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『『夏の夜風に抱かれて〜光の花言葉〜』 』
リリー・エヴァルト(ha1286)

 夏の陽射しは強すぎて、痛みを感じてしまうから――。
 リリー・エヴァルトは、パラソルの下で浜辺で遊ぶ人々を見守っていた。
「リリー暑くない? 水分補給忘れずにね」
 アーク・ローランが保冷バッグの中から、水筒を取り出してリリーに渡す。
 彼の笑顔もまた太陽のようで、リリーも微笑みを浮かべて水筒を受け取った。
「ありがとうございます。アークさんも遊んできて下さい。私はここで見てますから」
 海遊びが見たいと誘ったのはリリーだった。
 アークは軽く首を左右に振って、顔を海の方へ向ける。
「交代で姫を守る権利を貰ってるから」
 目を向けた先には、浜辺でビーチバレーを楽しむジェイリー・ベイガーの姿があった。
 交代、の約束ではあったが、時間を忘れて遊んでいるのはほぼジェイリーの方で。
 アークはこうしてリリーの傍で、彼等らが楽しむ姿を共に見ていた。
 泳ぐ予定のないリリーは服を着たままだ。
 アークは、遊泳用のゆったりした水着を穿き、上半身にはシャツを羽織っていた。
「肌が痛いぜ〜っ」
 試合を終えたジェイリーが2人の元に駆けてくる。
「真っ赤ですよ、ジェイリーさん」
「色男だね、ジェイリー」
 白い肌を赤く染めたジェイリーに、リリーとアークが笑みを向けて言う。
「こんがり焼けて食べごろだぜ、お1つ如何? リリーちゃん」
「いりません。食べたら無くなっちゃいますから……」
 2人の間に入り込むジェイリーに微笑みながらリリーが水筒を手渡すと、ジェイリーはそのまま水筒に口をつけて、一気に水を飲み干した。
「それじゃ、そろそろ行く? 今日はぬるめの湯がよさそうだね」
 アークは保冷バッグや荷物を担ぎ、パラソルを片付けていく。
「よーし、お待ちかね温泉タイムだ!」
 立ち上がったジェイリーがリリーに手を差し出し、リリーは彼の手を掴んで立ち上がる。
 傾いた日の光が、一瞬だけリリーに降り注ぐ。
 だけれど、彼女に向けられる光は、2人の金髪男性の笑顔だけで、熱い太陽の光は彼女の元に直接届きはしない。
 ごく自然に、荷物を持ったアークが太陽の出ている方向に立っているから。いつでも。

●ナンパ師2人
「アークさん、ジェイリーさん……?」
 水着に着替えたリリーは、地下通路を通って2人より先に露天風呂に着いていた。
 水着着用可の混浴の岩風呂だ。
 別の場所で汚れでも落としているのだろうかと、壁の傍で2人を待つことにした。
 直後。
「彼女、1人で来たの? 可愛い水着だね」
 声をかけてきたのは、金髪の男性だった。隣にもう1人、茶色の髪の男性がいる。
 2人ともへらへらと笑みを浮かべている。
「あ、はい……。水着、着たの初めてなんですけれど……」
 変じゃないだろうかと、リリーは僅かに顔を赤らめる。
「でも……」
 1人じゃなくて、連れがいると言うよりも早く、金髪の男性がリリーの腕を掴んだ。
「一緒に遊ぼうぜ。うーん、可愛い!」
「サイコーだね。俺好みだ」
 言って、体を寄せてくる2人の男性にリリーは戸惑う。
 この人達……。
 そんなに“この水着が好みなんだろうか”と。
 でも、妹がデザインしてくれて、皆のアイディアで作った大切な水着だし。
 申し訳ないけど、あげることはできないな、と。
 ごめんなさいと口を開こうとしたその時。
「俺等の連れに何の用?」
 ぐいっと、金髪の男の肩が引っ張られ、男がよろめく。
 男の後ろにある男性の姿に、リリーは安堵の笑みを浮かべた。
「アークさん」
「ごめん、遅くなって」
 真顔だったアークも、いつものような笑みを見せる。
「俺より先に彼女の水着姿を見やがったなーっ!」
 アークの後には悔しげに拳を握り締めているジェイリーの姿がある。
「一緒に遊ぶ? 結構ハードな遊びになると思うけど?」
 にっこり。アークは男達に微笑む。
「それとも、じゃんけんで決めるか? 俺が勝ったら、彼女は俺のもの! お前等が勝ったら、俺がお前等と一日中遊んでやるぜ〜っ!」
 にこにこと問いかけるアークとジェイリーに、男達は軽く舌打ちをすると何も言わずに去っていった。
「……遅かったですね。肌、痛いんですか?」
 リリーが心配気に問いかけると、ジェイリーはアークを見、アークは軽く目を逸らした。
「肌は大丈夫。んと、ここに来る途中、難所というか……障害物があってさ!」
「うん。2人して罠に嵌っちゃって。さすがテーマパーク!」
 微妙な顔で笑い合う男性2人を不思議そうに見つめた後、リリーも一緒に笑い出す。

