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『+ 解放への軌跡 + 』
ガルヴァドス・タイタン7868)&天音・彰人(7895)&三下・忠雄(NPCA006)



 時刻は午後七時。
 日が落ち暗くなった東京に二人は居た。封鎖された道路には多くの誘導係が居り、誘導灯や車のライトが忙しなく辺りを照らし影が蠢く。


「では調査について改めて説明させて頂きます」


 三下 忠雄(みのした ただお)は持っていたファイルを広げながら目的地に向かって歩く。短く切り揃えられた黒髪、黒縁眼鏡を掛けた彼の頬には絆創膏が貼り付けられていた。月刊アトラス編集部に所属する彼はいわゆるドジっ子な面があり、小さな傷が耐えない。
 彼が向かう先には一人の青年が立っており、その人物は今片膝を折る形で屈み込みアスファルトに指を滑らせていた。ざりっとした感触が指先に伝わる。目を細めて見遣った先には道路としてあってはならぬもの――地割れがあった。
 サイドを長めに切り残された黒い髪、誘導係達が持つライトによって照らされる瞳は赤かった。
 彼の名は天音 彰人(あまね あきと)。フリーの傭兵だ。


「先日この一帯で突如原因不明の揺れが起こりました。その結果アスファルトが捲れ上がる程の地割れが発生。それだけならまだしもその割れ目から夜な夜な不気味な声が聞こえてくる……という話です。警察の方も調査を続けているのですが穴の深さが尋常ではなく調査が難航中。唯の自然災害ではなく怪奇現象である可能性の方が高いと判断し今回彰人さんに調査をお願いした、ということです」
「尋常ではない穴の深さって?」
「それが調査隊の方が言うには数キロから数十キロとなんともあやふやな結果になりまして一旦調査中断と……ええっと、確か磁場の歪みの様なものが見られたらしく正しい結果が得られていないそうです。中に入るにしても相当な量のロープが必要ですし、最悪人命に関わるかもしれないらしくて原因が分からない以上埋め立てに踏み切れない状態だとか」
「ふぅん……そりゃまた面倒だね」


 三下に声を掛けられた青年が僅かに眉を寄せる。
 目の前に広がる地割れの光景、その奥底は暗く肉眼では何が潜んでいるのか分からない。「不気味な声」がただの風の音という可能性もある。同じあやかし荘に住む三下と天音の仲と報酬も出るという話でもあったし何より天音自身も声には興味があり調査依頼を受けた。もし本当に唯の風でもそれはそれで結果が出れば良いのだ。


 三下がファイルを閉じて天音の傍に立つ。
 その瞬間。


―― ブォォォォォオオオオオ……!!


「ぅひゃああッ!!」
「三下っ!」


 突如聞こえた「声」。
 その声に驚いた三下は思わず足を滑らせ地割れへと身体を落とす。天音は慌てて手を伸ばすが彼は其れを掴む事無く闇へと消えていった。指先に感じるのは何処か生温かい風。だけど先程聞こえたそれは風の音ではなく「声」だとその時天音は感じた。
 落ちた三下を目撃した何人かが自分達を指差し、叫んでいる。だが彼らに説明をしている場合ではない。
 視界に在るのは三下の手から離れ難を逃れたファイルのみ。無意識のうちに舌打ちをし、天音は自らその地割れの中へと飛び込んだ。先に何があるのかなど分からない。
 それでも三下を助けにいくために彼は落ちた。



■■■■



 まるで不思議の国のアリスの序章だ、と天音は思った。
 子供の頃読んだお伽話。時計兎を追って穴に飛び込み其の先にある不思議の国で奇妙な冒険をする少女のお話の序章を思い出していた。
 だが当然穴の中に落ちても速度が緩やかになるわけではなく、むしろ加速の一方。どれほど長い時間落ちていたのか分からない。むしろ途中何にもぶつからなかった事に奇跡を感じた。
 やがて光が見えた。洞窟から注ぐ太陽の光のような強い物ではなく、ゆらゆらと淡く頼りのない光だ。其れが見えた瞬間天音は常に背に携えている二本の武器の内一本の刀――阿弐夢(あにむ)を取り出し壁に突き刺す。手に伝わる衝撃、そして減速していく自身を確かに感じながら掌に力を込める。


