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『+ 描いてみました。大好きだから + 』
ルド・ヴァーシュ3364)&ザド・ローエングリン(3742)&カレン・ヴイオルド(NPCS007)



 先日ルドとザドはエルザード城下で行われた夏祭りに参加した。
 藍色の縦縞の男性物の浴衣を纏ったのはルド。
 紺地に白の紫の花柄の模様の可愛らしい浴衣を着たのはザド。
 パレードや出店、そして花火観賞を楽しみながら夏の夜を謳歌した日はまだそう遠くない。その祭りのくじ引きにてザドは吹き戻しを手に入れたが実はルドもまたそれに参加しており、クレヨンセットを手に入れていた。十二本という基本の色だけが揃えられた本数ではあるが何かを描くには充分だ。


 開襟シャツの襟を掴んで空気を中に招き入れるようにぱたぱた扇ぐ。
 ルドは朝の買い物ついでに画帳を買い込み帰ってくると、パジャマから淡い色合いのスモック丈のチュニックに膝上キュロットパンツに着替えたザドに渡す。


「ザド、この間クレヨンセットを渡しただろ。あれを使って此処に何か描いてごらん」
「いいの?」
「クレヨンもこの画帳も物を描く為にあるんだから好きなものを好きなように描いていいんだよ」
「うん! かいてみるっ! へへ、何をかこうかなぁ。ぼく絵をかくのはじめて!」


 寝室に広げられたセンターラグの上、ベッドの隣に遠慮なく寝転がりながらザドは開いた画帳とクレヨンを握って構想を練る。
 最初のページに何を描けばいいのか本気で迷っているらしく眉間に深いしわが刻まれていた。けれどそれは機嫌の悪さを示しているわけではない事くらいルドにだって分かる事。なるべく気を散らさぬよう一旦部屋から外へ出て、再びこの部屋に戻ってくる。帰って来たルドの手に握られていたのは水の入ったコップ、そして其処に挿された野の花だった。
 邪魔しないようにさり気なく、かつザドの視界に入るようコップを置く。その際何の気無しにザドの手元を覗き込めばすでに幾つかページが進んでいる事に気付いた。


「ザド、これは何?」
「これこのあいだ見たぱれーど! きらきらしてて、おかしくて、きれいなの!」
「じゃあこっちのは?」
「これはね、とり! うみの上でみたたくさんのとり!」


 輝かしい笑顔で返答するザド。
 その表情が明るいものだからこそルドもつられて口元に笑みを浮かべる。これは? あれは? と繰り返し質問をする間もザドは表情をころころ変えた。静かに今までの軌跡を思い出すかのように描かれる絵達はザドの記憶そのもの。


 ルドはそっとザドの傍から離れ厨房へと向かう。
 用意したのは温めたミルクと紅茶の葉。漂うのは甘いティータイムの予感。
 自分は砂糖少なめ、ザドは砂糖は多め。そんな事を考えながらついでに買ったばかりのクッキーも皿に乗せて飾ってみる。


「ルド、みてー!」
「ん? 今度は何を描いた?」
「おはなー!」


 次は何が出来上がるだろうか。
 ザドの絵の出来上がりを楽しみにして戻ってきてみれば画帳の中には小さな野の花が咲いていた。



■■■■



 部屋にはザド一人。
 でも彼は寂しくなどなかった。


「ルド、よろこんでくれる、かな」


 出かけてしまったルドの事を思いながらクレヨンを動かすのはとても楽しかったからだ。
 絵を描くという行為がこんなにも心をわくわくさせてくれるのだと初めて知ったからだ。今までにも街で絵描きを見かけた事は何度かある。彼らが誰かの顔や時には風景、時には心の内を表現した心象画などを展示し、販売しているのに興味を持って眺めてきた。それを買う事は一枚もなかったけれど、絵を描く人達の顔はいつだって真剣で、そして楽しそうだった。


