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『もえる、おこめ。 』
三島・玲奈7134)&天王寺・綾(NPCA014)

「北海道はでっかいどうー!」
「ごっつ寒いで、玲奈」
 どこまでも続く地平線。青い空に白い雲。
 金色に実った稲穂揺れる苫小牧の農場──…そこが本日の玲奈の仕事場である。
「……だって、駄洒落でもいわないとやってられませんッ」
「ええやん、似合ってるで?大きい兄ちゃんや、ケミカルジーンズに紙袋ぶら提げとる兄ちゃんが大喜びや」
「だからいやなんですって!」
 容赦ないツッコミを入れるのは、天下無敵の大財閥の御令嬢、天王寺綾。
 そして、彼女に赤面した顔を向けて、吼えたのは三島玲奈である。
 しかし如何せん、体操着にブルマー姿ではさっぱり迫力など無く、恥らう姿が逆に、テレビの前の大きいお友達が喜びそうな雰囲気をかもし出していた。
「…それはともかくとして、宇宙で発芽したお米っていうだけあって、凄い生命力ですよね」
「せやな。うちもここまでになるとは正直思っとらんかったわ」
 宇宙で発芽した米。それを持ち帰り地上で栽培した結果、立派に成長し無事収穫の時を迎えたのである。
 綾は、『萌え』文化の波にのり、この米を新たに萌えブランド米として売り出すことを決め、PRの為にこれでもかという位、萌えのてんこ盛りな少女、三島玲奈に白羽の矢を立てた。
 かくして玲奈は、綾に雇われPR広告の写真撮影のために、何故か体操着とブルマーを着用して稲刈りをする事になっている。
「ほれ、出番やで」
「はーい」
 撮影スタッフの呼ぶ声に元気よく返事をすると、田んぼへと足を踏み入れる。そして稲穂の根元へと鎌をあてがうポーズで一枚、刈り取った稲を持って笑顔を浮かべて一枚…と、撮影は順調に進んでいった。
「古米古古米苫小牧───!」
「えッ!?」
 叫び声と唐突に響いた地鳴り。そして、玲奈たちの頭上を影が過ぎった。
 ずどん。どすん。と、何度も続く鈍い音。
「…なんや、米…俵?」
 視線を向ければ、撮影のために積んであった米俵。空を飛んだそれらは水田に落ちて泥だらけになってしまっている。
 更にぼたぼたと米俵が乱舞し、カメラやスタッフに襲い掛かり撮影どころではなくなりつつあった。
「古米古古米苫小牧……っていうか、古古古米でしょ?」
「そうとも言う」
 米俵が乱舞する度に聞こえてくる叫びに思わず玲奈がつっこみを入れた瞬間、泥に半分埋まった米俵がにょきりと直立し、言葉を喋った。
 異様な光景に、スタッフが悲鳴をあげる中、動じる様子もない綾と、表情を引き締めた玲奈が米俵を睥睨する。
「あなた特権者ね?」
「そうだ三島玲奈よ」
 ──特権者。不死のアンデッドであり、無限の未来は事実上予想不可能。
 つまり彼らは予測を拒否する特権を持つ。退屈しのぎに人間社会の曖昧さに楔を打つ愉快犯的面を持つ厄介な存在である。
「特権者が何の用よ」
 その間も泥だらけになっても飛び回る米俵たち。水田を滅茶苦茶にしようと、スタッフたちが悲鳴をあげようとお構いなしで暴れまわっている。
(……獣化できれば、あんなのなんとでも出来るのに)
 しかし、写真撮影中に獣化すれば、萌えブランド米どころか、『萌えキメラっ娘、誕生』だとかうれしくないキャッチフレーズと共にスクープされかねない。
 内心の募る苛立ちを押さえながら、特権者を睨むとそれは心持ちふんぞりかえって、
「消費期限だのなんだのと、鮮度に拘る癖に古米を重んじる───これを矛盾といわずして、何を矛盾と言うか!」
「食べ物を玩具にしておいてよく言うわ!」
「世界を玩具にしているのは人間達ではないか」
「一理あるなぁ」
「ちょッ、綾さんっ」
 怒りの声をあげる玲奈を嘲笑うかのような特権者の言葉に思わず頷く綾に思わず玲奈が非難の声をあげる。
 相変わらずその姿は体操着とブルマで、迫力など皆無だったが。綾は玲奈に『すまん、すまん』と笑い。
「せやかて、寿司飯は古古米が一番や」
「ほぉ、一番。格付けこそ、人間の身勝手。人間達は自分が何様だと思っているのだろうな」
「…あげ足とりっちゅーか、水掛け論っちゅーか……、ちょい、兄ちゃん」
