【朱雀】魔の森調査【震嵐】
マスター名:夢村円
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 7人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/05/03 21:13



■オープニング本文

 五行国は陰陽師の国である。
 陰陽師はアヤカシの根幹である瘴気を活用し、己の術となす。
 故に彼らは瘴気とアヤカシの専門家であると言えた。
 その存在を忌避される事は少なくないが、その知識を頼られる事はそれに倍して多い。
 戦乱が一つの区切りがついた東房国から。ある依頼が届けられたのもそんな理由であろうと五行の陰陽師達は思っていた。

「魔の森を…焼く?」
 東房国の戦乱が一つの区切りを迎え、寮生達が帰還した陰陽寮。
 平常授業に集められた三年生寮生達は、朱雀寮長 各務 紫郎の言葉に皆、目を見開いていた。
「そういう計画がある、ということです。東房の魔の森を支配していた大アヤカシ黄泉は斃れましたが、魔の森は依然残ったまま。大アヤカシを失った魔の森は拡大と成長を停止するものの、自然消滅するわけでは無いというのが現在、いくつかの事例によって有力視されている見解です。
 ただ、大アヤカシが存命の間は魔の森を焼いても瘴気が一時的に散るだけで数か月もすれば再生してしまいますが、大アヤカシが滅んだ今であれば魔の森を焼き払う事で、魔の森を完全に人の手に取り戻せる可能性は低くないので東房国は他国の協力も仰ぎ、魔の森の焼却と言う大作戦を実行しようとしているのです」
 魔の森と言っても東房の魔の森は広大だ。
 戦乱に参加した寮生も少なくないから解っている。
 主となるものだけでも孝佐間ノ森、卦谷ノ森、紙結ノ森と三つの森が残されている。
 残存勢力はそう多くは無いだろうが、森を焼き払うとなればアヤカシ達の抵抗は少なくない筈だ。
 しかも、いったん火ををつければ一日二日で終る事では無い。
 数日から一週間は強大な炎が燃え上がることになる。
 近隣の町への影響や、生態系への問題も留意しなくてはならない。
「皆さんも解っているでしょうが、魔の森の焼却となればただ火を付ければいいというものではありません。
 綿密な準備と調査が必要です。
 その為、五行国に事前調査の協力の依頼が東房国から来たのです。
 五行国からはいくつかの調査団を派遣しようと言う話になっています。
 皆さんにはその調査団の一つとして東房国に赴き、魔の森の一つ。孝佐間ノ森と呼ばれる場所の調査を担当して下さい。
 それが今月期、皆さんの課題となります」
 魔の森調査。
 三年生達は思わず身体が震えるのを感じた。
 今まで魔の森に向かったことが無いわけでは無い。
 けれど今回は魔の森の中に踏み入るのだ。
 瘴気渦巻くアヤカシ達の本拠地へと。
「今回の皆さんへの課題はあくまで調査です。大アヤカシを失った魔の森がどんな状況にあるか。
 どんなアヤカシが残っているか。そういうことを陰陽師の視点で調査してきて下さい。
 その調査を踏まえて東房国は今後、魔の森焼却への準備を行うでしょう。
 故に正確さが第一です。間違った情報を持ち帰ることが無いようにその精査には慎重に当たって下さい」
「魔の森でアヤカシを捕えるなどはしなくても構わないのでしょうか?」
 寮生の質問に寮長ははっきりと頷いて見せた。
「しなくて構いません。アヤカシを刺激しないと言う意味で、むしろ戦わない方がいいかもしれません。
 無論、身を守るために襲ってきたアヤカシを倒す事、皆さんが必要と判断した時、アヤカシを退治することを妨げるものではありません。
 最終的には皆さんにお任せします」
 そうして彼らには東房国の地図、特に魔の森の位置が詳しく描かれたものが渡された。
 期間は一週間。調査の方法や手段に対しては特に制限が無いとされている。
 食料その他の準備は自分ですること。
 相棒の同伴については責任を持つこと。
 必要であれば巫女や前衛職など協力者を仰いでも良い。
 その他いくつかの注意点を与えて後、寮長は寮生達を見つめた。
 …この上なく真剣なまなざしで。
「魔の森の森の焼却が成功し、東房の大地を人の手に取り戻すことが出来れば、人はアヤカシとの長い戦いの歴史を大きく変える一手を打つことができるでしょう。各国も我が国も…本格的に魔の森焼却に出ることができるようになるかもしれません。
 また、この勝利の勢いをかってアヤカシに支配された冥越に攻め込もうという流れもあります。
 調査隊は皆さんだけではありませんが、皆さんの調査の結果が今後の流れを占うものであるということを忘れず、真剣に挑んで下さい」
 そう言って去って行った寮長を見送りながら彼らは気を引き締める。