「ぼくだってルドがかえってきたらおどろかすんだ」


 きっと今の自分も彼らと同じ様な表情をしているんだろう。いや、そうに違いない。
 だって今自分が描いているのは――――。



■■■■



 エルザード城下、賢者の館。
 ルドはザドの……いや正しくはレプリスの情報を求めて其処を訪れる。だが偶然にも其処に彼女が居た。
 常ならば天使の広場で人々のために歌を歌う事の多い吟遊詩人――カレン・ヴイオルドの姿が。
 金色の長い髪に青い瞳。頭から被った布は相変わらず長く彼女の背を覆い隠す。愛器のハープは丁寧に磨かれているのか光沢が衰えていない。
 彼女はルドが異界から訪れた頃からの知り合いで気を許せる知り合いの一人である。彼女もルドの姿を見つけると一瞬目を見開いた。


「カレン、久しぶり。俺の事は覚えてるか?」
「ルドじゃないかお久しぶり! 元気にしてた?」
「ああ、この通りだ。ところでお前は今も相変わらず情報屋代わりの事をしているのか?」
「人聞きの悪い表現だなぁ。私はただ人々から面白い話を聞いてそれを歌にするだけだよ。まあ広報役みたいな状態になっているのは否定しないけどね」
「そうか。じゃあ一つ聞きたい事がある」


 こっちへとルドは手招く。
 其処は人気の無い通路。シン、と静まり返った空気がやけに肌に痛い。呼びつけられたカレンはその時点で彼が何か他人には聞かれたく無い話をしたがっていることを察した。愛用のハープも鳴らぬ様上から布を掛ける。
 ルドは一度目配せをした。


「レプリスという種族に聞き覚えは無いか?」
「レプリス……ああ、あるよ。あるけど、あんまり良い噂はないね。錬金術によるホムンクルスを元に科学技術を応用して生み出された人間的な思考を持った人工生命体っていうのは聞いてるよ。大抵の場合それは戦闘用だっていうのもね。人間的な感情と言っても稼働に支障がない程度しか植えつけられず、そのため上が命令すれば彼らは「何の疑問も思わず従ってしまう」んだとか。親が子供に命令する感覚で事が済むっていうんで、一部じゃレプリスという名を聞くのも嫌う人も居るくらいだ」
「じゃあ次。そのレプリスの中に製作者殺しで賞金首が掛かっている奴が一人いる。名はザド・ローエングリン。十六歳くらいの男の子だ。そいつに関して何か目立った情報はないか? そいつに対してエルザードにまで追っ手が掛かっているとか」
「……待って。ちょっと待ってよ。ルド。その質問何か変じゃない? まさかと思うけど貴方、そのレプリスを匿っているんじゃないだろうね」
「…………」
「っ、あっきれた! 図星!?」


 カレンが額に手を当て溜息を吐き出す。
 もっともな反応だ。むしろこの時点でルドはカレンに密告されても仕方の無い事を話していると自覚済みだ。しかしそれでも情報を提示したのは相手がカレンだったからだ。誰よりも多くの情報を集め、そして歌にする彼女。身勝手な噂も多く耳にした事だろう、しなければいけなかった事もあるだろう。けれど彼女は決してそれを悪用する人物ではない。
 ただ彼女は歌に認めるだけ。
 真実か嘘かなど彼女には重要ではないのだ。


「カレン、俺は情報が欲しい。でもそれはレプリスの情報じゃないんだ。俺が欲しいのはレプリスである『ザド』の情報だけ」
「個人的な感情に見受けられるけどその真意は?」
「……ザドは製作者を殺していない。親殺しではない。そう俺に訴えてきた、……最初は俺も疑ったさ。でも一緒にいる内に信じようと思えるようになった。あいつはあまりにも無邪気過ぎるんだ。逃げる内に誰かを傷付けてきた事に対してまで罪悪感を抱くくらい優しい心を持っている。そんなザドが無実だと言うなら俺はそれを証明してやりたい」


 真っ直ぐ相手を射抜く黒い瞳。
 其れが嘘を吐くような目にはカレンには見えなかった。何より思った事はストレートに口に出しやすい性格をしているルドの事。彼が問題のレプリスを今連ねた言葉の様に思っているのならばそれもまた事実の感情なのだろう。
 カレンは口元に手を当て暫し無言を返す。
 自分の中で集めた情報、その中から今のルドに開示出来るものは何か纏め、そして口にした。


