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■オープニング本文 ●安須大祭 石鏡、安雲の近くにある安須神宮にて二人の国王‥‥布刀玉と香香背は賑々しい街の様子を見下ろしてはそわそわしていた。 「もうじき大祭だね」 「そうね、今年は一体何があるのかしら」 二人が言う『大祭』とは例年、この時期になると石鏡で行なわれる『安須大祭』の事を指している。 その規模はとても大きなもので石鏡全土、国が総出で取り組み盛り上げる数少ない一大行事であるからこそ、二人が覗かせる反応は至極当然でもあるが 「はしゃいでしまう気持ちは察しますが、くれぐれも自重だけお願いします」 「分かっていますよ」 だからこそ、やんわり淡々と二人へ釘を刺すのは布刀玉の側近が滝上沙耶で、苦笑いと共に彼女へ応じる布刀玉であった。人それぞれに考え方はあるもので、石鏡や朝廷の一部保守派には派手になる祭事を憂う傾向もあり、一方で、辛気臭い祭事より盛大なお祭りを望むのが民衆の人情というもの。 様々な思惑をよそに、お祭りの準備は着々と進みつつあった。 それは、まあ、他愛のないケンカからはじまる。 「うちのもふらが世界一美人だ!」 「なにを! うちの方が断然美人だ! そんなことも解らんのか!!」 「「う〜〜〜!」」 路上でとっくみあいの大ゲンカをする二人。その側では二匹のもふらがどこか悲しげな眼をしてうろうろと歩き回っている。 理由もわからず遠巻きに見つめる人の中から 「まあまあ、落ち着いて。何事です?」 一人の商人が仲裁に入ってきた。 「おや、あなた達は‥‥」 商人はケンカをしていた二人に見覚えがあるようだ。 笑って二人に目を向けると彼等はバツの悪そうな顔をした。 「清七さんと、伝吉さんじゃないですか? 石鏡でも仲良しのもふらさま好きが大祭を前に何のケンカです?」 聞かれて彼らは自分の側に寄ってきたもふらを一度だけ見やりながらぽつぽつと返事を始めた 「いえ、実は久しぶりに会いまして、そこの酒場で飲んてたんですよ。お互いのもふらを連れてたんで、それを見せあいながら‥‥」 「最初は、その大祭が楽しみだねって話をしていたんですが、そこから、どっちのもふらが可愛いかって話になりまして‥‥」 『そりゃあ、なんて言ったってうちの三雲に決まってらあな。ほれ、見てみろ。このもふもふとしたもふりぐあい。真っ白で汚れ一つなくて、まるで空の雲のようじゃねえか?』 『なーにを言ってる。うちの陽子の方がだんぜん美人だろう? ほれ、この頭のたてがみの朱色の美しいこと。お日様の光だってかないや〜しねえ』 『なにを? 聞き捨てならねえな。うちのもふらのどこがお前のところのドぶすに負けるってんだよ!』 『ドぶすとはなんだ! てめえの方こそ!!』 『なにを!』『やるかああ!』 「なるほど。それでケンカになってしまったと。しかし、それで自分のもふらさまに心配をかけて元気を無くさせてしまっては本末転倒というものでしょう」 商人は膝を付き、二匹のもふらさまの頭をよしよしと撫でる。 二匹は嬉しそうに目を細め‥‥飼い主たちはしょんぼりと頭を下げた。 「まあ、そうなんですが‥‥」 「では、こうしましょう!」 そんな二人と二匹を見て商人はぽんと手を叩いた。 「丁度大祭です。それに合わせてもふらさまコンテストをしましょう。いわゆる美もふらさまコンテストって奴ですな。そこで勝負を付けませんか?」 「ええっ?」 驚く二人にうんうんと、商人は自分の提案に満足するように首を前に動かしている。 「もちろん、お二人だけでは不公平です。もふらさま自慢の一般の方牧場の方、開拓者にもご参加頂きましょう。そして、観客にも投票してもらい、審査員にも見て貰って一番のもふらさまを決めるのです。もちろん会場の準備やその経費は私が持ちましょう」 「しかし、それでは選ばれなかったもふらが可哀そうじゃあ‥‥」 「そうですよ。それに旦那にご負担も‥‥」 心配はもふら好きならでは。 だが、きっと大丈夫。