●サンプルA:刀を持つと自分を制御できなくなる病みライセンサーと、その愛刀について 普段は主観寄りの三人称が多いですが、こういった書き方も可能です。需要がありましたら。 ◆ 縁というものを論理に紐づけて説明することなんて、私にはできない。 これが星座や風水、四柱なんかを見られる人なら、語る言葉のひとつもあるのだろうけれど。 でも、じゃあ超常的、非科学的ななにかなのかって言われたら、そういうのともまた違うような気がする。だって、誰かと知り合って仲良くなったり、好きあったり、逆に嫌ったり恨んだり恨まれたりするのは、オカルトなんかじゃないと思うから。 今、“誰か”なんて喩えたけど、生憎この話は人が相手なわけじゃない。 これから話すのは、私こと橘和泉((xxxxxx)と、あるモノの縁について。 物心ついた頃、その刀はいつも私の傍にあった。 というか、家にある古いアルバムをめくると、赤ん坊の頃の私と並んでベビーベッドに寝かされている写真があったし、もしかすると生まれたときからそうだったのかもしれない。 記憶の限りではとにかくいつも目の届く場所にあって、仏間でお絵描きしていても、お庭で木登りしていても、台所でおままごとしていても、床の間に飾られていたり、縁側に置いてあったり、テーブルの上に乗っていたりして。 でも、子供の頃の私はそれを不思議に思わなかったみたい。 って、今にして思えばこの部分はちょっぴりオカルトじみてるね。まあ置いといて。 そんなある日、我が家に事件が起きた。まあ、私は覚えていなくて、だから又聞きになるんだけど。 なんかね、夜中に強盗が押し入って、一家を皆殺しにしたんだって。 なのに、私だけは無傷で発見されたんだって。 あの刀は、どこにもなかったんだって。 そのあといろいろなところをたらい回しにされて、気が付いたら叔母さん、というか今のお母さんの家にいた。 犯人は捕まらなかったらしい。 でも、別に悔しくはないし、ましてや犯人を恨む気持ちなんてわいてくる筈もなかった。 前の家のことは、大雑把な間取りやひとりで遊んでいたこと、それに刀のことくらいしか思い出せなくて、本当の両親や同居していたらしい祖父母の顔も、やっぱりアルバムを見ないと分からないほどだから。 要するに、今のお母さん以外を家族って実感できなかったんだ。 実際、本当の娘同然に育ててくれた。良いことをしたり成績が上がれば褒めてくれたし、悪いことをすれば叱ってくれた。私のどんなくだらない話もちゃんと聞いて、あの人なりに正しいことをひとつひとつ説いてくれた。女手ひとつなのにつらそうな顔ひとつ見せず、私の前ではいつもしっかりしていた。 お陰で平穏無事に過ごした。 子供の頃の出来事なんて、偶然目にしたテレビドラマかなにかの内容と記憶をすり替えてしまっているだけなんじゃないか――自分でそんな風に思ってしまうくらい毎日が平和で、楽しくて、幸せだった。 だけど、やっぱり現実に起きたことなんだって、唐突に思い知った。 私が十八歳のときのこと。あれは修学旅行の前日だった。 「お母さん、明日着ていく服だけど」 私が開けっ放しのドアにノックしながら話しかけると、お母さんはびくんと肩を震わせた。 なにかを胸に抱いているような変な姿勢で、私に背を向けている。気になって少し近づくと、お母さんも身をよじって、こっちを向いてくれなかった。 でも、肩越しにそれは見え隠れしていた。 なんだっけ、今の。なんだか見覚えのある、長くて縁が金ぴかの。 「それ」 子供の頃、いつも傍にあった、あの。 お母さんがなにか言っている、珍しく取り乱している、喚いている、怒鳴っている、けれどまるで水の中で聴いているみたいに声が遠く感じられて、なんだかよく分からなかった。 私は、刀から目が離せなかった。 その後、私は修学旅行先でお母さんの訃報を聞き、とんぼ返りした。 なんかね、強盗が押し入って、そのときに殺されたんだって。 あの刀は、どこにもなかったんだって。 なのに今、あの刀はEXISとして私の傍にある。 いつ、どうやって手にしたのかは、覚えていない。 ただ、鍛えた覚えもないのにいつの間にか身体はできていて、なんとなくだけど体捌きも分かる。だからこの刀は自在に扱うことができるし、とてもよく手に馴染む。お陰でナイトメア達との戦いにも支障はない。 むしろ、近頃は高校時代の友達を名乗る知らない人から頻繁に連絡が来ていて、こちらのほうがよっぽど仕事を妨げている。この間なんて剣道部のOB会があるから、とかなんとか。私は部活なんてやったことないのに、集合写真の捏造までして送ってきたり。 おっと、話が逸れた。いや――そもそもなんの話だっけ。 ていうかきみ、誰? いつからそこにいるの? 縁? なんのこと?