 一つの戦いの終りは新たな戦いの始まり。
 ここから始める未来と戦いも思いをはせて…。


■参加者一覧
芦屋 璃凛(ia0303
19歳・女・陰
蒼詠(ia0827
16歳・男・陰
尾花 紫乃(ia9951
17歳・女・巫
サラターシャ(ib0373
24歳・女・陰
真名(ib1222
17歳・女・陰
カミール リリス(ib7039
17歳・女・陰
神爪 沙輝(ib7047
14歳・女・シ


■リプレイ本文

●五行の代表
 東房から依頼された五行の代表。調査団の一員として魔の森に赴く。
 出発を前に朱雀寮三年生達の背筋が伸びた。
「国からの依頼、しくじると五行や陰陽寮の面目に関わりますよね。頑張らなくては。」
 そう言った蒼詠(ia0827)に
「確かに緊張しますね」
 彼方や清心、同級生達も頷く。
 野営の準備、食べ物の準備、薬草の準備。
 魔の森に行くのだ。準備はいくらしても万全と言う事は無いだろう。
「すべき事は、安全に正確な魔の森を、調査する事やな。
 せや無いと、焼却計画の悪い点を探れへんし環境破壊の危険性も、話されへんし。
 蒼詠も言うとおり、正式な調査依頼や。半端なもんはだせへん。
 しっかりした調査、せえへんとな」
 3年主席らしい態度で場を仕切る芦屋 璃凛(ia0303)ににっこり微笑んでサラターシャ(ib0373)は頷く。
「ええ、必要な情報は、森の規模、地形、アヤカシの数。瘴気の溜まり具合、瘴気感染の危険性、水場の位置。龍脈の可能性もでしょうか?」
「それでええと思う。周囲の生態系については2年生がやってくれる言うてたし、後は…」
「大アヤカシ消滅後の魔の森の瘴気の変化、あと何かしらの異変が発生していないかなどを確認した方がいいのではないでしょうか?」
 カミール リリス(ib7039)の提案は勿論受け入れられ、調査事項に入れられた。
 今まで大アヤカシを退治した国々で、徐々に、そして小規模にではあるが魔の森の焼き払いが進められていると言う話もある。
 しかし、ここまで巨大化した、しかも複数の森を一気に焼き払う事例は始めてに近いと思われるので調べられることはできる限り調べておきたいところである。
「…みなさん」
 少し考えるようにして後、サラターシャは仲間達に声をかけた。
「今回は、協力者を仰いでよいと言われています。
 魔の森は厳しい場所なので、協力者さんをどなたかお呼び出来ればと思っているのですが…。
 協力してくださる方が見つかりましたら、お呼びさせて頂いても良いでしょうか?」
「助っ人? 心当たりあるん?」
 璃凜の問いにサラターシャは静かに微笑んで頷く。
「なら、ええよ。頼むわ。うちも…頼んでみようかな?」
「僕も心当たりに聞いてみます」
 そうして、それぞれが改めて出立の準備に動き出す。
 用意された資料と手形に記された五行調査団の名。
 五行代表の名を背負う責任を改めてその身と心に再確認して…。

