【兄弟】人質を救え
マスター名:夢村円
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 難しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/03/08 20:19



■オープニング本文

 ある村に兄弟がいた。
 18歳と13歳。
 両親は無く、ある村の外れに二人で暮らし、もう二年になる。
 兄の秋成は優れた剣士であり志体を持つ開拓者であった。
 父が残した剣で弟を守り、また生活の糧を得ている。
 村を守る護衛のような役目も請け負っており、人々から慕われる存在であった。
 一方弟冬蓮は特に目立った能力の覚醒も見られない普通に近い少年。
 いや、五行の小さな村では少し目立つ外見ではあるが、それ以外は特に変わったところも無い元気のいい子供であった。
「おじさん、この芋、安くしてくれない? ほら、ちょっと凍みて痛んでるよ」
 青い、空のような大きな瞳に見つめられて、主は仕方ないな、と頭を掻いた。
「やれやれ、蓮にはかなわねえな。解ったよ。ほら、持ってきな。兄ちゃんによろしくな」
 市場を後にした少年に子供達が声をかける。
「蓮! 遊ぼうぜ」
「今日は遠慮しとく。明日兄貴が帰ってくる筈なんだ。家の掃除しとかないと怒られるから!」
 買い物籠を振り回し彼は手を振る。
 家事をして兄を迎える為に家を守る。それが今の自分の役目だと彼は解っているから。
「あ、冬蓮! お待ち。さっき、秋さんから連絡があって‥‥」
 村長の妻が外での息子達の声を聞き、家から出て帰路についた少年を呼ぶ。
 だが少年は銀の髪を靡かせ走り去ってしまい、もう姿が見えない。
「仕方ない。後で差し入れがてら家まで行くとしようかね?」
 だがそれから数刻の後、彼女が少年達の家で見たものは踏み荒らされた玄関と、雪の上に転がったままの野菜。
 そして扉に刺さった一本の矢文。
 少年の姿はどこにも見えなかった。

『怨み重なる秋成。
 弟は預かった。返して欲しければ、お前の剣と命を俺達に差し出せ。
 五日後、北の洞窟で待つ』
 
「この手紙の差出人は、以前秋成、‥‥この村の護衛剣士に潰された盗賊団の残党だと思います。この北の洞窟、というのはその盗賊団のアジトだったんです」
 村長と、その妻はギルドに少年の家に残されていた矢文を差し出し少年の救出を依頼した。
「村にとって秋成とその家族は大事な恩人でもあります。
 彼らには大きな借りがありなんとしてでも助けたいのですが、秋成はギルドの仕事の為、別の儀に行っていてまだ数日戻ってこないのです」
 仕事中である為、向こうから連絡してこない限りは、こちらから居場所は解らない。
 仕事が長引いており、一週間ほど帰りが遅れるという連絡があったのは昨日の事。
 事件を知らせる手紙は出したがいつ戻ってくるか、来れるかは定かではない。 
 彼の帰郷が間に合わなければ誘拐された少年の命が危ないのだ。
「お願いです。なんとか少年を助け出しては頂けないでしょうか?」
 敵の数はそれほど多くは無い筈だが、人質がいるのでその救出が最優先となる。

 地形の説明を終えた依頼人は一枚の絵姿を差し出した。
 黒髪、黒い瞳。美しいジルベリア風の剣を持った剣士と、銀の髪、青い瞳の少年。
「秋成と冬蓮は本当に仲の良い兄弟なのです。どうぞ‥‥よろしくお願いします」
 絵の中で二人は肩を組み、仲良く微笑んでいた。


■参加者一覧
檄征 令琳(ia0043
23歳・男・陰
六条 雪巳(ia0179
20歳・男・巫
樹邑 鴻(ia0483
21歳・男・泰
柚乃(ia0638
17歳・女・巫
只木 岑(ia6834
19歳・男・弓
劫光(ia9510
22歳・男・陰
ヘスティア・V・D(ib0161
21歳・女・騎
蓮見 一片(ib0162
13歳・女・魔


