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『 海での夏の過し方〜彼女と俺と〜 』
トリストラム・ガーランド(ha0166)


●海へ行こう!
「海‥‥ですか」
 一枚のチラシを手に、春瑛(hz0003)が呟いた。そのチラシにはカラーで青い海、青い空、白い砂浜が描かれていて、「さあ、君も夏の海でエンジョイ!」とかなんとかありきたりな誘い文句が書かれている。
「泳げない事はないのですが‥‥」
 だがカップルや友達同士、家族連れでにぎわう海に一人で行くというのも寂しいというもの。
「ベストカップルコンテストに、海辺のプリンス・プリンセスコンテスト‥‥」
 どうやらその手のコンテストも行われるようである。勿論参加は自由だ。
 コンテストに参加せず、浜辺や海の中でマイペースに遊ぶのもいいだろう。
「ツアーという事は‥‥他にも参加者がいれば出発できるのですよね‥‥」
 瑛はちらっと辺りを見回す。すると掲示板に張られた、彼が手にしているのと同じ張り紙をじっと見ている人物が何人かいた。
 どうやらこれならば、ツアーは成立しそうである。瑛は黒い瞳でじっと、他にも参加手続きをする者が出ないものかと見つめた。
 夏の思い出。
 海岸で、あなたはどう過ごしますか?


●彼の水着姿、彼女の水着姿
 青い海は燦々と照り輝く太陽を反射して、キラキラと輝いていた。夏といえば海、とばかりに砂浜に集まった人々はめいめい楽しそうに海を満喫している。
 ここにも海を楽しむために集まった若者達が四人いた。トリストラム・ガーランドは黒×白のボーダー柄サーフパンツに白の長袖シャツを羽織って。セリオス・クルスファーは青のボーダー柄サーフパンツに長い白金の髪を三つ編みにしてリボンで止めて。春瑛は濃い緑のトランクスタイプの水着を着用。そして紅一点の春月泉は細身ながらも豊満な胸を惜しげもなく晒すような紺色の大胆なビキニに身を包んでいた。
「海は余り好きじゃないんだけど。まあ‥‥偶には息抜きに、のんびりしようか」
 とりあえずこの強い日差しから脱出したいとばかりにセリオスは首を巡らせて、席の空いていそうな海の家を探す。どこもかしこも人だらけだが、探せば四人位座れる場所はありそうだった。
「瑛君って、やっぱり武人だけあって細身なのにしっかり筋肉ついてる、よね‥‥」
「‥‥そう、ですか?」
 トリストラムは思わず自分と瑛の身体を見比べて。やっぱり前衛に出て武器を振るう職業は鍛え方も違うんだなぁと実感。すると横から面白そうに声を挟んだのは、瑛の姉、月泉。
「初めて見たけれど、トリスもセリオスも水着、似合ってるじゃないか。ああ、瑛の裸は見慣れているけど」
「似合っている、かな‥‥って見慣れてって!?」
「ああ、女装させる時に剥いてるものね‥‥」
 見慣れているという言葉に何となくちょっとイケナイ想像をしてしまったトリストラムの横で、セリオスが納得したように呟く。まあ女装させる時でなくとも姉弟であればその裸を見慣れていても不自然ではあるまい。
「トリス、焦りすぎだ」
 くす、と意地悪そうに口元に笑みを浮かべた月泉は眩しくて。その次に発せられた言葉にもトリストラムは戸惑う。
「しかし‥‥誰も私の水着姿を褒めてくれないんだね?」
 長い黒髪をさらっとかき上げて悪戯っぽく、告げられて。実は彼女が着替えて出てきた時からその姿を直視できないトリストラムは、言葉に詰まった。
「‥‥普通に似合う、と思います」
「いいんじゃない? トリスが戸惑うくらいには似合っていると思うよ」
「ちょっ、セディ!」
 無難に感想を述べる瑛。ちらりと幼馴染を見て、意地悪っぽく告げるセリオス。この幼馴染には全てお見通しなのか、とトリストラムは思い、そしてチラリと月泉を見た。
 いつもは陣の衣装である艶花ドレスに包まれているその肢体が、今は僅かな面積しかない水着にて太陽の下に晒されている。初めて見る彼女のリアルな肌色に、心臓がとくんと跳ねる。顔が火照るのは、日差しのせいだろうか。
「その‥‥とてもよく似合っていると思います‥‥でも」
「でも?」
 しっかりとその姿を瞳に納めつつも言葉を切ったトリストラムに、月泉は首を傾げて尋ねた。
「他の男の人には、見せたくないです‥‥!」
 言い切ったトリストラムは自身の着ていた白いシャツを脱ぎ、そしておもむろに月泉の肩へと羽織らせた。そしてそのまま彼女の手を掴み、スタスタと海の家へと歩き出す。
「あ‥‥」
「まあ、当然の感想ではあるかな」
 置いていかれる形になった瑛とセリオスは、その後姿を見送って。ちなみに二人の呟きは、勿論トリストラムと月泉の耳には届いていない。
「それは――最高の褒め言葉だね」
 彼の耳に届いていたのは、手を引かれながら呟かれた月泉のその一言だけだった。


