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『+ 未だ距離は在るけれど、声はそれでも届く +』
ルド・ヴァーシュ3364)&ザド・ローエングリン(3742)&(登場しない)



 あの、まっかにそまったよるから、ずっと、おわれてた。
 このひとのまえで、はじめて、ないた。



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 ルド・ヴァーシュは国を後にした道中考え続ける。
 自分が討伐に「失敗」し殺せなかったレプリス――ザド・ローエングリンの事を。


 振り返り今も後ろをついて歩いてくる問題のレプリスを見れば道に咲く花が珍しいのか足を止め視線を落としている。辺りを照らしているのは月光のみゆえその顔がどんな感情を宿しているのかはルドの方からは分からない。だがザドは彼が自分の方を見ていると気付くとまるで呼ばれたかのように無邪気に駆け寄っていった。そんなザドを見てルドも歩き出す。
だが彼らは一定の距離を保ち続ける――そう、ザドは決して隣で歩こうとはしないのだ。追い越しもしない、一緒に歩もうとするわけでもない、ただ「後ろをついてくる」のだ。


 ルドの裸足の足は出逢った時よりも汚れていた。
 追っ手から逃げ続け疲弊しているのか、それともザドの歩みが速いのか浅い息を繰り返す。再度ザドが足を止め振り返ればルドも足を止め、二人はただ互いを見る。
 二人の瞳に何かの感情が湧いているのかと言えば何もなく、笑いもせず怒りもせず……「ついて来るな」と突き放すわけでもなく、会話すらまともに交わせない時間だけが過ぎていく。
 しかし変化がない訳ではない。一緒に過ごしたと言うと多少語弊はあるものの、徐々に距離が縮み始めたのだ。


 ルドは道中考え続ける。
 時折相手に気付かれぬよう何気なく進む速度を落とし、ザドが息切れしないペースを探しながら。


 本気で相手を振り切るなら夜空を飛び去る事だって出来る。
 銃口を向けて脅し後を追わせない様に仕組む事だって容易だ。だがルドはそれが可能であるにも関わらず実行しない。
 やがて二人の前に町が見えてきた。それは「人の居る町」だ。犯罪者として追っ手が掛かっているザドに取って町に入る事は決して良い選択とはいえない。だがこのままではルドの後を追い彼は無防備に姿を晒してしまうだろう。


 ルドは道中考えに考え続けた。
 そして彼は結果を出した。自分にとって大事な利き手である右手をザドに差し出しほんの少しだけ眉を寄せ、けれど相手が怯えぬ様気遣うように微笑を口元に宿して。


「おいで」


 手を差し出すと言う事は全てを引き受けて面倒を見ると言う事。命を預かると言う事。
 今はまだ選択肢を出しているに過ぎない。放棄か包容。それを選ぶのは他でもない、ザドだ。


「俺の名はルド。ルド・ヴァーシュだ。この先も俺と一緒に行くと言うならこの手を取れ」


 答えは導かれる。
 これからのザドの、ルドの行き先を――「二人」となった時の先を。


 その時心から安堵したのはどちらだっただろうか。
 繋いだ指と指、緊張した手先ではそんなことは分からなかったけれど。



■■■■



 無防備。
 ザドはそう思う。


 冒険者達が出立する早朝、馴染みの宿屋に着き部屋を取った。
 がやがやと賑やかな空気を掻き分けて馴染みの店主に声を掛けていればいつの間にか冒険者達は宿を出て行き辺りは静かな空気に包まれる。
 ルドはまず店の者に湯を頂くとまずザドの身体を洗うことにした。汚れに汚れた身体は体温こそは平温だが、肌は外気に長時間触れていたためか冷えているように感じたからだ。裸足で歩き続けた足は薄ら赤くなり薄皮が捲れていた。この程度なら布を巻かなくても消毒だけで充分だろう。だが戦闘用レプリスだからこそ浅い傷で済んでいるがこれがもし唯の人間だったらもっと酷い状態だっただろう。下手すれば水膨れを起こし皮がずる剥けていたかもしれない。


 疲労した足に触れればひくりと指先が跳ねるのが見えた。
 それは決して大きなものではなかったけれど怯えていると察するには充分な動きだった。湯に布を浸し絞ったものをザドに手渡し身体を洗うよう指示をする。意味が分かったのか彼はそれを受け取り頷く。そしてルドが窓の方へと歩んでいる間に服を脱ぎ汗を拭い取った。


 ザドが身体を拭いている間ルドは一度も彼に視線を向ける事無く窓から外の様子を観察していた。
 外はもう明るい。眠っていた人達が仕事を始める時間帯だ。だが夜を徹して歩いてきた自分達にとっては今からが休息の時間。
 声を掛けようと首を傾ければ視線の先にはとうに衣服を整えベッドに横になり眠っているザドの姿があった。日の光の下綺麗になった相手の姿を見ればまるで幼子のよう。だが体を丸め膝を腹の方へと折り曲げて眠る格好は眠りにくそうだ。
 ルドはベッドに腰を掛けて手を伸ばし足を引っ張ってみる。だがザドにとって身体を伸ばすことより丸まって眠る事の方が安心出来るらしく、すぐ足は折り曲げられた。


