中秋の名月
マスター名:神櫓斎
シナリオ形態: イベント
危険
難易度: 易しい
参加人数: 25人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/09/26 21:15



■オープニング本文

 中秋の名月。それは十五夜の異称である。
 団子やススキ、果物などを供えて月を見るという、いわゆる月見の風習は各地にあり、今年もまた人々は月を愛でるのだ。

「お月見するのに良い場所を見つけたんですよ」
 開拓者ギルドの受付嬢が、にこにことしながら一枚のチラシを貼り出していた。
 チラシに書かれているのは、『お月見をしませんか?』との謳い文句と、受付嬢が描いたであろう、満月と、可愛らしいウサギの絵。
「開拓者の皆さんって、普段はアヤカシ退治でのんびりできないでしょう? だからこういう時くらい、のんびりしてもいいんじゃないかと思いまして」
 月見の場所は神楽の都に程近い、山と川原、それに秋の草花が生えた野原だそうだ。
 山の中腹には東屋があり、紅葉した木々に囲まれているらしい。川原にはススキが生え、川は浅く緩やかな流れだそうだ。
 秋風に揺れる草花や、虫の鳴き声を楽しむのもまた一興である。
「あ、食べ物とか飲み物とかは、持参してもらうことになりますけどね」
 アヤカシとの戦いに終われる日々の合間の、束の間の安息。
 みなさんも、月見をしませんか?


■参加者一覧
/ 天津疾也(ia0019) / 柄土 仁一郎(ia0058) / 鷺ノ宮 月夜(ia0073) / 六条 雪巳(ia0179) / 水鏡 絵梨乃(ia0191) / 当摩 彰人(ia0214) / 犬神・彼方(ia0218) / ヘラルディア(ia0397) / 志乃原 ナナ(ia0471) / 柄土 神威(ia0633) / 柚乃(ia0638) / 篠田 紅雪(ia0704) / 葛切 カズラ(ia0725) / 鷹来 雪(ia0736) / 国広 光拿(ia0738) / 巳斗(ia0966) / 天宮 蓮華(ia0992) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 天目 飛鳥(ia1211) / 巴 渓(ia1334) / 皇 りょう(ia1673) / 一ノ瀬綾波(ia2819) / 犬神 狛(ia2995) / 弥都(ia5064) / こうめ(ia5276


■リプレイ本文

●川原にて
 ススキがさわさわと音を立て、穏やかに流れる川の上を走る風が、冷たい空気を運んでくる。川面に映る月は流れにんでいるものの、その美しさが霞むことはない。
 柄土 仁一郎(ia0058)は恋人の巫 神威(ia0633)と寄り添いながら、地面に敷いた茣蓙に座って月を眺めていた。
「月が綺麗ねぇ」
 団子を食みながら、神威がうっとりと呟いた。だが唐突に顔を曇らせると、不安そうに声を漏らす。
「今、幸せ過ぎて怖いわ‥‥失うことを考えてしまうと、とても怖いの」
 仁一郎はそんな彼女の肩を抱き、言い聞かせるように言葉を紡ぐ。言外に「寿命以外では死なない」という思いを込めて。
「失うのは爺婆になって、寿命が尽きる頃だろう。今から心配しても仕方あるまい。‥‥強気なくらいが、丁度いいものだ」
 仁一郎は微笑みを浮かべて茶を啜る。前向きな彼の台詞に一瞬呆気に取られた神威だが、すぐに笑みを見せた。
「‥‥そうよね。フフッ‥‥私、仁一郎には一生敵いそうにないわ」
 神威はひとしきり笑うと、仁一郎の肩に頭を乗せてそっと呟いた。
「お団子もお月様も‥‥貴方がいてこそだものね」
 そんな彼らから離れた場所で、皇 りょう(ia1673)は剣を振っていた。
 近付く大戦に備えて型の練習をしていたりょうだが、ふと人の気配をて振り返る。視線の先にいたのは、知り合いの犬神・彼方(ia0218)であった。
「彼方殿、ずっと見ているとは人の悪い‥‥」
「俺のことは気にしなぁいでくれ」
 赤面するりょうに対し、彼方はへらりと笑いながら言う。
 りょうは戸惑いを振り払うように剣を構えなおし、剣舞を再開した。
「ご一緒してもいいですか?」
 水鏡 絵梨乃(ia0191)が団子を手に、にこにことしながら彼方に声をかけた。
「構わなぁいよ。せっかくの月見だ、楽しくやろうじゃぁないか」
 彼方は絵梨乃と共に月を見、酒を飲みながら呟く。
「しかし‥‥月とススキと川の音、美しい少女の剣舞に美味い酒、贅沢な月見酒だぁな」
 しばらくして、りょうが剣舞を終えて彼方と絵梨乃に歩み寄ってきた。
「どうだ、一緒に飲まなぁいか?」
 ゆらゆらと酒を掲げて、彼方はりょうににっと笑いかける。
「‥‥あまり飲んだことはないが、お付き合い程度ならば」
 少々考え込んだ後、りょうはこくんと頷いた。
 三人で月を眺め、酒を飲み。
「うむ、美味い。月も美しいし、良い気ぶ‥‥」
 酒を半分ほど空にしたところで、下戸であるりょうは酔い潰れた。
 彼方は眠ってしまったりょうに腿を貸し、風邪をひかないようにと羽織をかけてやる。
「今ぐらぁいは戦いも稽古も忘れてゆっくり休め、な」
「そうですね‥‥今日くらい全部忘れても、罰は当たりませんよね」
 寝息を立てるりょうを見ながら、彼方と絵梨乃は顔を見合わせて笑いあった。