と商人は明るく笑った。 「誰でもきっと自分のもふらさまが天儀一、いや世界一だと思っているでしょう? そんなもふらさま好き同士が集まれば、もふらさまがいっぱいの会場でケンカをすることはないと思いますよ。もふらさま好き同士で互いの情報交換を行ったり、友達になったり。そうできれば素敵ではありませんか?」 「そりゃあ〜」「まあ〜、そうですが‥‥」 まだどこかためらいがちな二人。その二人ともふらを見ながら、商人はさらに顔をほころばせる。 「私は常々思っていたのですよ。いろんな人のいろんなもふらさまを見てみたいと。貴方達がそうであるように、それぞれが愛するもふらさまには、色々な思い入れや出会いがあるでしょう。そんなもふらさまが溢れた祭り。ああ‥‥考えただけで幸せですねえ〜」 ああ、と二人は思い出した。 この人も大のもふらさま好きだったのだと。 もふらさまグッズをいろいろ売り出し、それが高じて自前でもふら牧場もやっている程に‥‥。 「不公平になるでしょうから、私は今回は出ませんが、私の家の子達も連れて行きますよ。参加賞は何にしましょうか? もふらさま関係の出店も出して、もふら飴に、もふらさまのわなげとか。ああ、楽しみです!」 すっかり自分のアイデアに夢中になっている彼にもう何を言っても無駄だろう。 それに、二人は顔を見合わせにやりと笑う。 「負けないからな!」「おうよ! しっかり磨き上げて勝負だ!」 いつの間にか楽しみにしている自分に気付いたのだ。 かれらの足元ではもふらさま達も楽しげに踊っていた。 かくして こんな張り紙がギルドや街中に貼り出される。 『第一回 美もふらさまコンテスト開催『うちのもふらさまが世界一!』 貴方のかわいいもふらさまを皆に見て貰いませんか? 参加費 300文 参加賞 もふらのぬいぐるみ 優勝賞品 まるごともふら 他入賞者にも豪華粗品あり 自分のもふらさまのPRを会場でして頂きます。 それと会場での人気投票で優勝者を決定します。 コンテストではありますが、優勝を争うのばかりを目的とせず、もふらさま好き同士が出合い交流する場になればと思っています。 なので会場では受付をし番号を付けた後は、PRタイムまで自由です。 周囲の人に特技でアピールするもよし、仲良くもふらさま好き同士歓談するもよし もふらさまに囲まれた幸せな時間を共に過ごしましょう。 一般参加者も大歓迎。 もふらさま関係の出店もいろいろご用意しております。 ぜひ投票も含め、ご参加下さい』 |
■参加者一覧 / 紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454) / 柚乃(ia0638) / 秋霜夜(ia0979) / 礼野 真夢紀(ia1144) / ペケ(ia5365) / からす(ia6525) / ルーティア(ia8760) / リーディア(ia9818) / エルディン・バウアー(ib0066) / ラムセス(ib0417) / 不破 颯(ib0495) / 琉宇(ib1119) |
■リプレイ本文 ●美もふらさまコンテスト 石鏡の街の一角で催されることになったその祭りは、他の祭りとは一線を画していた。 何が変わっていたかと言えば、周囲の空気からして。である。 頭上に掲げられているのは大きなもふらさまと 『第一回 美もふらさまコンテスト!』 と描かれた看板。 その下をくぐって中に入ると、 「お〜、すご〜〜い」 そこには右を向いても左を向いてももふらさまだらけであった。 「これだけもふらさまがいると、そーかんだねえ〜」 感心したように琉宇(ib1119)はそんなことを言いながら、手近な出店のふかしたてもふら饅頭を一つ受け取り口にした。 もふもふと、それを食べながらあたりを見る。 まだ祭りが始まって早い時間なので、集まっているのは参加者が多いようだった。 ステージもまだ準備中のようで忙しく働く人たちが見える。 「では、参加者の皆様お集まり下さい」 そのステージ横で何かが始まるようだ。