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『『琵琶の調べは恐怖の音色』 』
虎王丸1070)&飛猿(3689)&(登場しない)



 春の到来を感じさせる暖かな風が吹き、今までの寒さは去りつつあった。心地の良い陽気に人々は屋外へ足を運び、昼間のその公園は家族連れやカップルで賑わっていた。そう、季節は違えどもあの悪夢の日と同じ様に。
「あの時は、男カップルが氾濫していたがな」
 飛猿(ひえん)はそう呟くと、俯いたまま公園を通り過ぎベルファ通りの方へと、逃げ去るように走りぬけた。
「あの人って、あの時の人じゃない?」
 通行人とのすれ違い様に、女性達の囁き声が聞こえてきた。この公園には忘れ去りたい思い出があった。
 一ヶ月程前、バレンタインの時にこの公園で腐女子な悪魔娘が妙なチョコレートを配り、飛猿はそのチョコレートの魔力にかかり、この公園で城の兵士と思われる体格のいい男と恋に落ちた。
 飛猿は、公園から出る時噴水を横目で見た。自分はあの噴水の上で、愛を語っていたのだ。チョコレートの効果はそれほど長くは続かなかったが、その時に受けた恥ずかしさのダメージは底知れず、我に返った飛猿を迎えたのは、公園にいた女性達の冷ややかな視線であった。
「何もかも、あいつのせいだ。虎王丸!」
 宿敵である虎王丸(こおうまる)に無理やりチョコレートを食わされたせいで、飛猿は公園で醜態を晒す事になったのだ。今度会ったらどんな復讐をすべきか。飛猿の心は虎王丸への仕返しで一杯であった。
「ん、まさか、いきなりか?」
 虎王丸への怒りが伝わったのだろうか。ベルファ通りの賑やかな広場で、飛猿の目の前に、まさに虎王丸その人が歩いているのを目撃した。



 虎王丸は、酒屋の棚にところ狭しと並んでいる酒の1つ1つを手に取り、どれが一番良いかと吟味していた。
 虎王丸の憧れの人、黒山羊亭の踊り子へ上質の酒をプレゼントしようと思っていたのだ。
「どんな酒が好みかな。意外に強い酒もいけそうだよな。やっぱり、ああいう仕事の人だし」
 良い酒をプレゼントすれば、来年のバレンタインにはお返しをしてくれるかもしれない。下心がないわけではないのだが、憧れの人の喜ぶ姿も見てみたい。そんな気持ちの中、虎王丸はカラフルな酒のラベルを確認し、彼女のイメージに合う酒を探しているのであった。
「そこで何をしているんだ」
 棚の向こう側から、ドスの聞いた声が響いてきた。
「な、誰だ!?」
 姿の見えない相手に、虎王丸は驚きあたりを見回したが、買物を楽しんでいる客以外は誰もいない。
「憧れの女性に渡す贈り物を探しているのだな。いや、しかし甘い。もっと女にモテる方法がある」
「おい、どこにいるんだ?姿を見せろ!女にモテる方法って何だ?」
「それを知りたくば、表に出るがいい」
 まさか、妖精がいて自分に女にモテる方法を伝授してくれるとでもいうのか。虎王丸はその言葉に従い、酒屋の外へと出た。妖精にしては随分太い声だが、そんな方法を教えてくれるというのなら、どんな相手でも聞く価値はあるというものだ。
「で、どこにいるんだ。妖精さんは」
 数分後、虎王丸の前に妖精が姿を現した。それは妖精というよりも、よく知っている顔であった。
「良く来たな。モテてモテて困ってしまうすべを教えてやろう」
「何だよ、飛猿かよ」
 虎王丸の視界に入ってきたのは、宿敵である飛猿であった。少しがっかりしたが、モテる方法というのは気になった。
「本当にそんな方法を教えてくれるのか?俺に復讐をするつもりじゃないだろうな」
 虎王丸が冷ややかに言うと、飛猿は落ち着いた声で答えた。
「疑われるとは悲しいな。あのチョコレート事件以来、俺は愛について考えたのだ。真実の愛とは、何なのかを」
「真実の愛?」
 顔をしかめて、虎王丸が飛猿に返す。
「つまりそれは、作られたものではなく、お互いの思いから溢れてくるものだと。まして薬の効果で生み出されるものではない。何の疑いも、利益を求める事無く抱かれる感情。それこそが愛なのだ」
 真面目な顔をし飛猿が語るので、虎王丸は少し感心した。
「そうかよ。で、それが何でモテる方法に行き着くんだ?」
