▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『―― 姉と弟・11年振りの再開 ――』
ブリジット・バレンタイン8025)&ソール・バレンタイン(7833)&(登場しない)

「あつーい‥‥」
 まだ夏本番も来ていないと言うのに茹だるようなこの暑さ。ソール・バレンタインはぱたぱたと手で仰ぎながら汗に塗れた体を清める為に浴室へと向かう。
「そういえば‥‥姉さんは僕が恥ずかしがってるのも関係ナシに入ってきてたなぁ‥‥」
 浴槽にお湯が溜まっていくのを見ながらソールが小さく呟くと水の音以外は静かな浴室に声が響く。その声の響きが何故かソールの寂しさを少しだけ募らせた。
「さて‥‥お風呂が沸くまで少しゆっくりしようかな」

※11年前※
「よし、今日はこの辺で終わらせましょうか」
 ボクシンググローブを外しながらブリジット・バレンタインは目の前で息を切らせている弟・ソールに向けて言葉を投げかけた。
「僕‥‥疲れたからシャワー浴びてくる」
 ソールは言葉を残し、少しよろよろとしながらシャワー室へと向かう。普段はパブリックスクールや大学の寮で生活している二人なのだが、現在は夏休み期間中という事もあり、自宅へと帰省していた。
(「姉さんったら父さんより厳しいんだよね‥‥」)
 ソールはため息を漏らしながらシャワー室へと入っていく。以前、父親が少しだけ残念そうに話しているのを覚えている。ブリジットがもし女ではなく男としてこの世に生まれていればオリンピックで金メダルはもちろん、5階級制覇すらも夢ではなかっただろう、と。
(「でも姉さんが、もし男に生まれてきていても――そういう事に興味を持つとは思えないんだけど」)
「ふぅ、疲れた後のシャワーは凄く気持ちいいや」
 ソールが呟いた次の瞬間、シャワー室の扉が開き、ブリジットがずかずかと入ってくる。
「ね、姉さん!? 今は僕が使ってるんだから――」
「そういう細かいことは気にしないの」
 恥ずかしがりながらソールが呟くと、ブリジットはそんな彼を無視して「強く痛めた所はなかった?」とソールの体をぺたぺた触りながらスキンシップを図ってくる。
「ほら座って。折角だから頭洗ってあげる」
「え、えぇ‥‥」
 渋るソールを再び無視してブリジットがシャンプーに手を伸ばす。こうなったら抵抗しても無駄だと考えたソールは一つため息を吐いて大人しく頭を洗われる事にしたのだった。
「ねぇ、ソール‥‥あなたは本当に家を継ぐ事に納得しているの?」
「え――‥‥?」
 突然、今までのような冗談を感じられる口調ではなく、真剣な口調に変わった事と聞かれた内容に驚いてソールは言葉をすぐに返す事が出来なかった。
「あなたはお父様から言われるまま跡継ぎとして頑張っている。それは分かってる。だけど‥‥家を出たくなったりしないの?」
 そう、ソールは父親からの期待に応えるために一生懸命頑張っている。学校の勉強はもちろん次期バレンタイン家当主としての勉強も頑張っている、それはブリジットも分かっていた。
 だからこそ『自分の好きに生きる』と言う事を思った事がないのか、ブリジットは聞きたかったのだ。
「僕は‥‥唯一の男だから、仕方ないよ」
 少しだけ震えるソールの体を見て「そう」とブリジットは短く言葉を返した。
「まぁあなたの自由にすればいいわ。どっちだろうと私は構わないし」