■リプレイ本文

●奪われた少年
 空気の色は冬から春へ、確かに変わってきているがまだ時折風に雪の香りが混ざる森を、開拓者達は注意深く歩いていた。
 目的地はこの奥の洞窟。
 そこで待つ少年を助け出すこと。盗賊に囚われて人質になっている少年、冬蓮を。
「なんとしても助けないと‥‥ね。無事でいてくれるとよいのだけど‥‥ううん、きっと大丈夫」
 自分に言い聞かせるように何度も柚乃(ia0638)は繰り返す。
「人質なぁ。定番とはいえ、胸糞悪い手段だ」
 歯噛みをする樹邑 鴻(ia0483)は最悪の想像を胸から追い払うように首を振った。
「人質との交換を口にしている以上、殺すまではしていないでしょうけれど、辛い立場にいるのは間違いありませんから。どうか、無事でありますように」
 祈るように口にする六条 雪巳(ia0179)。
 彼らのみならず参加した者達、そして帰りを待つ村の者達も、全ての思いは一つであった。
「結構好かれているようですね。彼、そしてその兄と言う人物は‥‥」 
 檄征 令琳(ia0043)は言って小さく笑った。
 さっきの村で人々と交わした会話と様子を思い出したのだ。
『盗賊を全滅させるだけなら簡単ですが、人質の救出が優先される場合、私達も危険な目に合います。
 失敗すれば私達もどうなるかわかりませんが、貴方達も報復の対象になる可能性があります。
 その覚悟はありますか?』
『それは‥‥勿論』
 村人の多くが即答に近い形でそう答えた。
 それが恩人であるということ以上に兄弟が好かれている証明と開拓者達は理解していた。
 地図の提供を始めとする情報の提供と、食料などの提供もそれを物語っている。
「村での兄弟の幸せと、彼らを大切に思う村の人たちの為に。弱い者を人質にするのは許せない」
 只木 岑(ia6834)は自分が知らず手を握り締めていたのに気付いてそれを開いた。
 今、他所に行っていると言う兄がいたら、彼の思いはこんなでは済むまいと岑は誰より理解していた。
 彼にも弟がいる。大事な弟が
「もし、と思うだけで冷静にはなれない。きっと‥‥」
「そう思うと、今いなくて幸いだったかもな。まあ早く戻って来て欲しいのは変わりないが」
「飛んで、戻ってきて下さるでしょう。きっと」
 雪巳の言葉に歩きながら頷いたヘスティア・ヴォルフ(ib0161)はふと、立ち止まると手を横に差し伸べた。
 人の気配。
 身構える開拓者やヘスティアの視線の先。その木の陰からひょこりと三角帽子が覗いた。
 偵察に出ていた蓮見 一片(ib0162)である。
「あのね。ここからは気をつけて歩いて。見回りの連中がこの近くにいるの‥‥こっち!」
 一片の手招きに従い彼らは足音を潜ませて、地図の道からぐるりと迂回した。
 細い木々の間をすり抜けていくこと暫し。
「ほら、あれ。あそこがアジトの洞窟だね」
 指差された先に確かにそれはあった。
 入り口には何かに腰掛け武器の手入れをする男が一人。
 そしてもう一人が周囲を警戒するように歩いている。
「見張りは二人‥‥。中は何人かな?」
 鴻に頷いて令琳と雪巳が人魂を放つ。蝙蝠となったそれが洞窟の中に入って暫く
「中にいるのは六人、ですね。その中の一人が冬蓮さんだと思われます」
 雪巳が仲間達に静かに告げた。令琳は無言。ただ、ぎりりという音が微かに聞こえた。
 その意味を仲間達が疑問に思っていると気付いたのだろう。
 令琳は顔を上げて小さく苦笑し、答えた。
「冬蓮さんはかなり弱っています。そうとう痛めつけられたのでしょう。顔も手足も無事なところが見えないと言うくらいに」
「な‥‥!」
 考えてみれば兄に恨みを持つ相手に捕まり五日。
 相手がそのうっぷんを弟にぶつける事に不思議はない。
「彼の治療は一刻を争うと思われます。‥‥動きましょう」
 打ち合わせ、決意と持ち場を決めた彼らは最後に今回の要となる人物の方を見た。
「よし、行こう! 用意はいいか? 劫光(ia9510)‥‥いや、秋成」
「ああ‥‥」
 そこには黒髪、黒い瞳。巻かれた包帯で印象を隠した開拓者『秋成』が立っていたのである。