●やられたらやり返す?
「セディ、遅いな‥‥迷っているのかな」
 海の家の一角で、焼きとうもろこしを前にしたトリストラムは浜辺に目をやり、そして幼馴染の姿を探した。
 先程は思わず月泉を引っ張って先に来てしまったが、置いてきてしまった瑛は暫く後に無事に海の家で合流できた。だがセリオスだけが未だ合流できていない。一緒に居た瑛によれば何か面白いものを見つけたとかでそちらによってから来るという事だったが――。
「あ、セディ、こっちだよ!」
 きょろと店内を見回しているセリオスの姿を見つけ、トリストラムは手を振る。するとセリオスは素早く幼馴染を見つけ、上手に人を避けながら席へと近づいてくる。だがその表情になんだか不敵な笑みを浮かべているのは気のせいだろうか。
「これ、二人でエントリーしておいたよ」
 にやりと笑いながらセリオスがおもむろに机の上に置いたのは、一枚のチラシ。
「「?」」
 三人が覗き込めば、そこには『ベストカップルコンテスト』の文字が。
「‥‥ちょっ、セディ、何を勝手にっ‥‥!」
「瑛、きっと面白いものが見られるよ」
「面白いものって人を見世物みたいに‥‥ってまあこの手の催しは見世物になるためにあるんだろうけどねぇ」
 慌てるトリストラムに対し、月泉はいつもの様に落ち着いたまま、アイスコーヒーの入ったグラスに手を沿え、ストローでその中身を吸い上げる。
「月泉さん!? いいんですか?」
「楽しそうだと思うけどね」
「うう〜‥‥月泉さんがいいなら‥‥」
 彼女が出場を承諾してくれるならいいか、と思いはするが何処か納得のいかないトリストラム。なんだか不完全燃焼というか、悔しいというか。するとそれまで黙ってチラシを眺めていた瑛が、ぽつり、零した。
「‥‥『海辺のプリンス・プリンセスコンテスト』なんていうのも‥‥あるみたいですね‥‥」
「!」
 その言葉に弾かれたように反応し、トリストラムはチラシを再び覗き込んだ。確かにカップルコンテストの下に、『海辺のプリンス・プリンセスコンテスト』と書かれている。
「俺も、セディをプリンスコンテストにエントリーしてくる!」
 言うや否や立ち上がり、トリストラムは特設ステージへと向かう。これは意趣返しだ。
「トリス、良い度胸してるじゃない。あとで覚えておくんだね」
 その後姿を見送ったセリオスが、ふふん、と笑みを浮かべていた。
「‥‥仲が良い、ですね‥‥」
「そうだねぇ」
 瑛がぽつりと呟いてフランクフルトにかぶりつき、月泉はくすくすと笑いながら二人の姿を見送っていた。


