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お知らせ(2020/10/04)

東京怪談終了に伴い、すべてのノベル商品の受注を終了しました。
今迄、たくさんの発注を頂きまして、ありがとうございました。
東京怪談が終わったことにより、異界という存在も完全に終わるということで、おまけノベルを書きました。
よろしければ、自NPCたち最後の話をお楽しみくださいませ。

WR登録し、たくさんのノベルを書かせていただきました。
様々な経験をさせていただきました。
途中、休止しつつも現在までWRという肩書をつけていられたのは、一重にPLの皆様のお陰です。
私が紡いだ物語が、PCさんたちの一部となっていることが、本当に楽しく嬉しいです。
重ねてありがとうございました。

また皆様と、いつかどこかでお会いできることを、心より楽しみにしております。

 霜月 玲守

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東京怪談おまけノベル「熊太郎派遣所と茸研究所」

 熊太郎は、何かを感じ、事務所から外に出る。
 そこに広がるのは、いつも通りの事務所回りだ。
「おかしいですね、確かに何かを感じたのですけれど」
 もふ、と綿が入った頭を傾げると、事務所から「熊様」と言いながら、森谷・咲姫が顔を出す。
「どうされたんですか、一体」
「いえ、何か不思議な感じがしまして」
「不思議な感じ、ですか」
 熊太郎に言われ、咲姫は空を見上げ、周りを見渡す。「何も無いような気がするんですけれど」
「熊公の綿についたダニでも、騒いだんじゃねーの?」
 咲姫の後ろから、野田・灯護が出てくる。「パンパンしてやろうか?」
 にやっと笑いながら、赤い棒を担ぐ。灯護が「椿」と呼んでいる、棒術に使う戦闘具だ。
「いやね、トーゴちゃん。それは物干し竿でしょ? お布団をパンパンする奴じゃないわよ」
 ころころと笑いながら言う咲姫に、灯護は「物干し竿じゃないっつーの」と突っ込む。
「はっはっは、いつも仲が良いですね」
「幼馴染ですもん」
 にこっと咲姫が答え、灯護はぼそっと「それだけじゃねーよ」と呟く。誰の耳にも届かないのが、ちょっぴり切ないけれども。
「じゃあ、あれじゃないですか? ほら、前に仰られたじゃないですか。異界の端の方に、茸が住み着くようになってるって」
「ああ、茸研究所の事ですね」
 ある日、突如現れた研究所の事を、三人は思い出す。事務所が設立し、異界として安定したと思っていたら、突如研究所が現れた。そこには、茸研究者と巨大な赤い傘を持った茸が住んでいるのだ。
「俺、あそこちょっと苦手」
「まだしっかりと触れ合ってもいないうちから、苦手意識を持つのは感心しませんよ、灯護君」
「く、熊公に言われたくねーし!」
「そうよ、トーゴちゃん。人は見た目で判断してはいけませんって、お母さんから言われたでしょう?」
「見た目で判断……いや、見た目で思い切り判断できるだろ、あの茸。おかしいだろ、あの大きさ」
 思わず突っ込むが、熊太郎と咲姫はお説教モードだ。灯護は「俺の常識がおかしいのか?」と、しばし頭を抱える。
「いずれにしても、茸研究所ではないですよ。この異界だけじゃなくて、もっと広範囲の」
 熊太郎はそこまで言い、もふ、と手を打つ。
「いっそ、相談しに行ってみましょうか。草間さんにでも」
「アトラス編集部でもいいんじゃないですか? 熊様がネタを持ち込みに行けば、ネタ自体がやってきたと喜ばれるのでは」
 咲姫の言葉に、灯護は「熊公の事、尊敬しているんだよな?」と小さな声で突っ込む。
「手っ取り早く、ゴーストネットに書き込むって言うのもありじゃねぇか? あそこなら、誰かしらが答えを知ってそうだし」
「そうすると、蓮さんでもいい気がしますね。ははは、より取り見取りですね」
 熊太郎が笑う。つられて咲姫も笑う。
「よりどりみどり、じゃなくて。ああ、もう、調子狂うな、本当に」
 ぐしゃぐしゃと頭をかきながら、灯護が言う。
 いつも通りだ。いつも通りに、事が起こり、熊太郎が察知し、咲姫が膨らませ、灯護がしめる。
 今日もいつもの熊太郎派遣所だ。
「ああ、キャサリン!」
 三人が話していると、遠くから男性の声とぼいんぼいんというボールのようなものが撥ねる音が聞こえてきた。
 赤い傘の巨大な茸、キャサリンだ。後ろから、研究者である木野・公平が追いかけてくる。
「あ、熊太郎派遣所の皆さん、こんにちは」
 ぺこり、と木野が丁寧に頭を下げる。
「こんにちは、木野さん、キャサリンさん。今日は、あの女の人と巨大なマツタケはいないんですか?」
 熊太郎が尋ねると、木野は「はい」と頷く。
「今野とマッチでしたら、今日は本部会議だそうで」
 茸研究所に出入りし、木野とキャサリンをライバル視している、今野・紀伊子と巨大マツタケのマッチの事だ。茸愛好連合会会長という、なかなかに強い字面の組織をまとめている。
「キャサリンちゃんは、何かあったの?」
 咲姫がキャサリンに尋ねると、もごもごとキャサリンがうねる。ちょっと炎の胞子が出ているあたり、興奮しているのかもしれない。
「何やら、違う雰囲気を感じまして……それにキャサリンは反応したんだと思います」
「違う雰囲気?」
「なんというか、閉じた、というか。締め切られた、というか」
 どういっていいか分からないんですけど、と木野は続けた。
 その瞬間、ぱん、と何かがはじくような音が、熊太郎・咲姫・灯護の頭に響いた。

