躊躇わずその家からブローチを強奪した。 さらに‥‥ 「こいつは‥‥犬じゃなくてもふらじゃねえか?」 「兄貴、もふらってなんです?」 「ジルベリアじゃ滅多にお目にかかれない生き物だ。こりゃあ、大もうけできるぜ」 下卑な笑いを浮かべると男達は抵抗する老人を蹴り飛ばすと、抵抗するもふらを、ぽいと皮袋に放り込んだ。 「なんだ? これ?」 もふらがしがみついていたぬいぐるみは男達にはゴミにしか見えない。 何も考えず踏み潰し、さらに行きがけの駄賃にと金目のものを全て奪い、去っていく。 後に何も残さず‥‥、いや、一枚の紙を残して。 「例の娘。ミルカと爺さまは酒場の主人に匿って貰っているそうだ。だから、安全に関しては心配しなくても大丈夫だろう」 安全に関しては、という意味を察し開拓者達は俯く。 大事にしていたもふらを奪われた。その精神的ダメージは決して小さいものではないだろう。 そしてそれはもう一人の少女にも当てはまることであった。 「もふらが、悪い連中に連れ去られた、身代金を要求されている」 などと伝えたらどうなることか。 今は彼女の侍女の判断で伝えてはいないが、簡単に想像できてしまう。 唇を噛み締め、手を握り締める開拓者達に、ギルドの係員は送られてきたという脅迫状の第二報を指し出した。 『一週間後の夜。指定の場所に女二人で金を持ってくること。金と引き換えにもふらは返してやる。 但し、官憲に知らせたりしたらもふらは返さないので覚悟しろ』 「依頼人はミルカと爺さまだ。自分達では金を工面することも取り返すこともできない。だから、何とかして欲しいってな」 取り返す方法はいくつか考えられる。 実際に金を用意して取引することが第一。 金額は膨大だが、リサの家に届ければあるいは工面してくれるかもしれない。 第二は勿論、実力行使だ。 だがどちらの場合もリスクはある。 まして敵の数も能力も正確には解らない。 襲撃してきた人数は4〜5人だと言うが、もっと仲間がいる可能性もある。 そのリスクを乗り越えなければ、もふらは奪い返せないのだ。 「‥‥私が、素直にあの子を返さなかったのがいけないのです。お金は‥‥なんとしてもお支払いしますのでどうか、あの子を助けてあげてください」 潰れたぬいぐるみを抱きしめ、ミルカはそう涙した。 あの涙にかけて、なんとしてももふらを取り返す。 そう決意した開拓者達は依頼を手に取ったのだった。 壁にかけられた袋の中で、もふらはじたばたじたばたと、今も暴れている。 「兄貴。あいつに餌とかやらなくてもいいんですか?」 「前にちらっと聞いたんだがな、もふらって奴にはホントは餌はいらないんだと。便利な奴だよな」 くくと楽しげに笑う彼は手の中のブローチを弄んでいる。 「このブローチを売っぱらって、身代金も頂いて、それからこいつを売り飛ばす。それからついでに、女どもも‥‥。くーっ、笑いがとまんねえなあ。これでこんな下町でのつまらない生活からはおさらばだ!」 彼にはもうこのブローチの色よりも美しい薔薇色の未来が見えている。 それを阻もうとする者の存在など露ほども知る事無く‥‥。 |
■参加者一覧
紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454)
18歳・女・泰
柚乃(ia0638)
17歳・女・巫
秋霜夜(ia0979)
14歳・女・泰
天河 ふしぎ(ia1037)
17歳・男・シ
弖志峰 直羽(ia1884)
23歳・男・巫
玄間 北斗(ib0342)
25歳・男・シ
ラムセス(ib0417)
10歳・男・吟
アルトローゼ(ib2901)
