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『 海での夏の過し方〜僕と彼らと幼馴染と〜 』
セリオス・クルスファー(ha0207)


●海へ行こう!
「海‥‥ですか」
 一枚のチラシを手に、春瑛(hz0003)が呟いた。そのチラシにはカラーで青い海、青い空、白い砂浜が描かれていて、「さあ、君も夏の海でエンジョイ!」とかなんとかありきたりな誘い文句が書かれている。
「泳げない事はないのですが‥‥」
 だがカップルや友達同士、家族連れでにぎわう海に一人で行くというのも寂しいというもの。
「ベストカップルコンテストに、海辺のプリンス・プリンセスコンテスト‥‥」
 どうやらその手のコンテストも行われるようである。勿論参加は自由だ。
 コンテストに参加せず、浜辺や海の中でマイペースに遊ぶのもいいだろう。
「ツアーという事は‥‥他にも参加者がいれば出発できるのですよね‥‥」
 瑛はちらっと辺りを見回す。すると掲示板に張られた、彼が手にしているのと同じ張り紙をじっと見ている人物が何人かいた。
 どうやらこれならば、ツアーは成立しそうである。瑛は黒い瞳でじっと、他にも参加手続きをする者が出ないものかと見つめた。
 夏の思い出。
 海岸で、あなたはどう過ごしますか?


●彼の水着姿、彼女の水着姿
 青い海は燦々と照り輝く太陽を反射して、キラキラと輝いていた。夏といえば海、とばかりに砂浜に集まった人々はめいめい楽しそうに海を満喫している。
 ここにも海を楽しむために集まった若者達が四人いた。トリストラム・ガーランドは黒×白のボーダー柄サーフパンツに白の長袖シャツを羽織って。セリオス・クルスファーは青のボーダー柄サーフパンツに長い白金の髪を三つ編みにしてリボンで止めて。春瑛は濃い緑のトランクスタイプの水着を着用。そして紅一点の春月泉は細身ながらも豊満な胸を惜しげもなく晒すような紺色の大胆なビキニに身を包んでいた。
「海は余り好きじゃないんだけど。まあ‥‥偶には息抜きに、のんびりしようか」
 とりあえずこの強い日差しから脱出したいとばかりにセリオスは首を巡らせて、席の空いていそうな海の家を探す。どこもかしこも人だらけだが、探せば四人位座れる場所はありそうだった。
「瑛君って、やっぱり武人だけあって細身なのにしっかり筋肉ついてる、よね‥‥」
「‥‥そう、ですか?」
 トリストラムは思わず自分と瑛の身体を見比べて。やっぱり前衛に出て武器を振るう職業は鍛え方も違うんだなぁと実感。すると横から面白そうに声を挟んだのは、瑛の姉、月泉。
「初めて見たけれど、トリスもセリオスも水着、似合ってるじゃないか。ああ、瑛の裸は見慣れているけど」
「似合っている、かな‥‥って見慣れてって!?」
「ああ、女装させる時に剥いてるものね‥‥」
 見慣れているという言葉に何となくちょっとイケナイ想像をしてしまったトリストラムの横で、セリオスが納得したように呟く。まあ女装させる時でなくとも姉弟であればその裸を見慣れていても不自然ではあるまい。
「トリス、焦りすぎだ」
 くす、と意地悪そうに口元に笑みを浮かべた月泉は眩しくて。その次に発せられた言葉にもトリストラムは戸惑う。
「しかし‥‥誰も私の水着姿を褒めてくれないんだね?」
 長い黒髪をさらっとかき上げて悪戯っぽく、告げられて。実は彼女が着替えて出てきた時からその姿を直視できないトリストラムは、言葉に詰まった。
「‥‥普通に似合う、と思います」
「いいんじゃない? トリスが戸惑うくらいには似合っていると思うよ」
「ちょっ、セディ!」
 無難に感想を述べる瑛。ちらりと幼馴染を見て、意地悪っぽく告げるセリオス。この幼馴染には全てお見通しなのか、とトリストラムは思い、そしてチラリと月泉を見た。
 いつもは陣の衣装である艶花ドレスに包まれているその肢体が、今は僅かな面積しかない水着にて太陽の下に晒されている。初めて見る彼女のリアルな肌色に、心臓がとくんと跳ねる。顔が火照るのは、日差しのせいだろうか。
「その‥‥とてもよく似合っていると思います‥‥でも」
「でも?」
 しっかりとその姿を瞳に納めつつも言葉を切ったトリストラムに、月泉は首を傾げて尋ねた。
「他の男の人には、見せたくないです‥‥!」
 言い切ったトリストラムは自身の着ていた白いシャツを脱ぎ、そしておもむろに月泉の肩へと羽織らせた。そしてそのまま彼女の手を掴み、スタスタと海の家へと歩き出す。
「あ‥‥」
「まあ、当然の感想ではあるかな」
 置いていかれる形になった瑛とセリオスは、その後姿を見送って。ちなみに二人の呟きは、勿論トリストラムと月泉の耳には届いていない。
「まったく、置いていくとは酷いね。まあ行き先は海の家だろうけど」
 彼らの行った先を追えばすぐに見つかるだろう。海の家は何件かあるが、そうそう遠くへ行くとは思えない。衝動的に飛び出したとはいえ、彼ならきちんと四人分の席はとっておいてくれるだろう――それはある意味幼馴染に対する信頼。
「瑛、悪いけど先に行っててくれる?」
「‥‥セリオスさん、は‥‥?」
「僕? 僕は面白いもの見つけたから、ちょっと寄ってから行くよ」
 先ほど辺りを見回した時に、人ごみの向こうに見えた看板。幼馴染に対するちょっとした悪戯というか後押しというか、セリオスは『仕掛ける』つもりだった。
「‥‥わかりました‥‥」
 瑛が頷いたのを見て『じゃあね』と告げ、セリオスは目的の看板へと向かった。


