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『雨霧夜想曲 』
スラッシュ1805)&(登場しない)

 しと、しとり。
 雨が窓を叩く音が聞こえて、青年はふと顔を上げる。
 光を伝えぬ仄暗い工房に、ランプの明かりを灯したのはいつのことだっただろう。彼は壁に掛かった時計を見て、小さく嘆息した。短針が指し示すのは、夕刻六時を少し過ぎた頃だった。
 ――スラム街の一角、工房を兼ねた歯車仕掛けの商品を取り扱う店にて。
 懐中時計の修理作業をしていたスラッシュは、手にしていた工具を置いて窓の外を見遣った。昼前からどんよりと曇っていた空は、いつもより尚暗い陰を工房内に落としている。
「少し、休憩にするか」
 午後に入ってからずっと作業を続けていた青年は、ぽつりと呟きをこぼして席を立った。香箱車にゼンマイ。それらに連なる、机上に散らばっていた部品を整理しようとした時だ。
 雨音だけがしめやかに響く店内で、突如荒々しく扉を開く音が駆け巡った。
 前触れのない騒音に驚いたスラッシュは、ガンギ車を取り落としそうになって慌てる。何とか受け止めた歯車にほっと息をつくと、彼は工房から繋がるカウンター越しに、店の戸口へと目を向けた。
 簡素な扉の前には、一人の青年が荒い呼吸を繰り返しながら立っている。この雨の中を走ってきたのだろうか。
 スラッシュよりも幾分年上に見える青年は、肩を上下させて濡れた服から水滴を払った。
「いらっしゃ……」
「すいません! あの、ここでオルゴールの修理をして貰えるって聞いたンすけど」
 対応に出たスラッシュの言葉を満足に聞く前に、男は忙しなく尋ねる。黒い髪に、焦げ茶の瞳。白い色素の目立つスラッシュとは、まるで正反対の濃い色を持つ客人。
 彼の言葉にやや圧倒されたようで、ゆっくり頷いたスラッシュは、けれど別段慌てた様子もなくカウンター脇の椅子を指差した。
「話はゆっくり聞こう。まずは呼吸を整えて」
 幾ら温暖な気候とは言え、雨に打たれれば体力も削がれる。だと言うのに全力疾走でもしてきたのか、客人は息を整えながらも激しく咳き込んでいた。
 ささやかな配慮からの勧めだったのだが、客人は「いや」と首を振ると腕に抱えた何かを差し出す。
「俺には時間がないんだ。その、あんたにはこれを直して欲しいんだよ」
「それは……オルゴールか」
「ああ、ゼンマイも、多分歯車も錆び付いちまってる」
 コトリ、と小さな音を立ててカウンターに置かれたのは、古びた木製のオルゴールだ。布に幾重にも包まれていたお陰で、水一滴すら付いていない。滑らかな木目が、長い年月を経て今ここにあることを伝えてくる。
 客人が明言した通り、ゼンマイ部分は酸化して錆び付いていた。確認の為に木箱の蓋を開けてみれば、音を奏でるシリンダー・ムーブメント部分も所々錆がきていた。
「これは俺の親父のオルゴールなんだ。親父はずっと大事にしてて、でも、もう随分前から鳴らなくなっちまって」
「それで、俺の所に? 時間がないというのは?」
 オルゴールの点検をしながら、スラッシュは問いかける。しかし彼にそれを尋ねられた途端、客の青年は水を打ったように黙り込んでしまった。
 何故か神妙な表情で口を閉ざした青年を、スラッシュは無言で見つめる。
 やがて客人の口から告げられたのは、青年のとある昔話だった。
「……実は俺、昔親父と喧嘩したまま家を飛び出したんだ。将来のことでずっと悩んでて、家が自営業ってんで、本当は店を継がなきゃならなかったんだよ。けど、俺には夢があったから、どうしても親父の言いなりにゃあなれなかった」
 今にも涙を浮かべそうな苦悶の表情で、客人は語る。その短くまとめられた想い出の中には、どれほどの苦悩が詰まっていたのだろう。