 ザバンと勢い良く湯に入り「いてぇ」と言葉を漏らしたジェイリーに続き、シャツを木にかけてアークも湯に入る。
 リリーはお湯を体にかけて熱さを確かめてから、ゆっくり片足を入れる。
 ブラウン地に白いユリの絵が描かれた水着は、彼女にとても似合っていた。
 長い髪は1つに縛って上部でまとめている。
 はみ出た毛先が軽く首にかかっていて、それがまた悩ましく美しい。
「可愛いなぁ……リリーちゃん。そりゃナンパされるわな」
「けど、ジェイリーはハイレグが好きなんだよね?」
「アークは、ビキニ好きだろ。さっきもビキニの娘ばかり気にしてたし」
「おっ、鋭いね」
「俺はハイレグだけが好きってわけじゃなくてな、単純に刺激的な水着姿が好きなんだっ」
「それじゃ、2人でリリーにプレゼントしてみる? ハイレグビキニ」
「それも捨てがたいっ、捨てがたいが、今度は水着着用不可で、バスタオルOKな旅館がいいぜっ。胸元のバスタオルを掴んで、蒸気でほんのり顔を赤らめながら、さっきのように片足をそっと入れる姿とか見たくね?」
「……何話してるんですか」
 リリーは思い切り苦笑しながら、2人に近付く。
「男同士の大っ切な話だ。聞いたら火傷するぜ、リリーちゃん」
「そうそう」
「殆ど聞こえてましたけど」
 リリーは浮かべた手をぎゅっと絞り、お湯をぴゅっと飛ばす。1メートルくらい飛んだ湯が、ジェイリーとアークに降りかかった。
「お風呂の遊びです」
 くすくす笑うリリーに、ジェイリーがにやりと笑みを浮かべる。
「上手いねリリーちゃん、でもプールや海ではこうやって遊ぶんだぜ」
 両手で湯をかいて、バシャバシャとジェイリーはリリーに湯をかける。
「あっ、や、やめてください」
「こらジェイリー、リリーがのぼせるだろっ」
 アークはジェイリーに湯をかける。
「うわっ、やめろって……いてぇし!」
「ここプールでも海でもないですよ、二人とも」
「逃がすか〜っ」
 笑いながら温泉から上がろうとするリリーの腕を、ぐいっと掴んでジェイリーが湯の中に引込む。
「捕まえた。悪戯姫」
 湯の中に落ちそうな体を、アークが支える。
「逃げられません、ね」
 3人。笑い合って、もう少し温泉を楽しむことにする。

●お持ち帰り
 温泉から上がって、和気藹々と夕食を済ませた後、3人は施設内のバーで酒を楽しむことにした。
 時間が早いこともあり、客の姿はあまりない。
「さあさあ、リリーちゃんも飲んで飲んで」
 ジェイリーがグラスに強い酒を注いで、リリーへと渡す。
「私、飲めませんので。ご存知ですよね、ジェイリーさん」
 リリーはくすくす笑いながら、酒を遠慮して林檎ジュースが入ったグラスに口をつけた。
 酔い出すと調子に乗ってジェイリーが変なことをし出すことは、もう良く解っているので自分で頼み、自分で管理していたジュース以外は飲まないでおこうとリリーは決めていた。
 悪乗りしてジュースに酒を混ぜてくるなんてそんなこと……彼がしないはずないから!
 本当はお酒の勧めも少しは受けたいのだけれど、少しでも飲んだら眠ってしまうほど弱いので、こればかりはどうすることも出来なかった。
「それじゃ俺が貰うよ。丁度これ飲みたかったし」
 ジェイリーがリリーに飲ませようとして注文した酒は全てアークに回っていた。
(……そういえば、アークさんがお酒を飲まれるところって殆ど見た事が無いような)
 リリーはアークと飲みの席で同席したことは何度もあるのだけれど、彼が酔うほどに飲んだ姿は見たことが無い。
「こっちのワインもお勧めだぜ〜」
 勿論、それとは別にジェイリーはアークにもどんどん酒を勧めていく。

