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『空白の時間、伊勢 』
ガイエル・サンドゥーラ(ea8088)

●崩壊
 自身、良く分からないままに伊勢へと足を伸ばした彼女、ガイエル・サンドゥーラ(ea8088)は果たして、壁となり行く道を阻む断崖を眼前にする。
「‥‥っ、これは」
 改めて周囲を見回し、伊勢へ足を運ぶ際に必ず用いる見慣れた街道である事を確認して‥‥その光景に唖然とする。
 確かに街道から少し離れた先には小さいながらも山があり、崖崩れでも起きれば眼前の壁位の高さになってもおかしくはないのだが‥‥そう考えつつも、脳裏に嫌な予感が掠める。
「まさか」
 だが、生憎とガイエルのその不安は的中する。
 街道を外れ、迂回する形で道なき道を進んでみるも‥‥小さな山を中心に外へ向け、放射状に周囲へ満遍なく岩の壁がそそり立っていた。
「外部と断絶された、とでも‥‥だがこの程度なら、昇れなくもないか」
 とは言え元となった山より高い筈はなく、視線を上げつつ不安定な足場を昇り始める彼女だったが、何処からか羽音が聞こえてくればそれに舌打ちを一つ響かせる。
「ちっ‥‥!」
 随分と聞き慣れたその羽音だけで上空から飛来するのが悪魔だと何となくで察し、その数の多さから早く詠唱紡ぎホーリーにて数度牽制だけすれば、惑わず踵を返してその場を急ぎ離れる。
「これでは簡単に往来が出来ん、ましてや普通の者ならば。しかし断絶する事で何が狙いだと‥‥我々の存在か、それとも」
 やがて背後より悪魔の群れの追撃がない事を確認した上で駆けていた歩を緩め、歩きながら思案するガイエルは先の捜索で見付けていた、小高い丘を登らずとも使えそうな岩壁の隙間を前にしていた。
「‥‥何とかなりそうだが、余り使いたくはない道だな」
 その、何時崩れるか分からない壁を前にしつつ、しかし引ける筈もない彼女は慎重に岩壁に挟まれた道を歩き‥‥やがて、眼前に見えた伊勢市街の様子に大きく変わった様子がない事から安堵しつつも冷静に、次に取るべき行動に思案を巡らすのだった。

●流動
 果たしてあれから無事、伊勢の街中へ辿り着いたガイエルは程無くして市街を散策していたアシュド・フォレクシーと偶然ながらに遭遇する。
「‥‥良くもまぁ来たものだな」
「この程度、冒険者としては嗜みだろう」
「かもな」
 良く状況を知っているのだろう、友人の顔を見て驚きつつも溜息を漏らす彼にガイエルは平然と言葉を返せば、苦笑を湛える彼だったが
「で、一体どう言った状況になっている」
「ふむ‥‥」
 次にはすぐ、ガイエルに詰め寄られると浮かべた苦笑は即座に消して応じる。
 小物ばかりではあるが悪魔が最近、アドラメレクの引き金だろう大量に伊勢へ介入して来たと言う事と直後に街道沿いの山を中心に崩落を起こし、外部との分断を図っていると言う事を。
 今もまだ続き、しかし伊勢藩に斎宮も対応こそしているが‥‥全てがカバー出来ず、いずれは確実に分断される懸念が高い事も。
「成程、しかし良くもこれだけ投入してきたな」
 その話を聞き、しかし表情は小揺るぎもせずにガイエルが頷けば此処最近、音信不通だった事に頷く‥‥情報網が未だ完全でなければ、外部への連絡こそ優先したいも民の事を考えてその対応だけで手一杯なのだから。
「その代わり、アドラメレクがいなくなった様だ。確認はまだ取れていないが‥‥」
「悪魔の方でも内部に何かしら、大きな動きがあったか」
 そしてその思案の後、空を見回せば必ず目にする子悪魔の群れに溜息を漏らすガイエルへアシュドはもう一つ、情報を与えると再び思考を巡らせて後に答えの一つに辿り着く彼女だったが
「ともあれ、伊勢内外の出入りを監視する悪魔は散ってこそいるが全戦力の大半は一部に集結しつつある。まだ恐らく、時間は掛かるだろうが‥‥」
「いずれ、決戦があると」
 アシュドとしては未確認の情報よりも現状を見据えるからこそ説明すれば、頷いてガイエルは眦を上げ、空を睨む‥‥しかし、それは僅かな間だけ。
 声はやはり揺らいでこそいなかったが、僅かに瞳の奥底だけ揺れる事は抑えられないままに一つ、未だ不安視している件について尋ねるべく口を開く。
「‥‥それと、ルルイエの事だが‥‥」
「探してはいるが、今はこの状況だ‥‥そればかりは言ってもいられまい」
「そうか」
 しかし、魔術師の口から返ってきた答えはある意味では予想通りのもので‥‥だからこそ、今度は平静を保って頷けば
「まぁ、以前の様に落ち込んでいない様子だけ分かれば一先ずは問題ないだろう」
「‥‥っ」
 向き合うアシュドの様子を一通り見たからこそ安堵してそれだけ言えば、今まで表情を崩さなかった彼も漸く呻いて渋面湛え‥‥しょうがないとやがて割り切ってか、溜息をもらした後。
「とりあえず近く伊勢藩に斎宮の要人が集まって相談が行われる。此処まで来たからにはガイエルにも手伝って貰うからな」
 くるり、踵を返しながらもそれだけ言えば歩き出すと微かに口元だけ緩めガイエルは彼の後に続き、歩き出しながら応じた。
「分かっている、元よりそのつもりだ」

