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『■月がどれだけ照らしても、屋敷の中には光はない。 第一章 』
高科・瑞穂6067)&鬼鮫(NPCA018)


「月がきれいだな」
 星も見える。
 雲ひとつなく、透き通る風が通っていく。
 霧嶋は、屋敷の窓から空を見上げた。
 星も見える。
 こういったキレイな空の日は、死んでしまった、妻と娘を思い出す。
 見上げていれば、ひょっこりと顔を出すんじゃないかと、馬鹿なことを思う。
 そんなセンチメンタルな気分にさせてくれる、夜。
「ガラじゃねぇな」
 苦笑して、ミネラルウォーターを口にした。


 月が光る、その下に。
 暗い森と、ぽつり、と大きな暗い屋敷がそこにあった。
 その、屋敷の中。
 霧嶋徳治‥‥鬼鮫は、屋敷の巡回をしていた。
 そこで。

 高科瑞穂と会う。

 地下に潜り込む者は少ない。
 過去の帳簿や色々あるが、今の仕事には関係ないものが積まれているからだ。
 そんな所にいるのは、スパイだとか、巡回中だとか、迷子とか。
 そういう者しか居ない。
 メイド服に身を包んだ彼女は。
 地下の倉庫に居た。
「‥‥おい、何をやっている?」
 警戒心をもって近付く。
「いえ、何でもありませんわ」
 優しく美しく。笑う彼女は‥‥ミニスカートのアンジェラブラックメイド服、ガータベルトのニーソックス、膝まである編み上げの皮のロングブーツとグローブ。
 鬼鮫は、溜息をついた。
 屋敷に侵入するのはいい。
 しかし、明かにメイドの役は初めてだと言わんばかりに、胸や足をさらけ出した服。
 男を誘惑しやすいように、と。組織が用意したのだろう。
 ここの屋敷の服を盗んだのか、どうかは知らないが、確かに間違いなくここの屋敷のメイド服だ。
 しかし‥‥仕事中のデザインではない。
 ここの屋敷のメイドだとして、男との密会。就寝中に手洗いに行きたくなったから、の、理由も考えられる、が。
 ‥‥だったら、なんでロングブーツだのグローブだの。
 メイドが着ないような物を身につけているのか。
 組織が用意したメイド服。それに、自分が持っていた装備を身につけたのだろう。
 アンバラス。ちぐはぐだ。
 敵なのはわかる。しかし、初心者なのも解る。
 堂々とそこにいるのだから、それなりに自信はあるのだろう。
 見た所‥‥娘が生きていたら、あれぐらいの年齢だったのではないかと思う。
 そんな娘が、メイドの格好さえ、まともに真似できず‥‥いくらなんでも、女中だのなんだの見て真似ればいいものを‥‥グローブを手にしているあたりで、明らかに敵だと言っているというのを‥‥気付いていないのか、ワザと気付かせようとしているのか。
 グローブ。
 なら、彼女の武器は銃や剣という物だろうとは推測できる。
 少し注意をはらえば、避けるのは容易いだろう。
 鬼鮫は‥‥娘と変わらぬ年齢の彼女と戦いたくはなかった。
「ったく。迷子になったのか? 出口はこっちだ」
 ドアから身体を離し、彼女が逃げやすいように、と。道を作る。
 しかし。
「迷子じゃないわ」
 彼女の、赤いルージュが艶やかに笑みを作る。
「鬼鮫。おまえを殺す為に、ここにいるのよ」
  バン!
 高科の手から放たれる銃弾。
 鬼鮫は、少し身体をずらして、やすやすと避ける。
「あら‥‥やるわね」
 これはどうかしら、と。
 ドアが勝手に動き。
  ごん!
 見事に鬼鮫の額に命中した。

 勝手に。
 ドアが。

「‥‥超常能力者か」
 くらり。と、頭が沸騰しかける。
 抑えろ。
 忘れろ。
 妻や娘が殺された日は――――遠い昔だ。
 彼女は関係ない。
 娘と年は変わらない。
 超常能力者。
 それだけで、鬼鮫の怒りは沸きあがる。
 手を血で染めて喜んでいたのは、遠い昔だ。
 アイツと組むまでの話だ。
「そうよ、正解」
 高科の。
 勝ち誇ったような上品な笑いが。
 うずくまる鬼鮫の耳に聞こえた。






END


 


PCシチュエーションノベル(シングル) -
藤木 了 クリエイターズルームへ
東京怪談
2009年04月13日

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