 ギギギギギギィィィ!!
 壁が削れ欠片がぱらぱらと頬や肩を叩いては彼より先に落ちていった。完全に止まる頃淡い光の先が見え天音は首を傾げる。身体を折り壁に足を掛ける。そのまま突き刺さった日本刀を抜くため彼は壁を蹴り、光の先へと降りた。


「あああああ、彰人さぁあああんん!!」
「三下、何やってるのかな?」
「ひぃい、落ちるぅー!!」


 天音が底に辿り着き綺麗に着地した瞬間情けない声が耳に入ってきた。
 その声の元である三下はと言えば「女性」にしがみ付いていた。


「貴様、さっさと我の髪から離れぃ!」
「むむむ、無理です! この高さから落ちたら死んじゃいますー!!」
「我の眠りの邪魔だ! 除け!」


 女性と一言で言っても相手は信じられない程巨体だった。
 高さは簡単に見積もって十五階立てのビルに相当するだろう。長く腰下まで垂れた黒い髪に女性らしい柔らかな曲線を描く身体。その身体を覆う黒の布は巻き付けられただけの形。人間ではないサイズを退いても美女と呼べる可愛らしい顔立ちの女性だった。
 そんな彼女の前髪に三下は必死にしがみ付き地面に叩き付けられない様必死に足掻いている。けれどしがみ付かれている方はそんな三下の行動が不快なのだろう。敵意を剥き出しにして三下を除け様としていた。


 天音はそんな二人の遣り取りを耳に入れつつ辺りを見渡す。
 辿り着いた底は意外にも綺麗な白い石壁、所々に置かれた石造りの馬と人の彫刻、アーチを描く柱とギリシャ神殿を思わせる造りになった部屋だった。どうやら火が燃やされた灯りが仄かな光の正体のようだ。


 僅かに開いた足で直立不動している彼女の首には首輪、両手首に腕輪、足首に足輪が取り付けられており首と腕を拘束した鎖は天井、足を捕らえている鎖は壁と各所から伸びる金色の鎖が彼女を戒めている。また同種の鎖が身体に巻き付けられていて完全に彼女の動きを封じていた。
 動かせるのは目と口らしく三下を自ら振り落とす事も叶わないようだ。


 天井を見遣れば東京の地割れと繋がっている穴が見えた。
 落ちて来た高さを考えると自力で登っていく事は不可能。視界の端では未だに三下と巨人女が情けない言い争いをしていた。
 天音はわざと足音を鳴らしながら二人に近付く。
 彼女は天音の存在を見付けるとその青の瞳で見下ろした。


「今晩は、初めまして。俺の名は天音 彰人。貴方の名は?」
「貴様この虫けらの様な男の仲間か? なら早う除けてくれ。眠りの邪魔だ」
「除ける事は可能だけど、其の前に貴女に幾つか質問と取引を行いたい」
「……ほう? 質問とはなんだ。言うてみよ」
「まず貴女は此処で何をしているのかな。先日俺達が住む場所で地割れが起きてそこから夜な夜な不気味な声が聞こえてくるっていう話があったんだけど、それはもしかして貴女の声?」
「そんな声など知らん。我はこの牢獄で一人眠っているだけじゃ。大体見て分かるだろうが、我はこの鎖に身を封じられて指一本動かす事も叶わん」
「眠っているだけ、か。……と言うことはあれはいびき、かな」
「今ぽそっと何か言うたか」
「いえ、何も」


 天音は両手を顔の隣まで持ち上げて首を振る。続いて彼はその唇に笑みを宿しながら彼女に取引を持ちかけることにした。


「俺達は地上に戻りたい。貴女はその方法を知っているかな?」
「虫けらの様に小さなお前達には確かに此の場所から地上に上がるには無理だろう。方法を知っているというか、我ならば地上に出る事が出来ると伝えよう」
「じゃあ取引だ。貴女は自由の身になりたい?」
「それはどういう意味だ」
「つまり、だ。もし自分達を地上に返してくれるならば、俺は君を自由にしよう」


