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『怖夜・肝試し 』
朔月(gb1440)

『その日、貴方の身に何かが起こる』

ありきたりなキャッチフレーズと共に描かれているのは、不気味に描かれた廃病院。
元々は大きな病院だったが、時代と共に廃れていき潰れてしまったのだとか‥‥。
あまり評判の良い病院ではなかったらしく、周りの住人達も「いつかは‥‥」と言う者も少なくはなかったらしい。
それから十数年、とある企画会社が病院を借りて『お化け屋敷』を夏の間に開催する事になった。
「病院だから結構な雰囲気が出るぞぉ」
企画者は何処か嬉々として呟くが、彼には見えていない。
自分の周りを取り巻く数多の幽霊達に。

そんないわくつきの廃病院で開催される肝試し――‥‥。
夕方以降はまた別の顔を見せるお化け屋敷で貴方達は何を見ますか?」

視点→朔月

「ふぅん‥‥実際の廃病院を使ったお化け屋敷かぁ‥‥」
 朔月はお化け屋敷の広告を見ながら小さく呟き、携帯電話を手に取る。
「舞も最近は自分の仕事変えたりで忙しくて夏を満喫する暇もなかっただろうしな」
 友人を失ったり、仕事を変えたりで確かに最近オペレーターに転向した室生・舞は朔月の言う通り、夏を楽しむ暇もないだろう。
 そこで朔月は舞を気分転換の意味も含めて今回のお化け屋敷に行く事に決めたのだ。
「もしもし? 舞? 俺、朔月だけど」
 数回のコールで舞は電話に出て「こんにちは、どうかしたんですか?」と恐らく電話の向こうでは首でも傾げていそうな口調で言葉を返してきた。
「何か面白そうなモノ見つけてさ、舞も最近忙しかっただろうし息抜きと思って俺とお化け屋敷に行かないか?」
 朔月の言葉に「お化け、屋敷ですか」と少し固まったような口調で言葉を返してくる。どうやら心霊関係は舞は苦手のようだった。
「いや、忙しかったら別にいいんだけど」
「いえ、折角朔月さんが誘ってくれたんです、今から着替えて行くのでお昼くらいになっちゃいますけど大丈夫ですか?」
 舞の言葉に「あぁ、大丈夫だ」と朔月は言葉を返して待ち合わせ時間と待ち合わせ場所を決めて電話を切った。
「さて、俺も準備するかな」
 朔月は大きく伸びをして、自身も準備を開始し始めたのだった。