「ルド、私が持っているレプリスの情報は割と大きいよ。簡単に口にしたら私までも危険に晒されてしまう。下手をすれば何も関係ない人を巻き込んでしまうかもしれない。だから今は良い事を一つだけ教えてあげる。エルザードにはまだレプリスの賞金首を追って誰かが侵入してきたという話は入ってきていない。代わりに何処かの海で追跡が途絶えてしまったという噂を一つ聞いた」
「そうか、それなら良かった」
「自分の身の危険を感じ、どうしても情報が欲しくなったらまた私の元においで。今の貴方にはまだ深い情報は与えられないよ」
「カレン、今回の事はくれぐれも」
「分かってる。内密にしておくさ」
「有難う」
「その代わりまた面白い話を聞かせておくれ。どうせ色んな場所を旅してきたんだろう? 私の知らない場所で何があったのか語っておくれよ。私は昼は大抵天使の広場で歌っているからさ」
 

 ルドが踵を返し再び何処かへと消えようとする。
 そんな彼の背中に向けてカレンはすっと片手を持ち上げ、彼を見送った。


「そういえば、ザド・ローエングリンは中性だという話を聞いたが……あれ、ルドってば男だって言ってなかった?」



■■■■



「ただいま。ザド、大人しくしてたか?」


 ルドが帰宅すれば部屋一面に散らばる数々の紙があった。
 その中心にいるのはザド。部屋を出た時同様床に寝そべってクレヨンで何かを描いている姿が目に入った。挨拶の声が彼の耳も届く。すると今まで描いていた画帳を両手でしっかり掴み持ちながら彼はルドの元へと駆け寄った。


「ルド、おかえりなさい! ね、みて! これ、かいたの! ぼくね、ルドをかいたんだよ!」


 胸を張って見せたのは似顔絵。
 それは決して上手いとはいえない子供の絵柄。だけど其処に篭っている気持ちはしっかりとルドの胸に届いた。何枚も何枚も描き直したことは散らかっている他の紙を見ればすぐに分かる。それだけ彼はルドを思いながら描き込んだのだ。
 ザドがルドを慕っている事は一目瞭然。
 紙の上で笑顔を浮かべているルドの姿――そして今ザドの目の前で同じ様な笑顔を浮かべているルドの姿。


 ザドは嬉しかった。
 ルドが自分の描いた絵を見て笑ってくれた事を。

 
「ああ、上手に描けたな」
「じゃあつぎは、ルドが、ぼくをかいて!」
「……は?」
「かいて! ね、かいて!」


 ザドの頭を撫でて褒めていれば何やらお願いが飛んでくる。ルドの頭からたら、と汗が零れ落ちる。すすすすす、と視線を横に滑らせると彼はザドに頭をやんわりと押した。


「食事の用意をしなきゃな」
「ねー、かいてってばー!」
「お腹すいただろ。俺は空いたんだ。さあ、用意するからまた何か描いてろ」
「るどー!」
「出来たら呼んでやるから」


 ページを捲り白紙の画帳をルドにべしべしと叩きつける様に要求してくる。
 そんな子供染みた要求が可愛いと思える反面、要求された事柄には逃げの体勢を取り続ける。


 毎日が楽しい。
 ザドと過ごす日々が。
 ルドと過ごす日々が。


「るーどー、かいてー!」


 まあ時にはこんなことがあっても――。







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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【3364 / ルド・ヴァーシュ / 男性 / 26歳(実年齢82歳) / 賞金稼ぎ / 異界人】
【3742 / ザド・ローエングリン / 中性 / 16歳(実年齢6歳) / 焔法師 / レプリス】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、発注有難う御座いました。
 日常の一コマを切り取らせて頂きました。絵を描くという行為は自分の中の思いを表現するのに使われるものの一つ。ルド様への想いが伝わってますように。
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
蒼木裕 クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2009年08月10日

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