●襲撃。盗賊のアジト
 雪を踏む音に、見張りの男達はハッと顔を上げた。
 真っ直ぐに洞窟に向かって歩いてくる男がいる。
 一人はとっさに身構え、一人は洞窟の中へと走っていく。
「来たぞ! 弟を‥‥冬蓮を返せ!」
 くぐもった声で、だがはっきりと男はそう口にした。
 頭や身体のあちこちに無造作に巻かれた包帯で、顔ははっきりと見えないが、その眼光は鋭く自分を見つめている。
 所詮見張り役の、下っ端がその迫力に気圧されそうになったその時
「待っていたぞ! 秋成!」
 洞窟の中から、一人の男が歩いてきた。
「御頭!」
 見張りの嬉しそうな様子を気にする様子もなく、御頭、と呼ばれた人物はやってきた『秋成』を見つめる。
「お前は!」
「ほお、覚えていたか? そうだ! お前に部下を殺された恨み、決して忘れはしないぞ!」
「そんな事はどうでもいい! 冬蓮はどこだ! ここに連れて来い。無事か? 生きているんだろうな!」
「一応、生きてはいるがな‥‥」
 そう言うと彼は、くいと、首を洞窟の奥に向けた。
 合図を受けて洞窟の中からさらに男達がやってくる。
 そして『秋成』と呼ばれた人物の眼差しは、二人の男に両脇から抱えられた少年に釘付けになったのだ。
 まだ空気の冷たい時期であるのに彼が纏っているのは一重の着物一枚。
 顔は幾人もに殴られたことを現すようにいくつもの黒痣、青痣が浮いている。
「兄さ‥‥」
 手足も同様に力が入っていないようで、男達が手を放すとがくんと力なく地面に崩れ落ちた。
「冬蓮!」
 駆け寄ろうとする男を
「おっと、待ちな!」
 頭目はにやりと笑って手で制した。
「こいつに怨みはねえが、只じゃあ返さねえ。解ってるだろ? 秋成よ?」
 その言葉に反応するように後ろに控えていた男達は崩れ落ちた少年を乱暴に引き上げ、その首元に刀を突きつける。
「何が目的だ!」
「まずは、その剣を寄こせ! お前が俺達を誘きよせる為に使った、その宝剣を、だ!」
 男は自分の背中に手を回し背負っていた物を、胸に抱き寄せた。
 布に包まれそれが何か、よく見えないが、十字のそれは剣であるように確かに見える。
「これは! 父さんの形見だ。誰が、お前なんかに!」
 言いかけた男の、だが言葉はそこで止まった。
「うっ!」
 髪の毛を掴まれ引き上げられた少年の顔が苦痛に歪んでいた。
「じゃあ、お前の弟がどうなってもいいんだな?」
「に‥‥さ‥‥ん」
「止めろ!! ‥‥解った、から‥‥」
 悔しげな顔で、男は包みを握る。
 それを満面の笑顔で見つめると、頭目は剣をこちらに投げろという仕草をした。
 男は、悔しそうな顔を浮かべ言葉に従って、抱いていた剣を雪の上に投げた。
 弧を描き雪の上に落ちたその『剣』を頭目が拾い上げようとした瞬間、少年の顔に驚きが浮かぶ。
『気付いたかな?』
 男は‥‥劫光は微笑しマントのように纏っていた古布を大きく空に投げ上げた。
 それが合図。
 思いもかけない行動に一瞬、目と動きを奪われた盗賊達は行動のアドバンテージを、完全に男とその合図に動き出した開拓者達に奪われていたことにまだ気付いていなかった。