●東屋にて
 山の中腹にあるこの東屋は、周囲を紅葉した木々に囲まれている。その木々の間から見える煌々たる月は、実に見事なものであった。
 その東屋から少し離れたところで、六条 雪巳(ia0179)と国広 光拿(ia0738)は、茶の準備をしていた。
 集めた落ち葉や枯れ枝に火を点けながら、雪巳は光拿に微笑みかける。
「晴れてよかったですね。月が綺麗に見えます」
「せっかくの月見も、曇ったら台無しだからな」
 しばらくすると湯が沸き、雪巳は薬缶を持って東屋へと向かう。光拿は火の始末をしてから彼の後を追った。
 並んで腰を下ろし、茶を淹れてほっと一息吐く。
「そういえば‥‥これ、何が入っているんですか?」
 雪巳は光拿が持ってきた箱を見ながら、不思議そうに言った。
「開けてもいいぞ」
 光拿の言葉に頷き、雪巳は湯飲みを置くとそっと箱を開いた。途端、雪巳はほわ、と笑みを浮かべる。
 中に入っていたのは、白兎の形をした練りきりと、鬼灯の形をした上菓子であった。
「わ、素敵‥‥。秋らしくてとても可愛いです」
 気に入ってもらえた様子に、光拿は小さく微笑んで空を見上げる。
「‥‥綺麗な月だな」
「温かいお茶と美味しいお菓子と、優しい友人と見惚れるほどの月と‥‥。幸せなひとときですね」
 ほわほわと笑いながら、雪巳は嬉しそうに言葉を紡いだ。
 彼らから少し離れた椅子に腰を下ろしているのは、篠田 紅雪(ia0704)と犬神 狛(ia2995)である。
 互いに俯いたまま、黙り込んでいる。
「感謝、している‥‥」
 先に言葉を紡いだのは紅雪であった。誘いを受けてくれた狛に礼を述べる。
「いや‥‥こちらこそだ‥‥」
 狛もまた誘ってくれた紅雪に礼を述べた。
「‥‥飲むか?」
 間が持たなくなった紅雪は持参の酒を軽く持ち上げて問う。
「頂こう‥‥」
 狛は示された酒を微笑みながら受け取った。
 二人で酒をちびちびと飲みながら、紅雪は月を見上げる。木々の間から見えるは、満月。
「月は‥‥変わらないのだな‥‥」
「そうじゃな‥‥しかし、月も時には違う顔を見せる時もあるよ‥‥」
 彼女の呟きに、狛は微笑み、頷くのだった。