15歳・女・シ |
■リプレイ本文 ●後悔の先 きっかけは、本当に小さなこと。 さりげない、誰も意識しないような‥‥事。 「紅玉のブローチをつけた犬を探しています」 それがたった一つの、そして後悔してもしきれない過ちであった。 開拓者達はある資産家の娘の依頼を受け、ジェレゾの下町に逃げたもふらの捜索に来ていた。 捜査は的確で彼らは直ぐに、目的のもふらを保護した少女を見つけ出す。 だが、開拓者が来るより先に下町のゴロツキ達がやってきてもふらがつけていたブローチともふらを奪って行ったのだった。 金目のものの匂いを嗅ぎつけた純粋に金目当ての犯行であったらしい。 「‥‥許せない。ゴロツキ‥‥」 唇を噛み締める柚乃(ia0638)。 普段滅多に見せること無い怒りの表情を顕にしている彼女の手には、ボロボロになったもふらのぬいぐるみが抱かれている。 迷子のもふらを助けた、ミルカという少女から借りてきたものだ。 「柚乃ちゃん。ちょっとそれ貸して‥‥ああ、可愛そうに‥‥」 天河 ふしぎ(ia1037)は柚乃からぬいぐるみを受け取ると、手馴れた手つきで傷ついたところを縫い合わせる。 「できれば洗って、綿を詰めなおしてあげたいけど‥‥時間かかるからとりあえず応急処置ね」 「あなたももふらや‥‥ぬいぐるみ好き?」 「べっ、別に! 僕、ぬいぐるみが好きとかそういう訳じゃ、無いんだからなっ」 「でも‥‥なんだか手馴れて‥‥る?」 「だから!」 「もふらさまの奪還ですか‥‥もふ龍ちゃんも気を付けないとね?」 「捕まらないもふ!」 くすくすと、なんだか微笑ましい様子の子供達を見つめ微笑みながらも弖志峰 直羽(ia1884)は紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454)と顔を見合わせ真剣なそれになる。 「確かに金目の物についてうっかり口にしたのは落ち度だったけど、人の大事なものだと解っていて奪っていく連中は許せないな」 「ええ、早く助け出してあげたいですね。とりあえず、羽振りの良くなった連中を調べて犯人を特定し‥‥身代金引渡しの時に奪い返す、でしょうか?」 「お願いできるかな? 女性二人ということだから僕は裏に回るよ」 「はい。お任せ下さいです」 「あたしもいきます!!」 秋霜夜(ia0979)も大きな声で手を上げた。彼女も責任のようなものを感じているらしい。 そんな開拓者達の背後で、 ドサドサチャリンチャリン 大きな音がした。 「な、なんですう?」 驚くラムセス(ib0417)の背後には詰まれた金の袋があった。 「これを、使って欲しいのだ。もしもの時には返さなくてもおっけーなのだ」 「‥‥北斗‥‥さん?」 霜夜が確認したのも無理は無い。そこに立っていたのは長身の男性。 粗暴な風貌の化粧と身なりをしたいつもの身なりとは想像も付かない玄間 北斗(ib0342)であったからだ。 「おいらの不用意な一言がこの件を引き起こしたのだ。その責任はこんなことくらいでは取れないけど、必ずクリスティーヌは助け出すのだ!」 「でも、誘拐されたもふら様、誘拐したひとたち、性質の悪いひとたちみたいデスから、お金を渡しても帰ってくるかわからないデス」 「確かに‥‥な。この手の連中が、金を渡したからと言って素直に返すとは到底思えない。‥‥が、それならそれで、欲張りすぎると身を滅ぼすという事を、身を以って教えてやろうじゃないか」 くくくと笑いを噛み殺すアルトローゼ(ib2901)。 「そう。やるなら徹底的に叩き潰して、シメあげる」 悔しい思いをしているのは北斗だけではない。