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『 深夜――追いかけて 』
真名神・慶悟0389)&襤褸布・無為(5507)&夕乃瀬・慧那(2521)&(登場しない)

 そこは東京都内でも比較的閑静な住宅地。商店街など賑わいの元となるものは少し遠く、商店や駄菓子屋が点在するような懐かしげな場所。マンションなどの開発から逃れたその地域には一軒家やアパートが多く、無機的で背の高い建物は殆ど存在しない。その副産物の裏路地や坂は昔からの姿そのままに存在しており、子供達の貴重な遊び場になっている。
「ったく……世話が焼ける」
「すいません、師匠」
「謝ってる暇があったら手を動かせ」
 時は深夜。場所は公園。二人の男女――単語だけ並べれば艶かしい雰囲気に陥っていてもおかしくないのだが、この二人の場合は違った。
 真名神・慶悟と夕乃瀬・慧那。師弟関係にあるこの二人が現在陥っている状況は、そんな甘いものではない。
 この公園に現れる地縛霊の退治を依頼され、それは無事に終了した。さて帰途につくか……と半分くらい道を行ったところで慧那が。
『あっ……腕輪が、腕輪がないですっ』
 と騒ぎ出したため、再び道を戻ってこの公園へ戻ってきたというわけだった。
 霊障の解決された深夜の公園は静かで、所々に設置された街灯が弱々しく遊具を照らしていた。間違っても探しものに適した環境ではない。
「見つかりません〜」
 ガサガサガサ……半分泣きそうになりながら慧那は植え込みの根元をあさる。だが街灯の光の届かぬその場所は薄暗くて、何かがあっても中々見つけられそうにはなかった。
「どの辺で落としたかもわからないのか」
「分かったら言ってます」
 足で芝生を薙ぐようにして探している慶悟の言葉に弱々しく慧那が答えた。
 このまま見つからなかったらどうしよう、そんな思いが満ちて心細くなる。
(弱気になったら駄目ですよね)
 よし、と一度気合を入れなおした慧那の視界の端に、何か白いものが映った。
「え?」
 幽霊? いや、そんな馬鹿な。霊は先ほど自分達が退治したはずだ。
「師匠っ」
「ん?」
「あれ……」
 慧那が指した先を慶悟が目で追う。その先にいた(?)のは真っ白い物体。高さは三十センチほどだろうか、子供がいたずらで白いシーツをかぶった状態をそのまま小さくした、そんな感じ。ただ注目すべきは、それに目と口があることだ。
「……」
「……」
 思わず合ってしまった目をそらすべきかどうすべきか、三人は一瞬挙動を停止し、見詰め合う。

 すちゃ。

 だが沈黙を破ったのはその白い物体――襤褸布・無為だ。右手に持った金属の物体を、左手にはめる。
「「あ」」
 慶悟と慧那の声がハモった。見覚えのあるそれは、たった今まで自分達が探していた慧那の腕輪ではないか。
 無為はそんな二人に構わず、そのまま背を向けた。だが二人は黙って見ているわけにはいかない。
「ちょっと待て!」
「返してください!」
「むい。むい」
 二人の声に構わず、無為は腕輪をはめたまま素早く公園の出口へと向かっていく。思ったよりも逃げ足が速い。
「追うぞ!」
「はい!」
 慶悟と慧那は急いで走り出す。細い道が多いこの街に出られたら厄介だ。
「っ……!」
 慶悟が懐から出した動きを止める符も、ひょいとかわされてしまう。後ろに目でもついているのではなかろうか。
「なんだあいつは」
「師匠、横道に入りました!」
 シャッターの閉まった八百屋の脇に無為はすいっと入っていく。その隙間は思ったより狭く、慧那ならなんとか入れそうだったが慶悟が通るのは難しそうだった。
「俺はぐるっと反対に回る。お前そのまま追え」
 言い捨てると慶悟は八百屋の前を走っていった。慧那は言われたとおり、身体を横にして隙間を通っていく。
 なんとしてでも腕輪を取り戻したかった。この先はバス通りのはずだ。慧那は横道を抜けながら符を準備する。さっき慶悟が投げた符とは効力が雲泥の差だが、彼女が用意したのも動きを止める符。これが命中すれば――。
 バス通りの――といっても道幅が広いというだけだが――街灯の明かりが見えてきた。数メートル前を行く無為が、ぴょこんと通りとびだした。
「うんー? なんだー?」
 酔っ払いだろうか、無為の姿を見てあげたのだろう声が聞こえてくる。
(えいっ!)
 自分も横道を抜けざま、慧那は符を投げた。当たれ! そう願う。だが。
 ひゅるるるるー。
 ビシィっというよりひょろひょろと飛んだ符は、酔っ払いの足元を通り抜けた無為とはまったくの逆方向。つまり酔っ払いの足元ではなく顔面に飛んで行き。
「うぁ?」
 ぴたりと酔っ払いのおでこに張り付いた。
「何やってるんだ!」
 ぐるっと建物を回ってきた慶悟の喝が飛ぶ。
「ごめんなさい〜っ」
 慧那はすれ違いざまに酔っ払いのおでこから符をはがすと、そのまま走り抜ける。慶悟はすでに数メートル先を走っていた。無為は更にその前だ。
「あんまり調子に乗るなよ」
 慶悟は走りながら懐に手を入れる。そして陣笠の式神を呼び出すと、無為を止めるように命じた。だが。

