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■オープニング本文 神楽の都、開拓者ギルドにて。 板張りの広間には机が置かれ、数え数十名の人々が椅子に腰掛けている。上座に座るのは開拓者ギルドの長、大伴定家だ。 「知っての通り、ここ最近、アヤカシの活動が活発化しておる」 おもむろに切り出される議題。集まった面々は表情も変えず、続く言葉に耳を傾けた。 アヤカシの活動が活発化し始めたのは、安須大祭が終わって後。天儀各地、とりわけ各国首都周辺でのアヤカシ目撃例が急増していた。アヤカシたちの意図は不明――いやそもそも組織だった攻撃なのかさえ解らない。 何とも居心地の悪い話だった。 「さて、間近に迫った危機には対処せねばならぬが、物の怪どもの意図も探らねばならぬ。各国はゆめゆめ注意されたい」 さて、そんなオトナノジジョウを各国、全ての人が知る筈もない。 この石鏡の辺境、小さな村では、村長さえ、そんな話がされていること知ることは無かった。 彼らにとっては滅多に現れる事のないアヤカシなどよりも、今の生活。 例えばここ数日降り積もっている大雪の方が問題なのだ。 雪というのは大抵の大人にとっては寒くて迷惑なだけのものだが、子供にとってはそうではない。 「うわ〜、雪だ! 雪が降ってる!!」 外に大好きな気配を感じた少年はがらりと、木戸を開いた。 空からは、ちらちらとまるで大きな雪がまるで花のように落ちてくる。 ここ数日、降っては止み、溶けてはまた降ってを繰り返した雪は大地と空気をすっかり冷やし地面に確実に降り積もっていく。 声を上げる少年は、眉根を潜める親のことなど知る由もなく、わくわくとした顔で外を見つめた。 「雪が積もったら、いっぱい雪遊びしたいなあ〜。雪合戦して、雪だるま作って‥‥」 村の外に広がる畑は冬、子供達のかっこうの遊び場であった。 「雪、いっぱい積もるといいなああ〜」 「もう遅いから早く寝なさい!」 「は〜〜い!」 そう言って少年は目を閉じた。 それが、生涯最後の安らかな眠りであるとは、想像もつかないまま。 石鏡の小さな村の長がその依頼の依頼人であった。 「村の近くの森にアヤカシがやってきて住み着いてしまいました。どうかお助け下さい」 長の話によると、今までアヤカシの気配など滅多になかった小さな村のすぐ側に、鬼型のアヤカシが最近急に集まって来たのだと言う。 その殆どは直ぐにどこかに向かったらしく足跡はどこかに消えていったが、数体の鬼が森に残ってしまったようだ、と。 「村の外に遊びに出た子供を襲ったのを皮切りに、奴らは徐々に村に近付いてきます。先日は別の村に出かけた者達や、商品を売りに来た行商人達も襲われてしまいました。村を取り巻く畑に積もった雪は、今や犠牲者たちの血で赤く染まってしまった‥‥」 と、同時係員は村長が目元を拭うのを見た。目元に浮かんだ雫をそれは拭いた仕草であったろうか? 「鬼の数は氷を使う鬼と、雷を使う鬼の二体です。身の丈はかなり多く他に小さい鬼がいたりする可能性もあるかもしれませんが、確実に森に残り、村を襲って来るのはその二体のみです。どうか、退治をお願いします」 そう言って、彼は依頼書と依頼料を置いて帰って行った。 開拓者達は知らない。 雪遊びをしに村の外に出て、鬼に襲われた最初の犠牲者となってしまった少年が村長の息子であったことを。 冬の唯一の楽しみを奪われた子供達は、今や村の中に閉じ込められ、恐怖に震えている。 アヤカシ達の力の拡大は、人々の生活を蝕んでいくことであろう。 どこまでも見通せる純白の大地。 人気のないそこには、作りかけの雪だるまと、血に染まった藁靴だけが拾う者の無いまま今も転がっていた。 |
