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『日雇いバニーガール』
白神・空3708)&エスメラルダ(NPCS005)
 今日も空が青い。何故、部屋の中にいるのに見上げると360度空が広がっているのか。答え、天井がないから。
 何故天井がないのか。……考えたくもない。
「支配人、やはり人手が足りません」
 報告に現れたスタッフに、支配人は腕を組んでため息をついた。うちの用心棒とVIPルームの目玉と大事な店舗とをすべて不意にされたのだ。何のせいだったかはいまいち思い出せないが。今いるスタッフで復旧作業を進めながらカジノも通常通り営業していたのだが、さすがに無理があった。
「仕方ない、求人を出すとするか」

『急募!
 フロアスタッフ募集。
 やる気があればできるお仕事です!

 ・制服貸与あり。
 ・交通費支給。
 ※給与、委細相談

 カジノ:ゴールドスノー』

     ●

 白神・空は、『ゴールドスノー』事務所のソファに深々と腰掛けて、前に座る男の言葉を待っていた。テーブルには、フロアスタッフ募集の張り紙が置かれている。
「なぜ、なぜあやつがこの張り紙を……」
 支配人は隣に座っているチーフスタッフをひじで小突いた。
「通りの掲示板に貼ってきたのですが、どうやら見つけてきたらしく……」
「見つけたじゃないだろう。見つからないように貼ればこんなことには」
 見つからないように貼っては求人の意味がない。
「ねぇ、せっかく働いてあげるって言ってるのよ。何でそんなに迷ってるのかしら」
 空は傲然と足を組み替えた。こんなにおとなしく丁寧に頼んでいるのに、何故この男たちは即答しないのだろう。年のせいで判断力が鈍っているのだろうか。
「暇をもてあましてたところだったの。フロアスタッフってことは、バニーガールさんたちと一緒にいられるってことよね」
「そ、それはその……」
「違うの?」
 空は顔の横で右手をことさらゆっくりと握り締めてみせた。もちろん脅しなどではない。自分はこんなに腕力がありますというアピールだ。支配人の顔がみるみる蒼白になった。ぶんぶんと頭がちぎれるほどにうなずきだす。
「そ、そうでございますともっ」
 効果は抜群だった。支配人はそれ以降空に逆らわなくなった。
 数分後、空の臨時スタッフ採用が決まった。

     ●

「ここがバニーガール控え室ね」
 ドアの前に立つだけで、中から甘いにおいがしてきそうだ。ウサギたちのさざめくような笑い声が聞こえてくる。
 ドアをゆっくりと開ける。女の子特有のくらくらする匂いとともに、悲鳴が響き渡った。飛んできたヘアブラシやハンカチを条件反射でよける。
「ちょっと、ここは男子禁制で……って、空さま!?」
 一番手前にいたのは、以前から顔見知りになっている、つややかな黒髪が魅力的な少女だった。確か名前はノア。ちょうど上着を脱いだところらしく、服を胸元に抱きかかえるようにしている。
「今日からちょっとだけ一緒に働くことになったの。どうぞよろしくね」
「え、どういうことですか? 空様が、ここで働くんですか? もしかして、バニーガール?」
 少女は目を白黒させた。唐突過ぎて頭がついていかないようだ。
「ほら、なんかこのカジノって半壊して人手不足じゃない。だから、あたしが一肌脱ごうってわけ」
 誰が半壊にしたのかなどどうでもいいのだ。飛び切りの笑顔を作り全力でごまかす。
「で、バニーガールの衣装を着なきゃいけないんだけど、着方が分かんないのよね」
 首を傾げてみせると、すぐに
「私がお手伝いします!」
「わ、私も!」
 すぐに数人が立候補してくれた。
「空様って、絶対にスタイルいいなあって思ってたんです。だから、ちょっと着てもらうのが楽しみ」
 どこからか少しずつサイズの違うバニーガールの衣装が用意され、ノアが楽しげにそれらを並べだす。
「ノアだって十分いい体してると思うけどなあ?」
 いたずら心が頭をもたげた。こちらに背を向けているノアにゆっくり近づき、思い切り抱きついた。間髪いれずにくすぐり攻撃を繰り出す。ノアは一瞬びくっと体を震わせ、そのあとはじけるように笑い出した。身をよじって腕から逃れようとする。しかし、空がくすぐっているためうまくいかない。
「そ、空様……ッ、ふざけるのもいい加減にしてくださいッ」
「ごめんごめん、ノアがあまりに可愛いからつい、ね」
 肩で息をするノアを解放し、空はウィンクして謝った。
 続いて空はゆっくりと身に着けていた衣類を脱いでいく。周りの少女たちがうっとりと息を吐いた。男性だけでなくすべての人間の目を釘付けにする魅惑的な体つきは、少女たちには刺激が強かったかもしれない。
「で、どれを着てみればいいのかしら?」
「あ、じゃあこれを……」
 ノアがおずおずと衣装をひとつ手渡した。肩紐のない水着のような形だ。
 ためしに着てみたが、腰までは入るとしてもそこから上が問題だった。
「ちょっとサイズが小さいかしらね」
「ご、ごめんなさい。こっちにして……ううん、もっと大きいかも」
 ノアが慌てて別の衣装を見繕う。次に着てみたものは、なんとか空の豊かな胸もおおってくれそうだ。
「――似合いすぎです、空様」
「そうかしら?」
 目を真ん丸くして言われれば悪い気はしない。
「本当に良く似合ってます。あとは耳と尻尾をつけて」
「襟もお付けしますから」
「耳をつけるのは髪を梳かしてからよ」
「バストの形を整えて差し上げたいわ!」
空の姿を目の当たりにして目の色を変えたウサギたちが、我先にと空の衣装を調えようと迫ってきた。
「きゃ、変なところ触らないでよ!」
「お、押さないでってば」
「空様、こっち向いてください!」
「ヒールで踏まないでっ」
 ものすごい騒ぎだ。怪我しないようにねーと声をかけたがとりあえず聞いていないようだ。空のほうもどさくさにまぎれてウサギたちの体に触ってみた。驚いたように上がる嬌声が心地良い。むしろそれを楽しんでいるきらいさえある。ひとしきり騒ぎが収まると、全員くたくたになっていた。頬を上気させているものもいる。
 空は全身鏡に体を映して確かめた。わがままで気の強そうなバニーガールがいた。黒いウサ耳はつんと天を向き、首元を飾る白い襟と手首のカフスも決まっている。バニーガールの要とも言える白くふわふわとした尻尾が、形のいいお尻にこれ以上ないバランスで乗っかっていた。
「どう?」
 くるりと一回りして、皆にみてもらう。ウサギたちは今度こそ本当に魅入られていた。