皆、クリスティーヌ奪還に決意を固めていた。 「開拓者はめげない、諦めない! リサさんとミルカさんの心の架け橋をつなぐため、もふらさま奪還ですっ!」 北斗の肩を叩く霜夜に北斗も無言で頷く。 打ち合わせは遅くまで続いていた。 ●決意 「この度は、辛い思いをさせてしまってすまなかったね」 酒場の一室。匿われ、隠れるように住んでいた祖父と孫を訪ねた直羽はそう言ってまず二人に頭を下げた。 「そんな‥‥悪いのは私達の方ですのに‥‥」 互いに謝りあう彼らの間に優しい口笛の音色が笑うように響く。 「悪いのはどっちでもないデス。クリスティーヌさんを攫ったチンピラデスよ。元気になってほしいデス。悪い事になってしまったデスけど、それまでクリスティーヌさんは結構幸せだったと思うデスから‥‥」 「ありがとう、ございます‥‥」 暖かい調べに包まれ目元に涙を浮かべるミルカに微笑んで、直羽は老人に向かい合う。 「療養中、辛い思いをさせてしまうようですまないが教えて欲しい。家を襲ったチンピラはどんな奴らだった? 顔を見たことがある? ひょっとしてこの辺では名の知れたチンピラだったりする?」 「はい‥‥」 そう言って老人は思い出すようにしながら答えた。 彼らはこの下町で悪事を働くゴロツキであると。 リーダーは志体持ちであるという噂で、後の連中はその腰ぎんちゃくらしい。 リーダーの力を笠に着て弱いものいじめをしているようだと。 「小物ではありますが、それ故に縛られず好き放題をしております。力に脅され皆‥‥」 「たまにうちの店にも来ることがあります。うちは下町にしては良い酒が置いてあるので‥‥最近はよく来るそうです。他でもいろいろ豪遊しているとか‥‥。根城とかまではわかりませんが‥‥」 二人からゴロツキの数や特徴を聞けるだけ聞いて、二人はありがとうと頭を下げた。 「ことが全部終ったらうちのらいよん丸さんを連れてくるデス。リサさん達も一緒にみんなで遊ぶデスよ」 「クリスティーヌはきっと取り戻すから、待っててくれよな」 二人の言葉は己への誓いでもあり、約束でもある。 彼らの真剣な思いに、ミルカ達は、はい、と頷いたのだった。 「‥‥最近給料が少ないのよね。どこか良いところ無いかしら?」 もふらを撫でながらため息をつく柚乃を 「こら、ご主人様たちの事悪く言わないの。こちらに越してこられるかもしれないのに失礼でしょ」 諌めるようにアルトローゼが注意する。 柚乃のもふらは大きい。周囲の子供達も嬉しそうに眺めている。 そんな二人を笑って見つめながら、だが気のいい魚屋のおかみさんは 「悪い事は言わないから、この辺はおよし。それから羽振りの良いようなことは口にしないの。悪い奴らに目をつけられるからね」 「そうなんですか‥‥。やっぱりどこの町にも居ますよね‥‥」 「しっ! その子隠しな!」 柚乃がとっさに反応できずおろろとしている背後に身体の大きな男がぬぼっと現れた。 「なんだ。これももふらか。でけえなあ〜。こんなでかいのじゃあ簡単には売れねえじゃねえか。ったくとっととガキは失せろ」 「きゃっ!」 柚乃の足元に蹴り入れて男は去っていく。 「ったく、最近ちょっと金払いがいいと思えば。ほらほら、この辺はあんなのが多いんだから近寄らないんだよ」 おかみさんの言葉に二人は頷く。だが本当は視線の先で目線を合わせる紗耶香と明王院 玄牙に彼女らは合図を送ったのだった。 そして下町の、さらに裏町。 「ごめんひみつ、目立って気づかれるわけに行かないから、少しの間はお留守番してて」 下町の浮浪児の格好をしたふしぎは犯人のアジトを捜して歩いていた。 