■参加者一覧
天津疾也(ia0019)
20歳・男・志
静雪 蒼(ia0219)
13歳・女・巫
真亡・雫(ia0432)
16歳・男・志
奈々月纏(ia0456)
17歳・女・志
鴇ノ宮 風葉(ia0799)
18歳・女・魔
奈々月琉央(ia1012)
18歳・男・サ
倉城 紬(ia5229)
20歳・女・巫
鞍馬 雪斗(ia5470)
21歳・男・巫 |
■リプレイ本文 ●雪と敵と‥‥ 周囲は一面の銀世界。光を弾く白が場違いなまでに眩しい。 ぎゅっ、ぎゅっと、靴が雪を踏む音を聞きながら開拓者達は目を細めた。 空気も冷たく、凛と張りつめている。 「うーやれやれ寒くてかなわんなあ〜。さっさと片付けて暖かいので一杯やろうや」 冗談めかして肩を震わせる天津疾也(ia0019)にくすり、と小さく本当に小さく開拓者達は微笑んだ。 「あの。よろしかったら、どうぞ。お姉様♪」 「あら、ありがと。紬」 手袋を差し出す倉城 紬(ia5229)からそれを受け取って手に通し、その手でぽんぽんと紬の頭を撫でる鴇ノ宮 風葉(ia0799)の様子も見ていて微笑ましい。 だがその瞳に緩みは無い。 これから戦いに行く身。 本来なら不謹慎と言われるかもしれない会話が、気持ちの上だけでも明るく持っていないとやってはいられない事を彼らはちゃんと知っている。 特に 「子供が犠牲になっているんだからね」 自分の言った言葉を噛みしめるように真亡・雫(ia0432)は口を強く結んだ。 小さな音がするのは彼の胸のやりばのない思いの表れだろう。 「雪に鬼‥‥か、また面倒だな‥‥だが、なんとかせねばならんだろうね」 自分から思いを口に出すことが少ない雪斗(ia5470)だが、雫の言葉には同意のように頷いている。 「こんなことがあったら、子供達が可哀想かな‥‥。雪を見るたびに思い出すような、深い心の傷にならなければ良いのだけれど」 「ほんまに。悲しぃおすな、雪だるまはんは冬の縁起物やぁ言うにうちと、変わらへん子ぉが〜」 しゅんと顔を伏せる静雪 蒼(ia0219)を慰めるようによしよしと横を歩く藤村纏(ia0456)はその肩を抱きしめ頭を撫でた。 「せっかく、纏はんにお久しゅうに会えたゆうに‥‥」 「ウチも蒼ちゃんに久々に逢ったしうれしーわー。一緒にがんばろ〜な」 「纏、平気か?」 纏のさらに横を歩く琉央(ia1012)は蒼にぴったり身を寄せられた恋人に声をかける。 大丈夫と手を振る纏には横で琉央にあかんべをしかねない程顔を顰めた蒼は見えていまい。 「ふう〜」 大きくため息をつくが、それも一瞬琉央は道の先を見つめた。 徐々に目的地は近づいてくる。それに従い、周囲の荒れた光景が見える。 誰ともなしに開拓者の足が止まった。 泥に汚れた手袋が落ちている。 踏み散らかされた雪、争い逃げたであろう木の枝の折れた跡、そして血染めの雪と、崩れた雪だるま。 「チッ!」 思わず誰かの口からそんな思いが吐き出される。 「雪だるま‥‥俺も良く作ったもんだ‥‥仇は‥‥とってやらないとな」 周囲の敵に宣戦布告するように琉央は吐き出して手袋を拾い上げると、村へと歩き出した。 自分が貸した手袋が乾いた音を立てるのを聞きながら、纏もそして皆も足を速める。 揺れた森や風、そして鬼達はそれを聞いていたかどうか解らないけれど。 ●二人と六人 村に辿り着いた開拓者達は、熱狂的な歓迎を受けた、訳では無かった。 「‥‥怯えておられるのでしょうか?」 雫が自分達を遠巻きに見つめる視線に目をやりながらそう呟いた。 依頼人である村長や、鬼と実際に対峙した相手から可能な限りの情報を得る為に話を聞く。 「戦闘しやすい場所や、森の状態、あと積雪量などをできるだけ詳しく教えてつかあさい。