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『ナミダノアトニ』
ジュディ・マクドガル0923)&クレア・マクドガル(3389)&(登場しない)

「ふう…これでよしっと」
 ジュディ・マクドガルは髪の生え際から伝う汗を手の甲で拭った。その手には黒く汚れた布きれが握られている。
 ジュディの目の前にはピカピカに磨かれた黒い靴が2足あった。
 上品なヒールは母であるクレアの靴。リボンが付いた可愛らしいローファーはジュディの靴だ。
「ジュディ」
 背後から声を掛けられて、ジュディはびくりと肩を震わせた。
「わあっ!びっくりした」
 振り返ると、ジュディの母親クレア・マクドガルが立っていた。
「驚かせてごめんね」
 クレアは微笑んで、ジュディの隣にしゃがみ込んだ。
「靴磨きは終わった?」
「うん!ピカピカにした…」
 ジュディはそこで言葉を切って、上目使いに母の表情をうかがった。
「…つもりだけど」
 クレアは2足の靴を見て、それからジュディの方を見た。
「上出来よ、ジュディ。ありがとう。ピカピカに光っていて素敵だわ」
「やったあ」
 ジュディはぴょんと跳ねるように立ち上がった。
「道具を片付けたら、私の部屋に来て。お茶にしましょう」
「はあい」
「よく手を洗うのよ」
「はあい」
「顔もね」
 クレアはジュディの頬を指先で優しくつついた。
「…?はあい」
 道具を片付けて洗面所で手を洗っていたジュディは、ふと鏡を見た。見ると右の頬に黒い汚れが付いている。
 汗をぬぐった時についたのだろう。そっか、お母様はこの事を言っていたのか。
 気恥ずかしくなって、ばしゃばしゃと顔を洗った。


 クレアの部屋に行くと、女中がお茶を用意してくれているところだった。女中は一礼をして部屋を出ていく。
「慣れない事をして疲れたでしょう。靴磨きをお願いするのは初めてだものね」
「初めてだけど、お母様が手順を教えてくれたから。それに、靴がどんどんピカピカになっていくから楽しくなってきたの」
 ジュディはいただきます、と言ってから、皿の上のクッキーに手を伸ばした。
「そう。良かったわね」
 クレアはそう言って微笑むと、上品な仕草で紅茶のカップを持ち上げた。


 ここ数日、ジュディは少し複雑な家の手伝いを任されるようになった。
 それには理由がある。
 ジュディは数日前、街外れのガルガンドの館で一冊の本に出会った。その本の影響で、向上心をさらに高め、もっと良くなりたいと思うようになったのだ。
 どうしたら自分は向上できるだろう。考えた末、ジュディはクレアにお願いをした。
「自分をより厳しく躾けて下さい」
 そう言われたクレアは戸惑ったが、彼女の気持ちを汲んで了解した。それからというもの、ジュディは今までより少し複雑な手伝いを任されるようになったのだ。
 ジュディは母の説明をきちんと聞き、見事に手伝いをこなしていた。それに難しい手伝いであればある程、やり遂げた達成感は大きかった。


 ジュディはクッキーをさくさくと噛み砕くと、紅茶を一口飲んだ。それから、
「何かお手伝いする事ある?」
 尋ねた。
 クレアは少し考えて、あ、そうだわ、と言って椅子から立ち上がった。そして本棚から一冊の本を取り出して戻って来た。それをジュディに差し出す。
「今日のお手伝いはおしまい。この本を貸してあげる。昔、私が読んだ本なの」
「わあ」
 ジュディは古びた表紙の本を受け取った。
「借りていいの?」
「ええ。厳しくするならば、ご褒美も大きくね」
 クレアは片目をつむって見せた。
「お母様ありがとう!」
 ジュディは満面の笑みで本を抱きしめた。


 お茶を飲み終えて、ジュディは自室に戻った。そしてすぐに本のページを開いた。
 本の中には冒険の世界が広がっている。ジュディはすぐにその本に夢中になり、読みふけった。
 その日は夕食とお風呂の時間以外は、ずっとその本を読んでいた。半分ほど読んだところで、もう眠る時間になった事に気付いた。 
 ジュディは名残惜しかったが、読みかけのページに栞をはさんで本を閉じた。
 規則正しい生活を送ることは大切だと思うから。本をテーブルの上に置くと、パジャマに着替えてベッドに潜り込んだ。



 次の日の事。ジュディとクレアは屋敷の大部屋の中で向かい合って立っていた。
 ジュディはバツが悪そうな顔をして俯いている。クレアは床に広がった大きなシミを見つめている。
「これはどういう事かしら?」
 クレアが尋ねる。ジュディは言いにくそうにもじもじしていたが、やがて口を開いた。
「うっかりバケツを蹴とばしてしまって、それで水がこぼれて…」

 今日のお手伝いは大部屋の掃除だった。
 背後にバケツを置いていたことを忘れてモップをかけていたジュディは、バケツを蹴り倒してしまったのだ。
 クレアは俯いているジュディを見下ろして、その場で罰を与えると宣言した。