琉宇は目をそちらに向けた。 「では、これから説明を開始します」 そう言っているのは若い青年だった。 多分主催者ではあるまいがもふらの半纏を着ている。今日のスタッフの一人なのかもしれない。 「大会開始は昼過ぎになります。それまでは自由時間ですので参加受付が済み、番号を受け取りましたらこの広場内を自由に歩いていただいて構いません」 参加者達の声が楽しそうに弾ける。 周囲には小間物屋や、食べ物屋などが出ている。見て回るのだけでも楽しそうだ。 「お昼過ぎになりましたら、順次みなさんをお呼び致しますので、壇上に上がって簡単にそれぞれのもふらをアピールして下さい。もちろん、自己紹介パフォーマンスも大歓迎です。楽しみにしていますよ」 案内役が注意を聞く参加者や、そのもふら達に笑いかけている。 彼ももふら好きのようだ。と、いうかもふら好きでなければ、このような仕事はできまい。 他に簡単な説明をして後、かれはこう言葉を締めくくった。 「今回はコンテストという形ですが、一番の目的はもふら好き同士が交流を持ち一緒に楽しむことです。皆さんと、皆さんのもふらが主役です。一緒に祭りを楽しみ、盛り上げていきましょう。よろしくお願いします。ではこれから受付を開始します」 スタッフの声に促され、参加者達が順番に進み出ていく。 「自分はルーティア(ia 8760)、こっちはもふらのチャールズだ。よろしく頼む」 「ラムセス(ib0417)デスぅ〜。らいよん丸さんとさんかするデスぅ〜」 「この子はもふ龍ちゃんです。とっても働き者なんですよ〜。あ、私は紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454)と言います」 それぞれに受付を済ませる中。いろいろな会話も聞こえる。 「美もふらコンテストですよ」 「‥‥」 「ねぇモフペッティ、参『断るもふ!』」 『断るもふー!』 「‥‥どうしても?」 『断るもふ!』 「参加で一個、優勝で三個の芋ヨーカン」 『‥‥グズグズしてないで参加受付に行くもふ!』 というのはペケ(ia5365)とモフペッティ。 「参加登録してきた! 偶には頑張れよぉ?」 『なにぃ! 何故だ?』 「だって、優勝賞品。まるごともふらなんだぜ」 『無断で登録するなこの若造がぁ!』 と声だけ聞いていればケンカのような不破 颯(ib0495)と風信子。 「もふリルさん。行きましょうか? 『あたし音楽したいでもふ〜』 楽しげに笑いあうリーディア(ia9818)ともふリルを 『神父様。もふリルがいるもふ。早くいくもふ』 「そう急がなくても大丈夫ですよ。パウロ」 追いかけていくのはエルディン・バウアー(ib0066)と彼のもふらパウロらしい。 「おや?」 『一番浮舟、歌うであります!』 既に舞台の上にとんとんと上っていくもふらがいる。かなり大きなもふらに 「止めなさい」 花札を投げる者がいた。主のからす(ia6525)であるようだ。 「お前のは子守唄だろう? 準備のおじゃまだ」 『冗談でありますよ〜』 もふもふの毛皮で止めた花札を身震いして落してから、浮舟と呼ばれたもふらは段を下りていく。 「本当にいろんな‥‥もふらいるの‥‥ね?」 「わっ!」 いつの間にか横に柚乃(ia0638)が立っていたことに驚いて琉宇は声を上げた。柚乃も足元にもふらを連れている。 「あれ? 君は出ないの?」 綺麗にブラッシングされ、赤いスカーフを巻いている様子はどうみても「おめかし」だ。 てっきりコンテスト参加者だと思ったのだが‥‥。 「参加してみてもいいかなって思ったけど、でも八曜丸は柚乃にとっての天儀一だから‥‥それでいい。ね、八曜丸?」 『おいらも一緒にいられればいいもふ!』 互いに通じ合っている様子の二人に琉宇は、ふふ、っと笑っただけでそれ以上の問いを繋ぎはしなかった 「‥‥貴方は、出ないの?」 「えっ? 僕はもふら飼ってないんだよ」 「でも、その子‥‥は?」 柚乃が言うとおり琉宇の足元には、ころころと遊ぶもふら様がいる。 