偽もふらさま現る?
マスター名:夢村円
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/10/28 20:45



■オープニング本文

 現在石鏡には大小合わせて結構な数のもふら牧場があると言われている。
 正確な数はともかく、それはもふら好きの国民性、みたいなものがあるのかもしれない、と僕が仕えるその牧場の数々の中でも小さな牧場主はそう言って笑っていた。
 かくいう僕だってもふらは大好きだし、だから、無理をお願いしてここに勤めさせて貰っているのだ。
 だから、その日、目の前に広がった光景には目を疑った。
「な、なんだ? あれはいったい?」
 隣にいる牧場主だって目を瞬かせている。
 牧場の中央にいるのは見たこともない大きなもふらさま。
 そのもふらが周囲のもふらに攻撃を仕掛けている?
「あっ!!」
 大きなもふらの突進に、一匹のもふらさまが弾き飛ばされた。
 既に攻撃されていたのか、僕たちが駆け寄った時には辛そうに笑って目を閉じてしまった。
 そして、目をもう開けてくれなくなった。
「なんだ! お前は!!」
 牧場主が手に持った鋤を構えて追い立てようとする。
 だが逆にそのもふらは牧場主に体当たりを仕掛けた。
「ぐああっ!!」
 凄い力で牧場主が柵まで飛ばされる。唸り声をあげて彼も目を閉じた。
「止めろ!!」
 僕は必死でもふら達と牧場主の間に割って入った。僕より大きな牧場主が飛ばされた以上僕なんかやられたらひとたまりもないかもしれないと解っている。
 でも、止められなかった。
 気が付くと後ろにもふら達も集まっている。
 彼らと一緒にその大きなもふらを睨みつけると、ふと解ってしまった。
「おまえ、もふらさまじゃないな? アヤカシか?」
 多分、僕の言葉が解ったわけじゃないと思うけど、一致団結したもふらさまか、向こうからやってくる大人たちかそのどれかの気配に何かを察したのか『それ』は踵を返すと柵を乗り越え去って行った。
「大丈夫か?」
「あれはなんだ? 大もふさま‥‥な訳がないよな?」
 牧場主や傷ついたもふらの手当てをする大人たちを見ながら僕は、あのもふらの消えた森の方をじっと見つめていた。

 開拓者ギルドに偽もふら退治の依頼が出たのは秋も深まり始めたある日のことであった。
「石鏡の奥に小さなもふら牧場がある。そこが大きなもふらに襲われた。身の丈2〜3mはあるというそいつは牧場のもふらを何匹か殺し、牧場主を傷つけて近くの森に逃げて行った。目撃した子供によるとどうやらもふらそっくりのアヤカシであるらしい。森に逃げ込んだそいつを見つけて捕えること。アヤカシであるなら退治して欲しいという依頼だ」
 その偽もふらは一見してみると普通のもふらにそっくりらしい。
 でも、よく見れば解るとその子供は言っていた。
「近々石鏡では祭りもあるらしいし、そんな折に怪しい偽もふらなんぞ現れた日には大変なことになる。一刻も早く探し出してくれ」
 そう言って出された依頼を開拓者たちが手に取ろうとした時、一人の青年がギルドに駆け込んだ。
「た、大変だ! 碧糸が‥‥子供が森にもふらを追ってった」
「なに!!!」

 のんびりとしたもふら退治が風雲急を告げる依頼へと変わる。
「絶対に仇を取ってやるからな」
 そう言って草木をかき分ける子供を森影から鋭い(?)目が見つめていた。


■参加者一覧
犬神・彼方(ia0218
25歳・女・陰
桔梗(ia0439
18歳・男・巫
柚乃(ia0638
17歳・女・巫
風鬼(ia5399
23歳・女・シ
アーニャ・ベルマン(ia5465
22歳・女・弓
ルーティア(ia8760
16歳・女・陰
ヘスティア・V・D(ib0161
21歳・女・騎
レティシア(ib4475
13歳・女・吟