 湿った空気が二人の間で淀んで、風のない店内を満たしていく。
 どちらともなく黙り込んだ時、客人は「でも」と途切れさせた話の続きを口にした。
「あれから十年……やっと自分の仕事に自信がついて、故郷に戻れると思ったってのに、帰り着いた家で待ってたのは、既に危篤状態の親父と親父の看病で疲れ切ったお袋の姿だった」
 悔やんでも悔やみきれないのか、青年はとうとう双眼一杯に浮かべた涙を幾筋もこぼして泣き出した。
 あの時家を出なければ、という想いが。或いはもっと早くに帰っていれば、という想いが、青年の中でせめぎ合っているようだった。
「原因がよくわからないらしいんだ。医者も匙を投げてる。だからこれ以上病状が進む前に、せめて親父の好きだったこのオルゴールを聴かせてやりたいんだよ。これまで親孝行なんて呼べることも、何一つできてないんだ。もし親父がこのまま死んじまったら、俺は……ッ」
 声を押し殺しながら、それでも懸命に鼻を啜って涙を拭う。そんな客人の様子を、スラッシュは眺めていた。ひしひしと伝わる哀願に、彼は何を重ね、何を見出したのだろう。
 しんみりとした光で縁取られていた銀の瞳が、一転して強い意思を宿す。
 それからオルゴールを両手で抱え上げたスラッシュは、「わかった」と一言紡いで頷いた。
「年代物だ。完璧に元通りとは行かないだろうが、できるだけ早く、より元の状態に近しくなるよう修理してみよう」
「ありがとう」
 もう一度しっかりと頷いたスラッシュに、青年は名前と連絡先の住所を伝えて別れを告げる。来た時同様忙しなく去って行った客人を見送って、スラッシュはオルゴールと共に工房へと戻った。
 雨は、まだ止まない。先程よりも更に窓へ建物へと打ち付けてくる。すっかり外は暗くなり、工房内も蒼黒の闇に包まれていたが、彼は構わず机上のランプを付けて工具の確認を始めた。
 油ややすり、念の為に今手元にある換えのパーツまでもを引っ張り出して、スラッシュは漸く椅子に腰を落ち着ける。修理作業の開始だ。
 まず、動かないゼンマイの錆を取り、潤滑油を差してみた。これでまともな音色を奏でられるならば、錆取りと簡単な調音以外に無為に手を加える必要はない。
 オルゴールも、謂わば一つの楽器だ。パーツをすべて換えてしまえば、音は綺麗に響いても、長年客人の父が愛した音は二度と戻らない。
 そうなれば、彼らはどれほど気を落とすだろうか。
 きっと彼らはスラッシュに、「修理してくれてありがとう」と笑って言うのだろう。けれどそこに、本当の笑顔が浮かぶことはないように思われた。
 ゼンマイを三度巻く。多少の調音ならば、そう時間はかからないだろう。そう考えた青年の予想は、しかし呆気なく裏切られた。
 雨音に、不器用に櫛歯を弾く音が響く。
 音が飛ぶことこそないが、音量の微細な変化やノイズが、嘗ては美しかっただろう音色に不協和音を落とした。
 スラッシュは小さく落胆のため息をつくと、オルゴールの中蓋を外した。木箱に安置されたシリンダーを取り出して、パーツを分解してみる。三十本もの櫛歯は、幸いなことに演奏へ支障を来していないようだ。
「となると、香箱かダンパーの方か」
 独りごちて、調べた香箱には特に異常が見られない。櫛歯の裏を見てみれば、なるほど。やはりダンパーが摩耗して切れていた。
 残響音を止める為の、ストッパーの役割をする部品だ。これが壊滅状態にあれば、音はきちんと響かない。
 部品を必要最小限に貼り替え、彼は何度も調律を繰り返す。
 巻いては音を聴き、再びバラして調整を重ねる間も、時間は刻一刻と過ぎていた。
 指先に全神経を集中させながらも、スラッシュの考えることは一つだ。苦しげに涙を流した、あの青年の手助けになるようにと、工具を握る手に一層意識を傾ける。
