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『虎の牙を纏い、闘う舞姫 』
赤羽根・灯5251)&黒崎・潤〈暗黒騎士化〉(NPCA051)

 彼女は舞うように闘う。
 新たなる力に目覚めた彼女は、目の前の敵に勝るとも劣らぬ力を手にした。
 望めば彼らのように『支配』出来る力、それが彼女の手にある。
 だけど、彼女は『彼ら』ではない。
 先ほどまでは敵、だけど利用され、捨てられた者の命を断つ事など出来ない。
 いや、出来ないのではなく『しない』のだ。
 その優しさこそが彼女を危機に陥らせる。
 だけど、彼女は『優しさ』を捨てる事など出来はしない。
 何故なら――それを捨てた瞬間に『彼ら』と同じになってしまうのだから。
 そして――‥‥その優しさこそが彼女をきっと救うのだろう。


「‥‥ぅ‥‥」
 赤羽根・灯は低く呻くように自分の胸の辺りに左手を置く。
 どくん、どくん、と脈打つ鼓動が耳に煩く響いて灯は眉間に皺を寄せ、今にも爆発しそうな自らの力に耐えるように右手を強く握り締めて拳を作る。
 いくら強力な力に目覚めたとは言っても、すぐに力を使いこなせるほどの体力は今の灯にはない。
「まだ‥‥己が力に体が馴染んでおらぬのだ‥‥」
 地の底から響くような声が灯の耳に届き、灯は俯いていた顔を上げて目の前の邪竜クロウ・クルーハをキッと強く睨む。邪竜クロウ・クルーハから斜め下に視線を落とすと、目覚めたばかりの白虎の力で壁に叩きつけられ、気を失っている黒崎・潤の姿。
「人の事を‥‥気にしている余裕が、あるのか?」
 ずしん、と重く響く音と共に邪竜クロウ・クルーハが一歩、灯に向かって踏み出してくる。
「‥‥どうだろうね? 自分を上に見ている奴ってのは下の奴を甘く見る――何処でも一緒なんだね」
 灯は呟き『びゅう』と一陣の風を操り、邪竜クロウ・クルーハに向けて攻撃を仕掛ける。
 その様子を見て「ほぉ、少しは操れるようだな」と邪竜クロウ・クルーハはポツリと呟く。表情は分からない筈なのに、何故か下卑た笑みを浮かべているようにも見えて、灯の胸に不快感が走る。
「だが――その程度の力、捻り潰す事など容易い!」
 邪竜クロウ・クルーハが鋭い爪で攻撃を仕掛け、灯の服を引き裂き、灯の足を掠めていたのか血の線が伝う。
「例え大きな力を手にしても、使う者がその程度なら脅威にはならん!」
 邪竜クロウ・クルーハは大きく叫びながら、先ほどと同じように攻撃を仕掛けて来る。灯はとっさに目を閉じ、自分を庇うような行動を取る。

