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『父と母、娘の為に 』
赤羽根・灯5251)&赤羽根・円(7013)&伊葉・勇輔(6589)&黒崎・潤〈暗黒騎士化〉(NPCA051)

彼らは家族でありながら、離れ離れの生活を送っている。
たとえ、離れ離れでも『大切な者』の為ならば直ぐに駆けつける事が出来る。
大切な‥‥娘の為に。
何故なら、それが『親』と言うものなのだから。


「灯が、私達の娘が何かに巻き込まれている」
 赤羽根・円は元夫である伊葉・勇輔に電話で伝えた。娘である赤羽根・灯の危機に普段は気丈な円も声を震わせており、その声の震えに勇輔も一大事なのだと言う事を悟った。
「今すぐ行く」
 話の途中にも関わらず、勇輔は電話を切るとガラリと夜景を見渡せる窓を開けると――そのままふわりと飛んで、灯の住んでいるマンションに向かうのだった。

「‥‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥」
 円が勇輔に電話してから、30分も経たないうちに勇輔は灯のマンションへとやってきた。
 ――――マンションの壁を突き破って。
「どうするの、これ」
 円はため息と共にジロリと勇輔を見ながら、ひゅーひゅーと風が勢いよく入ってくる壁を指差す。
 大事な娘の為に慌てて駆けつけて来た事は円も分かっている。円と勇輔、二人にとって灯は大事な娘なのだから慌てる気持ちも分かる。
「何で普通に玄関から入って来れないんだ‥‥」
「まぁ、緊急事態なんだからいいじゃねぇか」
 勇輔のため息混じりの呟きを聞いて「せっかちなのは相変わらずなんだな」と円は二度目のため息を吐く。
「とりあえず、灯は‥‥?」
 勇輔はリビングを見渡すが、灯の姿が見えず円に視線を移すと「ベッドに寝かせてある」と短く言葉を返して、円は寝室へと向かう。
 寝室は電気を消しているせいか、シンと余計に静かな雰囲気を与え、壁に寄せられたベッドの上で規則正しい寝息を立てている灯の姿があった。
「外見は寝ているようにしか見えない‥‥呼吸も安定しているし、病院に連れて行っても異常なし、もしくは原因不明としか言われないだろう」
 円の言葉に勇輔も灯の脈を測るなどしてみるが、彼女の言う通り異常は見られない。
「状況は? さっきは慌てていたから聞きそびれたし」
「‥‥話そうとしているのに、いきなり電話を切った人に責められたくないな」
 円が呟き「リビングで倒れていたんだ」と二人は寝室から出て、再びリビングに戻る。部屋を出る刹那、二人はどこか悲しそうな表情で娘の眠る姿を見ていた。
「‥‥此処か」
 勇輔は灯が倒れていた場所を見ながら「他に何か変わった所は‥‥?」と円の方を振り向くことなく問いかける。
「他には何も。ただ灯の火の鳥がパソコンから‥‥多分何か灯の意識不明と関係あると思うから、ウィンドゥを開けてくれないか」
 円が呟くと「分かった」と勇輔は短く言葉を返して――窓を勢い良く開ける。
「‥‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥何の冗談だ」
 壁の穴と窓から吹いてくる冷たい風が二人を掠め、引きつった表情で円が問いかける。
「ウィンドゥを開けろって言っただろ」
 さらりと言葉を返してくる勇輔に、円は頭痛を感じて頭に手を当てて「‥‥パソコンのウィンドゥを立ち上げてくれと頼んだんだ」と低い声で言葉を返した。
「あぁ、そっちか。それならそうと言ってくれよな。何で窓の事をわざわざ英語で言うのかとは思ったんだけど」
(「‥‥この人、アカンわ」)
 少しだけ助けを求める人物を間違えたか? と円は心の中で呟くが灯を助ける為にもその言葉を口にする事はなかった。
「私がするから退いて」
 円はパソコンの前に居る勇輔を退かすと、パソコンを起動させてサイトのアクセス履歴を確認していく。大抵がファッション系や和菓子系、ロック系のサイトばかりだったけれど、一つだけどれにも属していないサイトを円は見つけた。
「‥‥白銀の姫? サイト閲覧が一番新しい――‥‥「白銀の姫?」――」
 円が調べながら呟いていると、その呟きに勇輔が聞き返すように言葉をかけてくる。
「ネットゲームのようだな――何か知っているのか?」
 円が問いかけると「IO2の資料で見た名前だな」と勇輔も何か考えるかのように言葉を返す。
「‥‥IO2で?」
 勇輔の言葉に円は怪訝そうな表情で言葉を返す。IO2の資料にあるようなゲームで娘が遊んでいたとなれば、余計に『白銀の姫』が怪しく思えるのだ。
「私は『白銀の姫』にアクセスしてみようと思う、勿論貴方も来るだろう?」
 円が問いかけると「いや、おいらは‥‥」と視線を逸らしながら口ごもりながら言葉を返してくる。
「灯が危ない目に遭っていると言うのに心配じゃないのか、それでも父親?」
「いや、もちろんおいらだって灯の事は凄く心配だけど、最近のゲームは苦手なんだよ。妙に立体的だし、キャラも人間みたいなのが多いし」
 勇輔が呟くと「自分のゲーム価値観は置いておいて、灯の為に行こうとは思わないの?」と円からジト目で見られて「分かったよぉ」と勇輔は諦めたかのように『白銀の姫』にアクセスする事を決意した。
「さて、早速ログインしなくては――」
 円が『白銀の姫』にログインしようとした瞬間、何かに弾かれるように手に電気が走る。

