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『関東爆走団☆絽参是留守☆姐御伝説』
黒・冥月2778)&鈴木エア(NPC3109)

□prologue
 時は夕ぐれ。
 二人は付かず離れずの距離を保ちながら歩いていた。
「私が彼に手を出すわけないだろう?」
 黒・冥月は、相手を気遣うように殊更優しい声でそう切り出した。ラッピングで使うセロファンを一巻き、両手で抱えている。
「はぁ……、あの、私、全然全く、本当に気にしてませんから!!」
 鈴木エアは、いかにも無理な作り笑いを浮かべて、すすっと冥月から半歩離れた。リボンやワイヤーの入った買い物袋を左右に一つずつ持っている。
 冥月がふらりと花屋に立ち寄ったところ、エアが買い出しの準備をしていたのだ。店で使うセロファンやリボンが間に合わないので、急遽近くの商店街まで出るという。買い出しの品々のメモを見て、冥月が付き添いを申し出た。
 そして、二人は……。
 微妙な距離を保ちながら、買い出しの帰路についていた。
「泣き出しそうなエアを気遣う奴は真剣だったぞ、もっと自信を持て」
「そ、そんな! わ、私、泣き出しそうなんかじゃなかったですよぉ!」
 いや、泣き出しそうだった。
 その言葉を胸にしまい、冥月は柔らかく微笑む。二人は何を言っているのかと言うと、バレンタインに冥月が義理チョコを花屋の店主に渡したのだ。その現場をエアが目撃した。義理チョコ(それも、たまたま数が余っただけの)だ。けれど、エアがあらぬ誤解をした。本当に、誤解だった。
 冥月の気遣いと、懇切丁寧な説明によりエアの表情は随分明るくなってきた。
「えーと。色々気を使ってくださって有難うございます。まだまだ意思疎通はちょっとしかできませんけど、私、頑張ってみます」
「ああ、それが良い」
 二人は笑いあい、並んで歩きはじめた。

□01
 花屋まであと少し。最後の十字路を曲がろうとした時だった。
「あら、あの人達、何してるんでしょう?」
 エアが足を止めた。見ると、壁によりかかるように少年がうずくまっている。その周りに4・5人の少年がたむろしていた。
 見ようによっては、気分の悪くなった若者とその仲間達、という感じ。
 ただ、うずくまっている少年の表情を見ると、それほど深刻な状況ではない、と冥月は思った。
 それでも、エアは心配そうに少年達へ歩いて行った。
「あのー、その方どうされました? 大丈夫ですか?」
 少年達は、訝しげにエアと後ろの冥月を見比べる。
「あー、いやぁ、大丈夫ッつかー」
「なー」
 言葉を濁しながら、少年達がエアににじり寄ってきた。買い物帰りの女二人。自分達は沢山の仲間がいる。少年達が警戒する理由など何一つなかった。
 一人の少年が身を屈めてエアの顔を覗き込んだ。
「えっと?」
 エアは不思議そうに首を傾げる。
「ふぅん。ケッコウ可愛いな」
「こっちのネーちゃんは、えらい美人だしー」
 何がおかしいのか、少年達は顔を見合わせにやにやと笑いあった。
「おネーさん達、もう買い物終わった?」
「今、暇なんだ?」
「てか、俺達と、遊びませんかぁー」
「まぁ、気持イイ遊びなんだけどー」
 ぎゃははと、笑いが起こる。いつの間にか、うずくまっていた少年も元気に起き上がり下品な言葉で盛り上がっていた。
「あ……別に、病気じゃなかったんですね」
 ようやくそれに気がついたエアはすっと笑顔を引っ込める。少年達の言葉を完全に聞き流し、元来た道へと戻り始めた。黙って成り行きを見守っていた冥月もそれに従う。万が一、後ろから少年達が来てはいけないと、エアを守るようにさりげなく彼女の背後に回った。
「そのようだ。さ、行こうか」
「はい!」
 その紳士然としたスマートな姿に、エアは目を輝かせる。
 少年達は、それが酷く気に入らなかった。
「待って待ってー。何で無視なわけ?」
「てか、もしかして、そっちのケがあったり?」
「俺も好きだけどー。仲良い二人に挟まれたいー」
 けけけけけと、また笑い声。
 少年達は、二人の後ろを離れない。
 流石に店の前まで少年達を引き連れて歩くのは避けたい。冥月はそろそろ何とかしようかなと思いはじめていた。
「あのさー。やっぱ、こするより入れるほうが気持ち良いと思いませんかー。ははははは。てか、マジで女の方がイイって事? キモッ」
 色々な発言も、全てやり過ごしていたのだが、この下品な発言に冥月の拳が反応した。それに、少年はそう言いながらエアの髪の毛を引っ張った。
 意識して反応したわけではなかったのだが……。
 気がつけば、自然に拳が飛んでいたのだ。すっと殴った腕を引っ込めて入る途中で、ああ、とても腹が立ったと感じたくらい。自分一人ならば、やり過ごしたかもしれない。けれど、エアが好奇の目で見られている事に、たいそう腹が立ったのだ。
 少年は面白いくらい空中で回転して、壁に激突する。
 冥月達を取り囲んでいた少年達は唖然とその光景を見ていた。誰一人、動けない。誰も、言葉を発しなかった。
「エア……、すまないが、荷物持ちはここまでだ。これを持って先に行け」
「え……でも!」
 何か言い出しそうなエアを強引に送り出し、冥月は少年達を見据えた。
 当然だが、このままで済むとは思っていなかったし、強引で陰湿なナンパは良くないと教えた方が良いとも思っていた。

