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『+ 駆ける夜は独りと二人―後編― + 』
ルド・ヴァーシュ3364)&ザド・ローエングリン(3742)&(登場しない)



 かえってくるって、いった。
 おいかけるから、っていった。

 だけど。
 だけど。


 こわい。
 ひとりは、とても、こわい。



■■■■



「っ、る、ルド、っ」
「ッ――ザド、止まれっ」


 ぼくたちは走る。
 海にむかって、走る。だけどルドがぼくのうでをつかんだ。ひっぱられて、かべにかくされて、おおきなルドのうでがぼくを包む。あと少しで海なのに、と口にしようとしたけれどルドがこわい顔をしていて何もいえなくなった。
 だけどそんなぼくに気付いてくれて、ルドはしゃがみこんでくれる。肩にのせられた手がおおきくて、あたたかい。でもそれは走ったせいだとぼくは知っていた。


 ぼくたちは今、にげているのだ。
 だれか、から。
 ルドの目がぼくを見る。黒くてぼくとはちがう、ほそくてきれいな夜、みたいな瞳が。
 そこにはぼくがうつってる。
 こわくて、涙をうかべはじめた、ぼくの、かおが――。


「追っ手が其処に居るんだ。分かるか。お前を追いかけている連中だ。……しかも今までお前が出逢った奴らの中でも特別タチが悪い男がいる」
「おって?」
「良いか、俺が今から言う事を良く聞いて行動してくれ。あそこに船が一隻停まっているだろう。あれはエルザードという場所に向かう船でもうすぐこの港を出航する。俺が追っ手連中の気を引き付けるからお前はあの船になんとかして乗り込むんだ。そして乗り込んだら誰にも見つからないよう隠れてろ」
「ルドは、ルドは、どうするの?」
「俺は後から追いかける」
「や、やあっ!」
「ザド、言う事を聞くんだ」
「や、だ、って、だって、ルド、」
「俺はこの翼で飛んで追いかけるから」


 首をふった。
 たくさんたくさんふった。でもルドはぼくの涙をゆびでふいてくれるだけでいっしょにくるとは言ってくれない。あくまで「船に乗って隠れていろ」といいつづける。いっしょにいるのが「危険」だってぼくにだって分かる。でもルドが「危険」なのは、ぼくのせいだ。ぼくが、たくさんヒトをきずつけたからだ。
 服のはしっこをつまんでもルドは「だめ」、と言う。
 「あとから」と。
 「今」じゃなくて、「後から行くから」と言う。
 ルドのおおきなつばさは黒くてちからづよい。でも、でも。


 じぶんの中、ぐちゃぐちゃになってく。
 こわくて、ぐるぐるして、むねがいたくて、いきが出来なくなりそうで。


 だけどルドはぼくのせなかをおす。
 その手はとてもやさしいけれど、その目はとてもこわい。「行け」とルドは言う。ぼくは走るしかできない。
 まえへ。
 まえへ。
 くらくてしらないばしょで、こけないように、まえだけを見て。



■■■■



 ふねが海をすすむ。
 「この船はお月さまとお星さまを道標に進んでいるんだよ」とだれかが言っているのが聞こえた。その後にこどもがうれしそうに笑う声がつづいた。ふたりは「おやこ」らしい。


 ルドとのやくそく、まもった。
 だけどふねの中にはかくれられなかった。ルドは「誰にも見つからないように隠れてろ」って言ったけれど、むり、だった。甲板というばしょでぼくは一人、ひざをかかえてすわる。
 空にはお星さまがきれいにかがやいている。でも、そのひかりの中にルドがいない。ひとりで眠ることなんてできない。


「ルド……」


 眠いけれど、眠りたくなかった。
 このせかいはこわい人だけじゃないってしっている。やさしい人もいるってしっている。だけどだれがこわくて、だれがやさしいかなんてすぐには分からないこともぼくはしっている。
 だから、ほかのだれかのがいるばしょなんて、行きたくない。
 あたまに手をあてて、ひざにかおをぶつけて、ずっとルドのことばっかりかんがる。その方が、いい。


「……ぁ、っ」


 シュル、と音がした。
 そしておちた。
 あかいリボン、が。ルドがむすんでくれた、リボン、が。


―― 指先を動かすと言う事は頭を動かす事にもなるらしいぞ。自分で綺麗に結べるように頑張ってみろ。


「ルド……むすべない……よぉ」


 がんばってゆびをうごかしても、かみをまとめても、うまくいかない。
 なきたかった。さけんでしまいたかった。
 こわいよ。
 こわいよ……って。
 でもルドもこわいって思っているかもしれないって、思った。ぼくをにがしてくれたルドだって今こわいって思っているんじゃないかって、そう思ったら泣けなくなった。眠れなくなった。
 リボンを手にぐるぐるまいてにぎる。
 ぎゅっと、おとさないように。


 このままかえってこなかったら?
 ルドがこのままいなくなってしまったら?
 

