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『【猿神村】猿神の正体 』
ミネルバ・キャリントン7844)&碇・麗香(プライベート)(NPCA036)



 猿神村の、猿神神社の境内にそれはあまりにも突然に現れた。身長3メートルにはなろうかという、巨大な猿の怪物が、ミネルバ・キャリントン(みねるば・きゃりんとん)達の前に立ちふさがっていた。
「まさか、あなたが」
 ミネルバがそう言いかけた時、村長が大声を上げた。
「猿神様!」
 ミネルバの視界に、村長がその大猿に手を合わせて、拝む様な表情で見つめている姿が入ってきた。真剣な顔であった。
 しかし、それは村長が拝むに等しい存在なのだろうか。少し顔を横に向け、碇・麗香(いかり・れいか)の方を見つめた。彼女は驚きの表情だが、どこかいぶかしげな顔つきで大猿を見つめている。
 果たして、この猿が本当にこの村の土地神なのか。おそらくは麗香も、同じ様な疑問を抱いているに違いない。
「猿神様!わしはこの村を救う為、貴方に助けて下さいと祈りました。そして貴方はわしの前においでくださり、この村を助けてくれると約束して下さいました」
 大猿はわずかに笑いながら村長を見下ろしていた。それは本当に、村長を見下しまるで馬鹿にしたような視線であった。
「しかし、いくらなんでも女性を強引に攫う等、これはやりすぎですじゃ!貴方の力なら、こんな方法をしなくとも」
 村長が一歩大猿に近づいた時、大猿は村長に向かって傷だらけの小さな猿を放り投げた。小さな猿は地面に落ち、わずかに痙攣している。
「これは?」
「村長さん、離れて!その猿の化け物は猿神なんかじゃない!」
 麗香が叫び声にも似た声を上げた。小さな猿が投げられた事により、麗香は気づいたのだ。同時にミネルバも猿の正体に気づいた。
「貴方、狒々ね。よくも図図しく、猿神を名乗ってくれたわね」
 麗香が鋭い視線でその大猿を睨み、言葉を続ける。
「昔、妖怪の特集をアトラスで記事にした時、調べた事があるわ。女を攫ったり人を操ったりする猿の妖怪。歳を取った猿が狒々になるって話も聞いた事あるけど」
 さすがはオカルト雑誌の編集長である。ミネルバも日本の妖怪の狒々の事は書物で読み、どんな怪物かは知っていた。しかし、この旅行の途中で遭遇するとは思ってもいなかった。そして、村長の足元に投げつけられた小さな傷だらけの猿が、本物の猿神なのだろう。
「猿神様ではない?」
 村長はまだ、自体を把握していない様であった。その村長をあざ笑うかのように、狒々が口を開く。
「その気の強そうな女の言う通りだ」
 大猿が目を細めて、気味の悪い笑みを浮かべた。
「私の、力、不足です」
 今度は小さな猿が、搾り出すような声を出した。
「私は、この土地の守り神として、村の、危機を救いたいと、ど、どうすればい、いいかと悩んでいました」
「猿神様?貴方が?」
 村長はようやく、この小さな猿が本物の猿神である事に気づいた様であった。
「村が、さびれていくのを、救いたいと、ずっと考えて。しかし、方法が、わかりませんでした。しかし、ある時」
「この俺がこのちっぽけな神を救ってやったのさ」
 言葉を続けたのは、大猿、いや、狒々であった。
「俺の力を貸してやると、この小さい猿に言ったら、まんまと信じてきやがった。よっぽど、切羽詰ってたわけだ。俺はこの村を救う為に力を貸してやると言い、そして」
「猿神を騙し、土地神の座を奪い、さらに村長さん達を騙して村人を操り、私たちを攫い、自分の欲望を満たそうと考えたわけね」
 ミネルバは鋭く言い放った。
「ほう。なかなか頭の回転が速い女だ。しかもこの状況において、こんなに冷静とは」
 狒々がミネルバに顔を向けた。露天風呂で感じた視線、そのものをミネルバに浴びせつけた。
「俺の好みだ。まさに俺の女に相応しい」
 狒々が舌を出し唇をなめていた。