※※

「あ――‥‥」
 ハッとしてソールは目を開く。
「‥‥夢、だったんだ‥‥」
 浴室で姉であるブリジットの事を考えていたからだろうか、ソールはお風呂が沸く間の僅かな時間を寝てしまっていたようだ。
「姉さん、今頃どうしているだろう‥‥」
 ソールは俯きながら小さく言葉を漏らす。家を飛び出してから2年という月日が流れた。自分の好きに生きたい、その為にソールは家を飛び出したのだが――その結果、ブリジットに会社と家という重荷を背負わせてしまったのも事実である。
「もう‥‥2年も会ってないんだっけ‥‥姉さんは僕を憎んでいないだろうか」
 自分が逃げ出したせいでブリジットに全て押し付けてしまった、この事がソールの心に重く深く突き刺さっている。
 その時『ピンポン』とインターホンの音が聞こえ、ソールは『誰だろう』と思いながらも扉を開く――と同時にソールはコブラツイストをかけられ「ふぐっ」とうめき声を上げる。
「元気そうね、ソール」
 聞こえた声にソールは自分の耳を疑った。自分の名前を呼ぶ聞きなれた声。先ほどまで自分が考えていた人物――ブリジット本人だったのだから。
「姉さん――いつ日本へ?」
 目を瞬かせながら問いかけると「少し前にね、仕事で来たのよ」と言葉を返してきた。
 とりあえず立ち話も何だからと言う事でソールは自分の部屋にブリジットを招き入れる。
「それじゃ父さんも、来てるの?」
「いいえ、私だけよ。事情があって日本支社の社長も兼ねることになったの。暫くは日英を往復する毎日よ」
 今日はプライベートで来たのだろう、ブリジットは似合う黒のボンテージ姿でソールに会いに来ていた。
「‥‥‥‥? 何、どうかしたの?」
 じっと自分を見るブリジットの視線に気づき、ソールが問いかけると「いえ、その姿」と短く呟き、そのまま言葉を続ける。
「あなたのその姿を見るのは初めてなわけだけど、本当に母さんにそっくりね。やっぱりこういう女の子が男は好きなのかしら?」
 自分とは全く違う雰囲気を出すソールを上から下までじろじろと見ながらブリジットはどこか感心したように呟く。
(「‥‥どうしよう、聞いてみようか‥‥でも、もし『そうだ』って言われたら‥‥」)
 ソールは心の中で呟き、拳を強く握り締める。その所為かソールの手はじっとりと汗ばんでいた。
「ん? いきなり黙ってどうかしたの?」
 ブリジットが問いかけると「あ、ううん。姉さんも元気そうだなって」とソールは少し誤魔化し笑いをしながら言葉を返した。
「もちろん元気に決まってるじゃない。これでも結構忙しいんだから元気じゃないとやってられないわよ」
 笑って言葉を返してくるブリジットだったけれど、その言葉にズキンとソールは心を痛めた。
(「姉さんだって何かしたい事があったんだじゃないかな‥‥それなのに僕が逃げ出したせいで‥‥」)
 ソールは拳を再び握り締め「姉さん、あの、さ‥‥」と俯きながら、ずっと心の中で引っ掛かっていた事を聞くことにした。
「どうしたの?」
 ブリジットはソールを見ながら彼から言葉が出るのを待つ。
「姉さんは、家を飛び出した僕を怒って、ないの‥‥?」
 ソールが恐る恐る問いかけると、ブリジットは少しだけ厳しい表情をしたまま何も言葉を返さなかった。
「‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥」
 どれくらいの沈黙が流れただろう。ブリジットが何を考えているのか分からず、ソールは自分の心臓の音がやけに大きく自分の耳に響くような気がしていた。
「ソール」
 暫く経ってからブリジットが短くソールの名を呼ぶ。
「‥‥な、何?」
「今はどう? 満足してる?」
 ブリジットの問いかけにソールは何度か目を瞬かせた後、首を縦に振りながら「‥‥うん、とても充実してる」と答えた。
「ならいいんじゃないの?」
 ブリジットが優しく微笑みながらソールに言葉を返した。
「‥‥‥‥あ」
 ソールはブリジットの微笑を見て驚いたように目を丸くする。
「‥‥どうかした?」
「え、あ、ううん。何でもない」
 ブリジットの優しい微笑み、それはソールでさえも何度かしか見たことがないくらいの貴重なものだった。
「だけど!」
 ブリジットは優しい微笑みを厳しい表情へと変えて言葉を続ける。
「連絡を長い間しなかった事に関しては怒ってるんだからね」
 ブリジットの言葉に「ごめんなさい、今度からはちゃんと連絡する」とソールは言葉を返した。
「ところでお風呂は何処?」
 ブリジットはきょろきょろと周りを見渡しながらソールに問いかける。
「あ、そっちだよ。さっき沸かしたばかりだからすぐに入れるから」
 行ってくれば? とソールが言葉を付け足すと「何を言ってるの?」とブリジットは当然のように言葉を返してきた。
「女の子になったあなたの体をじっくり見てあげるから、一緒に来るのよ」
「ええええええええっ!! ちょ、それは僕だって恥ずかし――「いいから来るのよ」」
 ソールの言葉をばっさりと遮り、ブリジットはソールをお姫様抱っこで抱き上げると、浴室へと向かって行ったのだった‥‥。

END


――出演者――

8025/ブリジット・バレンタイン/32歳/女性/警備会社社長・バレンタイン家次期当主

7833/ソール・バレンタイン/24歳/男性/ニューハーフ/魔法少女?

―――――――

ブリジット・バレンタイン様>
ソール・バレンタイン様>

こんにちは、いつもご発注ありがとうございます。
今回はお二人の再会と言う形を書かせて頂きましたがいかがだったでしょうか?
ご満足して頂けるものに仕上がっていれば良いのですが‥‥!
またご用命の際は一生懸命書かせていただきます!
今回は書かせて頂き、ありがとうございました!


2009/6/21
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
水貴透子 クリエイターズルームへ
東京怪談
2009年06月22日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.