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『 あなたがいたから 』
宵待・クレタ7707)&(登場しない)

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 どうせなら。
 どうせなら、腕の中を選ぶべきだっただろうか。
 なんてね……本当に貪欲な心。この期に及んで後悔なんて。
 無意味なものだと言い放ったくせに。後悔も、時間も。
 不要なものだって言ったくせに。変わりように自分でも戸惑う。
 過ぎ行く時間を惜しいと思えたことも、
 過ぎ行く時間に幸せを感じていたことも、
 全ては、紛れもなき真実。事実だよ。
 幸せだと思えたから、僕は望んだんだ。
 生きたいって、望んだ。
 それはね、誰の為でもなくて。自分の為。
 ちっぽけな自尊心。ここにいる、その存在を証明する為に。
 愛されていたのも、愛したのも事実。心から。
 求めることを知らぬまま過ごしていたら、こんなことにはならなかったんだろうか。
 理解らない。問い掛けてみたところで、答えなんて見つからない。
 問い掛ける人もいない。答えてくれる人もいない。
 ただひとつだけ。
 答えが返ってこなくても、訊いてみたいことがある。
 愛しい人へ最後の質問。
 あなたは、理解っていたんだろうか。
 理解っていて、貪欲になれと言ったんだろうか。
 去り行くであろうことも見据えていたんだろうか。
 もしも。もしも返ってくる答えが「イエス」だとしたら。
 何の為に教えてくれたの? 何の為に愛してくれたの?
 最終的に遠くへ追いやるのなら、何の為に……。

 あぁ、まただ。
 また、貪欲になってしまった。油断すると、すぐこうだ。
 答えなんて要らないって言ったくせにね。前置きしたくせにね。
 求めてしまってる。答えを、言葉を求めてしまっている。
 こんなところに、いるはずがないのに。
 あなたは遠く。いつものように部屋で本を読んでる。
 お昼ごはんの呼び出しが掛かっても、夢中になって。
 そんなあなたを呼びに行くのが、僕の役目だった。
 ごはんだよって。笑いながら、後ろから目隠ししてみたりして。
 今日のお昼はね、シチューだったよ。キッチンから良い匂いがしてた。
 ハルカとナナセが作るシチューは美味しいね。みんな大好きなんだよね。
 他愛ない話をしながら、みんなで一緒に食べるごはん。隣に、あなた。
 何気なくても、幸せだった。そういう、何の変哲もない日常に幸せを感じた。
 ねぇ、J。早く行かないと……冷めちゃうよ。
 僕はもう、呼びに行けないから。行かないから。
 呼びに来るだろうって安心しちゃ駄目だよ。
 ねぇ、J……。今、何してる?
 やっぱり、本に夢中なのかな。
 難しい顔して、読み耽っているのかな。
 ……ごめんね。自分でも呆れてしまうけれど。
 あなたが部屋にいないことを望んでしまってる。
 僕を探してくれてれば良いのにって思ってる。
 どこにいるんだって、名前を呼びながら彷徨っていれば良いのにって。
 それでね、見つからなくて、困ってれば良いのにって。
 困って、泣きそうな顔しながらウロウロしてれば良いのにって。
 そんなこと……考えてる。可笑しいね。
 でも、あなたの所為でもあるんだよ。
 僕が、こんなにも欲張りになったのは、あなたの所為なんだから。
 あなたが教えたから。あなたが僕を育てたから。
 あぁ、違うんだ。責めてるんじゃないんだよ。
 恨んでなんかいない。そんなこと出来るもんか。
 寧ろ、ありがたく思うよ。こんなにも人間らしくしてくれたこと。
 あなたのおかげで、僕は、こんなにも立派に成長を遂げた。
 欲張りになり過ぎたって自覚できるくらいに。
 後悔なんて、もうしない。質問も、しない。
 ただ、ありがとうって。その気持ちでいっぱいだよ。
 一緒に過ごした時間、忘れないから。いつまでも。
 あなたも忘れないで。僕と過ごした時間を。
 ……ほら、ね。まただ。また求めた。
 一方的なお願い事。
 本当、可笑しくって仕方ないよ。
 こんなにも欲張りになれた自分が可笑しくて仕方ない。
 幸せだったよ。本当に幸せだった。毎日が充実してた。
 このままずっと幸せが続きますようにって毎晩お祈りしたよ。
 怖くなって。幸せが、いつか音もなく消えてしまうんじゃないかって。
 神様なんていないのに。誰に祈っていたんだろうね。
 でも、そのくらい幸せだったんだ。失いたくないと思ったんだ。
 この空間で生きる時間を。自分自身を、心から愛しいと思えた。
 全部、あなたのおかげ。全部、全部、全部。

 あなたがいたから。

 遠く、遥か彼方。プツンと糸が切れるような音。
 ハッと我に返り、Jは顔を上げた。読みかけの本を放って。
 顔を上げた瞬間、目の前が真っ暗になる。闇に閉ざされる。
 咄嗟に目を閉じてJは笑った。
「ごはんだよ」
 悪戯っ子は、今日もそう言ってクスクス笑いながら、そっと手を離した。
 Jは肩を竦め、ゆっくりと振り返る。
 視界に飛び込むのは、いつもの姿。
 小さく頼りない、いつもの姿。
 自分が護らねば、傍にいてやらねばならぬと思わせる人。
 絶対無二の存在。今までも、これからも、ずっと。
 淡く微笑み、優しく頭を撫でてJは席を立つ。
 そんなJの腕に絡み付いて、オネは笑った。
 いつものように、無邪気な笑顔で。
 楽しそうに笑うオネへ、Jは尋ねる。
「今日の昼ごはんは何かな」
「シチューだよ」

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7707 / 宵待・クレタ / 16歳 / 無職

 シチュノベ発注、ありがとうございました。
 お疲れ様でした。いつかまた、どこかで^^
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 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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PCシチュエーションノベル(シングル) -
藤森イズノ クリエイターズルームへ
東京怪談
2009年03月27日

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