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『 End-e 』
月代・慎6408)&桂・千早(7888)&(登場しない)

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 HAL校内。中庭にて昼寝中の千早。
 ポカポカと暖かい春の陽気。柔らかく甘い春の風。
 お昼休みを存分に満喫する千早の周りでは、小鳥達が歌う。
 さえずりは子守唄。千早は目を閉じたまま、夢と現実を往復。
 熟睡できない体質の千早の睡眠は、非常にアンバランスだ。
 カサリと音がした。夢の中か、夢の外か。
 千早は、ふっと目を開けた。
 虚ろな意識の中、千早の目にボンヤリと映る姿。
 次第に鮮明になっていく、その姿は……慎だった。
 焦点の定まらぬ千早をジーッと見つめ、クスクス笑う慎。
 随分気持ちよさそうに寝てたね。起こしちゃってごめん。
 でもさ、ちょっと話したかったんだ。クラス違うし、なかなか話せないから。
「食べる、よね?」
 ポケットからチョコレートを取り出して差し出す慎。
 コロコロとした小さな可愛いチョコレートを見て、千早はニコリと微笑んだ。
 その柔らかい笑みの奥に潜むであろう、寂しさ、悲しさ、切なさ。
 隠しているつもりでも、慎には理解る。痛いほどに。
「何かあったの?」
 千早の隣に腰を下ろし、ブチブチと草を毟りながら尋ねた慎。
 千早は、口に放ったチョコレートを飲み込みながら頷いた。
「夢を……見てた」
 そう言いながら目を伏せた千早。
 儚い横顔に、慎は見入ってしまう。
 愛しい人の傍、愛しい人の膝、愛しい人の掌。
 その感触に幸せを覚え、このまま時間が止まりやしないかと願う自分の姿。
 二人を囲むように紅い花が咲いていて……辺りには甘い香りが漂う。
 でも、幸せな時間は続かない。いいや、続かなかったというべきか。
 愛しい人の手が、指先が冷たくなっていく。
 その感触に顔を上げれば。愛しい人は血に染まっていて。
 紅い花に溶け込むようにして、パタリと倒れる。
 自分は慌てることも泣くこともしなくて。
 動かなくなった愛しい人の頬へ、唇へ、何度も口付けを落とす。
 口元には淡い笑み。ようやく、貴女を手に入れることができた。
 その満足感と快感が、自然と口元を緩めてしまう。
 愛しい人は笑んでいないのに。開眼したまま息絶えているのに。
 その表情さえも、美しく思えて。
 いつも、そこで目が覚める。夢の外へ放り出される。
 アハハハハッて……大笑いする自分の背中を見つめながら。
 ポツリポツリと呟いた千早。
 最近は、この夢しか見ない。
 目が覚めたとき、ひどく切なくて寂しくて。
 それでも、また眠る。悲しい気持ちになると知ってなお。
 逢えるから。どんなに切なくなったとしても、確かに逢えるから。
 その為に、自分は眠るのかもしれない。睡眠の意味を、履き違えているのかもしれない。
 初めて聞いた、過去の話。
 千早が発した言葉を、慎は "過去" なのだと把握した。
 夢の話じゃない。いま、千早が話したのは過去。
 確かに経験した、彼の過去を聞かせてもらった。
 聞いた後は? ふぅん、そうなんだで終わらせる? まさか。
 千早が苦しんでいるのは明らかだ。声を聞けば、そのくらいすぐに理解る。
 じゃあ、どうすれば良い? どうすれば、彼を救ってあげることができる?
 膝を抱えて座り、沈黙したまま考え込む慎。
 そんな慎へ、千早はひとつ、御願いした。
「慎。キミの右手で……解放してあげて欲しいんだ」
 消し去って欲しいわけじゃない。放してあげてほしいだけ。
 愛しい人は、今も自分の中に。自分と一緒に生きている。
 でも、ずっと一緒だと……手を繋ぐことができない。触れることができない。
 笑顔は記憶でしかなくて。現実のものじゃない。
 触れたいんだ。最後に、もう一度だけ。
 見たいんだ。最後に、あの笑顔を……もう一度だけ。
 そう告げる千早の瞳には、強い決意が宿っていた。
 その瞳に見つめられたら、嫌だなんて言えるはずもない。
 慎は微笑み、千早の胸に右手をあてた。
 千早の中、意識のずっと奥。
 桃色の着物を纏った、黒髪の綺麗な女性がいる。
 この人が、千早の愛しい人。どんな手段を用いても一緒にいたいと思えた人。
 確かに、綺麗な人だね。花のような人だ。桜……に似てるかな。
 どんな人なんだろうって思ってたけど。うん。
 良いんじゃない? 好きになるの、理解る気がするよ。
 クスクス笑いながら、トンと千早の胸を押した慎。
 すると、背中から抜け出た。音もなく、千早の愛しい人が姿を見せる。
 後ろを示して慎が頷くと、千早はゴクリと息を飲んで。ゆっくりと振り返る。
 あの日と変わらぬ、可憐な姿。長い髪も白い肌も、何もかもが、あの日のまま。
 無意識のうちに、千早は腕を伸ばして触れる。
 その白い肌に、頬にそっと触れる。
 下唇を噛み締めて見つめる千早に、女性は言った。
 消え入りそうなほど小さな声で。
「どちらさまですか……?」
 その言葉に、ビクリと千早の肩が揺れた。
 突きつけられる現実。愛しい人は……長年、自分の中にいた愛しい人は。
 一切の記憶を失っていた。自分のことも、千早のことも、何もかも。
 ただひとつだけ。変わらないのは、その笑顔。
 首を傾げて微笑む女性、変わらぬ優しさと柔らかさに涙が頬を伝う。
 声を殺し、肩を揺らして泣く千早を見ながら、女性はそっと手をさしのべた。
 俯き涙を落とす千早の頭を撫でて、いつかと同じ言葉を。
「どうしたの。男の子でしょう。泣かないの」
 初めて会った日のことを思い出した。
 そう、あの日も、貴女は、そう言って僕の頭を撫でた。
 すべての始まり。貴女を愛しく想う、そのきっかけ。
 千早はゴシゴシと目元を擦り、顔を上げた。
 そして、愛しい人の目を、笑顔を見つめて……微笑み返す。
 伝えたいのは、感謝の気持ち。
 どうして覚えていないんだって掴みかかるような真似はしない。
 ただ、ありがとうと。感謝の気持ちを、貴女に贈る。
 幸せでした。貴女と過ごした時間。貴女に触れていた時間。
 ワガママで欲張りだった僕を愛してくれて……ありがとう。

