▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『Fight in rain - 6 』
高科・瑞穂6067)&鬼鮫(NPCA018)



「俺は能力者がキライなんだよ。わかるか? おい」
 馬乗りになったまま、俺は女の両腕を地面におさえつけた。骨折した箇所だ。つよく押さえると、骨のこすれる音がゴリゴリ響く。真っ白な喉がまっすぐのけぞって、絶え間なく悲鳴が漏れていた。
「聞こえてんのか? 俺はおまえらみたいな能力者が嫌いなんだよ」
 女は、いやいやをするように首を横に振っていた。それ以外わすれてしまったように、ひたすら首を振りつづけた。どうやら、俺の言ってることは聞こえちゃいないらしい。無理もないかもしれないが。
 俺は女の顔を殴りつけた。が、女の右手がそれを邪魔した。折れた腕が妙な音をたてる。
 俺は両手で女の右腕をつかみ、雑巾を絞るようにねじりあげた。メリッという音。骨じゃなく、肉のねじれる音だ。俺は更に力をこめた。骨が折れているおかげで、女の腕はあっさり一回転した。
「いっ! いぎいいいいいっ!」
 絶叫しながら、女は血と泥の混じった泡を吐き出した。そして、驚いたことに左腕で俺を殴ってきた。骨が折れていることも忘れるぐらい痛かったのかもしれない。しかし、左腕が俺の頭に当たった瞬間、ふたたび悲鳴を上げて女はのたうちまわった。
「アホか、おまえ」
 笑いながら、俺は女の腕をもうひとひねりした。なにかの千切れるような音。女の悲鳴。骨折した箇所から皮膚が裂けて、血がこぼれた。ほんとうに雑巾を絞ったような勢いだった。
 ゴツゴツと、背中に膝が当たる。いまのコイツにできる抵抗といったら、それぐらいのものだ。俺は気にも留めず、さらに雑巾絞りをつづけた。
 女の背中が弓のようにしなり、「ひゅぅ」と喉が鳴った。悲鳴を上げっぱなしで、肺の中の空気を使い果たしたのかもしれない。手を離すと、ゴム仕掛けのプロペラみたいに女の腕は三回転して元にもどった。
 女の顔が、一瞬だけホッとしたように見えた。俺が許してやったとでも思ったのだろうか。だとしたら、やはりアホとしか言いようがない。
 俺は女の右腕をつかんだまま、折れた腕の先で女の顔を叩いた。うまく殴れない。折れているといっても、肩から肘までは女が自由に動かせるのだ。それを全部へし折ってやってもよかったが、いまはすこし面倒だった。
 俺は女の腕を放り投げて、自分の拳で殴ることにした。今度は、ハンマーみたいな殴りかたじゃない。拳の正面で、真上から突き下ろした。
 眉間に当たった。ガツン、と硬い音。もう一発。次は鼻頭に当たった。鼻血のしぶく音。その次は頬。そして、もういちど眉間。どれもこれも、一撃で意識をはじきとばせるぐらいのパンチだった。
 女は、もう何も抵抗しなかった。いつのまにか、悲鳴もやんでいる。
 よく見ると、女は意識を失っていた。目を見開いたまま、白目で空を睨んでいる。その目に雨滴が当たっても気付かない様子だった。
 俺は腰を上げて、女の上から飛び降りた。
 土砂降りの雨に打たれて、女は仰向けのまま微動だにしなかった。エプロンもワンピースもボロ布みたいなありさまで、もはやそれがメイドの制服だったことなど想像もつかない状態だ。指先さえ、ピクリとも動かない。まるきり、廃棄処分されたマネキン人形だ。しかし、まだ死んだわけじゃない。呼吸がつづいている。
 俺は女の横腹を蹴り上げた。ゴロッと半回転して、女の体がうつぶせになる。俺は右手で女の右腕を、左手で女の左腕をつかんだ。どっちも折れている。その手首をつかんだまま、背中側へねじりあげた。
 肩の関節が悲鳴を上げた。同時に、女の喉からも悲鳴が上がった。目がさめたらしい。俺の力に逆らわないようにと、女は体を持ち上げた。もしかすると、女の意思に関係なく俺が腕をひっぱったせいでそうなっただけかもしれないが。どっちにしろ、体を起こされたのでは面白くなかった。
 俺は、右足で女の背中を踏みつけた。そのまま、靴の裏に全体重をかけた。つかんだ両腕は離さなかった。女の両肩から、メギッという音が聞こえた。脱臼したというより、肩の骨が砕けたような音だった。
「ぎぃぃッ!」
 金属みたいな声が響き渡った。どこから出てくるんだと思うような声だった。
 手を離してやると、女は顔面から泥の中につっこんだ。もう悲鳴は上げていなかった。かわりに、全身をヒクヒク痙攣させはじめた。くたばる寸前の人間が見せる種類の痙攣だ。女にしてはずいぶん丈夫なほうだったが、たしかにそろそろ死んでもおかしくはない。
「そろそろラクにしてやろうか?」
 俺は靴底で女の尻を踏み下ろした。ゴムでも踏んだみたいに弾力のある尻だ。靴の爪先で蹴ってやると、そのゴムのかたまりが裂けていくような感触があった。さらにもういちど、またもういちど。俺は何度も何度も女のケツを蹴り飛ばし、踏みつけた。
 女は抵抗することも逃げることもなかった。ただダンゴムシみたいに体をよじらせて、泣き声まじりの悲鳴を漏らすだけだった。俺は笑いながら蹴りつづけた。雨と風の音が、俺の笑い声をいっそう煽り立てるようだった。
 何十回蹴ったか、わからない。気がつくと、俺は汗と泥まみれで、女は完全に失神していた。
 俺は大きく息をついて、天をあおいだ。真っ暗な空の向こうから、雨が滝のように落ちてくる。頬を突き刺す雨。いい雨だった。気分の晴れるような雨だ。
 俺は女を見下ろし、最後の仕上げに背中の中心へ膝を落とした。背骨の折れる音。女の口元からひときわ大きく血のかたまりが吐き出されて、そのまま動かなくなった。死んだのかもしれない。
 ──が、まだ女は死んでなかった。折れた腕がかすかに震えて、泥水がはねた。どうやら、思った以上にしぶといらしい。ふつうなら、いまので死んでるはずだ。
 ふと思いついた。こいつには利用価値があるかもしれない。人質としてではなく、玩具として。
 俺は女の両足首をつかんで引きずった。そして、そのまま歩きだした。地面がぬかるんでいるおかげで、引きずるのもラクだった。女の腹や顔が地面にこすれていたが、それでも女が目をさます気配はなかった。
 雨は、やみそうになかった。朝まで降りつづけるのかもしれない。
 水溜まりの中に、真っ白な傘が転がっていた。それを蹴り飛ばして、俺は歩いた。女が呻き声をあげたような気がしたが、雨音がすべてを掻き消した。いい雨の夜だった。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
牛男爵 クリエイターズルームへ
東京怪談
2009年03月19日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.