●助っ人と一緒
 東房の入り口。安積寺の前で待ちあわせたと言う助っ人達を見つけて、
「あ、先輩達」
 リリスは楽しげに、嬉しそうに手を振った。
「なんや、サラが言ってた助っ人って先輩達やったんか」
 少し肩の力を抜く様に璃凛も笑って見せた。
「お久しぶりです。サラさんにお誘いいただいて参りました」
 そう微笑んだ巫女は泉宮 紫乃(ia9951)。
「よろしくね」
 楽しげに笑って告げたジプシーは真名(ib1222)。
 どちらも朱雀寮の卒業生だ。
「先輩方は…卒業後、転職されたんですね」
 彼方の言葉に少し照れたように頷いて真名は片目を閉じる。
「助っ人、ではあるけど、今回の主役は貴方達だから。どれだけの腕前になったか、見せてもらうわよ」
 尊敬する先輩を前に彼方はピン、と背筋を伸ばした。
「それから、もう一人、紹介させて下さい。手伝いに来てくれた友人のシノビです」
 蒼詠はそう言うと物陰に隠れてるようにしていた、いやおそらくは実際に隠れていた獣人の少女の背をそっと押す。
「あ、あの…神爪 沙輝(ib7047)です。よろしく…お願いします」
「よう来てくれたな!」「ありがとう」「よろしくお願いします」「よろしく!」
 明るく個性豊かな朱雀寮の三年生達の挨拶の声は大きく、明るく沙輝と名乗った少女は少し、ビックリしたようだった。
 尻尾が太く膨らんで真っ直ぐになる。
 でも、ぺこりと頭を下げる。その様子が愛らしく朱雀寮生と、もと朱雀寮生は優しい笑みと共に彼女を受け入れた。
「それじゃあ、そろそろ行きましょうか? 計画は、できてるのよね?」
 問う真名にはいとサラターシャは頷いて璃凛を見た。彼女の頷きを確認して地図を広げる。
「私達が調査を命じられていますのはここ、孝佐間ノ森です。東房の魔の森の中では南に位置し、一番小さいところです。
 現在、主力アヤカシの多くは北、冥越に向かっていると言う情報がありますから、三つの魔の森の中では一番危険性の少ないところかもしれません」
「とはいえ、魔の森やからな。今回は下手に班を分けて戦力を分散するのもどうかと思います。それに今回は調査優先だから戦闘もなるべく避けたいところ。
 そやから全員で動くことにしようと考えとるんです。サラや皆も了承してくれたしな」
「璃凛さんが今回の司令塔であり、地図作成担当なので今回は前衛は助っ人の方々にお願いしたいと思うのですが…」
「うちのカラクリ遠雷とサラのレオは護衛替わりに前衛に配置するよって」
「あ、僕も前に出れます。それむけにスキルも選んで来たので」
 彼方が前に進み出ると嬉しそうに真名は頷き、微笑む。
「了解。それじゃあ、私と沙輝ちゃん、それに彼方が前衛ってことでいいわね。戦闘はなるべく避けつつ、正確な地図作成と情報収集を目指す。
 紫乃は後方で回復とサポート役ね。紅印。私と同化!」
『了解。マスター』
 主の命令を受けた玉狐天は、真名の中に吸い込まれるように消えた。
 と同時真名の姿が狐の獣人に変わる、狐獣人変化である。
「解りました」
 その後、役割分担の再確認をし終えると寮生達は璃凛を見た。
 仲間達の視線を受けて、璃凛は揺れそうになる心を押さえつつ、真っ直ぐに顔を上げた。
 ここでの号令は主席の役目である。
「それじゃあ、皆、行くで!」
 璃凛の言葉に頷き、手を上げ気合を入れて、彼らは魔の森へと踏み込んで行った。