 まるでその手が命を注ぎ込むように、オルゴールは少しずつ、本来の音色を取り戻していった。
 何秒、何分、何時間。
 時刻の感覚も曖昧になるほど、スラッシュは休む間も入れず作業に没頭した。たった数分の休憩時間すら、今の彼には惜しく思われたのだ。
 あの青年の最初で、もしかすると、最後になるかもしれない親孝行。
 何もしてやれなかったと、悲嘆に暮れる青年の想いが、彼の父親へと伝わるように。
(今にも死に逝きそうな人に、何もしてやれないほど辛いことはない)
 静謐の心にふと浮かぶ、青年の必死の形相が悲しくて。
 ……同時に、彼の父親へ向ける感情は、確かに温かかったのだと。
 オルゴールに籠もった気持ちを感じればこそ、スラッシュはそれに精一杯応えられる仕事がしたいと思ったのだ。

 ◇ ◆ ◇

 如何ほどの時が過ぎた頃だったか。
 家々の明かりも殆どが潰え、夜の帳に街が寝静まった深夜。
 スラッシュはそれまで片時も離さなかった工具を、そっと机の上に置いた。
「できた……」
 彼自身も、半ば呆然と呟いた言葉。しかし、一度口にした途端、言葉の意味はストンと青年の中へ落ちてくる。
 錆付き、時代の流れに置いてきぼりにされたオルゴール。その修理の終わりを自らの声が告げた時、スラッシュはまさしく風の勢いで工房から駆け出した。
 ポールハンガーに掛かっていた上着を羽織るなり、手入れが終わったばかりのオルゴールを腕に抱え込む。
 そのまま飛び出した店の外では、既に雨が上がっていたらしい。水の一滴降りかかることなく、代わりに冷たくベタ付いた雨期独特の空気が、スラッシュの頬にまとわり付いた。
 雨上がりの夜の街は、霧に包まれて僅か先の建物もぼやけて見える。
 蜃気楼のような景色の揺らぎに、昼間からひっきりなしの作業で疲れた目が輪を掛けて視界を惑わしたが、青年は客人に教えられた住所を目指して走った。
 夜のスラム街は、殊更治安が悪い。戦闘能力は人並み以上の自負もあったが、敢えて人気のない道を選びながら迂回した。
 運悪くゴロツキに絡まれ、万一オルゴールが壊れようものなら、修理をした意味がない。
 幾つもの細い路地裏を通り、辿り着いた青年の家は、スラム街でも端っこの方にあるこぢんまりとした一軒家だった。
 大きくはないが、極端に荒れた様子もない。隣に納屋のような小さな個室が連なった民家は、どこかスラッシュの工房と似た雰囲気を伴っていた。青年の父親は、職人気質の人物なのかもしれない。
 時間が時間だ。勢いのままここまで来てしまったが、常識的な面を考えて、ノッカーにかけた手を止める。
 扉を叩いてもいいものか幾分迷ったスラッシュだったが、家の中に小さな明かりが揺れているのを目に留めると思い切って二度ノックした。
 程なくして、開かれた扉の向こうからは、青ざめた青年の顔が覗く。夕刻の、オルゴールを預けた客人だ。
「あんた、修理人の……」
「夜分にすまない。オルゴールが直ったので、一刻も早く届けた方が良いと思ったんだが……やはり時間を考えた方が良かったか」
 僅かに目を見開いてスラッシュを見た青年は、彼の懸念とは裏腹にゆるりと首を振って家の中へと促した。
「あぁ、いや、助かった。何てグッドタイミングなんだ」
「グッドタイミング?」
 青年の返事に驚いて尋ねると、スラッシュはオルゴール箱を抱えたまま家へと入る。内装も決して広いとは言えなかったが、こざっぱりとした清潔感が漂っていた。
 家の至る所には木工細工の品々が飾られ、奥に続く廊下の先には、小さなランプの灯りが揺れている。
 青年に案内されて足を踏み入れた部屋では、ぽつりと置かれた寝台に小さな影が横たわっている。白髪交じりの黒髪に、スラッシュよりも身長の低いだろう老人。