■リプレイ本文

●ふらも現る?
「ふらも?」
 集まった開拓者の怪訝そうな声にルーティア(ia8760)は腕組みをしながら頷いた。
「はーい! 知ってます! もふらそっくりのアヤカシですよね」
 アーニャ・ベルマン(ia5465)の答えにもう一度ルーティアはそうだ、と頷く。
 アーニャは知っていたとしても他の開拓者には知らない者もいるだろうから、ルーティアは念の為にと補足する。
「外見はほぼもふらそっくりのアヤカシなんだ。しかし‥‥今回のはでかいな。ついに大もふ様までパクりやがったか」
「まさか、本物ってことはねえだろうな? もふらを殺せるってことは人間がなにかやってるってわけでもないだろうが、毛が増えすぎてもふっふもふが酷くなっただけとか、仲間はずれされて悲しくて逃げたとか? 毛の量で跳ね飛ばし、力の加減がってことも‥‥」
「大もふ様? それは多分‥‥きっとない」
 静かに、だがきっぱりとヘスティア・ヴォルフ(ib0161)の言葉に柚乃(ia0638)は首を振る。
 彼女は大もふ様に会ったことがあるという。
「以前、石鏡で会ったことあるけど‥‥本物の大もふさまは大きくてもふもふ感も凄いの‥‥きまぐれだけど、そんなこと、しない。絶対。偽物なアヤカシが出没してるだなんて‥‥ありえない。‥‥成敗」
 ぐっと手を握る柚乃をははと笑って見やりながら犬神・彼方(ia0218)も頷く。
「もふらの姿ぁをして悪さをするたぁ罰当たりだぁね。アヤカシなぁらきっちりその命でぇ償ってぇもらおうか。そうでなかったら捕まえておしおきだぁね」
「‥‥もふらより先に捕まえて仕置きしなければならない相手がいるでしょう」
 明るい口調の彼方とは対照的に風鬼(ia5399)がどこか呆れたような口調で言うのを聞いて、そうだけど。とレティシア(ib4475)は小さく苦笑しながら反論を探した。
 風鬼が言うのはもふらを殺されて、その仇を討とうと一人山に追って行ったもふら飼いの少年碧糸のことだ。
 開拓者達は彼の捜索も依頼されている。
「自分も家族のように大切な人が害されたら‥‥想像すると平静でいられない気持ちがわかる気がする。それにアヤカシと分かってなお恐怖に立ち向かう小さな勇気に、力になってあげたいと思うな‥‥」
「しかし、自分に何ができるかも解らず、考えず突っ走るのは結局のところ迷惑以外の何物でもないのですな。我々にとっても余計な仕事が増えただけ」
「でも‥‥」
「まあ、とにかくまだそのもふらがアヤカシと決まったわけではありませんし、どちらも早く探さないといけないのは同じことでしょう。牧夫達に話を聞いて動きましょう」
 風鬼の提案にもちろん仲間達の異論はない。
「‥‥碧糸が怪我をする前に見付けられるよう、急がないと」
 桔梗(ia0439)も心情的にはレティシアと同じだが、今は口論を戦わせるときでもないとも解っている。
 動き出した開拓者の前には色づき始めた秋の森が広がっていた。