 貴方達は危険な印象を感じます。
 白銀の姫にログインする事を許可する事はで来ません。
 ご了承下さい。

 電気が走った後、画面にカタカタとタイプライターでも打つような音が響き渡り、真っ黒な画面に白い文字が現れてくる。
「‥‥灯の意識不明、これが原因『かも』なんて思ってたけど――明らかにこれだろ」
 勇輔は画面上に映し出された文字を見ながら苦笑気味意呟く。
「ログイン出来ないなんて、どうすればいいのかしら」
 円は呟き、忌々しげな文字を睨むようにきつい視線を向けたのだった。


 その頃の灯は、まさか両親が自分の為に『白銀の姫』にログインしようとしている事など夢にも思わず、目の前を歩く黒崎をジッと睨むように見つめていた。
「何処に行くの?」
 先ほどから螺旋階段をずっと降りているにも関わらず、まだ到着先が見えない事から灯は短く黒崎に問いかけた。
「着いてくれば分かる」
 少しだけ予想していた言葉だったけれど、此処まで予想通りだと呆れを通り越えて笑いすら出てきてしまうというものだ。
「‥‥何を笑っているんです? また逃げ出す計画でも立てているんですか」
 黒崎が歩く足をぴたりと止め、後ろを振り返りながら問いかけると「逃がすつもりもない癖に」と灯は憎まれ口で言葉を返した。
「勿論、今向かっている所は『あんた』を必要としている者の所、あの方の復活の為に『あんた』が必要なんだ」
 黒崎の呟く言葉よりも、呟く彼の表情があまりにも無機質で背筋が凍りつくような感覚が灯を襲い、黒崎の言葉に反論する事が出来なかった。
「もうすぐ着く」
 かつん、と靴音が響いて不覚にも灯はビクリと肩を震わせる。
(「‥‥今更ながらに実感だけど、私って本当にかなりヤバイ状況なんだぁ‥‥」)
 灯は唇をかみ締める、それは悔しいという感情からではなく、純粋に自分の状況を分析した上で感じた『恐怖』からだった。
 螺旋階段を降り終えると、分厚い鉄の扉が遮っており、黒崎が何かを呟くと同時に頑丈で重そうな扉がギィと軋む音を響かせながらゆっくりと開いていく。
「‥‥‥っ」
 鉄の扉の向こうにいたのは、邪竜クロウ・クルーハだった。存在するだけで威圧感を感じて、灯は進む足が少しだけ竦むのを感じていた。
「まだ封印が解けなくてね、だからまだこの程度の力しかない、だからあんたがここにいる、あの方を復活させる――贄として」
 黒崎はカツンと邪竜クロウ・クルーハに近づきながら更に言葉を続ける。
「完全に復活した際には数年前に失敗した現実世界への侵攻を再び開始できる」
 その時、僅かに黒崎に異変が起きたのを灯は見逃す事がなかった。恐らくは邪竜クロウ・クルーハから浴びせられる邪気のようなものなのだろう、それが黒崎を包み込んでいく。
「‥‥そう、だから僕は邪竜クロウ・クルーハを蘇らせる。そして現実世界に攻め込むんだ」
 黒崎はまるで自分自身に言い聞かせるかのように呟く。
(「もしかして‥‥この人は自分自身の意思で動いているんじゃなくて‥‥」)
 灯は心の中で呟き、視線を封印された邪竜クロウ・クルーハに向ける。
(「‥‥あの邪竜クロウ・クルーハが彼を操っているんじゃ‥‥」)
 洗脳でもしているのか、黒崎は先ほどまでの自我を持っていない。それでも彼が強い事には変わりないだろうけれど、邪竜クロウ・クルーハに近づきすぎて意識が朦朧となっている今ならば、今までよりマシな戦いが出来るかもしれない。
(「‥‥朱雀を奪われているって言うハンデはあるけど‥‥」)
「私だって、朱雀ばかりに頼って生きてきたわけじゃない!」
 灯は大きく叫び、拳を強く握り締めて黒崎に素手で戦いを挑む。元々、幼少から薙刀術、弓術、合気道を習っており、開花してはいないものの才能を持ち合わせている。
 常人以上には戦う事が出来るだろう。
「あんたを、今死なせるわけにはいかない。大人しく『その時』を待っていれば痛い目に合わずに済んだものを」
 黒崎は剣を構えて、灯に攻撃を仕掛ける。黒崎の攻撃は灯の頬を掠めるが、今までのような勢いはない。
「大人しく死ぬのを待つほど‥‥大人しい子じゃないのよ、私は!」
 灯は再び黒崎に殴りかかる。