割と名の売れたチンピラ達であったのでおおよその居場所は割れたが、流石にアジトに名札は出ていない。 「この辺らしいんだけどなあ〜」 なかなかそれらしい場所が見つからないので、一度なかまと合流しようかと思った矢先、彼はとっさに身を路地に隠した。 古い酒場に聞えるリュートの声。 そして聞きなれた声とそうでない声が重なる中、幾人もの男達が笑いながら出てきたのである。 「‥‥あれは‥‥」 やがてふしぎは男達の中に知った顔を一つ見つける。 「やったね!」 小さな声を上げると彼は、再び息を殺し、彼らの後に付いていったのだった。 このチャンスは逃せない。 ポリシーを曲げても目的達成の為に命を賭ける彼の為にも‥‥。 ●ひとじち交換、そして‥‥ 残された手紙には日時と場所が記されていた。 場所は町外れの裏路地。 そこに紗耶香と霜夜はやってきた。 路地の入り口で見張るようにしている男の前を通り過ぎ、道の袋小路へ。 そこまで大きく重い袋をなんとか抱え、声を上げる。 「約束どおり来ました!」 その声の先に男達がいた。 数えて六人。皆、屈強な男ばかりだ。 「ちゃんという事を聞いて金を持ってきたようだな」 最奥でそう言い、ふんぞり返っている男が頭目だろうか。 十分な距離を取った上で霜夜は迫力負けしないように大きな声で答えた。 「当たり前です! お店の人がわざわざ持ってきてくれたんですから」 流石にそこまでは見ていなかったようだが、十野間 空が数や重さを揃えてくれた上、ちゃんと演技して持ってきてくれた金袋だ。 今の時点で不審に思うことはないと霜夜は自分に言い聞かせていた。 「はやくクリスティーヌちゃんを返して下さい!」 紗耶香の言葉に男達は下卑た笑いを浮かべている。彼女達の真剣な様子を鼻で笑うように、だ。 「まずはその前に金だ。金を見せてもらおうか?」 二人は頷き、それぞれの袋の口を開けた。 「おおうっ!」 中からは紛れもない金が姿を現す。 「よしっ! 早くその金を寄こせ。そうしたらもふらは返してやる!」 「クリスティーヌを返すのが先です! せめて姿を見せなさい!」 飛び掛らんばかりの男達にひるむ事無く二人は袋の口を閉めて、睨みつける。 「ほらよ! お前んとこのもふらはここだ!」 頭目は口が閉まったままの麻袋を持ち上げてみせる。 中では、確かに何かが動いているように見えるが‥‥ 「顔を見せなさい。本物かどうか解りません!」 「金と一緒にこっちに来い。側で見せてやる」 「なら、貴方は一人でこっちへ来て下さい。さもないとお金は絶対に渡しません!」 女達の様子が面白い、と言うように頭目は笑い仲間に目配せすると 「いいだろう。すれ違う時、お前らは金を俺は、こいつを渡す。いいな?」 「そこからでもいいです。クリスティーヌを見せなさい!」 「うるさいな! こいつが痛い目にあってもいいのか!」 二人はもうこの時点である事を察していた。 顔を見合わせた二人は、金を持ったまま男に従うように歩き出す。 「行くぜ。1・2・3!!」 すれ違う瞬間 「ふっ! 馬鹿が!」 二人はとっさに飛びのいた。 互いの距離がもっとも近づいた時、男は袋を握ったまま、金を奪い取ろうとしたのだ。 二人はそれを察知していたから飛びのいた。 金の袋は持って飛びのくには重かったから残したが、同時に襲い掛かってきた男達は泰拳士の拳を腹に受ける事になる。 「私の身体に触らないで!」 「貴方達なんかに負けないです!」 唸り声を上げて男達は倒れこむが、それを気にする様子も無く頭目は袋を投げ捨て金を掴む。 「危ない!!」 「ハハハ。金は確かに戴いたぜ」 頭目は満足げに笑う。 