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『怪奇探偵さんと斡旋業者さん。 』
ラン・ファー6224)&草間・武彦(NPCA001)

 その日。
 ラン・ファーなる謎の人物(?)が所有しているビルの四階から。
 ははははははははは、と素っ頓狂な莫迦笑いが響き渡っていた。
 聞く人皆振り返りそうな、ビルの外にまで聞こえそうな大きさの笑い声である。
 …勿論、莫迦笑いをしている当人は何も気にしていない。

 ビルの四階に当たる部屋。
 そこはビルオーナーの住居になる。
 ベッドの上、のんべんだらりとごろごろしながらコードレスの子機を片手に電話口。
 …ビルオーナー当人が莫迦笑いをしていた。
「――…ははははは。ふっ、そんな事を聞かされてしまってはな。それ程までに言われてはこのラン・ファーもそちらに赴くより他あるまい。精々感謝するがいい怪奇探偵草間武彦!」
(…待て待て待て。誰が来いと言った)
「ふっ、何を遠慮する。今私が依頼報告の為掛けたこの通話の中でそんな話をこの私の耳に入れる事を選んだ時点でお前は私と言う人材を望んでいるも同然だろうが。怪奇探偵草間武彦にしてみればこのラン・ファーに出馬願うのは恐れ多いのかもしれんが私はそんな些細な事にはまったく拘らぬ。遠慮する必要などまったく無いぞ」
(…誰が遠慮――)
「いやいや皆まで言うな。怪奇探偵がそこまで奥ゆかしくても気味が悪い」
(…俺の話を聞け。それから俺は怪奇探偵じゃない)
「今更何を聞く。そして草間武彦以外の誰に怪奇探偵の称号が相応しい。大切に使って然るべき名だろうが」
(…そんな称号は要らん。大切だと思うならお前にやるから勝手に使え。それより俺はこちらの話を聞けと言っている。…別に誰もお前にうちに来いとは言っていない。ただ斡旋業をやってるお前のところには同じ話が入ってないかとついでだから訊くだけ訊いてみただけだ。『誰 も お 前 に う ち に 来 い な ど と は 言 っ て い な い』。…いやむしろ『絶 対 に 来 る な』)
「…ふむ。聞けと言うお前の話、しかと聞いたぞ。…まずは使用許可を頂いた称号を謹んで私が勝手に使おう。と言う訳でお前の事は怪奇探偵草間武彦と呼ばせてもらう事にする。そしてお前は私にお前のところ――草間興信所の事務所に来いとは言っていない、のだったな。と言う事はお前が私に『来いとは言っていない』と言う事実を述べているだけで、こちらの行動としてお前のところに行こうが行くまいがその言い方の時点では私の判断で構わんと取れる。斡旋業をしている私のところにお前に聞かされたのと同じ話が入っていないか――となると、残念ながら入っていないが大いに興味をそそられる話だ。そして最後の『絶対に来るな』との言い分だが…若干気味が悪いがお前が実はツンデレとか言う奴と考えられん事もない。ならばそこで絶対に来るなと強調して言われた以上は逆を望まれているのだとも取れる…ならば言われた通り大人しく引いてしまうのは流儀に反するだろう…いや、それを当人の前で解説する事こそ流儀に反するか。済まんな気が付かず」
(………………)
「ん? どうした怪奇探偵。声が聞こえんぞ? 通話が切れたか?」
(………………)
「ふむ。だが通話が切れているにしてはそれらしい音がしない上に怪奇探偵が話していた背景の音がそのまま聞こえるな。おお、誰かが興信所の前、軋む階段を上がっているか下がっているかは知らんが通行しているだろう足音も聞こえるぞ。救急車と思しきサイレンも近い。これは恐らく興信所の――電話があるのは応接間だったな、そこの窓は開いていると言う事になるだろう。…ではそこに居る筈な肝心の怪奇探偵の声が聞こえない理由を考えてみようか。このラン・ファーの鋭い指摘に照れて赤面、言葉も出なくなっている。いや言葉が出ないのはこのラン・ファーの洞察力の鋭さと思いやりの深さに感激してと言う事もあるか」
(………………切るぞ)
「おお、漸く返答が返って来たな。うむ。通話を切るならばこれからそちらに強襲する。ではな」
 切。

