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■オープニング本文 触発されたかのように各地で頻発する戦。 戦う相手が人であれアヤカシであれ、奪われる命も数多。 そうして戦場に残されるのは、壊れた武具や事切れた体。 不意に一つの人影がゆらりと立ち上がった。右に左に傾ぎながら、武器を手に戦場を彷徨う。 人の姿を成してはいるが、それは明らかに人の動きとは違った。 大鎧を纏ったアヤカシの瞳は攻撃的な赤色に染まり、兜の奥にある顔は腐りかけ、骨が露出している。 『負ケハ許サレヌ‥‥負ケハ許サレヌ‥‥』 続くように屍が起き上がる。アヤカシたちは歩きながら、遺体から刀や槍を剥ぎ取って武装していった。 『大将ヲ討チ取レ‥‥大将ヲ討チ取レ‥‥』 『首級ヲ獲ルノダ‥‥首級ヲ獲ルノダ‥‥』 同じ言葉を繰り返しながら、アヤカシたちは戦場跡を徘徊している。 死してなお勝利に固執し、あまつさえ瘴気にその体を操られて。 もう眠りたい、と。 死せる者たちの亡き声が、風に乗って聞こえたような気がした。 |
■参加者一覧
志藤 久遠(ia0597)
26歳・女・志
九重 除夜(ia0756)
21歳・女・サ
神無月 渚(ia3020)
16歳・女・サ
月(ia4887)
15歳・女・砲
風鬼(ia5399)
23歳・女・シ
夜叉刀(ia6428)
17歳・男・サ
鬼灯 恵那(ia6686)
15歳・女・泰
瀧鷲 漸(ia8176)
25歳・女・サ |
■リプレイ本文 ●乱、果てて戦 一面に広がるは荒野。ちらほらと草が生えているのみで、ほかに動植物は見当たらない。 ここで壮絶な戦があったことは、横たわる数多の遺体が物語っている。 「ふ〜ん、ここが戦場跡かぁ‥‥いかにもアヤカシが出そうな雰囲気だな」 父の形見である煙管をふかしながら夜叉刀(ia6428)は辺りを見回した。 「嫌な場所だ。負の、どす黒い色で満ちている‥‥目が穢れそうだ」 月(ia4887)は手にした刀を強く握りしめ、心底嫌そうに顔を歪めた。 「死してなお戦場に残り続けるとは、困ったものだな」 肩口にかかった髪を後ろに流しながら瀧鷲 漸(ia8176)は言う。 『しかし‥‥死人に鞭打つか‥‥あまり褒められたものではないな』 九重 除夜(ia0756)は、呟くように言った。けれど仮面のせいでその表情は知れない。 少し離れた場所で、神無月 渚(ia3020)はくすくすと笑みを零した。 (「ま、血が見れて、たくさん狩れればそれでいいんだよねぇ‥‥」) 誰に知られることもない心の内の呟きは、さながら血に飢えた獣のよう。 その心情に導かれるかのように、ふらりふらりと影が立った。 亡きはずの者の声は、風に乗り、一行のもとへと届けられる。 『大将ヲ討チ取レ‥‥大将ヲ討チ取レ‥‥』 「あんなことを言ってます。大将首ッぽい人は狙われそうですなァ」 風鬼(ia5399)は影を見やりながら、おどけたように言った。 「死体だけど斬り応えはありそう‥‥」 ふんわりと笑い、鬼灯 恵那(ia6686)は蛮刀を構える。 まずその姿を現したのは群の大将格といっても過言ではない鎧鬼。 後に続くのは虚ろな目をした屍人たち。 「無念の内にか、大志の果てにかはわからねど、もう戦いは終わっていると、示して差し上げましょう」 鋭い視線を向け、志藤 久遠(ia0597)はすらりと刀を抜いた。 ●死せるとも死せず 真っ先に屍人の群に駆けだしたのは渚である。笑みを浮かべながら抜き身の刀を振りかざした。 「さぁ、私を感じさせてよぉ?」 高らかに声を上げ、渚は屍人の注意を自身に引き付ける。 「出てきやがったな! かかってこいやぁ!!」 夜叉刀は喜々として声を上げ、屍人に斬りかかった。二体の屍人が、赤黒い血と瘴気の黒霧を上げながら倒れていく。 「自分から斬られにやってくるなんて、健気な死体だね」 果敢に向かってくる屍人に穏やかな微笑を投げかけながら、恵那は屍人の足元を狙って蛮刀を振り回す。 足を斬り飛ばされ、数人の屍人がみっともなく地面に転がった。 「もっと愉しませてよねぇ!」 渚の『地断撃』が屍人を喰らう。その数はあっという間に半分になった。 人の姿を成しているとはいえ、相手は死者。よほどのことがない限りは苦戦するものではない。 けれど油断をすれば最悪の結果に繋がりかねないことも、また事実である。 再びゆらりと立ち上がる影。数こそ少ないものの、増援が厄介なことには変わりない。 「へっ、それだけでいいのか? もっと増やしていいんだぜ?」 