あと、できればかんじきやスパイクとかをお借りしたいんやけれど‥‥」 そう問われて、勿論、否と唱える者はいない。 さっそくに村人達がかんじきなどを持ってきてくれた。 疾也や琉央など前衛を担当する戦士達が細かい情報を確認する中、他の開拓者達は村の中を歩き回っていた。 雪の上を移動するにあたり、かんじきは間違いなく有効な手段である。 だが、同時にかんじきは足の動きを盛大に妨げる。 少しでも慣れて置く必要があると思ったのだ。 「けっこう歩き辛いもんや‥‥ね‥‥っと」 バランスやコツを身に着けるまでに何度か、開拓者達は体勢を崩す場面もあった。 けれど、じきにそれらに慣れた頃 「‥‥お待ち!」 風葉は建物の影に向かってダッシュした。 そして 「うわ〜ん。ご、ごめんなさ〜い!」 子供の一人を捕まえたのだった。 「さっきから、じろじろ見てたのはアンタ達? 一体何の用?」 問い詰める様な厳しい風葉の問いかけにひい、と子供は背筋を伸ばすが 「風姉様」 と制した紬は前に出ると目線を合わせるように膝を折った。 「何か、ご用ですか?」 「あの〜、おねえちゃんたち、おにをやっつけにきてくれたんでしょ?」 「そうですよ」 優しく笑う紬に後ろの風葉を見て、子供は一歩前に進み出た。そして懸命に告げる。 「あのね! きをつけて! もりにはね。おおきなおにだけじゃなくて、こおにも出るんだ。おおおにも怖いけど、にいちゃんをころしたのはこおになんだ!」 「小鬼? 何匹いた?」 風葉の問いに子供は指を折る。 「たしかね、1、2、3‥‥5ひきか6ぴき。ぶきとかもってるのもいて、にいちゃん、たべられちゃったんだ‥‥、ぼくらの、せいで‥‥」 「あいつ、俺達を逃がす為に、ワザと囮みたくなって最後に残ったんだ。なんとか森に逃げ込んだけど、そこにも鬼がいて‥‥だから」 いつの間にか彼らの周囲には子供達が集まっている。 彼らの目は皆、涙にぬれている。それを見ていた風葉は 「解った」 それだけいうとくるりと後ろを向いてしまう。 「行くよ。紬」 振り向かず妹分を呼んだ風葉は身体は前を向いたまま肩越しに振り向いて言う。 「任せておきな」 子供達からわあと歓声が上がる。 そのまま歩き出す風葉を紬とそれを見ていた雪斗は 「‥‥頼むから早まるなよ。 自分の言えた義理じゃないが‥‥な」 自分の言葉を耳に入れず歩いていく風葉の後を追いかけたのだった。 そして開拓者達はアヤカシ退治に出発する。 春であればまた違う風景が広がるであろう場所は、今、一面の草原であった。 所々に血の色が残るその場所に足を止めず彼らは、鬼達が今巣食っていると思われる森へと足を運んだのであった。 平原の方が、戦うには都合がいい。 とはいえ、犠牲がこれ以上増えないようにということを最大に考えるなら、こちらから敵の元へ乗り込んでいくのが一番であると思ったのだ。 「どうだ?」 問いかける琉央に蒼は答えなかったが、同じ質問をした纏には笑顔を見せながらも真剣な目で告げる。 「纏はん、そろそろ心眼使うて備えて貰えんやろか? いくつか、遠巻きに近付いてくる感じがするんどす。なあ? 紬はん?」 「はい」 「うん、ええよ」 その様子と言葉に、周囲を守るようにして取り囲む男達はも身構えた。 「来る!」 「前! それと上からだ!」 疾也が叫んだのとほぼ同時、ガキンと鋼の鳴る音がした。 木々の間から飛び出してきた鬼が紬や蒼を狙って来る。その刃を雫が押さえたのだ。 「雫はん!」 「纏! こっちは頼んだぞ!」 「了解や!」 雫の援護に纏が入ったのを確かめて琉央は前に踏み込んで行く。 前衛にはやはりほぼ同時、襲い掛かって来た鬼と剣を交えている疾也がいる。 「敵を分断させて各個撃破だ。手伝ってくれ!」 