●山頂にて
 静けさに満ちた山の頂き。最も高い場所であるここは周囲が開けており、夜空を邪魔するものはない。何より、一番月を近く感じられるのだ。
 ヘラルディア(ia0397)は茣蓙を敷いて座り、茶を味わっている。
「ご一緒にいかがですか?」
 ヘラルディアは所在なさげにしていたこうめ(ia5276)を呼んだ。突然声をかけられ、こうめはおろおろとする。
「あ‥‥えっと‥‥お邪魔、します」
 戸惑いがちに頷いて、こうめはヘラルディアの隣に座った。
「おにぎりはいかがですか? 具はおかかとお漬物なのですけれど」
 ヘラルディアは微笑みながらおにぎりをすすめる。
「いただきます」
 こうめはぺこりと頭を下げ、おにぎりを一つ手に取った。
「いかがでしょうか?」
「おいしいです。‥‥あ、私もお菓子、持ってきたんです」
 こうめは、話のきっかけになればと持参した菓子を出す。それはウサギの形をした生菓子であった。
「まあ、可愛いですね。手作りですか?」
「はい。‥‥その、あまり味に自信は、ないんですけど‥‥」
 不安そうなこうめにヘラルディアは優しく微笑み、菓子をそっと手にとって口に運んだ。
「とってもおいしいですよ。自信を持っていいと思います」
 彼女の言葉に、こうめはようやく笑みを浮かべたのだった。
「偶たまにはこういうのもいいわね〜〜」
 見晴らしのいい場所に茣蓙を敷き、葛切 カズラ(ia0725)は杯を傾ける。山頂なればこその景色だけで十分な肴になると、食べ物の類は一切持ってきていない。
「舌で味わう酒は下界でもいいけど、こういう風情を味わう酒は山がいいわね」
 美しい月と風景で心を満たしながら、カズラは満足そうに笑った。
 巴 渓(ia1334)もまた、一人で月見酒を洒落込んでいた。
「折角の月見だ。詩を詠むのもまた一興‥‥か」
 呟き、渓は浪々とした声で詠い上げる。
「『月の夜に 淡き光の泡沫ぞ 世の儚さに吹くは秋風』‥‥」
 詠み上げた後、渓は苦笑しながら酒を傾けた。
「ガラにも無い、月の光に俺も惑わされたかな‥‥」
 そんな彼女たちから離れた場所で、一ノ瀬綾波(ia2819)は兎のぬいぐるみを抱えて、持参した三色団子を食べている。ぼーっと月を眺め、誰ともなしに呟いた。
「本当に兎とかいればいいのになぁ」
 思わず兎と一緒に踊りを踊っている所を想像し、綾波はにへらと笑った。傍から見れば怪しいことこの上ない表情である。
 だが、その表情にふっと影が落ち、綾波は寂しげに言葉を紡いだ。
「平和と思える世の中になればいいのに‥‥」。
 それは誰もが思う、けれど簡単には叶うことのない願いであった。