 …。

 何故か、切ると宣言した当の通話相手が通話を切るより先に、莫迦笑いをしていたビルオーナーの方が逸早くぶちりと通話を切っている。



 暫し後、草間興信所。
 通話を切った後、宣言通りにラン・ファーが直接訪れて――宣言通りに草間興信所を強襲していた。
 …しかも来るのがやけに早い。
 そして場の主に茶を出されるより先に当然のように興信所台所の冷蔵庫――と言うかその冷凍庫部分を勝手に開け、何処ぞの誰かに頂いた差し入れなのだと思しきアイスクリームなど引っ張り出し確保、堂々と応接間のソファに腰を落ち着けている。
 その間、ランの行動を咎めも制止もせず草間興信所所長は無言。
 …何と言うか、ランの来訪は天災か何かの如きものと最早諦めている節がある。
 要は、幾ら咎めても制止しても聞かない――では無く、話自体を聞く事は聞くが聞いた上で何だかとんでもない方向に話題が発展、結局大元の話は何処へやら、却って面倒臭い余計な事になってしまうのが目に見えているので――敢えて藪を突付いて蛇を出さないよう努めているだけの事。
 だから、武彦はランがアイスクリームを確保し応接間のソファに着いて――取り敢えずの態勢を整えるまで待ち、それから短くも重々しく口を開いたりする事になる。
「…で。何の用だ」
 ぼそり。
 草間興信所所長の草間武彦が、それなりに実績のある斡旋業者としてのランに頼んでいた依頼についての報告は――とっくに先程の電話で済んでいる。
 そしてその電話の途中武彦が口を滑らせ――と言うか、ついでと思い訊いてみた事こそが計らずもランの興味を引いてしまい、ここを訪れた理由になっているのだとはわかっているのだが、ここでは敢えて触れない。
 …武彦としては、触れない事で消極的な抵抗をしている、とも言う。
 ランは意外そうに片眉を跳ね上げた。
「何の用だと? 勿論差し入れと思しきアイスクリームを喫食する為に訪れたに決まっているだろうが。先程の電話口で漏らした話とてどうせお前はあれ以上何も言う気はあるまい。…要は暇なのだ。それに暑い。家に居ても何も変わらん。ならば自宅に居るより良き出会いが訪れる可能性がより高い草間興信所に居座るのも悪い選択ではなかろう。…何なら怪奇探偵の仕事を手伝ってやってもいいぞ。先程電話口で漏らしていた話の件でも無論構わん。このラン・ファーの手と頭脳を使えるなどと光栄な事とは思わんか?」
 …武彦の考えた、なけなしの消極的な抵抗すら既に無意味になっていた。
 最早ランの意識が先程の電話中出してしまった話題に無い。…いや意識の隅には残っているようだがどうやらあまり重要視されてない。
「…」
 そうなると、武彦にしてみれば新たに声すら掛け難くなる。
 …次にランに声を掛けた内容次第で――次に選んだ話題次第で、果たして何処に話が転がって行くのやら想像もつかなくなる訳で。
 のほほんとランはアイスクリームを食べている。
「…にしても何故この草間興信所と言うところは数多の興味深い客人が訪れるのだろうか。怪奇探偵な所長の他に私だけしか居らん今のような状況はまず稀だ。…怪奇探偵がそれ程頼られるとはこの東京はそれ程に魑魅魍魎が跋扈していると言う事か。いや怪奇探偵としての仕事で頼られているとも限らんな、用が無くともこの場に無意味に屯している輩もまた多かったか。実際、訪れた時に応接間のソファが空いておらん事も少なくない。この狭苦しく昭和の香り漂い煙草の臭い染み付く一室に何か人を寄せ付ける要素があるのか…いやいや、この怪奇探偵と呼ばれる人物こそに何かがあるのかもしれんな…このラン・ファーが見る分にはただの万年金欠なハードボイルドオタクでヘビースモーカーな人間、であるだけの気がするのだが」
「…お前な…」
