奪われたのはまさかのアレ  男は度胸、女は愛嬌。  そんな言葉がある。最近で言うなら男子力、女子力と言うものに当たるのだろうか。 「生き返るー。やっぱり喉が乾いたら炭酸だね」  ジュースの缶を一気に飲み干し私は、仕事帰りにいっぱい飲むおじさんの様な事を言った。 「……もう少し女の子っぽくしなよ?」 「へ?」  ルームシェアしている親友に言われて私はそちらを見る。 「まずその格好」  そう言われて自分の身体に視線をやる。 「いつも通りのタンクトップにジャージ」 「あのね?家だからってそれはどうなの?胸見えてるよ?」 「あ。本当だ」  開いた脇から私の胸についているメロンの端が見えていた。 「下着つけなよ?みっともない」 「締め付けられるの嫌いなんだもん。あ、今日合コンだっけ?」 「うん。あんたも女子力上げないと彼氏出来ないよ?行ってきます」  そう言い残して親友は可愛らしいワンピースで出かけて行った。  *** 「彼氏ねぇ……」  男嫌いと言うわけではないが、どうもそういう甘い関係になるのはめんどくさいなと思ってしまう。似合わないスカートをはいて、上目遣いで可愛い声を出して…… 「めんどくさ」  そう呟いて窓の外を見る。  ぎらぎらとした太陽の光が眩しいのか目の前が光で包まれ思わず目をつむった。  もういいかな。とゆっくり目を開けると変なおじさんが目の前にいた。 「……」 「……」 「…………110番」 「いやいや、待て待て」 「待ってはこっちのセリフだから。だいたい誰?」  私は完全にひいていた。 「神じゃ」 「は?どこからどうみても、中間管理職で、会社では怒鳴られまくり家ではうだつの上がらない系のメタボなバーコードおじさんが?」 「罰当たりが!気にしてる事ばかり言いおって!!」 「気にしてるんだ……」 「それもこれもお主に与えすぎてしまったからじゃ」 「えっ、何を?……髪?」  私の髪はさらさらで少し多めだし……あっちは何か残念だし……。 「違う!」 「じゃあ何?」 「もういい。すまんが返してもらうぞい」  エイッという掛け声とともに私の体から光が出てきておじさんの中に入っていった。その瞬間、メタボなバーコードおじさんが……ダンディなイケメンになった。 「え?手品?どっきり?」 「違うわ!おぬしの女子力を返してもらったのでな。元々のわしに戻ったんじゃ」  は?え?女子力? 「元々ありませんけど?そんなもの」 「いや、多少あったのが空になったんじゃ。性転換でもして男として生きるとよいぞ」 「は?いや、は?」  混乱する私をよそに自称神のダンディなイケメンは消えてしまった。  ***  後日。 「ねぇ。どうしたの?このご飯美味しくない」 「あ、うん。何か上手く出来なくて……」 「料理が美味しいくらいしか女の子らしいところなかったのに……。もしかしてそれも完全になくなっちゃってたりして」  そう言って笑う親友にあわせて愛想笑いしながら、テーブルの下で手を強く握るしかなかった。