「おーれーはじぇいりー♪ 夏季大笑〜♪」
「よっ、夏のジェイリー最高!」
 バーが賑わってきた頃には、ジェイリーは椅子の上に立ってボトルをマイクに歌い出しており、アークもいつもより陽気になっていた。
 酔っていないリリーは少し恥ずかしくもあったけれど、2人合わせて、酔って呂律が回らなくなった彼の歌を新鮮な気持ちで楽しみ、拍手を送っていた。
「皆〜! 今日は俺の為に集ってくれれサンキュぅなーーーーー!」
「違いますって、ジェイリーさん」
 歓声に応えるかのように両手を上げるジェイリーに、リリーはくすくすと笑い出す。
「ありがとう、ナンパ師アーク、ありがとう、女神リリー♪」
「ありがとうー、超ナンパ師ジェイリー」
 突如、アークはがばっとジェイリーに抱きついた。
 そして、次の瞬間。
「ありがと〜、ひめー」
 リリーが息をするより早くアークが飛びつき、ぎゅぅぅっと抱きつく。
 リリーは思わずグラスを落としてしまった。
 自分の状況がちょっと解らなくて。
 軽く混乱しながら、ぺたんと椅子に腰掛けたジェイリーに目を向ける。
 もしかしてこの人酔ってます? ……と、彼の肩からリリーはそんな視線をジェイリーに向ける。
 アークは変わらず抱きつきながらすっごい嬉しそうな笑みを浮かべている。
「アーク……お前ってやつは……っ」
 リリーがぐいっと、アークの肩を掴み、アークはビクリと反応しリリーから手を放した。
「独り占めはずるいぞー♪ 部屋にお持ち帰りだ〜♪」
 が、ジェイリーは2人にダイビングするかのように飛びついて、2人纏めてぎゅっと抱きしめる。
「よぉし、酒も肴も持ち帰って、部屋で勝負だなじぇいりー」
 アークも再び2人にぎゅっと抱きつく。
 グラスや食器が落ち、床に散乱していく。
 飛び付かれて強い衝撃をうけたリリーは軽く眩暈を感じた。
「……あの、すみません、が……」
 ついに。
 たまりかねて、バーテンダーが3人の前に立ち、申し訳なさそうな顔をリリーに向ける。
「すみま、せん。すぐに2人とも――持 っ て 帰 り ま す の で」
 どこかしら凄みのある顔でリリーは艶やかに微笑んだ。