「普通なら、向こうにいる女みたいに怯えるものだが」
 ミネルバは振り返らなかった。敵は目の前にいるのだ。おそらくは、あの3人の娘達の事を言っているのだろう。普通に生活をしている、ごく普通の娘達が、この状況で怯えるのは当たり前の事である。
「俺のハーレムを作り、女どもには俺の子供を産んでもらう。そして、俺の血族達がやがてはこの土地だけでなく、全世界で支配をする様になる。村人はその為の俺の手駒ってわけだ」
「反吐が出るほど、くだらない計画ね」
 そういい捨てるミネルバに、狒々はただ、気持ちの悪い笑みを見せるだけであった。自分の計画通りに進んでいる、そう確信しているのだろう。
「ミネルバさ、ん、もう、貴方達しか、頼りにできま、せん」
 狒々の言葉を遮る様に、猿神が囁いた。ミネルバに言葉を投げかけるものの、倒れたままで視線はこちらを向いていない。顔を向ける程、力が残ってないのかもしれない。
「私は、神社に閉じ込められ、力まで狒々に奪われ、てしまいました。で、ですが、貴方達が、この村へ迷いこんだのを感じて、化身を送り、助けを求め、ました。お願いします、力不足の私に変わって、こ、この村を」
 猿神が言い終わるや否や、狒々が黒ずんだ毛深い足で、猿神を踏み潰した。後ろで、女性に鋭い悲鳴が聞こえた。
「よくも猿神様を!」
 村長はミネルバが弾き飛ばした刀を拾うと、狒々に切りかかった。しかし、狒々と村長の体格の差は圧倒的な差を生み出していた。腕の長さが明らかに違い、村長が狒々の懐に飛び込む前に、狒々は長い腕を振りかざし、村長を拳で叩き付けた。
「村長さん!」
 麗香が叫んだが、返事は無かった。村長が地面に倒れ伏せる。生きているだろうか。あの大きな拳をまともに受けたのだ。打ち所が悪ければ、命も奪われているかもしれない。
 狒々はその村長や小さな猿神、そしてミネルバ達を見て大笑いした。狒々の唇は捲れて、目まで覆っていた。
「頭のいい女は俺好みだ。お前らは俺の専用の女にする」
 狒々が囁いた。
「何ですって!」
 その言葉を跳ね除けるかのように、麗香が言葉を返す。
「俺の子供を産めるんだ、光栄に思えよ。あっちの女たちは平凡だが、体は俺好みだ。あいつらは俺が先に楽しんだ後、村人達にくれてやるがな」
 再び悲鳴が上がった。恐怖している人間の怯えた気配が、ミネルバに伝わってきた。
「よかったな村長、これで村が救われる。村に子供たちが溢れかえる。ま、たまに俺に似た子供が、紛れているかもしれないがな!」
「妖怪のクズね。妖怪の中でも一目置く存在のものはいるけれど、あなたみたいなのは、同じ空気の中にもいたくない」
 嘲笑する狒々に、ミネルバは静かに言う。
「自分の欲望の為なら、何をやってもいいというわけね」
 睨みつけるミネルバを、狒々は今までよりもわずかに真剣な表情で答えた。
「いい顔だ。ますます俺好みだ。お前みたいなツンツンした奴を、女にするのは楽しいからな。特別に俺の正妻にしてやる。これからは俺と共に歩め。俺もお前に力を貸してやってもいい」
「あんたみたいな最悪の化け物、触られるのもお断りよ!」
 ミネルバの心の奥底で、静かに怒りがこみ上げてきた。感情的になったら終わりだ。軍人はいつでも、冷静さを求められるものだ。
 だが、この状況で冷静にしてはいられない。狒々の自分への侮辱、村長をはじめとする村人の思いを利用した計画、浚われた娘達、そして、何より騙されて力を失った猿神。皆の無念の思いを感じ、怒りに駆られない者がいるだろうか。
 ミネルバは精気を消費させ、体の身体能力を引き上げた。何としてもこの狒々を倒す。その思いがミネルバを軍人の顔にし、戦闘へといざなった。グルカナイフを手に取り、狒々へ一歩近づいていく。
「頭だけではなく、戦闘能力もあるというわけか。ますます正妻にしたくなった。いいだろう、遊んでやる!」
