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『『真夏の2人〜紅蓮〜(前編)』 』
葉山龍壱(mr0676)

「あのお店で水着売ってるかな、お兄ちゃん」
 少女が繋いでいた手を離し、麦わら帽子を片手で押さえながら浜辺を走っていく。
 白いワンピースがとても似合っている。
 舞い踊る銀色の髪は、涼やかな風を呼び、周囲に爽やかで心地よい空気を生み出している。
「おっ」
 彼女の可愛らしい姿に、サーファーの男達が目を止め声をかけようとするが、後を歩く葉山龍壱の姿を見て諦めたのか、そのまま海へと向かって行く。
「慌てなくても水着は逃げないぞ、鈴音」
 そう言葉をかけると、走っていた少女――葉山鈴音はくるりと振り向いて、眩しい笑顔を浮かべた。
「少しでも長く、お兄ちゃんと遊びたいから」
 軽く息を付いて、龍壱は微かに笑みを浮かべながら鈴音の元まで歩き、2人は再び肩を並べて店へと向かう。
「いらっしゃい」
 浜辺近くのその店には、海遊びに使える品々が多数揃っていた。
「水着……これはちょっと……かな」
 露出度の高い大人の水着を戻して、鈴音は胸にリボンのついた、可愛らしいビキニの水着を手に取るも……。
「それは少し早いだろ」
 龍壱はスクール水着のような紺色の水着を鈴音に差し出す。
「そ、それは卒業したのっ。もう、お兄ちゃんたら」
「そうか」
 龍壱は鈴音の気持ちを知ってか知らずか、水着を元の位置に戻すと、自分用の遊泳用海水パンツを迷わず選んで会計をすませる。
「それじゃ……これにする」
 数分後に、鈴音が選んだのはワンピースタイプの花柄の水着だった。
「あと、ゴムボートに乗りたいけど、買ったら持って帰れないかな?」
「そうだな。どうしても乗りたいのならレンタルするか?」
「うんっ」
 鈴音は微笑んで龍壱の腕をぎゅっと掴んだ。

 旅行で夏の島に兄妹2人きりで来た龍壱と鈴音は、誰にも邪魔されることなく2人でバカンスを楽しんでいた。
 今日は海で遊ぼうと約束しており、こうして準備を進めている。
「カキ氷食べてもいいかな?」
「構わないが、急いで食べて体冷やすなよ?」
「大丈夫、子供じゃないんだから」
 言って鈴音はカウンターに向かい、カキ氷を2つ注文する。
「お兄ちゃんはシロップ何にする? 私は苺かなー」
「何でも」
「それじゃ、宇治金時で! 私、宇治金時も食べたいから、ちょっと貰っちゃおっと」
 嬉しそうに言う鈴音の姿に、龍壱は表情を変えずとも安らぎを覚えていた。
 店内の木の椅子に腰掛けて、2人はカキ氷を食べ始めた。
 自分のカキ氷を食べながらも、龍壱の宇治金時を物欲しげに見る鈴音に、時々カキ氷を差し出してあげると、鈴音は喜んでスプーンストローですくって、宇治金時を食べて自分の苺カキ氷を差し出す。
 少し戸惑いもしたが、誰も見ていないこともあり龍壱も鈴音と同じように鈴音のカキ氷をスプーンストローですくって食べるのだった。
「ゴムボート乗った後に、もう一度このお店に来て、浮き輪やビーチボール借りて遊ぼうね、お兄ちゃん」
「陽射しも強い。ほどほどにな」
「そうだよね、お兄ちゃんが真っ黒になったらイメージ変わっちゃうしね……」
 鈴音は複雑そうな顔でそう言って、空になったカップを潰して、龍壱の手からもカップを取ってゴミ箱へ向かった。
「更衣室借りて着替えよっか」
 微笑む彼女に頷いて、2人は別々の更衣室へ向かった――。