●奪還
 それからまた一月か二月の後‥‥伊勢と外部の断絶は皆の健闘虚しく果たされれば、伊勢に蔓延っていた妖の群れに悪魔の軍団はいよいよ揃い、侵攻を開始する。
 目標は天岩戸、全勢力を傾けての進撃に伊勢藩に斎宮も持つ全兵力を注いでそれに応じれば伊勢では過去に前例がない程の大規模な戦いが幕を開ける。
「やはり数が多いと、捌くだけでも一苦労だな‥‥!」
「主にはしっかりして貰わんと困る、愚痴を言うより速く『白焔』を振るえいっ」
「『白焔』を持っているだけで同格に見て貰いたくはないが‥‥そうも言っていられないかっ!」
 その中、しっかりと駆り出されていたガイエルもまた身に似つかわしくない大振りな大刀を振るい、天岩戸の間近で群れる小悪魔を切り落としていたが‥‥朝から続く戦闘に珍しく毒づくも、直上にて激しき閃光を周囲へ迸らせる天照大御神に叱咤されれば溜息を漏らしながら周辺へ視線を巡らせた、その時。
「‥‥何だ?」
 視界の片隅、天岩戸の袂に何時の間にか人が倒れている事に気付き‥‥そして、その人物が誰かとすぐに気付けば、戦いの最中である事も忘れ慌てガイエルはその人物の元へ駆け寄ろうとするが敵の層も分厚く、たたらを踏む。
「この羽虫共が‥‥っ」
「要石の壱と伍が破壊されましたっ!」
「ちっ」
 その様子に何事か、視線を巡らせて天照もまた気付くが一層激しさを増す妖に悪魔の進撃にいよいよ怒りも最高潮に、次いで要石に在する守備部隊からの定時連絡だろう報告も受ければ舌打ちを一つした後、決断を下す。
「悩んでおる暇はなさそうじゃのぅ‥‥妾もいい加減に飽きた故、止むを得んな」
「何をされるつもりで」
「見ておれば分かる、主は暫し妾の周りに羽虫がこん様に動けば良い!」
 その、ただ事ならぬ様子に視線を天照へ戻して尋ねるがそれには命令だけ持って応じれば直後、命に従い聖なる領域を一息で展開すると暫しの間だけ持った結界が崩れると同時‥‥光に包まれた天照は次いで、天岩戸へ五条もの光の楔を打ち込む。
「ふん、これだけ楔を打ち込んでおけば問題なかろう」
「しかし‥‥」
「引くぞ! 藩主、全体へ指示を出せぃ! それと誰か、彼女を拾えぃ!」
 そして暗雲払った光は消え、やがて小さな姿に戻った天照。
 その、唐突に変貌した神の様子にただならぬ事を感じたガイエルは惑うがやはりそれは受け付けられず、何事もなかったかの様に天照が大音量で命令を下せば‥‥それ以上は惑えず、遠く天岩戸の近くに横たわっているルルイエ・セルファードが誰かに担ぎ上げられるのを見て安堵すると改めて今、自身が出来る事をすべく魔法を織り紡ぐのだった。

 果たしてこれが伊勢の空白を埋める一年かと言えば、決してそんな事はない。
 正式な発表はなく、ただ一人の冒険者とそれに関わった者らだけが事実として認識しているだけ。
 だが、それでも良いのかも知れないとガイエルは思う。
「平和になるのなら、な‥‥」
WTアナザーストーリーノベル -
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Asura Fantasy Online
2009年07月02日

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