「この子は山で見つけた野良もふらさま。美味しいものあるから一緒に来ないってナンパしたら来たんだ」 『もふ!』 照れたように笑う琉宇の足元、そのもふらはどちらが飴かもふらか解らない程に顔をべたべたにしながらもふら飴をうれしそうに舐めている。 「皆様ももふら飴はいかがですか? サービスいたしますわ」 「うわ〜、美味しそう! 下さい!! そろそろお昼です。おなかもすきましたよね」 礼野 真夢紀(ia1144)の差し出すもふら飴を秋霜夜(ia0979)も嬉しそうに頬張って舞台を見つめた。 「お昼開幕って言ってたから、そろそろかな?」 琉宇の言葉通り、人も‥‥もふらも集まってきた。 いよいよもふら好きによる、もふら好きの為のもふらの祭りが始まろうとしてた。 ●世界にひとりのもふらさま 「お集まりの皆さん、お待たせしました。これより第一回美もふらさまコンテストを開会します」 舞台の上では司会役が高らかに宣言する。 着ている衣装がもふら半纏なのでややコミカルだが、それがまた楽しい。 「では、一番の方からどうぞ〜〜」 そう言って舞台に促された一番はルーティアとそのもふらチャールズであった。 『俺の名前はチャールズだ、よろしく頼むぜ?』 おー、と人々から歓声が上がる。 自分から積極的にしゃべるもふらは意外に珍しい。 しかも人間であればウインクに流し目をしそうなほどチャールズのそれはカッコいい仕草であった。 「こいつはもふらの割に器用で、家事の手伝いからアヤカシ退治まで、何でもできる凄いヤツ。 そんなチャールズが今日はダンスを披露します。お相手はこちら、西洋人形さんです」 ルーティアはそういうと荷物の中から優美なドレスを着た西洋人形を取り出して地面に立たせた。 西洋人形がぺこりとお辞儀をするとチャールズが、それを背に乗せ踊り始めたのだ。 時に抱き寄せる様に、時に手を取るように。時折西洋人形も頬を染めるかのように反応するのが面白く、その演技は観客からの喝采を浴びた。 最初の盛り上がりとしてはこれ以上は無かったであろう。 次に舞台に上がったのは紗耶香だった。 「料理店 莢をやっています紗耶香です。こっちは看板もふらのもふ龍です。お近づきのしるしにもふら饅頭をどうぞ? もふ龍ちゃん。持ってきて配ってあげて?」 『解ったもふ〜』 もふらが引いてきた荷物にはたくさんの饅頭が乗せられている。 「もふ龍ちゃんの自慢といえば、やはりこの毛色でしょうね〜」 それを食べながら、観客たちは紗耶香が愛しげに撫でるもふらもふ龍を見つめていた。 「最初は泥まみれで茶色だったんですが、連れて帰って洗ったら金色の毛でびっくりですよ〜」 日に当たって毛は確かに薄い金色に光って見える。 「後は、やはりこのお手伝いですかね〜? あたしはお店をやっているのですが、もふ龍ちゃんが接客をして下さるので、助かってるんですよ。そのせいか売り上げも上がってまして‥‥まさに招き猫ならぬ招きもふらです♪」 『もふ龍、お店のお手伝いするもふ。ご主人様の為にがんばるもふ!』 けなげなもふ龍と主人の絆に人々は拍手を惜しまなかった。 「さんばん! ペケとヒーローもふらのモフペッティです!」 「おーーー!」 上がった歓声の一部にペケのナイスバディーに反応した大きなおともだちがいたことは否定しない。 「モフペッティは何でも出来るとっても優秀なもふら様なんですよー。ガォ〜、怪人ペケですー! 「!!!」 ペケがモフペッティに襲い掛かろうという真似をすると、モフペッティの額の角飾りが二つに分かれた。 「へんし〜ん! 超精霊チェルノブモフ!!」 今度は子供達の歓声が上がった。悪い奴をやっつける正義の味方ごっこのノリである。 『必殺褌重力落としもふ〜!』 「あわわ!!」 服が緩みそうになる。ペケは慌てて手で押さえた。 そしてまだまだ盛り上がり足りなさそうなモフペッティを横抱きにするとお辞儀をして舞台を降りたのである。 子供と大きなおともだちの心を鷲づかみにして。 四番目に舞台に上がったラムセスとそのもふららいよん丸はとても良く似ていた。 