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『―― 戦う者 ――』
ブリジット・バレンタイン8025)&エヴァ・ペルマネント(NPCA017)

 イギリスからの直行便が到着して、様々な人間達がゲートを潜って出てくる。大抵が観光目的で来ているのか本を持って出てくる人が多かった。
 その中で銀色の短い髪を靡かせ、黒いスーツを見事に着こなした女性が出てきた。
「ふぅ‥‥仕事とは言え好きな格好が出来ないのは悲しいわね」
 ブリジット・バレインタインはため息混じりに小さく呟いた。彼女は仕事の時こそ露出の少ないスーツを着用しているのだけど、プライベートでは露出度の高いボンテージ系の服を好んで着る事が多かった。
 そして空港内を歩くたびに空港内部に配備された警備員達がブリジットに向かって丁寧に頭を下げる。彼女も「ご苦労様」と軽く労いの言葉を投げかけながら歩いていく。
 ブリジットは32歳という若さで警備会社『アリアンロッド・セキュリティ』の社長の座に就いていた。前の入札の際に空港内の警備を任され、自分の部下でもある彼ら達が働く姿を見て満足そうに笑み、そして歩く。
 しかし――‥‥敏腕な彼女だからこそ逆恨みをされる事も多い。優秀すぎる人間は『優秀でない』者からの妬みを受けてしまうのだから。
 そしてブリジットは巨大な財力やコネ、情報網を持っている。だから彼女が動くたびに監視をする者が多いのだ。
 今回も一般人に紛れてIO2を始めとする様々な機関の人間がブリジットを監視していた。
 その中に彼女――エヴァ・ペルマネントも存在した。
「‥‥あの人がブリジット・バレンタイン‥‥」
 ブリジットから少し離れた場所でエヴァが呟く。もちろんブリジットから離れてはいるが、決して見失わないような距離を保っている。
 普通の人間ならエヴァに尾行されている事に気づくことはないだろう。いや、多少の格闘技をかじった人間でも気づくことは難しいかもしれない。
 だけど‥‥ブリジットは視線だけをエヴァがいる方向に向ける。もちろんエヴァに自分が気づいている事は感じさせないように。
「‥‥普通なら気づくことはなかったかもしれないわね。でも相手が悪いわ――伊達で警備会社の社長をしてるわけじゃないのよ」
 ブリジットは薄く笑みながら『お手洗い』と書かれた看板の矢印通りに曲がる。此処で下手に相手を刺激すれば無関係な人間まで巻き込んでしまうかもしれない。
(「もし怪我人でも出てしまったら‥‥我が社の不名誉にしかならないわ」)
 中には自棄になって無差別に攻撃をしてくる輩も存在するのだ。私利私欲のためならば何でもする人間がこの世界には多すぎるのだから‥‥。
「‥‥あ!」
 エヴァはブリジットがトイレに入ったのを確認すると、見失わないように急ぎ足でトイレの方へ向かう。
「‥‥?」
 しかしトイレ内にブリジットの姿は存在しなかった。
 いや――存在しない、その表現は正しくはなかった。トイレの中、確かにブリジットの姿は存在するのだから。彼女は確かに存在するけれど、エヴァの目には彼女を捉えることが出来ない状態なのだ。
 ブリジットは魔神を召喚する能力を所有しており、現在は彼女が呼び出せる魔神の一人でもある『オセ』を自らの体に憑依させているのだ。オセは幻術や変身能力を所有しており、オセの能力のせいでエヴァはブリジットを『見ること』が出来ないのだ。
「‥‥あっ!」
 誰もいない静かなトイレ内にエヴァの驚いた声が響く。エヴァが驚くのも無理はない。突然背中を突き飛ばされてトイレの個室内に無理矢理入らされたのだから。
「あなたがエヴァね?」
「!」
 個室内に入ると同時に問われた言葉。誰もいなかったはずのトイレに何故探していた彼女がいるのか、完璧に尾行していたのに何で気づかれたのだろう、とか今のエヴァは考える事が多すぎて少しパニックになりかけていた。
「気づいてたのね」