●森の中の少年
 まず開拓者達は二手に分かれた。
「あいらぶもふらのアーニャ参上! 森の広さとか、水場の位置とか解る範囲で構わないので教えて貰えませんか?」
 牧場で情報収集に当たるグループと、森の入口で痕跡を探るグループだ。
 何せ相手は身の丈2mという大きな身体をしているという。
 森に入ったら何かしらの痕跡は残している筈だ。
「じゃあ、今、森にいるのは碧糸だけ、ってことだね。了解。あんた達は危ないから少しの間は森に入らないでくれよ」
 開拓者の言葉に碧糸を心配する牧夫達はお願いしますと言って頷いた。
「お待たせ。行きましょうか? 柚乃さん」
「うん。また後でね‥‥もふ」
 牧場のもふら達に手を振って別れた柚乃は足早に先を行く仲間達の後を一生懸命追いかけた。
 森の入口までたどり着いた時、彼女らは先に進んだ仲間の木板を見つけた。
 これは前進している合図であった筈だ。
「まだ、そんなに時間は経ってないようです。何とか合流しましょう」
 言いながら歩く開拓者達は、少し行った森の先で、
「あ! いた!」
 何故か足を止め立ち止まっている仲間達を見つけた。合流はできたがなぜこんなところで?
「どうしたんだい?」
 問いかけるヘスティアにこれ、とルーティアが指をさす。
「こいつは‥‥」
 そこにあったのは確かな血痕、であった。
「血の量からして、そんな大量出血じゃないと思うけど、誰かが怪我をしたのは確かだね。そして、怪我をした相手は逃げ、怪我をさせた方は別の方へ行った。ここから痕跡が二つに分かれてるんだ」
 さっきの聞き込みで今、森に入っている狩人などはいないことを考えるとこの怪我の主が誰であるかは一目瞭然であった。
「つまり、怪我をした方が碧糸くんで、怪我をさせた方が偽もふらってこと‥‥ね」
 あっちとこっち、のこされた痕跡が差した方はほぼ真逆になる。
「この周辺には瘴気の気配はないんだ。きっともっと奥に行ったと思う。二手に分かれた方がいいかもしれない」
「じゃあ、私達はこっちに向かって碧糸君を探します。向こうに水場とか、洞窟があるみたいですから、そっちに隠れてるかもしれません。怪我をしているならなおのこと」
 血の残る方向を指差すアーニャの言葉に柚乃とヘスティア、レティシアが頷き、彼方、風鬼、ルーティアが大きく枝が踏まれた草地に向かう。おそらく大もふらが待っている方向だ。
「じゃあ、僕は柚乃とは別の方へ行く。瘴気を探れる二人は分かれた方がいいだろう。何かあったら呼子笛を吹くから」
「もふら、じゃなかったふらもとやらもそうだけど、それ以外のアヤカシとだって遭遇したぁら一大事だ。怒りに任せてぇどうにかなる相手でぇもない、できるだけ早く碧糸を見つけて保護したぁいな。そっちは頼んだぁよ」
「解りました。そちらも気を付けて‥‥」
 互いの情報を素早く擦り合わせて、開拓者達はそれぞれの捜索へと動き出した。
 少年が傷を負っているなら、夜までが、勝負の決め手になると開拓者達は考えていた。

●大ふらもとの戦い
「碧糸さ〜ん。いませんか〜。いたら返事をして下さい〜〜」
 アーニャが、レティシアが幾度となく森に消えた少年そう声を上げ、呼んでいる。
 しかし、帰ってくる音は風や、獣の足音のみ。
「この水場まで来たのは確かのようなんだけどね。まったく、ここらへんで大人しく待っててくれればいいもんを‥‥」
 苦笑したヘスティアが消えた血の痕跡を見つめて苦笑した。
 どうやら少年は、ここで傷の手当てを終えて後、また森の奥へ向かったようなのだ。
「勇んで偽もんに挑んでなけりゃあいいんだが‥‥。アーニャ。この先はどうなってる?」
「この先に少し開けた場所があって、その先は別の村への街道に出るようですね」
「ふらもも、アヤカシなら人や生き物を傷つけようと狙うかもしれない。その前に止めないと‥‥」
 地図を開いていたアーニャはヘスティアの言葉に、ふと何かを考えるような仕草をすると、地図を柚乃に持たせて荷物の中の弓を取り出した。
「ちょっと待ってて‥‥」
 精神を集中させ、弓を弾く。
 びーん!
 澄んだ音の中に微かに混じる、雑音にアーニャは瞬きした。
「柚乃さん。向こうにアヤカシの気配感じませんか?」
 彼女が指差した先に向かって今度は柚乃が目を閉じた。瘴索結界。その確かな手ごたえとほぼ同時。
 二つの音が彼らの耳に響いた。
 一つは高い呼子笛の音。そして、
「うわあああっ!!」
 悲鳴にも似た少年の声。
「あっちだ!!」
 ヘスティアが走り出す。他の者達も後を追った。
 音を頼りに辿り着いたその先では、巨大なもふらが仲間達との死闘(?)を繰り広げていたのだった。