それは勿論ラムセスがまるごともふらを着ていたからでもあるのだが、それ以上にほんわりと仲良く肩を寄せ合う様子はまるで兄弟のようでもある。 「いっしょに仲良く歌うデスぅ〜。もっふもっふもふもふぅ〜」 『もふらともふらでもふもふデス〜』 「もふらの小唄の始まりデス」 『もふらの小唄の始まりもふぅ』 仲良く手を取り合う様子に、微笑まないものはなく、上手に浮いた歌い終えた彼らに大きな拍手が送られたのだった。 「ほら、出番だぜ〜。ヒヤシンス」 自分の番になり前に出た颯は楽しげに笑いながら、自分のもふらを前に押し出した。 『吾が名は花ではない!! 石だ!』 少し不満そうに声を上げた風信子は、だが集まる注目にこほんと咳払いをするように身震いすると礼儀正しく一礼し 『PRだと? ふむ、ならば趣味の語りでも披露してやろう。昔々、あるところに〜〜』 「昔話かよ!」 颯に時折そんなツッコミを入れられながらも、風信子は時間ぎりぎりまで感情豊かにいろいろな話をした。 「なかなか話し上手なもふらだな」「大人っぽいというか渋いもふらね」 可愛いという印象の強いもふらの中で、異色のもふらとしてこのペアは注目を集めたようである。 優雅に舞台に上がったリーディアの横で、可愛らしいもふらがシャンシャン、チリリと音を鳴らしている。 「うちのもふらさまは、もふリルさんといいます」 『よろしくもふ〜』 お辞儀をする間ももふリルは鈴を離さない。 「この子は、楽器や音楽が大好きなのですよ」 リーディアに促され前に出ると 『今は、鈴鳴らしに夢中もふ〜♪ 今日は、鈴鳴らしながらお歌を歌うもふ〜♪』 もふリルはそう言って踊りだした。リズムを取りながら 『もっふらはとっても歌が好き♪ ごっ主人呼ぶのも歌で呼ぶ♪ ももももも ふふふふふ もふもふも♪』 あまりにも楽しそうに踊る様子に人々は、手を叩いた。 手拍子のリズムにさらに楽しそうにノってもふリルのダンスは長く続いていた。 他にも個性的なもふらが多く参加した。 からすの浮舟は舞台に上がると、子守唄を披露したが、それ以上にニコニコと 『からすの茶は旨いのでありますよ〜』 と観客に自慢していた。 「私を自慢してどうするの」 からすは少し照れた様子だったがまんざらでもなかったようである。 茶をたてる彼女の頬は少し赤く染まっていた。 今回の発端となったもふら二匹、三雲と陽子も主達に我が子が一番というように紹介されていた。 舞台の上に上がった途端、動かなくなってしまった子や、逆に跳ねまわって紹介どころでなくなってしまった子もいる。 だが、その中に一人としておなじもふらはいない。 全てが世界中でたったひとりのもふらである。 そして最後にエルディンが前に出た。 後ろにちょこちょこと着いてくるのが彼のもふらであろう。 人々の注目が集まる中エルディンは説教をする時のように手を広げ微笑んだ。 「私のもふら、パウロをご紹介します。スタンダードカラー、そしてこの『もふもふの毛皮』 愛らしい笑顔とつぶらな青い瞳が人々の心を癒してくれるのです」 彼の笑顔と笑顔を合わせてパウロは本当に幸せそうな笑みを見せる。 『僕、教会もふらでふ。 神父様のお手伝いをしているでふ。 ちゃんと留守番も掃除もするし、教会に来る人を和ませているでふ。 夜は神父様と一緒に寝ているでふ。神父様の寝顔も寝言もすべて知って‥‥もふっ!?』 急に青ざめたエルディンがパウロの口を押える。 「そこまでにしておきなさい。パウロ」 「もふもふ〜〜〜」 ハハハハハ。明るい笑いが会場を包んだ。 特に何の芸をするわけでもない。 ただ、当たり前に仲の良い主ともふらの自然な関係が、暖かく優しく人々の心を包んだのだった。 ●もふら好きの時間 全員の参加者がアピールを終えると再び司会者が壇上に立った。 「では、これにてPRタイムを終わります。これより審査と投票の開票を行いますので結果発表まで、ご自由にお楽しみ下さい」 司会者の言葉に、参加者達も観客たちもそれぞれに、会場に散って行った。 