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『― ソルディアナ誕生秘話? ― 』
ソール・バレンタイン7833)&(登場しない)

「今日は良い天気、何か良い事がありそう‥‥」
 足首までの長い髪の毛を靡かせながらソール・バレンタインは秋葉原へと向かう電車へと乗る。勤務地が秋葉原の為、乗り慣れた電車だったけれど、人の多さにはあまり慣れる事はなかった。
(「今日も多いなぁ‥‥休日だから余計に‥‥」)
 ソールは吊り革に捕まりながら周りを見渡す。休日で遊びに出かける若者達が多いのか、ソールをじろじろと見る少年達がいる。
 性別こそ『男性』に区分されているが、ソールはそこらの女性より美人であるのは事実で、今日の格好も少し胸の開いた洋服、少年達がじろじろと見るのも無理はないのかもしれない。
(「嫌な視線だなぁ、降りる駅はもうすぐだから我慢かな‥‥」)
 自分を見つめる少年達の視線に不快感を覚えたが、もうすぐで降りる駅の為に出口付近に移動してドアが開くのを待つ。そして車内アナウンスが流れると同時にドアが開き、後ろから押されるような感覚に転ばないように気をつけながらソールは人の波から脱出した。
「良いものがあるといいなぁ」
 ソールは呟きながら駅から出ると行き着けの『コスプレショップ』へと向かい始めた。

「こんにちは」
 キィ、とドアを開けながらソールが挨拶をするとコスプレショップの店長が「あぁ、いらっしゃい」と言葉を返してきた。
 ちなみにコスプレショップの店長はソールの性別を知った上で交流している。
「今日も相変わらず可愛いね、うちの専属モデルになってくれたらいいのに」
 衣装の整理をしながら店長が冗談交じりに言葉を掛けてきて「あ、あはは」とソールは困ったように笑いながらコスプレ衣装を見ていく。
「‥‥あれ? これって新しい衣装ですか? この前来た時にはなかったですよね」
 これ、と見つけた衣装を手に取りながらソールは店長に話しかける。
「あぁ、それはソルディアナの衣装だね」
「ソルディアナ?」
 ソールが首をかしげながら呟くと「これだよ」とゲームソフトをソールに見せる。そのソフトには『魔法少女ソルディアナ』とタイトルが書かれており『18歳未満の方はご遠慮ください』というマークも書かれていた。
 衣装を見てもそうだったが、どう見ても日曜の朝にありそうな魔法少女系のコスチュームではない事から内容は容易に想像できた。
「どういう感じのゲームなんですか?」
 ソフトを見ながらソールが店長に問いかけると「うーん‥‥」と店長は首を傾げながら説明の言葉を選んでいる。
「そ、そんなに悩む内容なんですか?」
「簡単に言えば、その女の子が悪と戦っていくんだけど、とりあえず何でもしちゃえって感じかな? 設定に神話が取り入れられてるんだけど、いろんな意味でツッコミ満載だね」
 店長の説明に「な、なにそれ‥‥」と設定のいい加減さにソールは大きなため息を漏らした。
「でも‥‥」
 その時、電話が鳴り響き「ちょっと待ってて」とソールを残して店長は電話へと行く。
「設定とかはともかく、このデザイン――可愛いんだよね‥‥どうしようかな、買っちゃおうかな」
 元々、何かを買うつもりで来ているのだから『買ってしまおうかな』という気持ちがソールの中でぐらぐらと揺れている。
「ええ、ちょ‥‥もうすぐ時間だって言うのにいきなりそんな事を言われても困るんだけど‥‥え? あ、ちょ、ちょっと! もしもし!?」
 隣の部屋からは店長の焦った声が聞こえ「何かあったのかな」とソールは隣の部屋を見ながら呟く。まさかこの後、そのしわ寄せが自分に来るとは夢にも思っていないだろう。
「はぁ〜‥‥どうしようかな」
「あ、僕、これを買おうかなって思ってるんですけど‥‥」
 帰ってきた店長に『ソルディアナ』の衣装を見せながら問いかけると「それはオススメだよ、うん、キミならすごく似合うと思うしね」と店長も勧めてくる。
「‥‥あ、この後時間はある? もし何も予定がないんなら、ちょっと俺のお願いを聞いてほしいんだけど‥‥」
 店長が少し申し訳なさそうに言ってくるので「別にないですけど、どうしたんですか?」とソールは言葉を返した。
「実はこの後『撮影会』があるんだけど、モデルを頼んでいた子がドタキャンしてきてさ‥‥開始時間ももうすぐだし、代役を探そうにも時間がないんだよね」
 だから代役やってもらえないかな? と店長は顔の前で手を合わせ「お願いっ」と言葉を付け足しながらソールに代役をしてくれるように頼んできた。
「もちろんタダとは言わない。その衣装を報酬に、というのはどうだろう?」
 この撮影会というのはソールも経験した事すらないけれど聞いた事はあった。二時間ほどで二万円弱のバイト料が貰えるという事で色んな女の子などがしている姿を見たこともある。
(「どうしよう」)
 ソールはチラリと衣装を見ながら心の中で呟く。衣装は二時間のバイト料以上の値段で得をする事には間違いないのだけど‥‥。
「そうか、そうだよね、駄目だよね‥‥分かったよ、俺が撮影会に来る人達に誠心誠意を込めて謝るよ‥‥今回のお客さん達は楽しみにしていたからなぁ、俺、死なないといいけどなぁ」
 大げさな言葉と共に店長が「へへへ」と俯きながらソールをちらりと見る。どうやら押しても駄目なら引いてみろ作戦のようで諦める気なんてこれっぽっちもないようだ。
「わ、分かりましたよ‥‥僕もこの衣装が欲しいし協力します」
 ソールの言葉に「そうかい、悪いね! では気が変わらないうちにこっちへ」と店長がソールの背中を押しながら更衣室へと連れて行く。
「着てもらう衣装はそこに置いてあるからね」
 店長の言葉にソールが周りを見ると確かに衣装が置いてあった。屈んでしまえばパンツが見えてしまいそうな短い黒のスカート、上は胸の下くらいまでしかない白いタンクトップ、明らかに男性が好みそうな衣装にソールはやや苦笑しながら着替えたのだった。