「わかってないな。いいか、人とは様々な性格のものがいる。それに、外見などの第一印象で損をしてしまう事もあるだろう。勿体無いとは思わないか?内在しているものは素晴らしいのに、それを印象のせいで相手に伝えることが出来ない。だからこそ、モテる方法を身につけなければいけないのだ。その中で、本当の愛を見つける事が出来るのだ!」
 びしりと指された指に、虎王丸は大きく感激した。
「すげえ!ただの猿野郎だと思ってたが、悟ってるじゃねえか!」
「ふふ、俺は大人だ。お前より長く生きている分、深い考えも持っているというわけだ」
「で、早く教えてくれよ、その方法を。俺、その方法を見につけて、あの人のところへ酒を持っていくんだ。俺の魅力に気づいてくれるはずだぜ!」
 虎王丸はすっかりその気になっていた。飛猿が、まるで光り輝く天使の様に見えていた。
「そうだな、早速その方法を教えよう」
 飛猿は懐から小さい菓子が沢山詰まった布袋を取り出し、それを虎王丸の首にかけた。小さな袋を首から提げると、買物をしにきた小さな子供か、動物かの様にも感じた。
「あ、何だよこれ。菓子が入ってるぞ。おやつか?」
「そうではない。それが必要なのだ」
 邪悪な笑みを浮かべ、飛猿は琵琶を手に取り、弦をかき鳴らした。しっとりと、しかし重みのある琵琶の音が響き渡った。
「うあ、まさか!おい、待てっ!」
 何が起きるか想像がついた時にはもう遅かった。その琵琶の音色が体中に木霊し、虎王丸の体は自分のいう事を聞かなくなってしまっていた。
「さあ、行進はじめ!」
 飛猿が叫ぶと、虎王丸の手足が勝手に動き出し、琵琶のリズムに合わせながらベルファ通りを行進し始めた。
「ちんどん屋さんだ!」
 通行人の中から声がした。虎王丸は琵琶の音色に合わせてベルファ通りを賑やかに進んでいたので、ちんどん屋の様に見えるのかもしれない。
「あそこに可愛らしい子がいるな。さ、愛をばら撒くがいい」
 飛猿は弦を弾いた。
「手が勝手に!」
 虎王丸の手は菓子袋に入れられ、すぐ横にいた女の子数人のグループに菓子をばら撒いた。女の子達は菓子を嬉しそうに受け取ると、虎王丸に向けて有難うと笑顔を見せた。
「どうだ、もてただろう?」
「それとこれとは違うっ!猿野郎、さっさとこの術を解け!」
「そうはいかない。俺が受けた屈辱に比べれば、この様な事など可愛い方だ」
 その言葉を聞き、虎王丸の脳裏にあの時のヴァレンタインの光景が浮かんできた。「まさか、お前、あの時の仕返しか!?」
 何も言わず、ただニヤリと笑うと、飛猿はさらに琵琶を演奏した。
 ベルファ通りには大勢の買い物客がいるので、女性も沢山いた。虎王丸は女性とすれ違うたびに、菓子をばら撒いていた。
 しかし、これが意外と好評で、菓子を配っている男の子と話題になり、虎王丸に近づいてきて自分から手を出して菓子を受け取る女性まで現れた。そういう意味では、今、虎王丸はこの通りで一番モテる男になっていた。
「良かったな、お前は今、最高にモテている」
 演奏する手が疲れてきたのか、飛猿が少し演奏の手を止めたので、とたんに虎王丸は抵抗した。
 体が自由になったところで、虎王丸は足元に落ちていた小石を拾い、飛猿に投げつけた。恨み心をたっぷりと含んだ石は見事に飛猿に頭に命中し、飛猿は痛みで顔をしかめた。
「へへ、隙のある奴が悪いんだよ、バーカ!!この猿野郎!ウッキッキ!!」
 虎王丸は舌を出して飛猿をなじった。飛猿は何も答えず、再び琵琶をかき鳴らしたが頭に命中した石の痛みが響いているのか、さきほどの様な魔力のこもった曲は演奏できず、どことなく調子外れの音楽が生み出されていた。
「へん、まったくダメじゃねえか!ほれ、三・十・路!そら、三・十・路!」
 調子の悪いピント外れ音色であったので、その調べに魔力はほとんど現れなかった。虎王丸はまったく動きを封じられず、自由に体が動くので、逆にその音色に合わせてさらに飛猿を挑発した。
 その態度に、飛猿はまったく笑いの無い恐ろしいほどの無表情を見せた。
「俺は放浪の芸能者だ。多少のことで実力が欠けたりはしない」
 飛猿は力を込めて弦をかき鳴らした。さきほどとは違う音色が、ベルファ通りに響き渡る。