「あ、この組紐可愛い! ‥‥ねえ、霞。そんなに機嫌悪くしないで。甘いものの食べ過ぎは犬には良くないんです」 自分ばかりが甘いものを食べていることに拗ねたのだろうか。ジト目で自分を見る忍び犬に秋霜夜は買ったばかりの組紐を頭に結ぶと言い聞かせるように言った。 「ほらほら、やき魚のもふら風、食べます?」 機嫌を直した霞と秋霜夜の視線の席には、さっきのコンテストの参加者達が、もちろん、もふらと一緒に楽しそうに集まっている。 『デートもふ〜♪ 鬼さんこちら〜もふ〜♪』 『もふ〜待つでふ〜〜』 ころころと走り出したもふら達にリーディアがくすくすと笑いながら声をかけた。 「あら、パウロさんと鬼ごっこですか? 仲良く遊ぶのですよ〜」 「ほお。知り合いなのか?」 からすが差し出した茶を受け取りながらリーディアははいと頷き微笑んだ。 『ぼくもまぜてほしいでもふ〜』『あたしも〜』 「らいよん丸さんも行くデスか?」 いつの間にか鬼ごっこをするもふらは二匹、三匹、四匹と増え、楽しそうなもふもふの笑い声が広がっていく。 お互いにもふら好き同士あいさつ回りをする開拓者もいる。 「‥‥ねえ、おねいちゃん。もふらさんにさわってもいい?」 「どうぞ。モフペッティ。悪戯しちゃだめですよ」 「ありがとう。うわ〜、もうふもふだ〜。きもちいい〜」 最初は控えめに聞いた女の子も、もふらに抱きつきふかふかの感触を幸せそうに楽しんでいる。 それをきっかけにもふらへの抱きつき大会が始まっていた。 「みなさん、本当にかわいいですね〜〜」 思いっきりもふる参加者達。 不思議なもので、もふらの毛皮はスキルなしでも人を和ませ、笑顔にさせる力がある。 「幸せですね〜」 もふら飴を参加者に渡しながら真夢紀も柔らかく微笑んでいた。 「わあ、もふらさま、ふわふわのもこもこだぁ」 一緒に遊ぶものも、それを見守るものも、気が付けば同じ目をしていると琉宇は気付いた。 半ば強引にナンパしてきた自分のもふらさまも、だ。 『ほお、おぬしは自由なもふらか?』 「あれ?」 そう声をかけた参加者のもふらが、琉宇の足元のそのもふらに話しかける。 見つめあった二匹はやがてぼそぼとした一言、二言を交わすとやがてそれぞれに別の方向に歩いて行った。 「あ、待ってよ」 『ふむ‥‥何のかんの言うが、人間との生活もまあ悪くはないとは思う』 風信子はひとりごとのように呟く。自分の言葉が、自由なもふらにどう伝わったかは定かではないが、おそらく不の感情に関わることはないだろうと確信できる。 頬と唇が間違いない笑みを形作っていたのだから。 だがそれを彼は少年にも、もちろん主にも伝えることは無かった。 それからの祭りはさらに盛り上がっていく。 たくさんの出店には美味しい菓子や、楽しげなゲームが軒を連ねているし、小物売りなどももふらをモチーフにした細工物などを売り出している。 このコンテストの主催者は噂通りのもふら好きで、なおかつなかなかの商売人だと、参加した開拓者達は思っていた。 もふらの組紐に、もふらの手ぬぐい、もふら模様の着物など、どちらを向いてももふらだらけだ。 いろいろな展開をしているもふらグッズはもふら好きには堪らないものであろう。 見ればかなり皆、財布のひもも緩んでいるようだ。 開拓者達もまたもふら饅頭を食べ、もふら飴を舐め、祭りを楽しんだ。 からすが立てるお茶も好評であったし、紗耶香が露店の一角を借りて作ったふかしたてのもふら饅頭は大評判を得た。 「最近の調子はどう? ‥‥もふ」 柚乃は出会うもふら達にそんな風に笑いかけながら話しかけたりもする。 「うちのもふらは‥‥」「いやいや、そちらのもふらもなかなか‥‥」 もふら好き同士の会話は、もふらの話でいっぱいであったし、 「自慢のもふら様との絵は如何ですか?」 似顔絵描きの前にも長い列ができた。 ちなみに参加賞に貰うことになっていたもふらのぬいぐるみは、露店に並んだたくさんのもふらのぬいぐるみから選んでいいことになっている。 「ど・れ・が・一番、可愛いかなっと」 開拓者達が真剣に顔を見つめ、選んだりしていたという。 