 すぅ、すぅ……。
 寝息が聞こえる。其処には警戒心なんてものは欠片すら無い。


 ルドは溜息を吐く。
 それから自身の右手を見下ろした。指は動く。自由に、ばらばらに、思うが侭に。
 だがその手はもうザドに預けたに等しい。手を差し出すと言う事は手を奪われると言う事。手を奪われると言う事はそれだけ危険が増すという事。
 それでも差し出さずにはいられなかった。


 ルドはザドの様にすぐ無防備にはなれない。
 ベッドの傍の床に腰を下ろし懐に手を差し入れる。未だ弾の残る銃がそこに在ることに安堵し少しだけ、息を吐いた。



■■■■



「こっちは派手か。じゃこっちはどうだ? お前は肌が白いから純白は似合わないだろうし、かといって漆黒は人形のようだし」


 ルドは手にした服を手当たり次第ザドに当ててみる。
 ザドは不思議そうに眼をぱちくりと音が鳴るほど瞬く。どうやら服を買ってもらうと言う行為自体に慣れていないらしく、珍しそうに店の中をきょろきょろと眺めていた。


 目覚めたザドをつれて二人がやってきたのは女性向けの衣服屋。
 手配書に載っていたザドの姿は今着用しているものとほぼ相違が無く、外見も「女の子のような男の子」だ。それならばいっそ女性服でも着ていれば目くらましになってよいのではないかと考えたのだ。
 店の者に「妹さんですか?」などと訊ねられたので適当に誤魔化しながら衣服を選ぶ。ザドは声を出さない。最初は喉にでも異常を持っているのかと思ったが時折唇を動かして単語を読もうとしている事から「声を出さないようにしている」のではないかと推測出来た。


 時折変わるザドの表情と仕草を読み取りながらルドは衣服を決めていく。
 どうやら相手は穏やかな色合いが好みらしい。薄いベージュのシャツにゆったりとした布地が特徴の一見スカートにも見えるオリーブ色の膝丈程のズボンを履かせてみる。それに歩きやすい脹脛ほどの長さを持つ其処が平坦なタイプの茶ブーツを合わせザドを鏡の前に立たせてみた。
 地味めの女の子が出来上がるとザドは鏡に手を伸ばす。それが自分の姿であることを把握するとぱあっと淡い光が零れるように笑顔を浮かべた。
 どうやら気に入ったらしい。


 会計を済ませるとルドは店員から小さな袋を手渡される。
 それが何か訊ねた結果返って来た言葉にやや眉を寄せほんのり困った笑顔を浮かべざるを得なかった。
 扉に付いた鐘をカランと鳴らしながら二人外へと出る。ふとザドがルドの服の端を摘みくっくっと引っ張た。何事かとルドが視線を落とせば丸くて赤い瞳を持つルドが真剣な表情で彼を見ていた。


「る」


 唇から零れる音は小さく、町の喧騒に掻き消されそうな程。


「ど」


 ザドがルドに向けて指先を向けていなければそれが名前であることに気付くのが遅れていたかもしれない。
 二人の間にひと時の間が空く。やがてザドはぷっと息を漏らし、それからザドに向けて貰ったばかりの小袋を投げた。


「るどじゃなくて、ルドだ。発音が違う」
「るー」
「ル」
「ルー」
「ド」
「どー」


 興味が袋に移ったのかザドはルドの発音を真似しながらも暢気に其れを開く。
 中には黒髪のザドに似合いそうな赤色のリボンが入っていた。それが何をするものかザドには分からなかったらしくしきりに首を傾げている。だが使い方を教えるのは何か違う方向に進んでしまいそうなので控える事にした。


 ルドは先を行く。ザドはまたも後ろを追いかける。
 だがその距離は短く、手を伸ばせばすぐ相手に触れる事が出来るだろう。確かにある相手の気配を感じながら二人は旅を続ける。
 目的地はエルザード。
 先はまだ、長い。



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 あの、まっかにそまったよるから、ずっと、おわれてた。
 このひとのまえで、はじめて、ないた。


 ふしぎな、ひと。
 このひとのまえでやっと、わらえた。





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【3364 / ルド・ヴァーシュ (るど・う゛ぁーしゅ) / 男性 / 26歳(実年齢82歳) / 賞金稼ぎ / 異界人】
【3742 / ザド・ローエングリン (ざど・ろーえんぐりん) / 中性 / 16歳(実年齢6歳) / 焔法師 / レプリス】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、またの発注有難う御座いました!
 今回は個人的に「距離」をテーマに描かせて頂きました。お二人の距離、そして警戒心などが表現出来ていればと思います。小袋はおまけで。教えるかどうかはそれこそルド様のお心次第で(笑)
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
蒼木裕 クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2009年06月22日

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