●ベストカップルコンテスト
 日差しを遮るものもなく、太陽の光が強く肌を焼くというのに特設ステージの周りは大勢の人で埋め尽くされていた。彼らの目当てはステージで行われるコンテストへの参加や観覧である。すでにプリンスコンテストを終えたセリオスと瑛は、観客席の前の方を陣取って次のコンテストが始まるのを待っている。
(カップルコンテストって言われても、何をすれば良いのかわからない、けど。どんなところが好きか、とか言えば良いんだろうか‥‥)
 ステージ裏で待機中の何組かのカップルに混じって、トリストラムと月泉は名前を呼ばれるのを待っていた。トリストラムの頭の中はぐるぐると思考が渦を巻いているが、ちらっと月泉を見れば彼女はいつも通り涼しげな顔をしてステージの方を見ている。
「どうやら相手の好きな所をアピールして、その上でラブラブアピールとやらをするらしいな」
 先にステージに上っているカップル達に司会者が告げる要求を聞いていたのだろう、彼女は冷静に告げて口元に軽く手を当てる。
「ラブラブアピール‥‥か」
「ラブラブアピールってそんなこといわれても‥‥」
 具体的に何をすればいいのだろう。舞台裏からはステージ上が見えない仕様になっている。時折観客から歓声や拍手、どよめきや笑い声が上がるが、一体何が起こっているのかわからない。
(好きな所を皆にアピールするだけで精一杯なんです、けどっ‥‥)
 一体どうしたものか。そう考えている間に時間は過ぎ、待機カップルの数が減っていく。程なくして司会者が、二人の名を呼んだ。
「トリス、そんなに緊張しなくても大丈夫だ。別に私達は入賞を狙っているわけではないからな。いつも通りにしていれば、いい」
 ふわり、先ほど貸したシャツがトリストラムの肩にかけられる。さらりと彼女の長い髪が肩をすべり、彼の腕をくすぐった。
「‥‥そうだね。行こう、月泉さん」
 シャツに袖を通し、トリストラムは手を差し出す。月泉がその手を取ったのを確認し、彼はステージに足を踏み出した。
 拍手が彼らを包む。もう何組もの惚気を聞いてきただろうに、観衆はそれでも飽き足らないのだろうか。はたまた一人身で寂しい者達が冷やかすために群れているのかもしれない。
「ほー、これはまた美男美女のカップルですね。それではまず彼女の方に聞いちゃおうかなー?」
 司会者が、月泉へと近寄る。
「資料によれば彼女の方が年上らしいね〜。そんな月泉ちゃんは、彼氏のどんな所に惹かれたのかな〜?」
 軽い感じの司会者が、月泉にマイクを向ける。一体彼女は何て答えるのだろう。トリストラムはどきどきしながら横目で彼女の様子を覗った。彼女はちらっと彼を見て微笑んで、そして正面を向いて。
「真っ直ぐなところ‥‥かな」
「おお〜シンプルだけど力強いコメントありがとうね〜」
 彼女から発せられたのは一言。だけどそれが彼女らしいとトリストラムは思う。その一言にはきっと様々な想いが込められているのだろうと、自分には解るから。
「じゃあ次は彼氏の方〜。彼女のどんな所に惹かれたのかな〜?」
 彼女がはっきり言ってくれたから、自分も自信を持って言葉にしよう――トリストラムは大きく息を吸い込んだ。
「月泉さんは。格好良くって‥‥頼り甲斐があって、でも、女性らしくて可愛い面も有って。どこが好き? って聞かれたら困るくらい、魅力的な女性なんです。一番大好きな人、です。今もこれからも‥‥ずっと」
「おおーっ、彼氏の方は情熱的だね〜!」
 司会者の言葉に我に返ってみれば、観客席から歓声と微笑ましさへの笑いをこめたような声が上がっている。
 そっと視線を動かした先にセリオスと瑛を見つけたトリストラム。瑛はともかくセリオスがふふんと笑ったものだから、なんだかとても恥ずかしくなって、頬が紅潮していくのがわかる。
「トリス。トリス‥‥?」
(どうしよう、なんだか凄く恥ずかしい‥‥。勢いづいて語っちゃったけど、月泉さんはどう思ったかな‥‥)
 ぐるぐると、再びトリストラムの思考が渦を巻く。横から月泉が呼びかけているのにも気がつかないくらいだ。

「トリス!」
「!?」

 強く腕を引かれたと同時に頬に柔らかいものが当たった感触がした。同時に、甘い香りが一層近づく。
「え‥‥?」
 『それ』が離れていくのが惜しいと、本能が叫んでいる。けれども状況の整理が追いつかない。
 トリストラムが状況を理解したのは、『それ』が離れていって、無意識に自身の頬に手を当てたその後だった。
「ラブラブアピールだそうだ」
 悪戯っぽく笑った月泉を見て。
 彼女の紅色の唇を見て。
 あの柔らかさは『それ』が触れたんだ、と理解して。
 あの甘い香りは、彼女の香りなんだ、と理解して。

 観客席のボルテージが上がると同時に、トリストラムの顔も熱くなっていくのだった。
 これはきっと、夏の日差しだけのせいではないはずだ。


                      ――Fin




●登場人物
・ha0166/トリストラム・ガーランド様/男性/17歳/プリースト
・ha0207/セリオス・クルスファー様/男性/18歳/ソーサラー

●ライター通信

 いかがでしたでしょうか。
 ソウルパートナーでもいつもお世話になっております。
 この度は、ご依頼有難うございました。
 世界観に囚われないノベルということですので、多少ソルパにない物体も登場していたりしますが…パラレル風ということで楽しんでいただければと。
 弄り歓迎という事で…主に月泉が弄り担当となりましたが、大丈夫でしょうか…。
 ちょっぴり青少年らしい心境にも触れてみたりしたつもりであります。
 とても楽しく書かせていただきました。

 気に入っていただける事を、祈っております。
 書かせていただき、有難うございました。

                 天音
なつきたっ・サマードリームノベル -
みゆ クリエイターズルームへ
The Soul Partner 〜next asura fantasy online〜
2009年08月26日

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