2004年3月15日。  ――東京ギガテンプルム攻略戦――。  メガフロート『パンデモニウム』の突貫によって火蓋を切った最終決戦――。  紫色に染まった空の下、日本の首都東京の各地で激戦が繰り広げられていた……。 「神帝軍……!! 貴様らさえ……! 貴様らさえ現れなければ! 俺達は平和に暮らせていたんだ!!」  魔属というだけで虐げられ、人としての権利を奪われた魔皇達の怒りは頂点に達していた‥‥。 「愚かなり! 愚かなり魔の者よ! 貴様達は存在してはいけない者、異分子なのだ!」  片や神帝軍も……予想外の魔皇軍の反撃に余裕を失くしていた……。  憎しみと憎しみがぶつかり合い……皆が皆、生き残るために必死だった。  ***  東京ギガテンプルム付近―― 「はあ、勘弁してくれよ……」 「何がよ」  戦場のド真ん中、瓦礫の下に身を潜めている一騎の殲騎がある。  そのコクピット内にて、深い溜息をつく青年魔皇の頬を逢魔の少女がむにーとひっぱった。 「俺が魔皇になっひゃ……やめい! なったのは! お前がヒーローになれるって言ったからだぞ!」 「それが何よ」  手を離した逢魔は唇を尖らせてむすっとした表情を浮かべる。 「この状況をよく見てみろ! とんでもないことになってるじゃねえか!!」 「敵の本拠地を攻めてるんだからね。当然だわ」 「おまっ……」  さらっと言う逢魔に対し、魔皇は言葉を失う。 「……だからって、死ぬかと思ったぞ! なんだあのネフィリムの数!」 「あたし達弱いからねえ。魔皇様、覚醒したばっかりだし」  逢魔はタンデムシートの後部座席にもたれ掛りながら言った。 「あぁ……なんでこんなことに……」  魔皇は頭を抱えた。  数日前、いきなり女の子が現れて「あたしがヒーローにしてあげる!」と言われ、ホイホイ付いて来たらこの有り様だ。  マンガみたいな話になる! かと思ったらそんなことは無かった。ヤバい。マジヤバい。死ぬかも。 「あーもう! うるさいうるさい! 文句ばっかり!」 「お前なあ……少しは反省しろよ……。ろくな説明も無しに……。覚醒したてで敵の本拠地に連れて来られるとか無いわ……」 「魔皇様、見て!」 「お前、人の話を――ん!?」  上空を見上げてみると、たった一騎のネフィリムによって味方の殲騎が次々と撃墜されているではないか。  角ばった肩と背中の羽根状の装甲が特徴的なネフィリム――あれは恐らく―― 「……ヴァーチャー……か」 「あの強さからすると……たぶん十三使徒ね……」  二人はごくりと、唾を飲み込む。 「……じゃあ、俺達の出る幕じゃないな……」  魔皇の口から出たのはそんな言葉だった。 「……うん、そうだね……」  逢魔は頷き、そのまま俯いた。  ……そうしているうちに仲間の殲騎がまた一騎、また一騎と堕とされていく……。  鋭い剣によって両断され、銃で胸部を撃ち抜かれ、撃墜された多くの魔皇や逢魔の生存は絶望的だろう……。 「…………」 「ねえ、魔皇様」  逢魔は後ろから、魔皇に声をかける。 「…………」  しかし魔皇は口を摘んだままだ。 「ねえってば!!」  ついに魔皇は耳元で怒鳴られた。 「うるさい! 俺だってなあ……俺だってなあ……」  魔皇はぷるぷると震える手で操縦桿を強く握り締める。 「仲間がどんどん殺されていくのを、黙って見過ごすような腰抜け野郎じゃねえんだ!!」  被っていた瓦礫を跳ね除け、ディアブロタイプの殲騎が飛び出す! そして急上昇――!  ――そこはヴァーチャーの丁度真下! 「ヒーローってのはなぁ! 最後の最後で大逆転するものなんだよ! うおおおおおっ!!!!」  渾身の力で腕部と一体化した真クロムブレイドを振り上げる――  ――が、ヴァーチャーはその攻撃を軽々と避け、カウンターの斬撃を見舞ってきた。  ディアブロタイプの殲騎は半身を斬り裂かれ、落下していく。 「ノォォォォ!?」 「やっぱりこうなるのねぇぇぇ!?」  分相応、という言葉があるのであった……。  なお、この二人の魔皇と逢魔は無事に生存し、東京ギガテンプルム決戦を乗り越え、その後も神帝軍残党を相手に場数を重ね逞しく成長したという。  だがそれは、また別のお話……。