「ん? 何か間違った事を言ったか? お前は怪奇事件に寄って来られるのが嫌なのだろう怪奇探偵。万年金欠なハードボイルドオタクでヘビースモーカーと言われるのも嫌なのか? …ワガママな奴だなあ」
 どっちがだ、と反射的に言い返したくなる草間興信所所長。
 が、そこは意地で抑え込む。
 …反射のまま不用意に言い返してしまったらどんなとんでもない方向に話題が発展して…以下略。
 結果としてまた無言が続く。
 その間にランがアイスクリームを食べ切った。
「うむ。誰からの差し入れかは知らんが美味であった。次は是非このラン・ファーのところにも箱で送り届けて欲しいものだ。…確かまだたくさんあったな。折角だからもう一つ頂こうか。…いやいや美味だからと言って二つ目は止めておくべきか。腹でも壊してはつまらんからな。…春夏秋冬四季など無視したような昨今の変動が激し過ぎる陽気ではちょっとした加減で体調を崩し易いだろうしここは気を付けておいて然るべきだろう。いや、やはりここはある程度冷蔵庫の中身を空けておいてやるべきかもしれんな。冷蔵庫と言う家電は中身を詰め過ぎても良くないと聞いた事がある。だがここ草間興信所では冷蔵庫の中に空いた空間がある方が余程寂しいのだろうとも取れるな…どちらを選択するべきか重大な問題だな」
「…ほっとけ」
「放って置けるか。お前がそんなだから妹御はじめここの女衆は毎度苦労しているのだろうが。この素晴らしい頭脳を持つラン・ファーも何か貢献してやるべきだとは思っているのだぞ」
「…いや本当に放っといてくれ」
 と言うか、それを重大な問題と定義付けないでくれ。
 草間興信所所長、無駄に疲労。
 気が付けば自分のデスクに着いた状態で何やらぐったりしているそんな武彦の姿を見、そうか? とランは心底意外そうにきょとん。
 そして、ならば放っといてやろう、とばかりにソファにどっかりと座り直す。それからいつでも何処でも季節も問わず常備している材質不明な扇子を開いて優雅にぱたぱた扇ぎつつ、まるでこの場が己の自宅ででもあるかのようにソファで寛ぎ始めた。
 …かと思ったら、不意に思い付いたように大声を上げた。
「おお、だからか」
「…何がだ?」
「いやいや、この場に客人が集まる理由についてだ。…いやな、ここはまるで我が家に居るように居心地が良いのだよ。そもそも目の前にはいじりがいのある怪奇探偵も居る事だしな、退屈もしないし飽きも来ない。一見日々の生活にも事欠く程に貧乏なようだがその実常連からの差し入れやら何やらが豊富で多種多様、生活するに案外不自由もせん上に面白い。そうして客人が居座ればまた更にそこに興味を抱いた客人が増える。客人が増えれば当然退屈も遠くなる。更には差し入れの種類も数も増えるだろうしな。良い事尽くめではないか」
「…」
 言うに事欠いていじりがいのあるって何なんだ。
 いや、それ以外にも何処から突っ込むべきか迷う程突っ込みどころ満載な事を言われた気がするのだが。…と言うか客が増えれば余計な騒ぎが持ち込まれる率も上がるとか、そもそも客が人とは限らず、客が人であったとしても大人しく場のルールに従ってくれるような奴であるとは限らないとか、負の側面は完全無視か。
 そんな訳で武彦はまたやっぱり反射的に言い返しそうになってしまうが…やっぱり以下略。
 …と言うか。
 さすがにそろそろ限界である。

 結論。
 話し相手が反応しようがするまいが、どちらにしろランの話題は何処に飛んでいくかわからない。

【…脱線に続く脱線の果て、なんか色々有耶無耶のまま強制終了】
PCシチュエーションノベル(シングル) -
深海残月 クリエイターズルームへ
東京怪談
2009年05月28日

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