 ジュディは言われた通りに下着を膝まで下ろした。次にスカートをまくって床に座り込んだ。両膝を両手で持ち、クレアにお尻が見えるようにする。
 クレアはジュディの前にしゃがみ込んで手を伸ばすと、指先でジュディのお尻をぎゅうとつねった。ジュディは痛みに顔をしかめる。
 ジュディの左右のお尻をゆっくり3回ずつ交互につねってから、クレアは立ち上がる。ジュディを見下ろして話を始めた。
「うっかりバケツを蹴とばしてしまったと言ったけれど、あなたはうっかりする事が多いわ。
 何か考え事をしていたんじゃない?どんな仕事に対しても、集中して真面目に取り組まないといけないのよ」
 ―そんな事は分かってる。
 ジュディはそう思い、むっとした顔をした。不満をあらわにした娘の表情を見たクレアは、ため息をついた。
「あなたはちっとも反省していないのね」
「反省してるわ。罰だってちゃんと受けたじゃない」
 ジュディはつい、むきになって言い返した
 クレアは厳しい表情になる。
「いいえ。あなたにはきちんと反省する必要があります。今夜、私の部屋に来なさい。わかりましたね」
「…はい」
 ジュディは頷いた。

 その日の深夜。ジュディは母親の前で懺悔をした。掃除中に失敗をした事、それを注意されて反抗的な態度をとった事。
 ジュディは懺悔を終えると、下着とスカートを下ろして、母の膝の上にうつ伏せになった。
 クレアは手を振り上げる。そして、ジュディのお尻めがけて勢い良く振り下ろした。
 ばしんっと大きな音が鳴り響いた。
「きゃあっ!!」
 あまりの痛みに、ジュディの体がびくりと跳ねた。
 クレアは少し間を置いてから、再びジュディのお尻を手の平で叩いた。
「ひゃっ…!!痛っ…!!」
 クレアにお尻を叩かれたことは何度もあるが、今日はいつもよりもかなり力が強い。ジュディは悲鳴を上げた。
 それでもクレアは叩くことをやめなかった。ジュディは母のスカートを握りしめ、歯を食いしばって痛みに耐えようとした。
 しかし力強い平手をお尻に受けて、食いしばった歯の隙間から何度も悲鳴が漏れた。固くつむった両目から涙がぼろぼろとこぼれ落ちる。
 お仕置きが終わる頃には、ジュディのお尻は普段のお仕置きの後よりも真っ赤に腫れ上がっていた。


 カーテンの隙間から差し込む朝日でジュディは目を覚ました。お尻はまだひりひりと痛んでいた。
 テーブルの上には読みかけの本が置いてある。昨日はお手伝いの失敗や懺悔のことで頭がいっぱいで、読み進める事が出来なかった。
 着替えようと思いクローゼットに向かう途中、ジュディはふと鏡に映る自分の姿に目をとめた。
 昨夜、泣いたために目が腫れぼったく感じる。眠っている間も泣いていたようだ。頬には涙が伝った跡が残っている。
 重い罰だった。
「……」
 自分をより厳しく躾けてください。
 そう母に告げたのは自分だ。
 もっと良くなりたくて、自分自身でハードルを上げたのだ。
 日頃から自分に罰を与えることに心を痛めていた母に、さらに厳しい罰を与えて欲しいとお願いしたのだ。
 それなのに。
 ここ数日、順調にお手伝いをこなしていたため、気の緩みもあったのだろう。油断して、失敗をした。
 その事を注意されてむくれた。口ごたえをした。
 鏡の中のジュディは、きゅっと唇を結んだ。
 自分はもっと反省しなければいけない。


 朝の挨拶をすると、クレアは普段通り微笑んでくれた。
「おはよう。ジュディ」
「お母様…お願いがあるの」
「なあに?」
「一緒に広間に来て」
 ジュディに手招きをされて、クレアは言われた通りについていった。

 広間に入ると、ジュディは突然下着とスカートを脱ぎ始めた。
 そしてそれらを丁寧にたたむと、クレアに向かってすっと差し出した。
 「あたしがよく反省できるように、預かって欲しいの」
 ジュディはクレアをまっすぐに見つめる。
 凛としたその瞳に見つめられ、クレアは頷いた。
「わかりました。きちんと反省できるまで、これは預かります」
「はい」
 クレアはジュディの下着とスカートを持って、広間を後にした。
 ジュディは壁の方を向いた。後ろを通った人々に、お尻が見えるように。
 人の気配がする度に、ジュディは恥ずかしさに震えた。
 屋敷の中にはジュディとクレアの他に、数人の女中たちがいる。その女中たちに、いつもより腫れ上がったお尻を見られている恥ずかしさ。
 顔も真っ赤になっていた。
 けれど後悔はなかった。

 厳しい状況で自分を鍛えることが大事だと思ったから。
 失敗をする時もあるけれど、自分の手際は以前よりも格段に良くなっている。
 それはジュディの生活を充実したものにしていた。
 これからもっと良くなるために、今日はたっぷり反省しよう。
 そして、今晩はあの本の続きを読もう。

「厳しくするならば、ご褒美も大きくね」
 母の言葉が頭の中に響いた。厳しい分だけ、大きなご褒美、大きな達成感。
 それは喜びとなり、自分を成長させる糧となるのだ。
 ジュディは深呼吸をすると、きゅっと唇を噛み締めて、背筋を伸ばした。
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2009年06月18日

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