 ――――がきん。

「‥‥‥‥え」
 響いた金属音のようなものが灯、邪竜クロウ・クルーハの耳に響いて両名が驚いたように呟く。
「そ、その姿は‥‥!?」
 先に言葉を発したのは邪竜クロウ・クルーハの方で、灯の姿に驚いたように目を丸く見開いている。
 そして当の本人である灯はまだ状況を理解できていないのか、きょとんとした表情で虎の爪のようなグローブをはめている自分の手を見つめていた。
「この姿は‥‥?」
 少し向こうにあるぴかぴかに磨かれた石に映った自分の姿を見て、灯は小さな声でポツリと呟いた。
 戦いの中、窮地に陥った灯は無意識に『白虎』の力を解放させていたのだろう。その所為か服装も先ほどとは変わって、白い武道着に虎をモチーフにされたもの、そして同じく虎の爪を連想させるような爪の付いたグローブ。
 どちらかと言えば防御より攻撃に適した服装に灯はつま先で地面を軽く蹴る。
(「動きは‥‥いい。むしろさっきより動きやすいくらい」)
 ぱすん、と手で壁を叩き「キミを倒して、此処を出て行かせてもらうからね」と拳を前に突き出し、宣戦布告すると同時に灯が動き始める。
「ぬぅ‥‥っ」
 灯の動きが先ほどより増している事に邪竜クロウ・クルーハは軽く呻きながら、灯の攻撃に耐えるように身を守る。
 恐らく邪竜クロウ・クルーハ自身も分かっているのだろう。防御に手を緩めれば、自らを危険に晒すという事に。
「バイトがクビになっていたり、お母さんが来ていて怒られたら――如何してくれるのよ!」
 はっきり言ってそっちの方が怖いじゃない、灯は心の中で呟きながら邪竜クロウ・クルーハに対する攻撃を緩める事はしなかった。
 攻撃の手が強くなればなる程、部屋の中の被害も広がっていく。石柱は崩れて倒れ、石畳の地面は割れ、戦いが進んでいくほど部屋の原型を崩していく。
 その中、邪竜クロウ・クルーハの攻撃を灯が弾き飛ばしたのだが意識を失っている黒崎の方向に向かっていくのを見て、慌ててそれを受け止め、別の方向へと弾く。
(「ふぅ、危ない‥‥散々いたぶってくれたケド、被弾で死なれたら夢見が悪くなっちゃう」)
 灯は間一髪で助ける事が出来た黒崎を見て「後でお礼の一言くらい言って貰うんだから」と軽く毒づいた後に再び爪を構えて戦いへと戻る。
 だけど灯は気づかなかった。灯の行動を見て邪竜クロウ・クルーハが薄くあざ笑うかのように低く呻いた事に。
 灯が黒崎を庇ったのは彼女自身、気にも留めていない当たり前の優しさ。だけど彼女はまだ気がついていない。
 彼女が当たり前のように見せた優しさが、彼女自身を危険に晒すという事に。
「‥‥‥‥」
 先ほどまでは煩いほどに唸りながら攻撃を仕掛けてきていた邪竜クロウ・クルーハが不気味なほどに静かになって、攻撃を仕掛ける事はなく、ただ黙って灯の攻撃を避ける事に徹していた。
(「‥‥何だろう、何か‥‥違和感が‥‥」)
 灯は攻撃を仕掛けながら、心の中で呟く。
 そして――次の瞬間「うわああああっ」と黒崎の悲痛な叫び声が灯の耳に届く。
「っ!!」
 灯がハッとして黒崎に視線を向けると、邪竜クロウ・クルーハの尾が黒崎を強く締め付けている姿が視界に入ってくる。
 そして邪竜クロウ・クルーハの考えが灯の脳裏を掠める。邪竜クロウ・クルーハは黒崎に近づくのを灯に気取られぬ為に、わざと防御に徹していたのだ。
「‥‥彼はキミの仲間なんでしょ? 痛めつける理由が分からないんだけど‥‥?」
 灯が邪竜クロウ・クルーハとの距離を開けたまま話しかけると「利用価値はまだある」と短い言葉が返ってくる。
「人の優しさ、くだらない。例え敵であろうが死ぬのを見るのは嫌か? そんな覚悟で戦いに身を置くというのか?」
(「巻き込んだのはキミでしょ。好きで戦っているわけじゃないのに‥‥勝手だなぁ」)
 灯は心の中で邪竜クロウ・クルーハに向けて毒づき「だから何?」と素っ気無く彼女は言葉を投げかける。
「お前が動けば、この男を殺す」
 邪竜クロウ・クルーハは呟くと同時に灯に攻撃を仕掛ける。体中に響く鈍い痛みに灯は表情を歪め、痛みに耐える。
「別にこの男を見殺しに出来るのなら、動いてもいいんだぞ?」
 邪竜クロウ・クルーハは楽しそうな声色で灯に向けて言葉を投げかける。
(「いったぁ‥‥」)
 このままでは埒が明かない、灯は段々と自由の利かなくなってくる体を無理矢理立たせながら心の中で呟く。
「‥‥もう、駄目かも‥‥」
 がくりと膝が折れた時、拉げた扉を開けて部屋の中へ入ってくる人物がいた。
 それは――‥‥。


 TO BE‥‥?


――出演者――

5251/赤羽根・灯/16歳/女性/女子高生&朱雀の巫女

――――――
赤羽根・灯様>

こんにちは、水貴透子です。
いつもご発注下さり、本当にありがとうございます!
毎回面白いプレイングを読ませて頂き、私も続きが凄く楽しみです。
ただ私の描写でうまくプレイングを生かせているんだろうか‥と不安になる事も‥‥。
ご満足いただけるものに仕上がっていましたら、私としても嬉しいです。

それでは、またのご発注をお待ちしております♪
今回も書かせて頂き、本当にありがとうございました♪

2009/4/17
PCシチュエーションノベル(シングル) -
水貴透子 クリエイターズルームへ
東京怪談
2009年04月17日

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