 かたかたかた。
 ……ゆびが、ふるえる。
 かたかたかた。
 ……はが、がっきみたいに、なる。


 リボン、ぎゅっと、ぎゅぅっとにぎってこわいの、がまん。
 ルドはとんで追いかける、と言ってくれた。
 だからぼくはそらを見る。お星さまが見えなくなってきてとてもふかい青い色があかるくなってくるまでずっと、ずっと。
 お日様が見えるようになると、目がいたくなってきた。ねむらないって、すごくつらい。目がかわくような、気がした。


「と、り……だぁ」


 いち、にー、さん。
 今にも眠ってしまいそうだから、かずをかぞえてみた。ひとさしゆびを立てて、そらに向けてふる。……だけど、その中のいっぴきがへん。
 おおきなつばさ、おおきなからだ。
 まっくろい鳥――ちがう、あれは。


「ルド!」


 あれはルドだ!
 ぼくはちかづいてくるルドのすがたを見つけたんだ。


「ルド、ルドッ」


 追いついたルドが空からまいおりてくる。
 それはほんものの「鳥」みたいなすがただったけど、鳥なんかよりちからづよい、ぼくがまちのぞんでいた人だった。


 立ちあがって、走る。
 ふねにのりこんだ時、よりも、速く。
 ルドがふねに足をつけるよりも、早く。


「ふぇ、ぇええ、る、ルド、ルドぉ……ッ!」


 だきついて、しがみついて、かおをすりつけて、ぼくは泣いた。
 こころぼそかったけれど、たえた涙がほっぺたをとおって、ぽたぽたぽた、と、おちて、く。どこにこんなたくさんのなみだがかくれていたんだろう。ぼくのちいさなからだにどれだけかくれていたんだろう。
 ぽたぽたぽた。
 ぼくは泣く。
 ルドはぼくを抱きしめてくれた。頭をなでてくれた。
 その手はやさしく、ぼくのだいすきななで方だった。


「ただいま。……おかえり、は?」
「……おかえり……。ルド! ……ルドっ……」


 目もにらんでない。
 ぎゅうって、ぎゅうって、してくれる。むねのおく、が、あたたかい。
 あんなにもいたくていたくてしかたなかったばしょがほわっとしていく。ぼくのかたにまわったて、せなかにふれるて。二つともすき。大好き。


 ほっ、といきの音。
 ルドがからだの力をぬいた音。
 あんしんしてる。こわいって思ってない。よかった。……よかった。


 目がおちてく。
 けしきが見えなくなって、ぼくは眠る。ルドがいなきゃねむれない。また、ひとり、はいや。


 ルドがつばさをしまってぼくをだっこしてくれる。
 そのままルドの服にゆびをひっかければ、リボンが……、おち、……、て。



■■■■



 ゆめをみたくないと、おもった。
 ひとりでみるゆめは、きっと、こわい。


 めざめればぼくはまたひとり?
 ちがう。
 今はルドがいる。


 ふねがどこかにつくまで、ぼくたちは、眠る。
 そしておきてぼくはびっくり、するんだ。


 かがみ、そこにうつるぼく。
 そのかみにはあかいリボン。
 うれしくてわらいながら、ルドがおきるまで、まつ。
 そのじかん、すき。


 ねえ、ルド。
 おかえりなさい。おかえりなさい。


 だいすき。
 おきたらたくさん、言う。だから今は、おやすみなさい。ルド。







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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【3364 / ルド・ヴァーシュ / 男性 / 26歳(実年齢82歳) / 賞金稼ぎ / 異界人】
【3742 / ザド・ローエングリン / 中性 / 16歳(実年齢6歳) / 焔法師 / レプリス】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、今回は前後編での発注有難う御座いました!
 前半ルド様視点(ルド→ザド)、後半はザド様視点(ザド→ルド)と言うことでこのような形にさせて頂きました。離れた時の互いの心中をメイン表現致し、いつもとは違った雰囲気に致しました。どうか想いが届きますように。
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
蒼木裕 クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2009年07月06日

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