●『冬蓮』奪還作戦
 劫光はまず真っ直ぐに駆け抜けた。
 服に隠していた脇差を抜き、頭目の横をすり抜け、冬蓮を捕らえる男に襲い掛かる。
 剣に意識を取られていた分、一瞬対応が遅れた頭目はそのすれ違いを許してしまう。
「人質を逃がすな!」
「動くな! 動くと言っている!!」
 頭目の言葉と、迫る劫光に怯えるかのように人質への刃を持ち替えた男の言葉は同時に開拓者達に放たれた。
 そう、その時にはもう開拓者達は場に踏み込み、それぞれの役割を果たすべく動き始めていたのだ。
 剣を掴み、劫光を追おうとする頭目をその身体と剣で阻むように、ヘスティアは止めた。
「悪いね。邪魔はさせねぇ。勿論手加減なんてできねぇからな」
 ヘスティアは初仕事とは思えない態度で目の前の敵を睨んだ。
 能力的には多分、間違いなく相手の方が上、なればこそ、気圧される訳にはいかないのだ。
 少なくとも人質を奪還するまでは。
 見張りの他、洞窟から出てきた賊達も頭目の援護や、人質の確保に走ろうとする。
 だがそれをヘスティアと同じ思いで
「盗賊さんに、ファイヤーボールをプレゼント♪」
「邪魔はさせません!!」
 二人の開拓者が止める。
「「うわああ」」
 一片のファイヤーボールに服を焼かれ、岑の矢に手足を射抜かれそれぞれが、悲鳴を上げて地面にのた打ち回った。
 さらに背後の見張りを
「はああっ!!」
 鴻の空気撃が弾き飛ばす。
 その隙を見逃さず飛び込んだ劫光が冬蓮の手を掴むのと、刃が冬蓮に振り下ろされたのはほぼ同時。
 だが
「ぎゃああ!!」
 悲鳴を上げたのは盗賊の方。取り落とした刃を劫光はとっさに遠くに蹴り飛ばして、人質を掴んでいた手を切り裂くと
「大丈夫か? 来い!!」
 冬蓮を強く自分の方に引き寄せた。
 右手を震わせ、左手で顔を抑える盗賊。
 それを見て式神を戻した令琳と、雪巳は頷きあった。
 陰陽師と巫女。二人の完全な連携の勝利である。
「あ、貴方達は‥‥一体」
 震える声の冬蓮を抱きかかえるようにして後方に運ぶと、劫光は彼を柚乃に預けて膝を折った。
「俺達はお前さんを助けに来た開拓者だ。信じられるか?」
 空よりも青い瞳は劫光を見つめ‥‥
「はい」
 そう頷いた。
「よし、兄貴が帰りを待っているぞ。もう少し待っているんだ」
 少年の頭をぽぽんと軽く叩いて
「もう少し、持ちこたえろ! 今行く! 二人とも! ヘスティアの援護を!」
 劫光は戦場へと戻っていく。
「俺達が守ってやるから、心配するな」
 片目を閉じて笑う鴻。少年の無事に一片や岑、令琳も笑みを浮かべ、頭目と大立ち回りを演じるヘスティアでさえ
「怪我ねぇか? 直ぐに片付けっから、いい子で待っていろよ」
 と微笑んでいる。
 雪巳の術に傷を癒され、柚乃から
「冬蓮くん。だいじょうぶ? ぶじでよかったね。‥‥これ抱えていると、少しはあたたかいよ?」 
 はい、と渡されたもふらのぬいぐるみを抱きしめた冬蓮は危険を知りながらも、その場からの逃走をしようとはしなかった。
「お願いです。‥‥ここにいさせて下さい」
 自分を助けに来てくれた開拓者達の戦いを、
「兄さん‥‥みたいだ」
「子供を人質に取らないと何もできないのか? だから三流‥‥いや、四流の盗賊止まりなんだよ!」
「お前らごときの相手は俺達で充分だ。これ以上手出しはさせない」
 その優しき思いを、心に焼き付けたいと、ずっと見つめていた。
   