●魔の森の現状
 魔の森を慎重に進む。
 暗い空気、吐き気がするほど濃い瘴気は今まで見てきた魔の森と変わりはないが…
「なんとなく…違う感じがするわね」
 独り言のように呟いた真名に頷く者も頷かない者もそれぞれが同意していた。
「感覚的なものですけど、縛り付ける様な重さが無いというか…。考えてみれば生成姫が消えた後の森もこんな感じだったかもしれません」
「支配者がいなくなると、やはり違うのでしょうか?」
 ある者は懐中時計 ド・マリニーを確認しながら、ある者は植物の分布を確かめながら、注意深く歩いて行くうち
 ピクリ!
 先頭を歩いていた沙輝がふと立ち止まり耳を欹てた。
「どうしたんです?」
 蒼詠が声をかけるより早く真名も何かを感じたように尻尾を揺り動かす。
「少し先に…何か、います! 草の上を這う様な…。翡翠さん!」
 沙輝が耳元にそう囁きかけると微かな羽音が動いて、そして戻ってくる。
「! スライムのようなアヤカシがこの先に何匹もいるそうです」
「ヘクトアイズ、やろか?」
「そのようですね。カームもそう言っています。下級、ではありますがやっかいな敵です。どうしますか?」
 同じように偵察に出し、戻ってきた相棒を撫でながらリリスは璃凛を見た。
「…戦って勝てない相手ではありませんが…」
「うん…でも、迂回しよう」
 サラターシャの言葉に頷きながらも璃凛はそう決断する。
「今回の目的は調査や、なるべく戦闘は回避した方がええと思う。奴らを下手に刺激して暴れられたりしたらあかんからな」
「へえ〜」
 楽しげに笑う真名と見守る紫乃。
「沙輝…さん。安全そうな道、他にないか探してくれへん?」
「…解りました。探索ならお任せを!」
 スッと影に紛れるように森に消える沙輝。やがて小さな虫が戻ってきて蒼詠の前で人型に戻った。そして一方向を指差す。
『この先がさっきのアヤカシを迂回して奥に進めそうだって伝言』
「だそうです。璃凛さん」
「おおきに。じゃあ行こうか」
 そして彼らは足音を忍ばせて先に進む。
 幸いヘクトアイズはそれほど探知に優れたアヤカシでは無い。この場はなんとかやり過ごすことができた。
 …この場は。

 通常なら魔の森で野営などは危険な行為である。
 しかし
「この瘴気の濃さなら…大丈夫だと思われます。夜の行動は危険です。今日はここで野営しましょう」
 瘴気の観測を続けていたサラターシャの提案に彼らは頷き、小さな野営場所を作った。
 敵に見つかる可能性があるので焚火は控え、彼方が用意してくれた保存食料で飢えは凌ぐ。
「周辺の警戒は桜がしてくれていますので安心して下さい」
「…琥珀も、見張り…お願い」
 そして小さな灯りの周りに皆で集い
「魔の森にしては、アヤカシの数が少ないようですね」
 情報の交換と共通理解を彼らは行うのだ。
「確かに、知性のあるっていうか人型のアヤカシ殆どおらへんかったもんな。いいとこ小鬼、猿鬼くらいで…合戦で見かけたような強敵は殆どおらへんかったな」
 なるべく戦闘は避ける方向で来たが、勿論0ではあり得なかった。
 どれも相手に困るような強敵では無かったのが不幸中の幸いだ。
「犬神の群れにはちょっと苦戦しましたが、本当にそれくらいでしたからね。つまり…」
 数日をかけた彼らのアヤカシの残存勢力調査。その結論は
「おそらく、ある程度の知性のあるアヤカシは冥越か、その方面の魔の森に逃げ込み、終結しつつあるのでしょう。この地に残っているのは…おそらくそんな事情も分からないモノだけ…」
 この森はある意味うち捨てられている。と言う事だ。
「北の森の調査をしている人らとも後で情報交換できるとええかな。そんできっとこの森ならそんなにアヤカシに手間取られずに焼けると思う」
「しかし、逆に冥越に攻め込む為に敵の戦力を削ぐなら、焼く優先目標は北の森ということになりますね。紙結ノ森などでしょうか?」
 細かく意見交換をしながら調査をまとめていく様子を頼もしげに卒業生二人は見つめる。時々、自分が気付いた事を知らせ、時々、輪の中に入りづらくてもじもじしている沙輝に声をかけながら
「みんな、頼もしくなったじゃないの」
 と微笑んで。色々心配はあったのだが、この様子を見れただけでも依頼に応じたかいもあったというものだ。
「真名さん」
「なあに? 紫乃」
「ジプシーの真名さんも素敵ですね」
 紫乃の突然の言葉に真名の顔がかあっと上気する。
「な、なに? 急に」
「真名さんとは姉妹のようによく似ていますから。
 見ている方向は同じでも、違う道を歩むだろうと思っていました。
 必要な時、互いに手を伸ばせるように」
 真名さんの手を取り嬉しそうに微笑む紫乃に頷いて、真名も紫乃の手を取った。
「そうね。…あの子達もそうだといいけど。それぞれ、違ってていい。誰かと同じでなくていい。自分らしく、自分の力で仲間を支えていければいい。
 …それに気づいてくれればいいんだけど」
「大丈夫ですよ。きっと…」
 優しく見つめる後輩達の意見交換は続く。
 その姿は、力強く、頼もしい。
 一時、不安定に揺れていた彼ら。
 だが徐々に力と絆を取り戻しつつあると、そう思えるほどに、その姿は闇の中で輝いて見えるのだった。