 口の減らない特権者に渋い顔になった綾は、ふと何かを思いついたような顔で、傍に控えていた給仕を呼びつけた。
「適温の珈琲一つ──ただし、きっちり温度適温で。精度はどーんと千分の一度までや!」
 きっぱりと言い切る綾に、給仕は目を白黒させた。正確な温度を求めるなら、検温するために温度計を使わねばならない。
 その際、冷えた温度計が熱を奪う事になってしまう。かといって、予め温度計を加熱するのは不条理であろう──それらを、主である綾に必死に説明し訴える給仕。
 やりとりを困ったように見守っていた玲奈に、綾がぱちんと指を鳴らし言い放つ。
「せや確か物理で習ったで!人間の干渉が真実を汚染するこの矛盾!不確定原理や!そして人間ある故に世界あり──…玲奈いてまえ!」
「ええっ?」
 すっくと仁王立ちして、声も高らかに言い放つ綾の姿に思わず聞き入っていた玲奈は、唐突な無茶振りに頓狂な声をあげる。
 しかし、綾はお構いなしに、右手の人差し指を玲奈に突きつけ、
「いぢり返せ!この世は不確定原理ゆえに常に曖昧。混沌を収拾する為に身勝手な人間が必要」
「何そのトンデモ説」
 無茶苦茶すぎる俺様ならぬお嬢様論理にぽかんとした玲奈は、雇い主+年上という事で使っていた敬語も忘れて突っ込んでしまった。
「人間原理や。高校では習わん。有名どころでいえば、シュレーディンガーの猫みたいなモンやな」
 胸を張って主張する綾。
 その仕草に形、ボリューム共に申し分ない胸がたゆんと揺れ、チラ見した玲奈の視線に羨望の色が混じってしまうのは致し方が無いといえよう。
「…で何するの?」
 気を取り直したように問う玲奈に、綾はずいと顔を近づけ、
「念じろ。己を中心に世界を回せ。宇宙を燃やせ」
 綾の場合、既に自分中心に世界を回しているのではなかろうかと思った玲奈であったが、引き攣りながらも頷く。
「えっと…、哲学ね」
 目には目を、不条理には更なる不条理を。
 カオスちっくな状況に眩暈を感じながら、なんとか口を開くと綾は軽く人差し指を振りつつ、真剣な表情になり、
「恐らく敵も同じ手法。哲学じゃ勝てん。哲学の上を行く純文学。戦う純文学や」
「哲学好きを敵に回す発言のような…」
「勝ったもんが正義や!」
 強引ぐマイウェイな綾が一刀両断する中、玲奈が精神を集中する。
「───…The pen is mightier than the sword...」
 そっと目を閉じたまま唇からは小さな呟きが漏れはじめ、彼女を中心に力が渦を巻きはじめ、磁場が発生しはじめる。
「一体何のつもりだ」
「ぐだぐだ理屈こねくり回したって、しゃーないやろ!」
 綾と玲奈が相談している間にも特権者が暴れまわったために、水田は穴だらけ、稲穂は滅茶苦茶に荒らされ、スタッフは泥だらけになり悲惨な状況となっていた。
 中には米俵に押しつぶされかけているスタッフの姿もあった。
「─────…!!」
 精神集中と共に緋色の陽炎のような光を纏った玲奈の唇が、何かを叫ぶ。
 語学に堪能であれば、それはラテン語に訳されたとある純文学の名台詞の一つであることが分かっただろう。
 ───…次の刹那、業火に包まれた金色の寺の幻と、炎を纏った鳥──鳳凰の羽ばたきが、その場を支配した。



「…やっぱ、寿司は古古米が一番やな」
「ん。ホッキ天丼もおいしー!」
 特権者を退けた玲奈達。その後、めちゃくちゃに荒らされた水田、泥だらけの撮影器具やスタッフ達と最悪の状態ではあったものの、なんとか皆の努力で撮影は再開され、無事PR広告は完成しそうである。
 打ち上げに訪れた店で、新鮮な海の幸に舌鼓を打ちながら、ポツリと綾が呟く。
「萌えブランド米の次は、萌え寿司でどうや?店員はメイドやスク水、ブルマの──」
「どうやじゃなぁぁぁぁ──────い!!!」
 得意満面の綾の声に、玲奈の絶叫が響き渡った。


─ Fin ─

PCシチュエーションノベル(シングル) -
聖都つかさ クリエイターズルームへ
東京怪談
2009年08月31日

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