●秋成と冬蓮
 そして翌日。
「冬蓮の無事を祝って、乾杯!!」
 村は小さな祭りのような宴に盛り上がっていた。
 その席の中央には、開拓者達と冬蓮がいる。
「今回は、本当にありがとうございました‥‥」
 並べられた手作りの料理と身体を温める甘酒、そして人々の笑顔は、彼らにとって少ない報酬を埋めてなお余りある宝に思えた。
「ふん、まあまあですね。命の報酬にはちょっと不足、ですがこれで、よしとしてあげましょう」
 並べられた心づくしの料理に舌鼓を打ちながらも素直に褒めない令琳と
「そう? おいしーよ?」
「不味いとは言ってはいないでしょう? 命を懸けて作った野菜で作られた料理なのですから当然です」
 一片のかけあいを開拓者達は楽しそうに見つめていた。
「なんとか、目的は達成できて良かったぜ。でも、あー。疲れた」
「これで、全員を殺さず捕縛できたら最高だったんだけどな」
 微かに残念そうなものを浮かべる鴻にふん、と令琳は鼻を鳴らす。
「甘いですね。戦場に居るのであれば、御互い命がけです」
「私ひ弱だから、生かしたまま制圧とか器用な事、できなくてね」
 一片の言葉に鴻は首を振る。
 責めているわけでもないし、解っている。
 盗賊をできれば殺さないでと願ったのは自分の感傷に近いものであったということも。彼には十二分に解っていた。
 頭目には加減ができなかった。
 他の盗賊たちも打ち所、当たり所が悪かった者もいて、昨日官憲に引き渡せたのは一味の半分であったのだ。
 彼らは裁きを受けるだろう。叶うなら全員に更生のチャンスを与えたかったが‥‥
「気持ちは解らないでも在りませんが仕方の無いことですよ」
「大丈夫、解ってるからさ。冬蓮を助け出せて、本当に良かったし‥‥ん?」
 雪巳の言葉に鴻が肩を竦めたその時、突然空に大きな影が走った。
 それが龍であり、誰かが飛び降りたようだと解った時
「冬蓮! 無事か!」
 村に一人の男が、文字通り飛び込んで来た。
 開拓者達には一目で解る。黒髪、黒い瞳。洋風の剣を持って冬蓮のところまで直進していった彼は冬蓮の‥‥
「兄さん!」
 であると。劫光の変装はなかなか似ていたようだ。
「無事で良かった‥‥」
 事情を聞いた秋成は、開拓者達の前に立つと跪き、見たことの無い礼を開拓者達に捧げた。知る者は知るかもしれない。それがジルベリアの騎士の礼であると。
「開拓者諸氏。この度は弟を助けて頂きありがとう。心からお礼申し上げる」
「礼なんかいいよ。仕事、だったしね」
「以前、狩った時に全滅させるべきでしたね。でも、無事で良かったですね」
「暫く警戒したほうがいいかもしれませんね。気をつけて下さい」
 開拓者達の言葉に秋成は頷きにやりと笑う。
 志体持ちの同類と一目で解った秋成と自分達で助け出した冬蓮。
 開拓者と彼らは互いに打ち解けて、その日、夜遅くまで杯を交し合った。
 楽しい一時。
 だから、一片は思っただけで口に出す事はしなかった。
 肖像画を見たときから思っていたこと。
「何だか似てない兄弟だけど、そこは触っちゃまずい所かな?」
 と。

 さらに翌日。
 帰路に着く開拓者達に見送りに出た兄弟は、もう一度深い礼を感謝の思いと共に開拓者達に捧げた。
「本当にありがとうございました。この恩はいつか、必ずや」
「どうか、また遊びに来て下さい。その時は僕が自慢の料理、作って差し上げますから」
「そんな事より強くなるのですね、迷惑を掛けないように」
「体は鍛えておいたほうがいいぜ? 強ぇ兄貴がいるんだ、教えて貰えよ」
「はい。そうします。でも、兄さんは僕に武術とか教えるの嫌がるんですよ〜」
 弟は貰ったもふらのぬいぐるみに頬を膨らませる真似をしながら明るく笑い頷いた。
 兄は、その言葉に多少複雑な表情をしているが、それは弟を心配するが故、であろうか。
 そして開拓者達は一番の報酬を胸にしまう。
 銀の太陽が輝くような眩しく、暖かい冬蓮の笑顔。
 村人達が、そして兄が守りたいと願った宝を彼らは無事奪い返したのである。
 
 秋成と冬蓮。

 二人の兄弟と開拓者の縁はここから始まる。