「解った!!」 現れた大鬼が二匹。 その戦いに加わらず、目を閉じていた風葉は紬に問いかける。 「紬。あの二体の他に鬼の気配は?」 「あ、はい‥‥。後ろの鬼の後方に小さな気配がいくつか‥‥」 紬の指差しに小さく笑うと同時、風葉は駆け出した。 「おっけ! そっちは、アタシに任せて!!」 「風姉様! まさかお一人で!? そんな!!」 追いかけようとする紬をそっと雪斗が手で止めた。 「大丈夫。自分が追うから。紬はこっちを頼む」 言葉と一緒に走り出した雪斗に 「待って下さい! これを風姉様に!」 懐から薬の入った袋を取り出し紬は投げた。 「お二人とも、ご無理はなさらないで‥‥お気をつけて」 泣き出しそうな顔の紬に軽くサインをきって雪斗は走り出す。 紬も大きく深呼吸をすると前を向いた。 これ以上心配している暇はない。 「わあっ!!」 「纏さん!」 敵との戦いはもう始まっているのだから。 ●連携と勝負 追いかけて追いついて 「待て! 風葉」 「あによ!」 立ち止まった風葉の口に雪斗は紬から預かった梵露丸を投げ入れた。 「うっ!」 「早まるなと言っただろう?」 薬を飲み下した風葉は苦々しい顔を作って追ってきた仲間に頬を膨らませる。 「ったく。今回は一人で出来る所まで挑んでみたいと思って来たのに」 「それで失敗したり怪我をしたら元も子もないだろう?」 「まあ、それは自分勝手の代償だから」 軽く言い争う二人。だが、チームワークは崩れているわけでは無い。 「とっとと片づけるよ」 雪斗の言葉に風葉はわざと大きなため息をつくふりをする。 「仕方ない。来ちゃった以上は任せるからね」 「ああ、任せて貰おうか」 そういうと雪斗は身構えて笑った。 「敵の数は多い。数が数だけに面倒だな‥‥全く。だが逃がすわけにはいかないさ‥‥これ以上赤い雪を見たくないからな」 頷く風葉は呪文を詠唱し杖を振り上げる。 「じゃあ、ガンガン行くよ!」 ブリザードストーム! 周囲を白く染め、吹雪が大地を駆け抜けた。 二人が二対六の戦いを始めた頃、六対二の戦いは、既に乱戦の状況に陥っていた。 「わぁっ!!」 剣を交わしていた鬼に弾き飛ばされるかのように纏は後方に倒れ、しりもちをついた。 「纏はん!」「大丈夫ですか?」 背後に庇う巫女たちに大丈夫と笑いかけて、纏は落した剣を握りなおした。 敵が放った雷撃の痺れがまだ残っているが、前衛の仲間達が戻ってくるまでは彼女達を守らなくてはならない。 特にこの鬼を、もう一匹の鬼と合流させてはならないのだ。 「纏はん!」 白く、柔らかい光が纏を包み込んだ。 強く剣を握る彼女の身体に紬の神楽舞が力を与える。 「ありがとう。蒼ちゃん。紬ちゃんもうちの後ろから離れたらあかんよ」 「はい」 紬は頷いた。早く囮を務める風葉達の所に行きたいと気は急くが今は、まずこの鬼達を倒さねば。 「琉央はん! いつまでも何をもたもたしとるんどす! とっとと倒して早く纏はんを助けるんや!」 崩れかけた背中に白霊癒と檄を飛ばす少女に、それを受けた剣士は苦々しそうに笑って敵を睨みつけていた。 「そうしたいのは山々なんだがな」 「雫! 琉央! 後ろや! 気を散らしたらあかん!」 疾也の声に琉央は後ろに飛びのいた。 彼がほんの今さっきまで立っていた所に氷の息が吐き出され、ぱきぱきと凍った空気が砕け散る。 ただでさえ深い雪の森、動きにくいかんじきに思いの他素早い動きの鬼、彼らは正直攻めあぐねていたのだ。 「早く、こちらを片づけてしまわないといけませんね」 雫が敵を見ながら呟く。 纏に巫女達と鬼の一匹を任せ、アンバランスとも言える三対一の状況を作り出したのはひとえに連携をしてくるという敵を各個撃破する為。 「一か八かや。一気に攻めたろ。