軽く血振るいをし、夜叉刀は不敵に笑う。そして一息に距離を詰めると、いとも簡単に斬り捨てていく。 「こんなにいっぱい‥‥アハッ。コわシテあゲる! アハハハハッ!!」 増えた屍人を見、渚が狂喜の声を上げた。彼女の後ろには斬り伏せられた屍人が転がっている。 「ふふっやっぱりいいなぁこの感覚、バッサリ感が最高だよ」 恵那は相変わらず微笑みを崩さずに、残った屍人の足を斬り飛ばし、転倒させていった。 そしておもむろに蛮刀を振り上げたかと思うと、足を失ってもがく屍人の頭に叩き込んだのだった。 その間に鎧鬼に突っ込んで行ったのは、久遠、除夜、月、風鬼、漸の五人だ。 取り囲むように陣を組み、油断なく武器を構えている。 『眠れ。死者は眠っているものだ』 除夜は静かに言い、駈け出した。鎧鬼の装甲の隙間を狙って太刀を捩じ込む。 付近にいた屍人が、ゆらゆらと体を揺らしながら鎧鬼の背後から迫ってきた。 「邪魔をしないでほしいのだがな。‥‥逝くがいい」 月は迫り来る屍人に円月輪投げつける。不意打ちを食らって怯む屍人に駆け寄ると、一刀のもとに斬り捨てた。赤黒い血を浴びる前に、月はすばやく飛び退る。 入れ替わるように、久遠が攻撃の間合いに入った。 「鍛えた技こそが武器‥‥小細工は無用です」 久遠の武器が紅の燐光を纏う。彼女が武器を振るうと、紅葉のような燐光が舞い散った。 全身を以てした久遠の攻撃に、鎧鬼は大きくバランスを崩す。 「一気に片を付けさせてもらうぞ」 言葉と共に漸は駆ける。鎧鬼の足元を狙い、勢いを乗せた攻撃を加えた。 鎧鬼はがっくりと膝をつき、その体を震わせる。怒りのためか、唸り声を上げて。 「これは好機ですかね」 『早駆』で鎧鬼の背後に素早く回った風鬼。鎖分銅を鎧鬼の武器に絡め、その切っ先を対面している仲間から反らせる。 残っていた屍人が、じりじりと近付いてきた。 「私がコわすの‥‥!」 いつの間にか接近していた渚が屍人を斬ったことにより、屍人の掃討が完了した。 「さあ、幕引きにしよう」 月は鎧鬼に一太刀浴びせると、その胸元を思い切り蹴りつけて倒し、離脱する。 ずいぶんとダメージが蓄積しているのか、足掻くことをしない。起き上がろうと手足をばたつかせるその動きも緩慢だ。 除夜が、鎧鬼の胸元を踏みつける。『強力』で強化されているせいで、その細い体を跳ね除けることができない。 腰を低く落とし、武器を掲げて。 『来夜流、闇払‥‥終が崩し――影踏』 声と共に、除夜は鎧鬼の首元を貫いた。両手でしっかりと握られた刀が、ずぶりと鎧鬼の首を貫き、地面に縫い止める。 鎧鬼の兜の間から黒い霧が立ち上り始め、戦場跡に悲痛とも言える静寂が訪れたことを知らとなった。 ●泰平を望み、安寧を祈る 「ふぅ‥‥。ん、満足満足」 爽やかな笑みを浮かべ、恵那は頬に飛んだ返り血を手拭いで拭い取る。 鎧鬼から立ち上る瘴気は、空中で溶けるように消えていく。 「どうぞ、安らかに‥‥」 久遠はしゃがみ込んで目を閉じ、手を合わせた。同じ戦士として、何より人として、彼女は死者を悼む。 人であるならいずれ必ず訪れる死。その訪れは、誰も予想することはできない。 戦場跡に横たわる死者たちは、覚悟の上に死していったのであろうか。 「安心して逝くがいい。なに、向こうは綺麗な場所だと聞くぞ」 風に遊ぶ長い銀髪を軽く手で押さえながら、月は優しげに微笑んだ。 「‥‥こんな戦場で生き絶え、放置されては浮かばれないだろうな。‥‥戦場だけではないが‥‥」 漸は周囲の遺体を見やりながら呟く。 そう、戦場だけではないのだ。死者が放置されている場所は。 けれど各地でアヤカシの被害が頻発している今、そのすべてを弔うことはできない。 魂を、肉体を喰われ、もしくはアヤカシ化して。遺体すら残らぬ者もいて。 それらすべては、現実なのである。 『命尽きれば皆、骸と成り果てる。救いと呼ぶか、哀れと呼ぶか』 相変わらず除夜の表情は読めず、声から男女の判別もつけ難い。だがその声音は、死を悼む音に聞こえた。 「死体になっても襲ってくるなら斬るまでよ」 渚は満足げに笑う。屍人の血に濡れた刀が、鈍く光りを跳ね返した。 「さて、依頼人に遺品でも持ち帰りましょうか。‥‥お守りとかでいいですかね」 事前に依頼人から特徴を聞いておいた風鬼は、屍人の顔を情報と照らし合わせながら見て歩く。 「‥‥‥‥倒した奴らも元は人間‥‥か‥‥」 夜叉刀はそうぽつりと言葉を漏らす。 煙管から静かにくゆる煙が、悲痛に歪められた彼の表情をぼんやりと滲ませていた。 |