 そして、黒崎と灯が戦い始めた頃――灯のマンションでも異変は起きていた。
「見て、これ‥‥」
 ログインする方法を見つける事が出来ず、途方に暮れていた二人だったが突然パソコンから響くタイプライターの音に円が画面に視線を移す。

 あなたたちのろぐいんをみとめませせせせせせせ‥‥

 まるでエラーでも起こしたかのように画面に映し出される文字も不気味なものに変わっていく。
「何だ、これ‥‥気持ち悪いな」
 勇輔が呟いた瞬間、ぱっと画面が真っ暗になり、再び画面が映し出された時には最初に見た普通の画面へと変わっていた。
「何が起こっているんだ‥‥灯」
 円は心配そうに灯の名前を口にしたが「今ならログインできるんじゃないか」と言う勇輔の言葉にハッと我に返り、ログインできるかを確かめる。
「‥‥出来る!」
「此処からが本番、か」

 アカバネ・マドカ、イハ・ユウスケ
 両名のログインを確認しました。
 白銀の姫の世界をお楽しみ下さい。

 こうして円と勇輔も『白銀の姫』の舞台であるアスガルドへと足を踏み入れる。
 彼らはまだ知らない。
 ログイン出来るようになったのは、灯が黒崎と戦って僅かに生じた歪みからだと言う事を。


TO BE‥?



――出演者――

5251/赤羽根・灯/16歳/女性/女子高生&朱雀の巫女

6589/伊葉・勇輔/36歳/男性/東京都知事・IO2最高戦力通称≪白トラ≫

7013/赤羽根・円/36歳/女性/赤羽根一族当主

―――――――

赤羽根・灯様
伊葉・勇輔様
赤羽根・円様>

こんにちは、水貴透子です。
いつもご発注ありがとうございます!
今回はご家族皆様でのご参加と言う事でいつも以上に気合を入れて
執筆させていただきました。
気に入っていただける内容に仕上がっていれば良いのですが‥‥。

それでは、またご機会がありましたらご用命下さいませっ!
一生懸命執筆させていただきます。
今回は書かせて頂き、ありがとうございました!

2009/3/10
PCシチュエーションノベル(グループ3) -
水貴透子 クリエイターズルームへ
東京怪談
2009年03月12日

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