 ぴょーんっ。

 飛びつこうとした式神を、無為は軽々と跳躍して避けてしまう。いや、これは跳躍というレベルではない。人ならざるものであるがゆえか、無為は尋常ではない高さを飛んでいた。そして数メートル先に着地をすると、くる、と振り向いて落書きのような顔を向けた。
「むい。むい」
 何かを言っている様だ。だがまったくもって分からない。ともすればこちらを馬鹿にしているようにも取れる。
「それは馬鹿にしているのか?」
「師匠、待ってくださいー!」
 慶悟のこめかみに青筋が立ったのと、背後から慧那が叫ぶのとは同時だった。成人男性と少女の脚力など比べられるものではない。
「早く来い‥‥って!」
 慶悟が軽く慧那を振り返った隙に、無為の姿はなくなっていた。まっすぐ進んだのか、それとも横にある川岸に下りたのか、また横道に入ったのか。
「仕方ない。手分けして探すぞ」
「は、はいっ」
 息を切らせながら漸く追いついた慧那に、慶悟は告げてすぐに走り出す。慧那は息を整えながら式王子を呼び出した。
「お願いします」
 無為を探してくれと願う。だがその人型に切り抜いただけの紙は一生懸命動いて探しているそぶりを見せるのだが――風には逆らえなかった。
「ああっ……」
 風に煽られてひょろひょろと飛んでいく式王子を、慧那は追いかける。坂を下りて川岸まで降りていった。川岸をコンクリートで固められているその川には転落防止の柵が設けてある。式王子はその柵を超え、そしてはらりと月を映した川面へと落ちた。
「あぅ……」
「むい。むい」
「え?」
 慧那が柵にもたれかかるようにしていると、不意に聞こえたのはあの意味不明の声。きょろり、辺りを見回すと数メートル先に白い物体がうずくまっていた。
「いたっ!」
 小さいがにゃーにゃーと声が聞こえる。どうやら猫と一緒にいるらしい。
「気づかれないように……」
 慧那は足音を忍ばせてゆっくりゆっくり無為に近づく。草を踏みしめる音が気になったが、目は無為の左手にはめられている腕輪に釘付けだ。
「えいっ!」
 意を決して飛び掛る。だが――そのタックルはひょい、とかわされてしまい、慧那は地面へとダイブしてしまった。猫が彼女に驚いて、みぎゃ! と鳴いて走り去っていった。
「むい。むい」
 無為は慧那を不思議そうに見るも、彼女が自分に手を伸ばすとすすすっと遠ざかっていく。
「待ってください〜」
 待てといわれて待つような奴だったら、今頃捕まっているに違いない。慧那は何とか起き上がり、前を見た。無為より数メートル先、そこに人影があった。暗くて顔の判別は出来ないが……。
(師匠?)
 背格好から見てそれが慶悟だと判断し、彼女は走る。すると慶悟は足元に何かをぽん、と落とした。
(?)
 慧那の位置からは小さくてそれが何なのか分からない。だが、無為はそれ目指して進んでいく。
「むい。むい」
 そして慶悟の一メートル前で立ち止まり、彼が落とした物体を拾い上げていた。
「捕獲」
 無為がその物体に夢中になっている間に、慶悟は素早く無為の左手を取った。そして腕輪を奪う。
「むい。むい」
「そいつはやるから、これは返せ」
「し、師匠……何を」
 追いついた慧那が無為の手の中を見ると、そこには百円ライターが。落し物だと思った無為は、それに気を取られて追われている事を忘れてしまったのである。
「ライター……」
「とりあえず取り返したぞ。こいつはどうするか……」
「むい。むいー」
 離せ、といっているようにも聞こえる。
「とりあえず腕輪は戻ってきましたし……離してあげてもいいんじゃないでしょうか」
 ぱっ、と慶悟が手を離すと、無為は先ほど猫がそうしたように一目散に逃げていってしまった。
「あいつは一体何なんだ。っと……ほら」
「あ、ありがとうございますっ」
 ひょいと投げられた腕輪を両手で受け取り、慧那はしっかりと腕にはめる。もう落さないように。
「ったく、あいつのせいで余計な運動しちまった。帰るぞ」
「はいっ!」
 確かに余計な体力を消耗したが、慧那の声は嬉しそうだ。それならいいか、と思う慶悟だった。

 夜は更けていく。疲れきった今日はゆっくり眠れそうだった。


■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■

【0389/真名神・慶悟様/男性/20歳/陰陽師】
【2521/夕乃瀬・慧那様/女性/15歳/女子高生/へっぽこ陰陽師】
【5507/襤褸布・無為様/男性/100歳/物の怪とか付喪神とかそういうものっぽい。】


■         ライター通信          ■

 いかがでしたでしょうか。
 シチュエーションのベルを書かせていただくのは初めてで、至らぬところがあるかと思いますが、少しでも気に入っていただける事を祈っています。
 ご指定いただいた公式NPC以外のNPCを描写することは出来ませんので、一部ご希望に添えない部分があると思いますが、ご了承くださいませ。

 書かせていただき、有難うございました。

                 天音
PCシチュエーションノベル(グループ3) -
みゆ クリエイターズルームへ
東京怪談
2009年04月28日

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