――閉じた!

 ああ、と三人は納得する。
 日常が続くのだ。このまま、ずっと。
 異界という不可思議な世界にいるからこそ、感知することができるのかもしれない。
 今、こうして過ごす日常は、このまま永久的に続く。小さな出来事はあるとしても、恐らく大きな変動はもうない。
 妙な確信が、三人の中にあった。
 それは木野達も同じようだった。同じように異界に身を置くからこそ分かる、閉じられた世界。
「そうだったんですね」
 熊太郎は呟き、ふふ、と笑った。
 失ったわけではない。消えたわけでもない。
 ただ、閉じられただけだ。
 これ以上の広がりがなくなり、今ある現在が、そのまま続くだけなのだ。
「咲姫さん、お茶にでもしましょうか」
「じゃあ、お茶を入れて……そうだ、実家の和菓子も持ってきたんです。新作ですよ」
 熊太郎と咲姫はそう言いあいながら、事務所の中へと入っていく。
「どうしたんですか? 皆さん。なんだか、ちょっと」
 木野はキャサリンを抱き上げながら尋ねる。
 いや、木野にも分かっている。そう在るしかない世界に今いるのだと、本能的に分かっている。
「こういう時、常識人って損だよな」
 灯護はそう呟いたのち、ぽん、と木野の背を叩く。
「良かったら、あんたらもお茶していくか? ええと、茸は」
「キャサリンです」
 きりっとして木野が言うと、キャサリンも「そうだそうだ」と言わんばかりに、木野の腕の中でもごもごと動く。
「悪い悪い、キャサリンな。よかったら、事務所でお茶でも飲んでいけばいいよ。キャサリンは、何か食べたり飲んだりするのか?」
「……霧吹きの水ですかね」
「水な。……霧吹き、あったかな?」
 木野とキャサリンが事務所に入った後、灯護も後を追う。
 ドアに手をかけた瞬間、くるり、と振り返り、空を仰ぐ。
「今まで、ありがとうな。また気が向いたら、愛に来てくれたらいいからさ」
 誰に言うでもなく口にし、ぺこり、と軽く頭を下げ、事務所のドアを閉めた。

 熊太郎派遣所は、茸研究所と共に、今も異界の中で営業している。
 小さな依頼を派遣員にこなしてもらい、小さな報酬を渡したり受け取ったりし、また請け負っていく。

 世界が消え失せる、その時まで。


<今迄ありがとうございました・了>

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ソーンおまけノベル「エスコオド・終章」(2016/5/20)