 仲間達と別れもふらの痕跡を追った開拓者達はやがて、それらしき存在を見つけることができた。
 巨大な体躯ゆえの痕跡を消し去る知能はどうやらこれには無かったようだ。
「あ!」
 だが安心したのも束の間、開拓者達が目にしたのは今、まさに少年を組み敷かんとするもふらの姿。
「わああっ!」
 少年は悲鳴を上げていた。腕の側にはナイフが落ちている。
 状況を把握した開拓者達は、
「桔梗! 笛を。風鬼! その子頼んだ! ルーティア。いくよぉ!」
「了解!! 行けっ西洋人形! 一発かまして来い!」
 迷うことなく行動に移った。
 彼方の咆哮が少年の喉笛に迫るもふらの意識を、強引に奪い取りこちらに向かせる。
 その隙にルーティアの西洋人形が、まるでぶつかるような渾身のパンチをもふらの顎に放ったのだ。
 一瞬緩まったもふらの腕から風鬼は素早く少年をはがし、引き寄せた。
 呆然とする少年を横に桔梗は高く、笛を吹きならすと
「君が碧糸?」
 その膝を折り目線を合わせた。
「はい‥‥。でも、貴方達は?」
「俺達はあのもふら退治と君の救出を頼まれた。開拓者だよ。‥‥じっとしていて」
 腕の怪我と今の怪我。それを治療する桔梗に
「開拓者‥‥?」
 一瞬呆然としていた少年ははっ! と顔を上げた。
 視線の先にはあのもふらがいる。
「あ、あいつ! せっかく見つけたのに!!」
 開拓者との戦いに飛び込もうとする少年の肩を
「待ちなさい‥‥」
 今まで黙っていた風鬼が渾身の力で掴んだ。
「えっ?」
 凍りついたように動きを止める少年の背後、木々が揺れ
「あっ!! 碧糸くん、見つかったんだ。よかった〜」
「キミの力になりに来たっ」
「まったく心配かけて〜」
「でも‥‥無事でよかった。で‥‥、あれが偽の大もふ様?」
 躍り出る様に開拓者達が飛び出てくる。その表情には少しの安堵と初めて見る巨大もふらへの戸惑い。
 そんな彼女達に
「あれはアヤカシのようですな。ほら彼が」
 碧糸にではなく、仲間達に風鬼は白い表情でそう告げた。
 彼、と呼ばれた桔梗はすでに白霊弾で攻撃をしかけている。
「‥‥可愛く、ない。もふら様と、全然、ちがう‥‥」
 ぼそりと呟きながらも彼は怒りを隠していない。かなり本気のようだ。
 仲間達の戦いを見てアーニャは頷く。
「あ〜、やっぱりふらもだ〜。あの凶悪な目!」
「でも‥‥、なんだか可愛くない? あの機敏な動き‥‥あの、なんともまんまるいめ‥‥」
「って、おい! レティシア!」
 どこかぼんやりとした表情で訳のわからないことを口にするレティシアをパンとヘスティアは叩いた。
 ハッと正気を取り戻すレティシア。自分があのアヤカシの術にかかりかけていたことに気付いて頬を赤らめた。
「あのもふら‥‥じゃなかった、アヤカシ。魅了の術も使うのか。レティシアと柚乃は後ろから援護頼む。アーニャ。弓で牽制してくれるかい? ‥‥大丈夫。仇はとってやるからさ」
 駆け出すヘスティアに言葉をかけられた者達はそれぞれ頷くが、一人だけ不満そうな顔を浮かべる者が‥‥いる。
「僕は‥‥行ってはいけないのですか?」
 碧糸である。
 動きたいのに風鬼に掴まれた肩とその下の身体は動かない。彼の迫力に身体が負け
「ダメ。危険だもの」
「だめ! 碧糸さんが傷ついたらきっともふら達が悲しみますから」
 少女達の言葉に心が涙を流す。
 もふらの仇を取りたくてここまで来たのに、まったく役に立てないと。
「勇敢と阿呆は紙一重ですな」
 風鬼の言葉が心に突き刺さる。
 それを見て、レティシアは本当に小さく、小さく微笑んだ。
 そして、敵と戦う仲間達に向かい合う。
「騎士の魂よ。精霊達よ。大自然と人の心を荒らす敵を倒すために、力を!!」
 溢れる思いを歌に込めて。