 天音は言葉とほぼ同時に女の目の端がひくりと動くのを見た。彼女自身が望んで拘束されているわけではないことを瞬時に察し天音は唇に宿していた笑みを深くする。三下もまた二人の取引を無言で聞いていた。……彼の場合は自身が落ちない様必死に髪にしがみ付く事で精一杯だったということもある、が。


 やがて細められていた女の目がゆっくり開き、天音を捉えた。唇は上下に開き、一言だけ返す。


「やってみよ」
「――了解」


 阿弐夢を手に天音は駆ける。
 まずは足輪に繋がる鎖を切ろうと刀を振り落とす。だが鎖は何かの力で守られ、切る事が出来ない。二度、三度、刀を振るう。だがその度に弾かれて傷一つ付けることが叶わない。もう一つ背負っていた剣――アルカードと呼ばれるそれに彼は手を伸ばす。だが一瞬動きが止まりそれを振るう事無く彼の手は離れた。
 その時の彼の表情は背を向けられた他の二人には見て取れずにいた。


 刀の代わりに天音はコートの中に用意しておいたTNT爆弾を取り出し鎖が打ち付けられている周辺を爆破し始めた。
 震動が身体に伝わるのだろう。拘束された彼女はやや不快そうに表情を歪めていたがそれもまた一時のものに過ぎないと天音は全ての鎖を爆破する。鎖自体には傷は付かないが石畳や壁は壊されやがてその先端が抜けた。


 天音達から見たらとても大きな腕が垂れる。
 首輪に繋がる天井からの鎖が抜けた瞬間頭が前にかくっと動き、三下が振り落とされた。だが石畳に叩きつけられる前に女の腕が動き彼の身体をその掌で掬う。もう一方の手を天音の方に差し出し彼は女の手に乗る。二人を項付近へと乗せると彼女は自身が背負っていた禍々しい装飾の施された紫の双剣を抜き出した。


「よく我を解放してくれた。約束通り自由となったこの身でお前達を地上に戻す約束を果たそう」


 力強く牢獄の壁に剣を叩きつけ人間で言うロッククライミングの要領で彼女は天井、そして地割れへと登っていく。
 一振り、二振り。腕が振るわれる衝撃と彼女が身体を上げる度に掛かってくる重力が重い。


「どうやら彼女は随分と豪快な性格のようだね」
「ご、豪快の一言で片付けて良いんでしょうか、かか、ぁあー!!」


 髪に捕まりながら天音はひゅうっと感嘆の口笛を吹く。三下は両腕でしっかり髪の毛に身を寄せ振り落とされない様始終震えていた。



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 無事地割れの件も決着し数日経った頃、何故か彼女の姿があやかし荘にあった。
 しかも巨体の姿ではなく普通の女性のサイズで、だ。天音と三下と同じあやかし荘に入居した彼女は今ベランダに繋がる窓際に腰掛け外を眺めている。その視線の先には仕事に向かう天音の姿があった。
 彼が彼女の視線に気付き顔をあげる。そして彼は手招いた。


「我が力が必要か? ふふっ、よかろう」


 彼女は惹かれ、腰を上げる。
 あの牢獄から解き放たれ自由になった身の彼女が何故このあやかし荘に入居した訳は誰も知らない。ただ強いて言うならば――彼女のみ、知っていた。







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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【7868 / ガルヴァドス・タイタン (がるヴぁどす・たいたん) / 女 / 999歳 / タイタン】
【7895 / 天音・彰人 (あまね・あきと) / 男 / 26歳 / 暗殺特化型霊鬼兵】

【NPCA006 / 三下・忠雄(みのした・ただお) / 男 / 23歳 /白王社・月刊アトラス編集部編集員】


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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、またの発注有難う御座います!
 今回はガルヴァドス様と天音様(と三下君)の出会いと言うことでこのような形で。ガルヴァドス様と天音様の奇妙な遣り取り、視界の端でちらちら動く三下君、そういった物が伝われば幸いです。
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
蒼木裕 クリエイターズルームへ
東京怪談
2009年04月14日

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