●空の華
(のぼせちゃったら、一晩中扇いでいてあげるよ……なんて言って下さったのに)
 温泉で遊びながら、ジェイリーはそんなことをリリーに言っていたのだが。
 案の定、部屋で大の字になって倒れているのはジェイリーで、団扇を手にリリーが扇いであげていた。
 アークはバーから出るなり「夜風に用事が、いや、夜風を呑んで、いや酒が夜風で……行ってくる!」と、なにやら目を合わさず捲くし立てて、非常口から外へ飛び出していった。
 相当酔っていたと思われるので、心配だったけれど……寧ろ、誰かが被害に合わないかと。
 酔いが回ってふらふらしているジェイリーの方も放ってはおけなかた為、リリーは彼と一緒にとりあえず部屋に戻ったのだ。
 戻った途端、ジェイリーは爆睡……。
 ふう、と溜息をつきながら、外を見ると、ちょうど夜空に光の華が咲いたところだった。
 最上階の部屋だから。光の華――打上げ花火を美しく観ることができる。
「大人しくしてて下さいね?」
 リリーは静かに声をかけた後、窓に近付く。
 窓を開けると、生温かい夜風が入り込んでくる。
 寒くはないので、少しくらい夜風にあたっても大丈夫だろうと、リリーはバルコニーに足を踏み出した。
 途端、小さくなっているあるモノに気付く。
「……こんなところにいらしたのですか、アークさん」
 非常階段からバルコニーに出て、ここまで伝ってきたのだろう。
 酔った状態で危ないなーと思いながら、リリーはしゃがんでいるアークに近付いた。
「気分、悪いんですか?」
「いや、大丈夫……ご、ごめん」
 どーん。
 音と共に、パッと空に華が咲く。
「花火、綺麗ですね……」
 ガン。
 立ち上がろうとしてぶつけたのか、アークが手を押さえながら立ち上がる。
 手すりの上で手を組んで、アークは夜空に顔を向けた。
「綺麗、だね」
 月の淡い光の中、ふわりと風に舞う金色の髪に目を留めて、リリーは柔らかく微笑んで、隣に立って夜空を見上げた。
「私も……さっきは、ごめんなさい。私だって、いきなり男性に抱きつかれたら驚きます、から」
「いきなりじゃなきゃ、いい?」
 その声は隣ではなく、後から響いてきた。
「花火の音で目が覚めた〜。よかった、一緒に見たかったんだ」
 ふらふらとバルコニーに出てきたジェイリーが、2人の間に入り込む。
「……必要な時も、ありますよね」
 そう答えてリリーは視線を夜空に戻す。
 バリバリバリ――。
 音と共に、模様が浮かび上がる。
 仕掛け花火だ。
 今度は花ではなくて、ピンク色の多数のハートマークだった。小さなハートマークがハート型に散りばめられている。
「あれ俺、俺が依頼しといたやつ!」
「ジェイリーらしいね」
「ほんと……」
「花火のテーマが愛だったからな、直球勝負だぜ〜っ」
 花火を指差してはしゃぐジェイリーに、アークとリリーは笑みを見せる。
 夜の街に続いて浮かび上がった模様は、黄色のガザニアの花だった。
「……実は俺も、依頼してあったりして」
 アークが悪戯気に笑う。
「カザニア、ですか」
 リリーはぐっと手を伸ばして、それから手すりの上で両手の指を絡めた。
「私もこっそり、依頼してあります」
 少しはにかんだ様子に、左右の男性は期待した。
 幾つかの仕掛け花火の後、夜空に大きく浮かび上がったのは――。
 大きな三毛猫の顔だった。
「あれ? 俺じゃねぇの、リリーちゃん!?」
「猫の姫様、だね」
「はい」
 アークの言葉に微笑んだリリーの肩に、ジェイリーの腕が回される。
 アークの肩にも腕が回されて、2人とも強く引き寄せられた。
「テンション上がってきたぜっ」
 ジェイリーは2人の肩に腕を回したまま、ぎゅっと目を閉じて嬉しそうに叫んだ。
「よぉぉーし、2次会に行くぞー!!」
「行きません。また飲む気ですか」
「う……っ、遠慮しておく」
 顔を合わせて、3人は笑い合った。
 続いて――白い光の花が夜闇に浮かび上がる。
(これも私の依頼だと、気づいて下さいますか?)
 リリーはそっと、2人に目を向けた――。

 花火の音が響き渡る。
 夜空に沢山の花々が咲いていく。
 人々の歓声も。
 喜び、笑い合う声も一緒に。
 夜の浜に響き渡り、華を咲かせている。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / クラス】

【ha1286 / リリー・エヴァルト / 女性 / 21歳 / ハーモナー】
【ha0721 / アーク・ローラン / 男性 / 19歳 / 狙撃手】
【hz0011 / ジェイリー・ベイガー / 男性 / 25歳 / ハーモナー】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ライターの川岸満里亜(マスターの沢渡 心)です。
なつきたっ・サマードリームノベルにご参加いただき、ありがとうございました。
リリーさんを沢山描かせていただけて嬉しいです。
リリーさんには、酔ってなくても抱きつきたいという感情をつい抱いてしまいます。

ご一緒に参加された、アーク・ローランさんのノベルの方と、2箇所ほど視点の違いが出ている場所があります。
是非、アークさんのノベルの方もご覧下さいませ。

またどこかでお会いできましたら、とても嬉しいです。
本編の方では大変お世話になりました。陰ながら応援しております。

お2人に良い未来が訪れますように――!
なつきたっ・サマードリームノベル -
川岸満里亜 クリエイターズルームへ
The Soul Partner 〜next asura fantasy online〜
2009年07月31日

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