 男性用の更衣室には、他に誰もいなかった。
 購入した水着に着替えると、龍壱は外へ出て鈴音を待つことにした。
 男性用の水着やビキニとは違い、ワンピースタイプの水着は少々着るのに時間がかかるかもしれない。
 日焼けを気にしていたようでもあったため、日焼け止めも塗って準備を万全に整えてくるだろう。
 数分……十数分、龍壱は更衣室の傍で待った。
 カタン
 小さな音が響いた。
 続いて、いくつもの物が落ちる音、倒れる音が室内から響いてくる。
「きゃあっ」
 響いてきた女性達の小さな悲鳴。更衣室の中からだ。
 流石に、女性の更衣室の中に入ることは出来ず、耳を澄ませ、神経を研ぎ澄ませながら龍壱は事態の把握に努める。
「鈴音、どうかしたか?」
 声を上げるが妹から返事はなく、代わりに女性が2人更衣室から飛び出してきた。
「どうした?」
「中に変な人が……っ」
「まだ女の子が1人います!」
 女性達はそう叫ぶと店へと駆け込んでいった。
 龍壱は更衣室の中へと飛び込む。
「……やめっ、お、兄……ちゃん……こな……でっ」
 抵抗しながらの声が響いた。
「鈴音!」
 駆け込み、木の床に足を踏み出したその時だった。
 激しい音が響き渡った。
 視界は真っ赤に染まる。
 理由も分からず、体は空に投げ出され、引きちぎられるかのような衝撃を受ける。
 飛び散った瓦礫に、肌が引き裂かれ、紅蓮の熱が体を焼いていく。
 理解をする間もなく、龍壱は店の屋根へと落下し、屋根をぶちやぶって店内へと落ちた。
「きゃああああああああーーーっ」
 鋭い悲鳴が響き渡る。
 “更衣室が爆発して、吹き飛ばされた”
 その事実だけ、龍壱は理解した。
 そして、鈴音が何者かに連れ去られたということを。

 意識は紅蓮の焔の中に沈んでいく。

   *   *   *   *

 熱い。
 酷く熱いが、風は吹いている。
 夏の熱い陽射しの中で、白いワンピースを着て帽子を押さえながら、浜辺を素足で駆けて行く妹。
 転ぶなよ。あまり遠くにいくな。
 彼女の背中に向けて、子供に言うような言葉をかける。
 いつもなら振り向いて、子供じゃないとか、大丈夫だとか、微笑みを見せる妹だが。 
 一切、振り向かず。
 ひたすら遠くへと。
 自分から離れていく。
 龍壱は慌てて走り出すも、鈴音に追いつくことはできなかった。

「大丈夫、ですか」
 心配気な声に、目を瞬かせる。意識を失っていたようだ。
 瞬きだけでも、痛みが体に走る。
「手当てはいたしましたが、ここは医療設備が整っていませんので、本島の方にすぐに運びます。船が到着するまでもうしばらくお待ち下さい」
 医者らしき男の言葉は、ほぼ頭には入らなかった。
「鈴音……妹は? 直前まで、更衣室にいたはずだ」
「わかりません。警備隊が動いていますから、貴方は安静にしていて下さい。」
 目を逸らした医者の腕を龍壱は強く掴んだ。
 自分の腕が見えた、巻かれた包帯に血が滲んでいる。引き裂かれるような痛みも走る。
「知っていることを話せ……ッ」
 言葉を発しただけで、嘔吐感が込み上げてくる。身体の状態はかなり悪いようだ。
「……ここ、数日ですが、島で少女が連れ去られる事件が起きています。犯人の目星は大体ついているようですので、ご安心下さい」
「犯人の居場所は?」
「北外れの屋敷らしいです。ここからは距離がありますし、港と反対方向ですので連れていくことは不可能です。島の人達にどうぞお任せ下さい」
 強く言うと、医者は部屋から出て行った。
 龍壱が寝かされているのは、木で作られた簡素な建物だった。
 ドアの向こうには、医者や他の患者がいるようだが、窓から外に出ることは不可能ではない。
 ――この体が動きさえすれば。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 専攻学名】

【mr0676 / 葉山龍壱 (ハヤマリュウイチ) / 男性 / 24歳 / 幻想装具学】
【mr0725 / 葉山鈴音 (ハヤマスズネ) / 女性 / 18歳 / 禁書実践学】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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なつきたっ・サマードリームノベル「真夏の2人(前編)」にご参加いただだき、ありがとうございました。
ノベルは三人称ですが、発注PC視点で書かせていただきました。
鈴音さんの方もご確認の上、苦戦は必死ですが、後編にもご参加いただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。
なつきたっ・サマードリームノベル -
川岸満里亜 クリエイターズルームへ
学園創世記マギラギ
2009年08月17日

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