●やられたらやり返す?
 手続きはあっさりとしたものだった。元々こうした場所での催しであるからして、それほど煩雑な手続きは踏まないだろうと思っていたが、二人の名前と年齢と、それからちょっとしたエピソードを書き込むだけで済んだ。
 セリオスは手続きが受理されると、チラシを一枚貰って海の家へ向かって歩き出した。確か先ほど談笑していたのがあの辺りだから、付近の海の家をあたれば見つけられるだろうと踏んで。
「あ、セディ、こっちだよ!」
 案の定、程なくして幼馴染が自分の名を呼んで手を振る場面に出くわす事が出来た。セリオスは上手に人を避けながら席へと近づく。その顔に、不敵な笑みを浮かべて。
 これから今自分のしてきた事を話した時の幼馴染の反応が楽しみだった。これが笑みを浮かべずに居られるだろうか。
「これ、二人でエントリーしておいたよ」
 にやりと笑いながらセリオスはおもむろに机の上に一枚のチラシを置いた。
「「?」」
 トリストラム、月泉、瑛の三人が覗き込めば、そこには『ベストカップルコンテスト』の文字が。
「‥‥ちょっ、セディ、何を勝手にっ‥‥!」
「瑛、きっと面白いものが見られるよ」
「面白いものって人を見世物みたいに‥‥ってまあこの手の催しは見世物になるためにあるんだろうけどねぇ」
 慌てるトリストラムに対し、月泉はいつもの様に落ち着いたまま、アイスコーヒーの入ったグラスに手を沿え、ストローでその中身を吸い上げる。
「月泉さん!? いいんですか?」
「楽しそうだと思うけどね」
「うう〜‥‥月泉さんがいいなら‥‥」
 そんな二人のやり取りを見ながら、セリオスはウエイトレスに冷たい飲み物を頼んだ。コンテストが始まるまでここで時間を潰そう、と。するとそれまで黙ってチラシを眺めていた瑛が、ぽつり、零した。
「‥‥『海辺のプリンス・プリンセスコンテスト』なんていうのも‥‥あるみたいですね‥‥」
「!」
 その言葉に弾かれたように反応し、トリストラムはチラシを再び覗き込んだ。確かにカップルコンテストの下に、『海辺のプリンス・プリンセスコンテスト』と書かれている。
(ああ、確かにそんなのも受け付けてたね。瑛をエントリーして来ればよかったかな)
 そんなことを考えていたセリオスの耳に、幼馴染の声が飛び込んできた。
「俺も、セディをプリンスコンテストにエントリーしてくる!」
 言うや否や立ち上がり、トリストラムは特設ステージへと向かう。これは意趣返しなのか。
「トリス、良い度胸してるじゃない。あとで覚えておくんだね」
 止める間もなく彼の姿は遠ざかり――その後姿を見送ったセリオスは、ふふん、と笑みを浮かべる。
「‥‥仲が良い、ですね‥‥」
「そうだねぇ」
 瑛がぽつりと呟いてフランクフルトにかぶりつき、月泉はくすくすと笑いながら二人の姿を見送っていた。