「何だよ、ヘタレ猿め、曲を変えても、うぐ」
 手足どころか、口までもが動かなくなかった。虎王丸の体は、完全に飛猿の調べに取り込まれたのだ。不思議なステップを不規則に踏み、踊りを始めた。
「うぐぐ。みんなああ!愛してるぜ!」
 喉の奥から、言いたくも無い言葉が飛び出してきた。飛猿が自分の体と言葉を操ってしまったのだとわかったが、もう時は遅かった。
「みんなぁ!来年は俺にもチョコくれよおぉ!俺は待っているぜー!くそぉ、俺はこんな事言いたかねー!」
 必死に抵抗したが、琵琶の音はますます強くなり、それにつれて虎王丸の体はさらに踊り狂い、自由がきかなくなっていた。
「今日はいい天気だよなぁ!こんな日ってよぉ、開放的な気分にならねえか?」
 くねくねと妙な動きをしながら、自分の手が、上着にかけられ始めた。
「この猿野郎、てめぇ覚え‥‥さああて!ここで俺の肉体美を披露しちまおっかなぁ!」
 何事かと、虎王丸の前にはいつの間にか黒山の人だかりが出来ていた。そのほとんどが、何か面白い事が始まるのではないかと、期待のまなざしで見つめている。
 女性も沢山集まっており、中には少し前に虎王丸が菓子を配った女性もいた。あの時の男の子が今度は何をするのかしら、と笑顔を見せていた。
 今はまだ、陽気に踊りを踊っている人に見られるのだろう。ここで終わってほしかった。
「やばい!状況がさらに悪くなっているっ!!」
 琵琶が大きく鳴り響いた。飛猿の復讐の調べだ。虎王丸は上着を豪快に脱ぎ捨てた。
「ぎゃあああ、やめろー!」
 それでも音楽は止まらない。虎王丸はさらに服を脱ぎ続けた。
 最初は、楽しく見ていた観衆達であったが、次第に顔をしかめ、お互いに顔を見合わせ始めた。琵琶の音が響いているせいで、観衆の話している声こそ聞こえなかったが、人々の顔にどこまで脱ぐんだろう、少し、やりすぎなんじゃないかという疑惑が浮かんでいるのを、虎王丸は空気で感じていた。
 空気が弾けるような弦の音が響いた。それは合図の音であった。
「何で誰も止めてくれねえんだ、全員ぶっ!」
 誰が虎王丸を止めるというのだろう。虎王丸の怒りと恥ずかしさは、飛猿を通り越し観衆にまで広がっていった。だが、すぐに怒りの言葉は止まった。
「いやぁあ!これだけは勘弁!!許して!許してくれぇ!」
 虎王丸は今、褌一枚姿で立っていた。繁華街の中心の広場、まわりには老若男女の大勢の人が見ている。虎王丸は腰に手をかけ、褌を外し始めた。
 飛猿の琵琶が、嵐の様な激しい音色を奏でた。その音に合わせ、虎王丸は褌を大勢の観衆の前で気持ちよすぎるほどに豪快に脱ぎ捨てた。
「キャー!!」
 人だかりのところどころで、女性の悲鳴があがった。
「飛猿!てめえっ!!ぜぇって許せねえ!!」
 もはや怒りよりも、早くこの場を立ち去りたいという気持ちでいっぱいになった虎王丸は、悲痛にも似た叫びを上げた。飛猿は演奏をすでにやめているのだが、魔力は続いており、虎王丸はまさに文字通りの裸踊りを披露していた。
「そこで何をやっているんだ!」
 人々をかき分けるようにして、この広場を巡回しているエルザードの兵士が虎王丸の方へ走ってくるのが視界に入った。
「まあ、そんな気ぃ落とすな。女性たちにモテたんだからさ」
「こういうのはモテるとは言えねえ!」
 虎王丸の復讐を終え満足したのか、飛猿はニヤリと笑って、兵士がこちらへ辿り着く前に宿敵の肩を叩き、その場を走り去った。
「猿!!待てこの野郎!!」
 ようやく術が解けて、手足が自由になった虎王丸は、兵士から逃げる為に光の様な広場を立ち去った。
 飛猿を殴らないときがすまないと思い、すぐに飛猿を探したが、彼は繁華街の人ごみの中に消えてしまい、見つけることが出来なかった。
 その後、虎王丸はしばらくの間、琵琶の音を聞くだけであの騒動のことを思い出し、ある種の恐怖に怯えたと言う。(終)
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2009年03月19日

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