霜夜は投げ捨てられた袋を抱きとめ口を開けるが‥‥中から飛び出してきたのは一匹の野良犬であった。 「俺達がもふらを素直に返すと思ったのか? だったら相当なお人よし、だな。野郎共! 女二人に転がされてるんじゃねえ! とっととそいつらを捕まえろ!」 一人が、彼女らの背後に回りこみ逃げ道を塞ぎ、残りの男達が頭目との間に立ちふさがる。 「やっぱり。悪人って解り易いですね」 「貴方、私の身体触ろうとしたでしょ!」 だが、少女達には余裕がある。肩を竦め、だが頬には笑みさえ浮かべて‥‥ 「お前ら。自分達の状況、解ってんのか? この人数に立った二人で叶うと思ってるのか?」 「うん、二人じゃないからね」 「えっ?」 霜夜の頷きに男達は瞬きする。 と同時彼女達の背後に立っていた男の姿が、彼らの前から消えた。 そして気付いた時には一人の男が足を刹手裏剣に貫かれていた。 「な、なんだ? 貴様、裏切る気か?」 「裏切るのではなく、表が返ったのだ。おいらの目的はもふら、クリスティーヌの奪還。それが為された今、手加減はしないのだ」 「何!?」 「諦めるのだ!」「無事助けたデスよ!」 彼女らの背後に、幾人もの開拓者達が現れる。 その中の一際小さな少年が抱きしめているもの達を見て、男達は声を失った。あれは‥‥もふらのぬいぐるみと‥‥ 「俺達のもふら! 貴様! アジトから‥‥!」 開拓者達は微笑する。敵に潜入した北斗が与えてくれたアジトの情報は、取引に本物のもふらを持ってこないという手段を取った卑怯な男達から、逆にもふらを奪い返す絶好のチャンスを与えてくれた。 残っていた見張りは今頃おねんねだ。 「‥‥貴方達の、じゃないでしょ。これは‥‥リサさんの‥‥もふら。‥‥許さない」 「見張りはもう倒してあるから心配要らない。さぁて、覚悟はいいかチンピラ共。尤も貴様らの意思など関係ないが、な」 「逃がしは‥‥しないよ」 「そう‥‥絶対、逃がさないんだからなっ!」 ふしぎの言葉を合図にするように、開拓者達は一斉に、男達に攻撃を開始した。 袋小路。 さっきまでと立場は逆転し、男達が追い詰められる側に回った。 「くっそお!!」 さっき紗耶香にみぞおちを打たれた男が、さっきの仕返しにとばかり再び身体を起こし武器を手に彼女に覆いかぶさろうとする。だが 「私の身体に、汚い手で触れない‥‥で!!」 素早く懐に潜り込んだ彼女は渾身の足技で男を蹴り飛ばす。紗耶香の背を守る霜夜も気功掌を打ち込んだ。大きく咳をした男が、逃げ出そうと踵を返す。 だがその足を忍犬が深く噛み付き、転ばせた。 「霞! その調子! 敵を逃がさないで!」 「くそ‥‥こんな、女子供達に‥‥」 チンピラの一人が毒づく。小さな声であったがそれを聞きつけた二人。 「僕は男だ! ひみつ! 思いっきりやっちゃって!」 「おっけー、なのだ!」 ふしぎとひみつは、二人でタイミングを合わせて悔しげな男を袈裟懸けにする。 と言っても峰うちではあるのだが動きは完全に封じられていた。 戦いは常に開拓者ペース。やがて、ある者は倒され、ある者は転がされた。 残るは‥‥金を抱える頭目一人。 「ち、近づくな!!」 「逃亡なんか、させないよ」 追い詰められた頭目に直羽は力の歪みを放つ。 「うわああっ!」 悲鳴を上げながらも男は、金を離さず、暗い目線で周囲を見た。 狙いは非力そうな子供ともふら! 「どけええ!!」 突進する男は柚乃かラムセスの抱くもふらを人質にでもしようとしたのかもしれない。だが 「‥‥♪ こっち、こっち、こっちですよ〜〜」 偶像の歌を耳にし、意識が一瞬ラムセスに向かった隙を狙って足元に撒かれた撒菱がその動きを止め、柚乃が白霊弾を放ったのだ。 