※このノベルは「聖獣界ソーン」の個室「石屋エスコオド」のおまけノベルとなります。

 エルザード祭を終え、石屋エスコオドに再びエディオンは戻ってきた。屋台で並べて売った三種類の石は、数個を残してほぼ売り切ることができた。
「なかなかの売り上げになりましたね。セールでも行いましょうか」
 エディオンは微笑みながら店内を見回す。店の奥にある部屋は、現在天井に穴が開いている。そのため、店内で一日のほとんどを過ごす羽目になっているのだが、特に苦痛は感じていない。
 店内に並べられた石達は、エディオンに囁く。また鎮めなければいけない石があったのか、と。
「ええ。ですが、もう大丈夫ですよ。お手伝いしていただきましたから」
 エディオンはそう言い、石達に微笑み返す。様々な声が囁きかけてくる。ロウエイ石だった石達が、特に囁く。
 良かったねぇ、良かったねぇ、と。
「ほら、皆さん。鎮守の石ですよ」
 群青色の石を、エディオンはそっと置く。石達は途端にそわそわとし始める。
「大丈夫ですよ。もう、落ち着いていますから」
 ほう、と息をつくような石達の声に、エディオンは頷く。
 エディオンは今一度石達を見回したのち、店内の椅子に座る。キシ、という心地良い音と共に、椅子が優しくしなる。
「ここに店を構えて、何年でしたっけ?」
 石屋エスコオドは、本のひと時のつもりで店を構えた。ロウエイ石が増えてきたため、手伝いを併せて募る必要もあると判断したのだ。
 予想以上の居心地の良さに、エディオンが思った以上に長居してしまっている。何度か、また再び当てもない旅に出るべきではないか、とも頭をよぎってていた。だが、結局変わらずエスコオドに留まってしまっている。
「どうして、でしょうかね?」
 石守人として生まれ、生きてきた。同じ種族は気づいた時には他におらず、石達の囁きを頼りにしていた。
 自分という存在は、人のように赤子から始まるわけではなかった。気づけば存在し、人と似た外見を持って人の中でうつろう時を過ごし、ロウエイ石を鎮める。時折、他者を頼りながら。
 頼りにするからには、頼りにしても許される対価が必要だった。財を築くために石を売ったり、良い関係を築くために人を真似て奉仕活動を行ったりした。
 そうして得た対価は、エディオンをより人らしくしていった。
 今では、人を真似ての行動などしていない。エディオンとしての意思でもって動いている。
 もう、真似る必要などないのだ。
「不思議ですね」
 ぽつり、とエディオンは呟く。
 人というものは不可解な生き物だ、とエディオンは感じていた。真似れば真似るほど、よくわからなくなる、と。
 だが、エディオンは分かったのだ。人というものは完璧に真似ることなどできないものであり、また真似る必要などないのだ、と。
 このエスコオドで、様々な人と出会った。種族はそれぞれ違っても、思いは異なっていても、目的を同じくした者たちはみな「まっすぐ」だった。
 エディオンはそれが嬉しく、節々で気持ちよかった。
 ただ、積極的に触れ合うつもりはなかった。人というものは、少しの干渉であっという間に進行方向が変わってしまう生き物だ。
「あ」
 エディオンはふと思い出し、くすくすと笑った。一歩引いて触れ合っているつもりだったのに、長く居着いたせいだろうか。今までよりも、少しだけ踏み込んだ関係にもなってきたような気がする。
「それはそれで、いいかもしれませんね」
 石達も「よかったねぇ」と囁いてくる。エディオンは一つ息を吐き出し、今一度石達を見回した。
「明日からは、店の修復をしましょうか」
 エディオンはそう言い、ちらりと穴の開いた天井のある部屋を見る。
「長くいるのだから、長く使わないといけませんね」
 石屋エスコオドは、明日からもずっと開け続ける。いつまでかは、今はまだ分からない。だが、それでもいいのだ。今から先のことを決める必要はなく、目の前のことを放置する必要もない。
「修復に手伝ってくれる方を募ってみましょうか」
 対価は、と考え、エディオンは小さく笑う。それも今から考える必要などない。
 エディオンは微笑んだまま、ゆるりと立ち上がった。
 明日手伝いに来てくれる人に出すお茶とお菓子を、用意しておこう。そう、心に決めながら。


<菓子作りを始めつつ・了>


※私信※
 改めまして、霜月玲守と申します。エディオンと石屋エスコオドのお相手をしてくださり、ありがとうございました。
 旅立たせるかを考えていたのですが、これからも永遠に続くエルザードに、エディオンとエスコオドも存在させ続けることにしました。
 エディオンはいちNPCであり、PCさん方の添え物であるべきと考えています。それは今も変わりません。ですが、関わってくださった皆様に呼ばれているエディオンを見て、添え物であるNPCではなく歩んでいっているのだなぁ、と思いました。
 エディオンは、これからもエルザードに石屋エスコオドを構え続けます。エルザードに住む皆様と、また触れ合うこともあるでしょう。その場面をいつしか描写できれば、と願っています。

 それでは皆様。今までソーンにてお付き合いいただきまして、本当にありがとうございました。
 そして、また再びお会いできるその時を、心より楽しみにしております。

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