 巨大もふら、いやふらもは思うより俊敏で、前衛に立つ彼方やルーティアは少し苦戦していた。
 中でもあの体躯から繰り出される突進が驚異的で、ぶつかったらただ事ではすまないと思われる。
 幾度目かの突進を何度か避け、息を整えかけた時
「さあて、どうするかねえ〜っと、おやぁ」
「犠牲になったもふらのかたき! くらえ〜〜!!」
 もふらの足を止める様に放たれた矢と横にふわりと舞い降りた赤い風が彼に笑いかけた。
「すまない! 遅くなった!!」
「お〜。ありがたいねえ。それじゃあぁっと一気に行こうか」
 彼方が目をやった先でルーティアが頷く。その手には持ち替えた馬上槍があった。
 彼らを鼓舞するように助ける様に柔らかい歌声が力を与える。
「相手はもふらの形とぉ言えどアヤカシ‥‥手加減する必要なんざぁないよなぁ。よしっ!! 行くよ!!」
『!!!』
 目の前に飛び弾けた白霊弾にアヤカシが戸惑い足を止めた瞬間を狙う。
「「「おおお!!!っ」」」
 三人の渾身の攻撃がもふらの、いや、アヤカシの頭、背、腹を討つ。
『ぎゃああああ!!』
 その断末魔はまさしくアヤカシのもので、膝を折り徐々に瘴気に還っていく様を、開拓者達は黙って見つめていた。

●自分にできること
 柔らかいオカリナの音色と共に歩く帰り道。仲間達に
「ふらもって、見た目ほどもふらに似てないよな。凶悪顔だし、毛皮も本物程もふもふじゃないし」
 明るく話しかけたルーティアであったが、本人も周囲もテンションはやや低い。
 目的を果たし少年も助け出したが、その少年が地の底まで落ち込んでいる為だ。
 理由は風鬼がかけた言葉にある。
「どうやってやっつけるつもりだったんですかい?
 勇敢と阿呆は紙一重ですな。
 もしかして痛い目に遭ったことがない子? それなら重篤ですが」
 笑顔で彼が放った言葉は紛れもない真実であり心を抉ったのだ。
「まあ、それは仕方がないよね。自分の力を考えず突っ走っちゃったことは、やっぱりいけないことだと思うもの」
 唇を噛みしめる少年の顔を見ずにレティシアは吹いていたオカリナをそっと止めて呟いた。
「はい‥‥。僕にもっと力があれば‥‥」
「そうじゃない」
「えっ?」
 桔梗は碧糸の手を取り首を振る。
「人にできることは違うんだ。君には君のできることがある。もふらの世話をすること。まだ怖がってるもふら様が居たら、碧糸が沢山傍にいてあげること‥‥」
「まあ、力はあるに越したこたぁないけど、それに捕らわれすぎもよくないねぇ」
「気持ちは解るけど無茶はダメですよ。助けてくれる人はこうしているんですからお願いしましょ。ね?」
 開拓者が笑う、こうしての先に自分がいることに気付いて風鬼は顔を背ける。
 でもその表情は凍ったものではなかった。
「最後に、キミには仕事が残ってるよ」
 レティシアは少年の目を見つめ微笑む。
「しっかり叱られる事と、心細くしているもふらさま達に寄り添ってあげる事。できるよね」
「はい‥‥。本当にすみませんでした」
 頭を下げた少年の目元から一粒だけ雫が落ちる。
 だがその雫が後に続くことはなかった。

 それは本当に小さな依頼であった。
「やれやれ、割の合わない仕事ですな」
 開拓者に残ったのは少年が一人に握らせたお礼のメダルと、見送った少年ともふらの笑顔。
 でも、こんな依頼があればきっとまた受けるだろう。
 苦笑しながらもどこか明るい思いを抱いて彼らは街へと戻って行った。