 煙となって消えていく女性。
 千早は、空を見上げて微笑んだ。微笑み続けた。
 幸せそうに微笑む彼に、つられるようにして慎も笑う。
 そんな顔、初めて見た。そんなに幸せそうな顔、初めて見たよ。
 ちょっとだけ。ちょっとだけね、悔しいような気持ちもあるけどさ。
 慎はニコリと微笑み、包み紙を解いて、チョコレートを千早の口に押し込んだ。
「むぐ……。何……」
 目を丸くして驚いている千早。
 慎はケラケラ笑い、千早の頭をワシワシと撫でて言った。
「ちーやんの笑った顔、可愛い」
「…………」
 照れ臭そうに俯いて、不自然な瞬きを繰り返す千早。
 慎はゴロンと寝転がり、視界を埋め尽くす青空にフフフと笑った。
 似合うから。そういう笑顔のほうが、きみには似合うから。
 もっと見たいな。可愛い笑顔。もっと見せてほしいな。
 どうすれば見れるだろう。どうすれば笑ってくれるだろう。
 目を伏せて、うーんと考え込む慎。
 その隣に千早もコロンと寝転んだ。
 パチリと目を開けて見やれば、交わる視線。
 瞬きのタイミングが、あまりにも一致しすぎていて。
 二人は笑った。まるで、鏡のようだと。

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7888 / 桂・千早 / 11歳 / 何でも屋
 6408 / 月代・慎 / 11歳 / 退魔師・タレント

 シチュノベ発注、ありがとうございました。
 End-e(笑んで) 悲しみへの終止符の意味合いも込めて。
 不束者ですが、ぜひまた宜しく御願い致します^^
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 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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PCシチュエーションノベル(ツイン) -
藤森イズノ クリエイターズルームへ
東京怪談
2009年03月27日

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