     ●

 カジノの客入りは意外と上々だった。空は約束どおりフロアのマルチスタッフとして動くこととなった。見た目はバニーガールなのだが、仕事内容はボディーガードや黒服よりだ。
 フロアにくまなく目を光らせておき、
「あ、そこのオネーチャン、カクテル頂戴よ」
という酔っ払い親父のそんな声はあっさりと無視しておきながら、若い女性に絡もうとする柄の悪い男たちを見つけるやいなやすっ飛んで行き、男たちに正義の鉄槌を食らわせる。
 裏口でワインの詰まった酒樽を運び、ついでに味見係も務める。
「空様、調子はどうですか?」
「上々よ」
 すれ違うバニーたちと目配せをしあう。
「あたしってこの仕事向いてるんじゃない?」
 思わず微笑む。バニーたちを間近で見られる上に自分も同じ格好ができて、お酒は飲めるしにぎやかで楽しい。それでお金がもらえるなら、願ったり叶ったりだ。

「この調子で行けば、完全復活の日もそう遠くはなさそうだな」
 支配人がフロアの様子を見に出てきた。半壊したカジノでバニーガールたちが健気に働く姿、というのが意外と受けているらしい。店を修繕する際にはこの半壊した雰囲気を多少残すべきだろうか、と考える。星の降り注ぐカジノ。いいキャッチコピーじゃないか。
「いやぁ、よくやってくれているよ君たちは」
 ちょうど目の前を通ろうとしていたバニーガールの一人にねぎらいの言葉をかけ、そのついでにおしりを撫でた。バニーガールの歩みが止まる。
「あれ、……っ」
 そのバニーガールは見事な銀の髪をしていた。彼女が振り返ると、顔をうずめたくなる巨乳があった。
「――どーも、支配人さん」
 銀の瞳は一ミリたりとも笑っていなかった。支配人は顔を引きつらせてじりじりと後ずさりする。が時すでに遅し。
 数秒後、彼は星になった。

     ●

 アルバイトを終えた空の下には、なぜかまだお金が入っていない。金を払ってくれるはずの人物がカジノから遠く離れたところに行ってしまったからだ。なぜか。
「空って本当に面白いわね」
「……」
 すまし顔のエスメラルダに、空は頬を膨らませた。
「今日よ。今日こそ入るはずなんだから」
 何気なくドアのほうへ目を向ける。見慣れたシルエットがそこにいた。
「あれ、ノアじゃない」
 バニーガールの衣装を脱ぎ、ラフな格好のノアが空のすぐ隣まで歩いてくる。
「ここにいるって聞いて来たんです。支配人から、給料を渡して来いと」
 手渡された麻袋のなかには、銀貨がジャラジャラと入っていた。重さで大体の金額を予想する。
「まぁまぁね。もしかして手切れ金代わりかしら? ――ちなみに、ノアはこのあとの予定は?」
「空けてあります」
 きっぱりと言ってのけたノアに、空はにっこりと微笑んだ。
「じゃあ、いこっか」

End.
PCシチュエーションノベル(シングル) -
月村ツバサ クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2009年06月08日

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