●海辺のプリンスコンテスト
 日差しを遮るものもなく、太陽の光が強く肌を焼くというのに特設ステージの周りは大勢の人で埋め尽くされていた。彼らの目当てはステージで行われるコンテストへの参加や観覧である。ベストカップルンテストを控えたトリストラムと月泉、それに瑛は観客席の前の方を陣取ってコンテストが始まるのを待っている。
(やる気無い様子を出せば、最初の方で振り落とされるんじゃないかな)
 ステージ裏で待機中の男達に混じって、セリオスは名前を呼ばれるのを待っていた。主観が反映されるだろうから、こういうのではプリンスらしいプリンスが優勝するだろう、そう思って。
 辺りを見渡せば、こんがり肌を焼いたサーファーらしき男性や筋肉の凄いライフセイバーのような男性、軟派っぽいちゃらちゃらとした男に仲間の悪戯でエントリーされたと思われる気の弱そうな男性、そして明らかにウケ狙いだろうと思われる男性まで本当に様々な人種が揃っている。
(僕みたいなタイプは、世間が思うような王子キャラじゃないしね)
 本人はそう思っているらしいが、ここが海じゃなかったら彼は十分プリンスとして通用するのではなかろうか。
 プラチナブロンドの長い髪。氷のような蒼い瞳。厳しさや冷たさを帯びたその鋭い容貌に、ノックダウンされる女性は少なくないはずだ。
(さて、具体的に何をさせられるのかな‥‥)
 舞台裏からはステージ上が見えない仕様になっている。時折観客から歓声や拍手、どよめきや笑い声が上がるが、一体何が起こっているのかわからない。
 まあ大抵こういうのは自己アピールだろう、そう考えている間に時間は過ぎ、待機男性の数が減っていく。程なくして司会者が、セリオスの名を呼んだ。
 やる気なさげに返事をしたセリオスは、ステージに足を踏み出す。拍手が彼を包む。キャーとかワーとか黄色い声援が聞こえるのは気のせいだろう。
「ほー、これはまた美少年が現れましたよお客さん。惜しむらくは海よりも雅な室内のほうが似合いそうだということでしょうか〜」
 軽い感じの司会者が、勝手に総評を述べる。ほらやっぱり自分はこういう場所でうける容貌ではないのだ、と彼は思う。
 『海辺の』と冠されている以上、明らかに海の男的な男性の方が有利なはずだ。
「じゃあ、王子らしく自己アピールよろしく〜」
「‥‥王子らしく?」
 一体どうしろというのだ、セリオスは司会者をねめつけるように見て、そして一言。
「特になし。悪い?」
 冷たい瞳を観客席に向けて。これで振り落とされるはずだった。こんなやる気のない参加者を、次の審査に進ませようとなんて思わないだろう。
 だが。
「きゃー!! クールで素敵ー! もっと冷たくしてー!!」
「‥‥」
 観客席の一部からの熱烈な声援に、セリオスは思わず観客席を凝視した。女の子ばかりの団体、そこにどうやら彼の態度がクリーンヒットしたようだった。
 辟易してふと前列に居るトリストラム達を見やると、幼馴染は彼を見て笑ったかと思うと、月泉、瑛と顔を見合わせて。そして口元に手を持って行き、叫んだ。

「「王子様、素敵〜!」」

「‥‥」
 その声援に思わず額に手を当てて、セリオスは盛大なため息をついた。後で覚えていなよ、と心の中で思って。
「どうやら熱狂的なファンをゲットしたようだね〜。どう? 嬉しい?」
「いらない」
 しつこくマイクを向けてくる司会者を、心底鬱陶しく感じて言い捨てた彼だったがこれがまた逆効果で。黄色い声援が増えただけだった。


●戦果
「納得いかない」
「でも得したから、よかったんじゃないかな‥‥?」
 コンテストの結果は思わぬものとなった。さすがに優勝者はこんがり焼けたサーファーだったが、セリオスは特別賞を受賞したのだった。観客の黄色い声援がキーになったらしい。
 賞品は海の家の無料飲食券数枚。結果として、全てのコンテストが終わった今、海の家でカキ氷を目の前にしているわけなのだが。
「セディのおかげで僕達もこうしてタダで食べられるし、ね?」
 スプーン片手に笑むトリストラム。もしかしたら自分が意趣返しでエントリーした事を忘れているのではなかろうかと思わせるその笑顔に、セリオスは小さくため息をついて。
「月泉さん、そっちの味は美味しいですか?」
「ああ、一口食べるかい?」
 スプーンに載ったカキ氷を差し出され、意図せずあーんする形になった幼馴染は、戸惑いながらも嬉しそうにしている。瑛も相変わらず表情が解りづらいが黙々とカキ氷をほお張っているところからして、喜んでいるようだった。
(まあ、‥‥よしとしようか)
 ガラじゃないから言葉には出さないけど。
 大切に思っている幼馴染が喜んでくれているなら、それはそれでよかったのかもしれない――そう思うことにした。
 海はあまり好きじゃないけれど、たまにならこういうのもいいかもしれない――海の家の屋根の下から青い空を見つめて、セリオスはこっそりと口元に笑みを浮かべた。


                      ――Fin




●登場人物
・ha0166/トリストラム・ガーランド様/男性/17歳/プリースト
・ha0207/セリオス・クルスファー様/男性/18歳/ソーサラー

●ライター通信

 いかがでしたでしょうか。
 ソウルパートナーでもいつもお世話になっております。
 この度は、ご依頼有難うございました。
 世界観に囚われないノベルということですので、多少ソルパにない物体も登場していたりしますが…パラレル風ということで楽しんでいただければと。
 弄り歓迎という事で…少々弄らせていただきましたが、大丈夫でしょうか…。
 とても楽しく書かせていただきました。

 気に入っていただける事を、祈っております。
 書かせていただき、有難うございました。

                 天音
なつきたっ・サマードリームノベル -
みゆ クリエイターズルームへ
The Soul Partner 〜next asura fantasy online〜
2009年08月26日

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