●調査の結果
「よっしゃ、こんなもんかな? どないやろ?」
 数日間の調査の後、璃凛は書きあがった地図と、アヤカシ分布図を仲間達の前に広げた。
「はい、良いのではないでしょうか?」
 頷くサラターシャに、蒼詠とリリスも、彼方も清心も注意深く精査し、同意した。
 瘴気感染の危険を避けながら、可能な限り奥深くまで調べた寮生渾身の調査である。
 仲間達の返事を聞いた後、璃凛は
「……あの…先輩…」
 伺う様に後ろに立つ二人を見た。
「言ったでしょ。今回の主役は貴方達なんだって。私達は余計な事は言わないわよ」
 小さく笑う真名に紫乃もはい、と頷く。
「間違っている所があるならともかく、ですよね」
 と微笑んで。
「それじゃあ!」
 パッと咲く様な笑顔を見せた璃凛。
「ええ、良くできていると思うわ。提出しても問題ないんじゃない?」
「…よかったですね」
「ありがとうございます。沙輝さん」
 蒼詠もホッと胸をなでおろすと、彼方達と微笑んだ。
「…でも、これが提出されると、本格的に森の焼却が始まるんでしょうか?」
 どこか不安そうな沙輝にリリスは頷いて見せる。
「おそらくは。…特に冥越に近い部分は、本格的な侵攻が始まるという計画が本当であれば優先的に行われるでしょうね。北の方に逃げたらしい主力のアヤカシの反撃が気になるところですが…」
「これだけの規模です。人力での消火は難しいでしょう。どうしても延焼は防ぎたい部分に術者や人手を置いて、後は焼きっぱなし、ということになるのではないかと思います」
 キュッと手を握りしめる沙輝の手に蒼詠はそっと自分の手を重ねた。
「炎は…命を奪うばかりではありません。人を暖めることも、守る事もできる。そして、再生を促すことも…きっと」
「後は、信じましょう。人間の心と強さを」
 静かにそう告げるサラターシャに、仲間達は全員が頷いたのだった。

 そうして、寮生達は全員で寮に戻り、寮長に報告と資料提出を行った。
 森の規模や、周辺の様子。アヤカシの種類や数は変動があるにしても現時点での種類として十二分に参考になるものであった。
 破壊消防も含めた防災案も記載された資料を確認した紫郎はその精密さを大いに褒め、このまま東房に提出する、合格である、と伝えた。
 安堵した三年生に、調理委員長である彼方が食事にしようと声をかけ、沙輝や紫乃を伴って退室したのを見計らって、一人残った真名は
「ご無沙汰してます。寮長」
 紫朗にそう言って頭を下げた。
「今回は三年がお世話になりましたね」
「いえ、いいんです。楽しかったし」
 そう世辞ではない本音で言うと、真名はそっと、続ける。
「正直、心配していたんです。今の三年生達の事。バラバラになったりしないかなあって。でも、大丈夫みたいでした」
 柔らかく、抱きしめるように後輩達を思いながら
「サラが戻ってきて、それぞれが自分の役割の為に努力して…璃凛も自分を卑下したりしないで前向きに頑張ってる。当たり前のことかもしれないけど…それが多分、一番大事なだから、あの子達はきっと大丈夫です」
 そう、告げて微笑む。
「ありがとうございます。貴方方が参加して下さって、良かった」
 紫郎も微笑んで礼を返す。
「では、これで。私も久しぶりに朱雀寮のご飯を頂いて行きたいので」
 そして真名は仲間の元へと戻って行った。
 心からの笑顔を残して。

 五行の調査団の行った資料は東房に提出された。
 それらは十分に精査された信頼できるもので、大いに参考になったと後に東房からは感謝の言葉が届いたという。
 そして…危険度と緊急度からまずは東房国と冥越との国境付近にある魔の森から焼却作戦を開始する。
 ギルドにそんな依頼が出されたのは五行からの調査が届いて本当に直ぐの事であったと言う…。