●野原にて
 紫や黄をした鮮やかな秋の草花。涼やかな虫の声。爽やかな秋の風が吹き抜ける広い野原は、宴には最適だ。
 そういった理由からか、九人の開拓者が集まった『月とお団子を愛でる会』も、宴の場所をここに選んだのである。
 簡単な自己紹介を終え、場はすでに盛り上がっていた。
「ほんま、綺麗やな〜」
 天津疾也(ia0019)はゆったりと酒を飲みながら、団子を肴に月を愛でている。
「はーい、どぞどぞ〜。手酌じゃ出世しないッスよ〜」
 志乃原 ナナ(ia0471)は上機嫌でお酌をして回っている。
「故郷では芋餡や栗餡を入れてお団子作ってましたの。上にゴマを置いているのは黄身餡ですわ。正式な月見では使わないんですけど、美味しいですから作ってきましたの」
 礼野 真夢紀(ia1144)は持参した菓子を出しながらにっこりと笑った。
「どうぞ」
 天宮 蓮華(ia0992)はにこやかにお酌をした。
「かー、ええ月に、うまい酒に、周りは別嬪ばかりやから最高やなあ、ほんまに」
 蓮華にお酌をされ、疾也は実に満足げに言う。
「こういうのも、いいものですね。‥‥はぁ。美味しい‥‥」
 わいわいと騒ぐ皆を、鷺ノ宮 月夜(ia0073)は、酒を一口ずつ味わいながら微笑ましそうに見ていた。
「み〜くん、み〜くん、ほ〜らごろごろ〜♪」
 けらけらと笑いながら、当摩 彰人(ia0214)は巳斗(ia0966)をからかう。完全に猫扱いだ。
「蓮華ちゃ〜ん、月夜ちゃ〜ん。俺のお膝で一緒に食べようよ〜」
 酒が入っているせいなのか、元からなのか、彰人は蓮華と月夜を手招きする。
「考えておきます」
「ええ、そのうち」
 蓮華と月夜は微笑み、さらりと彰人のナンパを断ったのだった。
「蓮華さんと一緒に作ったお団子があるんですよ」
 巳斗はそう言って彩り鮮やかな団子を出した。普通の団子、南瓜餡に包んだ団子、みたらし団子‥‥と実に美味しそうである。
「では、いっただっきまーすっ! ‥‥このお団子ちょー美味しーっ! どんどん食べていい?」
 さっそく団子をつまんだナナは、その美味しさに目を輝かせた。
「有難うございます、美味しそうです♪」
 白野威 雪(ia0736)は団子を持ってきてくれた者たちに礼を述べる。
 皆に酒が入るのはあっという間であった。
「私を月まで連れてってぇ〜‥‥ヒック!」
 すっかり酔っ払ったナナが月に手を両手を伸ばしてくるくる回る。
「まだ菓子はあるぞ」
 天目 飛鳥(ia1211)、栗きんとんに栗大福、月餅など、持参した秋らしい菓子を差し出した。
 巳斗は友人である飛鳥に酒を注ぎながら微笑みかける。
「危険なお仕事ばかりです、こういった時間も必要ですよね」
「そうだな‥‥まあ、たまにはこんな晩も悪くない」
 そして、宴もたけなわ。
「‥‥篠笛でも吹いてみようか」
 飛鳥は篠笛を取り出すとそっと奏ではじめた。
 澄んだ音色が野原に響き、それが満月と相まって、なんとも幻想的な雰囲気を醸し出している。
「曲、お借りしますね」
 それまで離れたところで月見をしていた弥都(ia5064)が、皆の前でお辞儀をし神楽を舞う。
 飛鳥の篠笛で舞う弥都を前に、皆は静かにまったりと月見をする。
「兎さんのついたお餅も、食べてみたいなぁ」
 巳斗は月を見ながらそんなことを呟いた。
 蓮華は傍にあった儚く揺れる野花にそっと触れて、祈る。
「今も戦場で戦っている皆様がご無事でありますように‥‥」
 そして共にいる仲間を振り返り、笑みを零したのだった。

 宴も終わり、皆が帰路についた頃。彰人と雪は二人きりで酒を飲んでいた。
「‥‥何だか彰人には、教えてもらうことばかりなんですよ?」
 雪は苦笑し、彰人に寄り添う。そしてふと真顔になった。不安と、強い意志の入り混じったような表情で。
「――私、貴方の事‥‥」
 言いかけて、雪の瞼が閉じられた。どうやら寝てしまったようだ。
「その言葉の続きは、知ってるよ」
 そんな雪に、彰人は触れるだけの口付けをしする。
「‥‥こういう時ぐらい雪を甘えさせてあげないとね」
 彰人は雪の髪を梳きながら優しく微笑む。

 煌々たる月。涼やかな虫の声。爽やかな秋風。
 穏やかな月見の夜は、静かに閉幕したのであった。