琉央! ええか?」 疾也の声に琉央は頷くと一度だけ、纏の方を見て渾身の咆哮を上げた。 「うおおおっ!!」 その雄叫びは今まで、なかなか意識を逸らさなかった鬼の集中を琉央に向けさせることに成功したのだ。 琉央に向けて鬼が武器を構える。 と同時、疾也と雫は鬼の背後側に回り込むと、その武器に力を込めた。 秋水に紅椿、そして円月。 二人はそれぞれが、自分自身にできる全ての力を乗せて全力の攻撃を放つ。 『ぐあああっ!』 氷鬼はその気配に気付き、氷の息を疾也に向けて吐き出すが疾也は止まらない。 それどころか別方向から連携したように動く、雫や琉央の攻撃はさらに勢いを増して襲いかかる。 「肉を斬らせて、骨を断つ! や」 「この怒り、思い知れ!!」 「これは‥‥お前達に殺された者の分だ!!」 『うぎゃああああ!!』 三方向からの袈裟懸けにも近い怒りの一刀は、鬼の命を断ち切り、地面へと崩れ落した。 確実に絶命した鬼は、その身を瘴気に変えていく。 それを確かめた三人はもう振り返ることなく、仲間の元へ、周囲に雷をまき散らす鬼を倒す為に、躊躇うことなく踏み込んで行った。 ●冬の終わり 「もう! 本当に無茶ばかりするのですから!」 「痛い、痛いってば、紬!!」 あちらこちら、擦り傷、切り傷だらけ。 大鬼二匹を倒し、風葉と雪斗の元に開拓者達が駆け付けた時、二人は立つことも難しい疲労困憊の中、それでも全ての小鬼を倒し手を叩きあっていた。 肉体的にも、練力的にも疲労しきっていた風葉は紬の手に抵抗できない。 「ふぅ‥‥瘴気回収し放題とはいえ、術を使うも大勢の敵に囲まれるのもやっぱ疲れるわね」 「しかも、出発の時から万全ではなかったのだろう? 早まるなと言っておいたのに」 「解ってる。サポートして貰わなかったらあんなに術連発はできなかった。薬も感謝してるって!」 雪斗にも反論できない風葉を仲間達は生暖かい目で見ている。 彼女が小鬼を引き付けてくれたから大鬼二匹退治に専念できたのは事実だが、ほぼ単独行動で危険な真似をしようとした風葉を皆心配していた。 風葉もそれを解っているから治癒をしてくれる紬にとりあえずは反論しないのだろう。 そんな楽しげな笑みの集まる中、人の気配が近づいてくる。 顔を上げた開拓者の前で 「皆さん、ありがとうございました‥‥。これで死んだ者達も浮かばれることでしょう」 「お兄ちゃん、お姉ちゃんありがとう」 やってきた村人達はそう言って開拓者達に頭を下げていた。 「‥‥そうだ。これは遺品だ。田んぼの隅に落ちていた」 苦笑しながら琉央が差し出したのは毛糸の手袋であった。震える手でそれを受け取った村長は涙ぐむ。 「これは、あの子が雪だるまを作る時に使っていた手袋だと、思います」 ありがとう、ございます。そう言って涙ぐむ村長に纏は目元を拭いながら告げる。 「今は、ほんまアヤカシが増えとる。こんなことはそうそうおこらんとは思うけど、気をつけてな」 「‥‥それから、外や雪。雪で遊ぶことを嫌いにならないで、あげてほしい。また雪だるまも作ってあげるといい。雪にも雪だるまにも罪は無い‥‥死んだ子も、きっとそれを望んでるから」 「‥‥うん。また、遊びたい」 「遊ぶ! 約束する!」 子供達の真っ直ぐな瞳と思いに、開拓者達は静かに頷き微笑んだのだった。 帰路、雪の平原で蒼は鎮魂の舞を舞った。 「どうか‥‥安らかに‥‥」 風の音に合わせて舞う蒼を見つめながら、開拓者達はその手をそっと平原に合わせる。 雪は来た時よりも、僅かだが柔らかくなっている。 崩れた雪だるまはもう跡形もない。 血に染まった雪が解け去るころには、きっと春が来る。 その時、またこの平原に子供達の笑い声が響くことを、開拓者達は心の中で願い、祈っていた。 |