弾き飛ばされるように跳ねた身体が地面に転がる。 痛む身体を起こそうとした頭目は、そこで自分の完全敗北を知る。 「覚悟‥‥するのだ!」 手から落ちた金袋が、破けこぼれる。 出てきたのは何分の一かの金と、沢山の小石。 「くっ‥‥。せっかくのチャンスだったのに‥‥」 空を見上げた男はやがて、その意識を闇へと手放して行った。 ●もふら友達 そこはたくさんのもふら、もふら、もふら。 「うわあ〜。すご〜い。これ全部、ぬいぐるみ?」 周囲を見回す霜夜は、驚いたように声を上げた。 「はい‥‥私がクリスティーヌの為に買ってもらったものなのですが‥‥」 「やれやれ、金持ちってのはこれだから。ジルベリアでもふらに紅玉のブローチなんて、鴨葱を無防備に置いておくようなものだ。このぬいぐるみもそう。大切にするのもいいが、限度と言うものを考えたほうがいいと、思うがね」 厳しい口調のアルトローゼ。それにある意味同感と思いながら 「ですが? どうかしたのです? そもそも、何の用ですか?」 ぬいぐるみにじゃれる己のもふらを手で諌め紗耶香は依頼人の少女に問う。 逃げたもふらを無事助け出し、事情を説明して飼い主、リサの下に送り届けて暫し、用があるから来て欲しい、というリサに呼ばれ、開拓者達はこの家にやってきたのだった。 「クリスティーヌが‥‥もふらのぬいぐるみを追って行ってしまっていたという話は聞きました。クリスティーヌは寂しかったのかな? と思って私、もふらのぬいぐるみを買ってもらったんです。でも‥‥」 リサが指差した先には、クッションの上に寝そべるもふら、クリスティーヌがいた。 「なんか、元気ないデスねえ?」 「ええ、どうしたらいいんでしょう‥‥」 悲しげな少女に 「いい考えがあるよ」 直羽は片目を閉じた。 そして数時間後。 「楽しそう‥‥。八曜丸も一緒に遊ぶ?」 「たいよん丸さん、こっちですよ〜〜」 屋敷の広く優雅な応接間は、もふらと、ぬいぐるみとそれらと遊ぶ少女達の楽しい笑い声が響いていた。 「このようなお屋敷にご招待して頂けるとはもったいない‥‥。ミルカ! ご無礼をするのではないぞ!」 居心地悪げな老人をミルカは「はい」と振り返るが‥‥手を繋いでいたリサは首を振りミルカの手を強く握った。 「そんなこと、気にしないで‥‥良ければ‥‥あの、私と、クリスティーヌの友達になって」 「私‥‥で、いいの?」 こっくりと頷く少女の手を、ミルカは握り返した。 孤独な少女が何より望んでいたものは、友達の存在。 「リサさんは、身体が弱いらしいから、その点は気をつけてあげて欲しいです」 霜夜はミルカに以前言った事を思い出す。 「ミルカさんのお友達のこの子の、お友達と仲良くして下さいませんか」 あの時の仲間達が夢見た光景が、今、現実のものとなっている。 それが、とても嬉しかった。 「もふらが繋ぐ縁‥‥ね」 丁寧に作り直されたぬいぐるみに楽しげにじゃれるクリスティーヌは他のもふら達にも興味津々のようで、とても幸せそうな顔をしている、ように開拓者達には思えた。 「いつかリサお嬢さんやミルカちゃんにも、天儀の生もふら様を見せてあげたいなあ♪」 苦労して見つけ出し、買い戻したブローチを付けたクリスティーヌと、楽しげな少女達を見ながら、開拓者達は直羽の言葉がいつか、本当になることを心の中で願ったのだった。 後に、リサがクリスティーヌの為に集めたもふらのぬいぐるみは開拓者達に贈られた。それは、大事な友人を取り戻してくれた開拓者への、依頼人からの心からの感謝であったという。 |