 顔色は青年よりも真っ青で、浅い呼吸を繰り返している。落ち窪んだ頬は、皮と骨ばかりが浮いて危うげな印象を与えた。
 ベッドの縁に肘を付いて、祈るように顔を伏せているのは、老人の奥方だろうか。こちらは中年ほどの女性で、やはりその髪には白髪が交じり始めていた。
 恐らく彼らが、スラッシュへオルゴールを預けた青年の両親なのだろう。
「さっき、体調が急変したんだ。毎日の薬も欠かさず同じ時間に飲んでるし、これまでは元気がなくとも、落ち着いて日々を過ごしてた。なのに――」
 ギリギリと軋みが聞こえそうなほど歯噛みした青年は、声を詰まらせて咽び始める。その声に気付いた母親が顔を上げたが、突然の来客にも驚いた様子なく弱々しい笑みを向けた。
「これを」
 二人へ無言の頷きを返したスラッシュは、一言だけを告げて青年へ木箱を差し出した。
 剥がれ落ちたつや出しのニスまでも補修されたオルゴールは、年季が入っていながら真珠のような光沢を返している。
 それを、ガラスでも扱うような手付きで慎重に受け取った青年は、「ありがとな」と万感の感謝を込めて受け取った。そのまま父親の枕元までやって来た青年は、こぼれそうになる涙を呑み込んでオルゴールのネジを回す。
 壊れないように五回巻いたゼンマイは、彼が手を離すと、ゆっくりと回転を始めた。
 息を吹き返したようだとでも言うべきだろうか。
 流れ出した音は、清廉な調べを静寂に響かせる。
 月星がそっとまたたくような、或いは夜を一滴の雫に詰め込んだような。
 そう形容するに相応しい、穏やかな音色が流れていく。傷み錆び付き、とても数時間前まで動かなかったとは思えない柔らかな音色。
 歌い聞かせる、子守唄のようにも聞こえる旋律。曲名はノクターンだ。
 ロマンチックな、それでいて囁きを灯す静かな音は、物悲しさと相反する安穏が詰め込まれている。
 横たわる父親の枕元へ据えられたオルゴールは、櫛歯を弾きながら空気を震わせるほどの音を奏でた。微細な震動がベッドに伝わって、やがてそれに気付いたように、父親がうっすらと瞼を持ち上げる。
 父親は何を言うでもなかったが、その瞳に微かな残光が見え隠れしていた。遙かな郷愁へ馳せるような、懐かしい香りの憧憬を宿して。
 始めはスムーズに流れていた音楽が、終演へ近付くにつれ、徐々にその勢いを落としていく。
 ポロンポロンと途切れがちに、ともすれば消え入りそうな調子で跳ねた歯は、やがてシリンダーの回転が完全に止まった時、演奏を終えた。
 十分にも届くかという間じっと音を聞いていた四人は、そこでほぅ、と感歎の息をついた。それは自らがオルゴールを作り出すスラッシュとて同じ事だ。
「これは……」
 それまで満足に喋ることもできなかった父親が、やっとの思いで声を絞り出す。
 からからに掠れた弱い声だが、重みある威厳の欠片を感じさせた。嘗てはきっと、厳格な父親だったに違いない。
「親父、喋るなよ。体調がよくないんだ、安静にしてねぇと!」
 青年は嘆願するように言ったが、父親はゆっくりと一度だけ首を振った。再び開いた口は、胸の内にある言葉を伝えきるまで決して閉じられないだろう。
「儂がまだ若い頃、オルゴール職人の友がおった。奴はお前のように奔放な男でな、ピアニストの父親が音楽家の道を歩ませようとするにもかかわらず、オルゴールの魅力に取り憑かれた男だったよ。儂は父の後を継いで木工職人になったもんだが、奴の心情を理解できん半面、羨ましくも思っとった」
 雲が流れるくらいの遅い調子で、噛み締めるようにゆっくりと紡がれる声。それは青年の心にもスラッシュの心にも、じんわりと染み込んで行く。
「だが、奴ははやり病に冒されてな。ある日奴にこんな話を持ちかけられた」
 僕がオルゴールを作って、君がオルゴールのケースを作る。何て良い案だと思わないか?