 あれから二時間ほどが経過しただろうか、朔月は予定よりも早めに待ち合わせ場所に来て壁に背中を預けて舞を待っていた。
「ごめんなさい、ちょっと遅れてしまいました‥‥っ」
 小走りで駆けて来るのは舞、白いキャスケットが飛ばされないように手で抑え、ずっと走ってきたのだろうか息も荒く乱している。
「遅れたって言っても10分も経ってないから大丈夫だよ、それじゃ行こうか」
 朔月は舞の手を引っ張って廃病院の中へと足を踏み入れた。入り口付近に包帯をぐるぐると巻きつけた男性が受付係として立っている。
「お二人ですね、女の子二人だけど大丈夫かな〜?」
 受付係の男性はどこかからかうような口調で受付を済ませてギギィと妙な軋み音を鳴らしながら扉を開いて二人を病院内へと入れたのだった。
 廃病院の中は薄暗く、扉が閉められると光源が極端に減り、少し先が見えるくらいの明るさしかない。
「あ、あの‥‥」
 廃病院に入って数メートルを歩いた時に舞が朔月を呼び止め「ん?」と朔月は立ち止まって舞を見やる。
「あの‥‥その、暗くて怖いので‥‥手を繋いでもいいですか?」
 舞の言葉に朔月は「くすっ」と小さく笑って「いいよ」と左手を差し出す。
 その時だった。外来、と古ぼけたプレートが下げられた部屋から「わぁっ!」と両手を挙げて脅かそうと血まみれ白衣を着た男性が勢いよく出てくる。
「きゃあっ!」
 舞は驚いて朔月にしがみつくのだが、朔月は「あー、うん。どうも」と言葉をお化け役の男性に投げかけてスタスタと先を歩いていく。
「さ、朔月さんは怖くないんですか?」
 ぎゅう、と朔月の手を強く握り締めながら舞が問いかけると「うん、別に怖くないかな」と朔月は天井を見上げながら言葉を返す。
 普段は命をかけてキメラやバグアと戦い、スラム育ちの朔月にとってこの廃病院の暗さや雰囲気など恐怖するに値しないものだった。
「さて♪ 次はあっちでも行ってみようか、手術室だって〜♪」
 舞の手を引っ張りながら朔月は楽しそうに手術室の扉を開く。どちらかといえば朔月は『お化け屋敷』を楽しんでいるのではなく『怖がる舞の反応』を見て楽しんでいるようにも思えた。
「‥‥誰だ、手術中に‥‥入って、来るなんて‥‥」
 手術台の横に立つ男性が背中を見せながら手術室に入った朔月と舞に話しかける。よく見ればその周りには血まみれの女性達もおり「ふふふ」や「くすくす」と可笑しそうに笑う声が響き渡っている。
「あぁ、もしかして‥‥患者なのかな? そうだったら手術台に横になりなさい‥‥生きて帰れる保証はないけどねぇぇ!」
 医者役の男性が大きく叫ぶとガシャンと周りの者を散らかしながら手術台の上に横になっていた女性が勢いよく起き上がる。
「きゃああああああっ!」
 舞が涙目で悲鳴を上げると、女性達はげらげらと笑いながら朔月たちへと近寄ってくる。朔月は舞を連れて手術室から出て「大丈夫だって、あれは生きてる人間なんだから」と苦笑混じりに言葉を掛ける。
「そ、それは分かってるんですけど‥‥」
 舞はそう答えながら先ほど自分達がいた手術室をチラリと見る。扉の向こうから強くバンバンと叩く音が聞こえ「逃げるなぁぁあ」と呻くような低い声が聞こえてくる。
「ほら、もうちょっとで終わりみたいだから」
 くすくすと笑いながら朔月は舞の手を引っ張って出口へ向かって歩き出す。
「あれ?」
 出口が近づき、外の光が差し込んできた時、出口の前に立つ女性に気づいて朔月が小さく呟いた。
「あの人も、お化け役なんでしょうか‥‥」
 舞は朔月の手を握り締めながら小さな声で呟き、女性の横を通る。
「ねぇ、私の欲しいものをくれない? 代わりに貴女たちの欲しいものをあげる」
 通り過ぎた後、妙に甲高い声で朔月たちは話しかけられる。
「別に難しいものじゃないのよ、誰でも持っているもので、たまにはソレを捨てる人もいるくらい」
 くすくすと女性は「それは‥‥」と言葉をつけて朔月たちの前へと立つ。
「命だよ! 私は死にたくないのよ、ねぇ、お願い。貴女たちの命を私に頂戴!」
 そう言って両手を前に突き出して女性は追いかけようとするのだが「きゃああああ!」と舞はひときわ大きな悲鳴をあげながら一目散に出口へと走っていってしまった。
「あ〜らら、俺、置いてきぼりかよ」
 苦笑しながら舞の背中に向かって呟き「俺の欲しいものをくれる、か」とポツリと呟き、朔月も出口から外へと出たのだった。


「ごめんなさい‥‥怖くて朔月さん置いていっちゃいました‥‥」
 しょんぼりとしながら舞がペコリと頭を下げて謝ってくる。
「気にすんなって、俺も面白いもの見られたしさ」
 それじゃ帰ろう、朔月は呟きながら帰路へとつく。

「俺が欲しいもの――‥‥欲しいのは命だよ」
 舞の背中を見ながらポツリと呟く。
 その言葉は舞に届くはずもなく「くっ」と何処か闇めいた笑みを浮かべて朔月は舞の後を追いかけたのだった。


END


――出演者――

gb1440/朔月/13歳/女性/ビーストマン

――特別出演――

gz0140/室生・舞/15歳/女性/週刊記者

――――――――

朔月様>
いつもお世話になっております。
今回『なつきた』を執筆させていただきました水貴です。
終盤を少しダークと言うことでしたが、ご満足して頂けるものに仕上がっているでしょうか?
面白かったと言ってもらえるものに仕上がっていれば嬉しいです。

それでは、今回は書かせて頂きありがとうございましたっ。

2009/8/7
なつきたっ・サマードリームノベル -
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2009年08月10日

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