やがて‥‥会場内に声が響いた。 「間もなく、コンテストの結果発表を行います。舞台にどうぞご注目下さい」 お客達の視線が再び舞台に集まっていく。 それをコンテスト参加者ともふら達は少しだけ緊張の面持ちで見つめていた。 ●うちのもふらが世界一! 「まず、最初に申し上げます。今回美もふらさまコンテストと銘打ちましたが、決して今回選ばれなかったもふらさまが劣っているとかそういうことはありません。ええ! それはここに断言いたします!!」 舞台上に上がったのはもふら好きと名高い商人で、周囲には何匹ものもふらさまを侍らせている。 彼がこの大会の主催者であると言う周囲の噂を聞きながら、開拓者達はその話に耳を傾けた。 「今回のコンテストは、参加者の皆様の投票と、審査員の評価で決定しましたがどのもふらさまも甲乙つけがたく、審査は難航いたしました。ここで順位を付けるのは申し訳ないほど、皆さん、素晴らしいもふらばかりです!!」 力の籠った発言に嘘はないだろう。息を整えて彼は、さて、と続けた。 「ですので、その中で特に皆さんが魅力的だと思ったもふらさまを新ためてご紹介するという形で結果を発表したいと思います。皆様、どうか拍手でお迎え下さい。まず第三位は」 ダダン! 後ろで音楽が鳴った。 「リーディアさんと、もふリルさん!」 「まあ!」『もふ!』 周囲の拍手を受けて彼女らは壇上に上がった。 商品として渡されたもふらの帽子を嬉しそうに被ったもふリルは 『ありがともふ〜〜』 リンリンと嬉しそうにまた鈴の音と一緒に踊っていた。 「次に第二位は!! ルーティアさんとチャールズさん!!」 「おお!!」『やったぜ!!』 舞台の上でもふら半纏を貰ったルーティアの足元でチャールズは、くるりと大きく一回転。 『やああ!!』 カッコよくポーズを決めたのであった。 「そして栄えある第一回美もふらさまコンテスト第一位は!!!」 ジャカジャン!! 「エルディンさんと、パウロくん!!」 「おやおや」『やったもふ。神父様!!』 舞台の上でまるごともふらを貰ったエルディンは観客達に手を振った。 その頬に浮かんでいるのは、聖職者スマイル、ではないだろうと見ていた観客達は思う。 隣で嬉しそうに飛び跳ねるパウロとのそれは、何よりも輝くきっと心からの笑顔であったからだ。 「う〜ん、まるごともふらGETはならず‥‥か」 『まったく、勝手に申し込んでおいてなんだ。その言い草は。まあ次の機会があれば語りで皆を笑いや涙の渦に巻き込んでくれよう』 「もふ龍ちゃん、新しい饅頭がふけました。運んで下さ〜い」 『分かったもふ〜〜』 『ペケ。約束の芋ヨーカン!』 「はいはい。後でちゃんとあげるから。それより今はもっと美味しいもの食べましょ」 「霞はもふリルさんがお気に入りだったみたいね。入賞してよかったね」 『もふリル〜。おめでとうもふ』『パウロもおめでとうもふ〜』 「おやおや、頭を摺り寄せて楽しそうですわね」 「今日はふたりとも頑張ったからね」 「チャールズもお疲れさん!」 『頑張ったぜ!』 「なかなかいろんなもふらを見れて楽しかったよ」 「そうですね。いろんなもふらさんがいるのですね」 「八葉丸。いろんな子達がいて、楽しかったね。‥‥でも、八葉丸が天儀一よ」 『おいら、うれしいもふ!』 『からす‥‥(くいくい)』 「ん? なんだね。おやおや疲れたのかな。眠ってしまったか。浮舟。向こうの上着を」 『わかったであります』 「‥‥割と働くから助かるよ。まあ、今更自慢することでもないが‥‥。君も大変だね」 「ス〜〜〜。らいよんまるさん‥‥後で、また‥‥ス〜〜〜」 『‥‥‥』 もふり、もふられ、幸せな時。 毛並みの変わった子、芸の得意な子、おしゃべりの好きな子、働き者の子、なまけものの子。 でも、どんな子も世界でたった一人のもふらで、世界一。 そんなもふら好きの思いと一緒に、もふら好きによる、もふらの時間はまだまだ続くだろう。 祭りが終わっても、きっと、ずっと。 |