 そして撮影会の時間が来て、お客さん達が撮影場へと次々に入ってくる。
「おお、店長。今回の子はすごく可愛いね」
 金色の髪、青い瞳、そしてすらりとした手足に男性ならば顔を埋めたいであろう豊かな胸、どれもが彼らを魅了するには十分すぎるものだった。
 だけど、この中でソールが『男性』だと知っているのは店長だけ。他のカメラを構えた男性達は鼻の下を伸ばしながらソールの写真を次々に撮っていく。
「もっと屈んでくれない?」
「座って足を開いてくれない?」
 次々に要求される大胆なポーズにソールは困ったが、衣装の為と割り切り出来る範囲までは男性達の要求を呑んでいったのだ。
 そして二時間が経過した頃、男性達は満足気に撮影を終えた。
「またキミだったら喜んでくるんだけどなあ。次はいつ来るの?」
「俺も聞きたいね、次もモデルがキミだったら何が何でも都合つけてくるんだけどなぁ」
 男性達の質問攻めに「え、ええと」とソールが困っていると「次は決まってないんだよ」と店長が話しに入ってくる。
「本当は別の子がモデルだったんだけど、急遽この子にしてもらう事になってね。だから予定を聞いても無駄だよ」
 店長の言葉に「ちぇ」や「なんだぁ」とがっくりと肩を落としながら男性たちは店から出て行ったのだった。

「それじゃ、今回は本当にありがとう、はい、これ報酬」
 片付けなどが終わった後に店長がソールに紙袋を渡す。
「衣装とソルディアナのゲーム、それとOVAも入ってるから」
 店長は言いながら紙袋を差し出してくるのだが‥‥。
「‥‥‥‥あの、手を離してください」
 いつまで経っても紙袋の紐を手から離そうとはしない店長にソールが痺れを切らしてポツリと呟く。
「くっ、だってだってこの衣装は俺も気に入ってるのにっ」
(「だったら店に出さなきゃいいのに‥‥」)
 まるで駄々っ子のように店長はソルディアナの衣装を渡そうとはしない。
「でも、キミだったら本当に衣装栄えするだろうなぁ。今度はその格好でモデルをお願いしたいなぁ」
「‥‥はあ」
 結局、店長が衣装などを渡してくれたのは日も沈みかけた頃だった。

「ちょっと‥‥大胆な衣装で恥ずかしいけど、誰かに見てもらいたいなぁ」
 2LDKの自宅に帰ってきたソールは早速『ソルディアナ』の衣装を身に纏い、大きな姿見の前でくるりと回って見せた。
 その時だった。
「――――――え!」
 ぐらぐら、と家が大きく揺れる。後から分かる事なのだけどこの時の地震は震度4強という強いものだった。
「わ、わ、わっ」
 綺麗に整頓されていた漫画などが床に落ち、ソールはテーブルの下に隠れて地震が収まるのをひたすら待った。
「おさまった、かな?」
 まだ少し揺れているけれど先ほどのような強い揺れではなく「外はどうなっているんだろ」とソールは外へと出る。
 しかしソールは忘れている。今の自分の格好を。
「あぁ、無事だったんですか。大きな地震でしたよね。もう僕もびっくりしちゃって‥‥」
 ソールと同じく隣人も外の様子を見に来ていたらしく話しかけると「えぇ、本当にびっくりですね」と隣人は目を大きく見開きながら言葉を返してくる。
「え?」
 気づくと隣人だけではなく、他の住人達も一斉にソールに視線を注いでいた。
「え――――あ」
 視線が全て自分の格好に注がれている事を知ったソールは「え、えへへ、えーと‥‥こ、こういう服もいいかなぁ、なんて」と誤魔化しながら顔を真っ赤にして部屋へと戻っていったのだった。
「うわぁっ、どうしよう‥‥明日からどうやって顔を合わせればいいの〜〜?」



END

――出演者――

7833/ソール・バレンタイン/24歳/男性/ニューハーフ/魔法少女?

―――――――

ソール・バレンタイン様>
初めまして、今回執筆させていただきました水貴透子です。
今回はシチュノベ(シングル)のご発注をありがとうございました。
ギャグテイスト――ということでしたが、うまくギャグテイストに出来ずに申し訳ないです‥‥。
内容の方はいかがだったでしょうか?
少しでもご満足して頂けるものに仕上がっていたら幸いです。
それでは、今回は書かせて頂き、本当にありがとうございましたっ。

2009/5/7
PCシチュエーションノベル(シングル) -
水貴透子 クリエイターズルームへ
東京怪談
2009年05月08日

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