□02
「へぇ……、あ、喧嘩、売られちゃったんだ?」
「言い忘れてたけど、俺達、関東爆走団☆絽参是留守だから」
「今から、ナシってのは、もうナシな」
「仲間を殴られて、黙っちゃいられねぇな」
 少年達の顔つきが変わる。どこから取り出してきたのか、警棒やナイフを持っている者もいた。
 関東爆走団☆絽参是留守という聞き慣れない言葉を聞かなかったことにして、冥月は肩を落とす。
「……黙っていられないなら、どうするんだ?」
 一応、通過儀礼と諦めて、冥月は少年達に問いかけた。
「こうするんだよっっ!!!」
 吐き捨てるように、一人の少年が叫ぶ。その少年のロング丈の上着には、派手な糸で難しい漢字をいくつも刺繍してある。個性的なファッションだった。
 少年達はじりじりと距離を詰め……、一気に飛びかかってくる。
 最初に半身をえぐるコースで飛んできた腕をひらりとかわし、冥月はカウンターを叩きこんだ。身体の大きさはほとんど変わらないが、冥月の腕は少年のそれと比べ物にならないほど素早くしなやかに伸びる。勿論、物理的に伸びているのではなく、そんな風に見えるだけ。呼吸するように簡単に、足を運び力を拳に伝達する。
 次のナイフは、軽く捌くと同時に相手の腕を取り放り投げる。
 流石に一般人相手に影を使う事はできないが、冥月の優位が揺らぐ事はない。
 力任せに振り下ろされた警棒をさらりと受け流し、すれ違いざま鳩尾に拳をめり込ませた。
「ふぅ」
 これで全部だろうか。
 冥月はふっと息を吐いて、周りを見回した。
 少年達は全員力尽きたように地にひれ伏している。
 どっどっどっど。
 その時、どこからか重低音が近づいて来た。どうやら、複数台のバイクのようだ。
「うわ、マジか……」
「嘘だろ? 本当にやられたのか」
 大きなバイクから奇抜なファッションの男が降りてくる。男は、きっちりと髪をオールバックにし、足首にたっぷり余裕を持たせた作業服を着こなしていた。鋭い目つきで、地に伏している少年達を眺める。
 その後ろからも、続々と珍妙なファッションの若者が現われた。
「あんたが、やったのか?」
 わずかに、言葉に怒気が篭っている。
 どうやら、バイクで現われた男達は少年の仲間のようだ。
 冥月は平和的解決を模索しようと、男に事情を説明する。
「確かに、そうだが、そうするしかなかった。お前達の仲間が、私の連れによからぬ事を企んだからだ」
「……そうかい」
 倒れている少年達は、武器を握り締めている。見たところ、深刻な外傷をおっている者はいない。冥月一人に対して、4人がかりと言うのも紳士的ではない。
 客観的に見て、少年達は理不尽な戦闘を仕掛け返り討ちにあった、ような状態だ。
「けどよ、俺達関東爆走団☆絽参是留守は負けを許しちゃいけねぇんだ。どんな理由であれ、仲間がやられたら、相手をたたき潰す。それが、掟だ」
「…………」
「悪いが、ただで済ませない。相手をしてもらおうか」
 すっと、男が拳を構えた。
「何も、多勢に無勢なんて真似はしねぇよ。一対一だ。まぁ、俺が倒れても誰かがカタキを取ってくれるさ」
 男の背後で、仲間達が熱い涙を流している。熱い男の生き様を見せつけられ感涙にむせび泣いているのだ。
 そうして、律儀なんだか卑怯なんだかわからない条件で、男達は冥月に果し合いを申し込んだ。