「えぇ。でも気を落とす事はないわ。私以外だったら気づくことはなかったでしょうから。あなたの噂は聞いていたけど、思っていたより可愛いのね?」
 ブリジットはじろじろとエヴァを見ながら言葉を付け足した。
「わたしは強いと評判のユーと戦いたくてやってきた」
 エヴァは拳を強く握り締めながら呟く。その言葉にブリジットもニッコリと微笑み「そうね」と何かを考えるような仕草を見せた。
「どう? 単純に殴り合いの勝負をしてみない?」
 ブリジットの提案にエヴァは少し驚いたように目を丸くしながら「殴り合い?」と思わず聞き返してしまう。
「そう、パンチだけの殴り合い」
 ブリジットの言葉にエヴァは少しだけ考え「いいわ」と呟くと同時に『ひゅん』という風きり音をさせながらパンチを繰り出してくる。
「あらあら、せっかちなのね」
 ブリジットはエヴァのパンチをまるで受け流すかのように払いのけ、自らも拳を繰り出す。決して広いとは言えないトイレの個室内でこのような戦闘が繰り広げられている事など誰が想像できるだろう。拳と拳が行き交う中、風圧でドアががたがたと揺れる。
 この時点ではお互いにクリーンヒットはない。狭い個室内の中でお互いが攻撃を受けないという事自体も驚異的なのだけど。
「‥‥あッ!」
 エヴァはがくりとバランスを崩してしまう。もちろんその隙を見逃すブリジットでもなく彼女は勢いよく拳を振り上げる。
 最初の攻撃はブリジット――だったはずなのだが。
「くぅっ!!」
 苦しそうにうめき声をあげたのはブリジット、彼女の事を脅威と感じたのかエヴァは『パンチのみ』という約束だったにも関わらず、蹴りでブリジットを攻撃してしまった。
 エヴァの蹴りを受けたブリジットは吹き飛んでしまい、ドアをも破壊して壁に強く叩きつけられる。
「げほ‥‥やるじゃない。私もまだ甘いわね」
 痛めた場所を押さえながらブリジットが立ち上がり、そしてエヴァを見る。普通ならば蹴りを出したのだから『ルール違反』と罵っても構わないのだけど、それをブリジットはしなかった。
 そして、逆に言われないことに対してエヴァは表情を歪めた。
「今のはわたしの負け‥‥咄嗟の事とは言え、わたしは足を使ってしまったから」
 エヴァが呟くと同時に外の騒がしさに二人は気がついた。きっと先ほどブリジットが受けた攻撃の音が外にも漏れてちょっとした騒ぎになっているのだろうか。
「今日はここまでにしましょうか。私はしばらく日本にいるわ。いつでも遊びにいらっしゃい」
 ブリジットが呟くと「次は負けないわ」とエヴァは言葉を残して消えていった。
「‥‥いたっ、肋骨にヒビが入ったかしら――良い蹴り持ってるじゃない」
 そう言いながらもブリジットはどこか満足そうな表情だった。
「さて‥‥このドアはどうすればいいのかしら。やっぱり‥‥弁償、よね?」
 ため息混じりにブリジットが呟き、トイレの入り口を見ると『清掃中』の看板が立てかけられていた。
(「なるほど、それで誰も来なかったのね」)
 今まで誰も来なかった事にも納得して、ブリジットはドアをどうしようと再び考え始めたのだった。


END


――出演者――

8025/ブリジット・バレンタイン/32歳/女性/警備会社社長・バレンタイン家次期当主

―――――――

ブリジット・バレンタイン様>
お姉さまの方は初めましてですね♪
いつも弟君にはお世話になっています。
今回シチュノベを執筆させていただきました水貴透子です。
戦うお姉さんと言う素敵な設定(違)を書かせて頂き、ありがとうございました♪
うまくブリジットお姉さんを出せていると良いのですが‥‥。

それでは今回は書かせて頂き、本当にありがとうございました!

2009/6/18
PCシチュエーションノベル(シングル) -
水貴透子 クリエイターズルームへ
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2009年06月18日

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