 告げられて、乗せられるもんかと一度は蹴った話だったが、幾度も幾度も説き伏せられる内に、嘗て若者であった老人はとうとう承伏したのだと言った。
「それが、このオルゴール?」
 青年が聞けば、父親は無言で頷く。表情という表情を映さなかった老人の顔が、そこで柔らかな笑みを浮かべた。
「まさか、再びこの音を聴けるとは思わなんだ」
「彼が、俺に修理の依頼を」
 父親の喜び混じりの言葉に、一歩進み出たスラッシュが青年を一瞥して言う。彼に出来る手伝いは、ここまでだったが――。
 聞かされた真実に、半眼で天井を見つめていた父親はしっかりを目を開けて青年へ視線を移した。乾いた瞳に浮かぶのは、驚愕と感謝の涙だ。
「お前が、これを……。そうか、ありがとう。儂は……お前に何一つ親らしいことをしておらんな。今際の際になって言うのも、今更かもしれんが……お前は、自由に生きていい。儂の工房を継いで欲しいと思ったのは、本心だ。だがな、お前が型にはまり、親の言い付け通りに引かれた道の上を歩くのは、性に合わんだろうよ」
「親父! 違う、俺が……俺の方が、親父に何もしてやれてねぇんだ!」
「そんなことはない。お前が元気に育っただけで、儂にとっては立派な親孝行だよ」
 母さんも憔悴しとるだろうから、よろしくな。そう呟いて、父親は一つ深呼吸をした。肺の中へ取り込んだ空気を、残らず吐き出しきって、老人は瞼を閉じる。
「少し、喋り過ぎたのう。疲れた、儂は寝る」
 それから、まるで元気だった頃のように憮然と告げると、やがて微かな寝息を立て始めた。先程とは打って変わって、安らかな呼吸を繰り返す父親は、憑き物が落ちたように穏やかな表情浮かべている。
「それじゃあ、この辺で」
 親子の和解の一部始終を見届けたスラッシュは、静かに微笑んで踵を返した。彼を引き留めようと口を開きかけた青年だったが、スラッシュはそれを遮ってスラム街の闇へと消えていく。
 礼を言おうとしたのだろうが、スラッシュには不要のものだった。
「いや、寧ろこっちが礼を言いたいくらいだ」
 夜道を歩きながら、彼は小さく独りごちる。浮かぶ表情は安寧に彩られ、空を見上げた銀の瞳にはいつの間に晴れたのか、満点の星空が広がっている。
 その星々の一つ一つを数えながら、そう言えば、と先程の親子を思い返した。
 あの親子は、まるでオルゴールのようだと。
 一つ一つの部品が噛み合わなければ、綺麗な音は紡がれない。長く放置し、メンテナンスを怠ればたちどころに壊れてしまう脆い芸術品だ。だからこそ、人は壊れないよう、大切に保管するのだろうが。
「どんなに壊れても、きっと人の手によって直すことができる」
 知らず微笑んで、スラッシュは妙案を思い付いたように手を打った。
 次のオルゴールは、そう、ノクターンにしよう。
 僅かにアレンジを入れて、三十櫛歯の良い物を。木箱の装飾は、あの店に頼もう。
 ――あの青年の父親が、いつかもしも元気になった時。
 そんなことを考えながら、スラッシュは寝静まった裏通りの家路を急いだのだった。

◇ Fine ◇



◇ ライター通信 ◇

スラッシュ様。
こんにちは。この度は、再びのシチュエーションノベル発注ありがとうございます。
前回発注頂いたシチュエーションノベルとは打って変わって、今回は静かな感情描写を中心にした物語となりました(前回作品を気に入って頂けたようで、心より感謝致します)
ご依頼頂いた発注内容を読んで、オルゴール絡みの物語という部分に密かにときめいたのはここだけのお話です。書き手個人がオルゴール好きということもありまして、この物語を書いている最中、常に傍らでオルゴールが回っていました。
実はこの作品に出てきたオルゴールも、自分の気に入っているオルゴールをモデルにしたものだったりします。
長い間放置してメンテナンスを怠ると、オルゴールはあちこち欠陥だらけになってしまいますが、それでもきちんと修復されるもので。
それはこの物語の親子の関係にも当てはまるのではないか、と、こういった形の物語に仕上がりました。
もの悲しく静かな、けれどその中でもじんわり温かい何かを感じて頂ければ幸いです。
それでは、再びのご縁に感謝し、またのご縁があることを願って。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
待雪天音 クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2009年06月25日

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