□03
「うおおおおおぉぉぉ絽参是留守に幸あれ〜」
 右フックで撃沈。
「とりゃあああー。奥義!! 人参千切りーー!!」
 左ストレートが綺麗に決まる。
「きえぇぇぇー!! 華麗なる俺の技を見よーー!」
 踵落としで轟沈。
 しかし、気合いや義理人情だけではどうしようもない事もある。
 男達は果敢に冥月に挑み……落ちて行った。冥月の足元には、散っていった男達の屍(※死んでいません)が山と積みあがっている。
「くそう! お、俺で最後か。ここまでやるとはな……。しかし、俺も関東爆走団☆絽参是留守の戦闘神と歌われた男だ。負けるわけにはいかねぇんだよ!!」
 最後の一人が突撃してくる。
 それを正面から迎え撃つ。
 冥月の拳が男の顔面にめり込み、男は遠くに吹き飛ばされた。
 どうして、こんな事になってしまったんだろうか。
 男達の屍(※繰り返しますが、死人は出ていません)を背に、冥月は遠い目をしてしばし考える。
「こっちこっち、こっちですー!」
 その時、遠くからエアの声が聞こえてきた。
 エアは肩で息をして、冥月に駆け寄る。
「み、冥月……さん。お、おそくなって、しまって、ごめんなさい……。い、今、店長を連れて……きま、し……た?」
 はぁ、と、息を整えながら、エアは冥月の背後で倒れ混んでいる男達を驚いたように眺めた。
 どうやら、店に駆け戻り店主を動員して来たらしいが……。
 冥月はすっと前髪をかき上げ、微笑を浮かべた。
「ふぅ、要らぬ体力を使ってしまった」
「あのー……、何か、増えていません?」
「さぁ、どうだろうな」
 冥月はおどけたように肩をすくめた。
 エアと別れたときには4人だった不良少年が、いつの間にか千人にも達するような数の屍になっているのだ。エアはしきりに不思議そうに首を傾げる。
「それより、店主を連れてきてくれたのか?」
「は、はい……。あの、警察よりも早いし……役に立つかなーって」
 でも、と、エアは頭をふった。
「なんだか、それも、必要ありませんでした?」
「いや、その気持だけ、受け取っておこう」
「有難うございます」
 冥月に何事もないと知って、エアは微笑む。
 そして、もう一度、倒れている男達を見た。
「もしかして……冥月さんが一人で?」
「いや、まぁ……。それより、喫茶店にでも行かないか? 店主、時間は良いだろう?」
 言葉を濁しながら、冥月はエアに引き連れられてきた男を見た。
 男は……。冥月とエアを見比べこくりと頷く。
「どうやら、お許しが出たな。じゃあ、行くか。美味しい紅茶を入れる店があるんだ」
「はぁ……。冥月さんて……格闘ナンバー1グランプリとかに出る方でしたっけ?」
 冥月に手を引かれながら、エアは不思議そうに呟いた。

□epilogue
 関東一の武道派暴走族、関東爆走団☆絽参是留守をご存知だろうか。
 千人を越える大所帯。警察でさえ、規模が大きすぎて迂闊に手が出せないと言う、厄介な一団だ。一人がやられると、相手が泣いて許しをこうまで復讐を続けると言う義理堅さ、執念深さも関東一だと言われている。
 また、団員達は絽参是留守に属している事を誇りに思っているし、その名前を聞いて喧嘩を売るバカはいない。
 それが、である。
 最近、彼らを統べる陰の実力者が現れたと言う。
 噂では……それは、美しい女神だと言うのだが……。
「姐さん! お出かけスか! お供するっス」
「いらん!! というか、寄るな!」
 冥月は道の端にずらりと並ぶ男達を見て、ウンザリとした表情を浮かべた。
「ハイッ! 姐さんに寄らずついて行きます!!」
「どこまでも!!」
 男達は、輝く瞳で冥月を見ている。
 あの日以来……、男達は冥月を姐さんと呼び慕ってきた。
 強い物こそ正義、そうやって生きてきた彼らに、冥月はまぶしすぎたのだ。
 悪気はない彼らに、冥月も決定的に強く出る事ができず……。
「いや、だから……」
 そっと肩を落とす日々だった。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
陵かなめ クリエイターズルームへ
東京怪談
2009年06月23日

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