 狒々が飛び退った。ミネルバとの距離をとり、お互いに戦闘態勢を整えた。最初に攻撃を仕掛けたのはミネルバであった。グルカナイフを体の一部の様に扱い、狒々の額に向かって突き刺す。
 しかし、狒々が黙ってその攻撃を許すことはなく、その長い腕を使いミネルバを払いのけた。次に攻撃を仕掛けたのは狒々であった。その鋭い爪でミネルバに襲い掛かり、着ていた上着に斜めの傷跡を残していく。
 その隙を狙い、ミネルバがグルカナイフを狒々の体に付き立てるも、ミネルバのナイフがあと少しで狒々の体に到達するという時に避けられ、その体にわずかに傷をつけるだけに留まった。
 ミネルバは一度後ろに下がり、体勢を立て直す。狒々がミネルバに近づき、嘗め回すかのような視線で見つめる。
「まだ、息をしている様だな」
 狒々の言う通り、村長がかすかに動いた。重症を受けてはいるが、命に別状はなかったのだ。
 ミネルバが心の中でほっとしていると、狒々が気絶している村長のそばに移動したかと思うと、村長に向かって腕を振り下ろした。
「危ない!」
 ミネルバは村長と狒々の腕の間の隙間へと飛び込み、村長を庇った。しかし、代わりに狒々の攻撃を受け、背中に強い衝撃を受けた。
 ミネルバは淫魔の血を引くため、普通の人間よりは怪我の回復は早い。それでも、鋭い攻撃を受ければいつかは致命傷となってしまう。
 背中に熱いものを感じた。傷口が開いて血がにじみ出ているのかもしれない。狒々は攻撃の手をやめず、今度は背中の傷口に爪をかけ、服を引き裂いた。上半身がはだけ、ミネルバは下着の姿となっていく。
(何ていやらしいやつ!)
 心の奥で叫んだ。攻撃しようと思えば、すぐに攻撃が出来たはずだ。肉体的ダメージとなる攻撃をせずミネルバの服だけを切り裂くのは、女を欲の対象としてしか見ていない狒々の性格だからだろうか。
 それにしても、ミネルバの方が不利である事には違いなかった。狒々の長いリーチのおかげで、あちらの攻撃は届いても、ミネルバの攻撃は届かない。このリーチの差をどうにかしなければ、勝ち目はない。
 何とか体制を立て直そうと、ミネルバは狒々の方を向いた。その瞬間、長い腕がミネルバの体を押し倒し、狒々が完全に自分の上に覆いかぶさっていった。狒々の荒々しい息がミネルバの顔に降りかかる。
「ちょっと!」
「体格の差は埋められないなあ、ミネルバ」
 両腕でしっかりと押さえつけられ、ミネルバは逃げるすべがなかった。
「ちょうどいい、いい運動した後なんだ、ここでやってやるよ。お前は俺の正妻なんだ、俺のことはどこでも受け入れられるだろう」
「誰が正妻よ!勝手に決めないで!」
 狒々はミネルバを片手で押さえつけながら、さらにミネルバの太ももに手をかけ、馬乗りになる。
「他の女どもにも公開だ!」
 狒々の口元から涎が垂れ、ミネルバの頬に落ちた。
「ミネルバさん!」
 女性の声がこだました。狒々がミネルバの下着に手をかけ、引き裂こうとした瞬間、急にその動きが止まった。
 小さな、傷だらけになった猿神が、狒々の顔に飛びつき、顔を引っかいていた。あんなにも傷を負い、狒々に踏み潰されたのにも関わらず、まだ力が残っていたのだ。
 すぐに狒々が猿神を払いのけたが、今度は石のつぶてが狒々に雨のように降り注いだ。女性達が石を狒々に投げつけていたのだ。
 ミネルバはその隙に狒々の体の下から抜け出し、石を振り払っている狒々の胸にグルカナイフを突き刺した。狒々の咆哮が轟いた。
「ミネルバ受け取って!」
 こちらへ近づいてくる足音と共に、麗香の声が響き渡った。ミネルバは麗香が投げたものを受け取った。それは、ミネルバが車内に隠していた拳銃であった。隠していたはずだが、いつの間にか麗香が見つけ出していたのだろう。
「有難う、麗香!」
 ミネルバは精気を込めて、ようやく石を払いのけた狒々に向かって引き金を引いた。その弾が狒々の体をまっすぐに貫いていく。
 ミネルバはすぐそばに落ちていた村長の刀を拾うと、全身をバネのようにして狒々に飛び込み、そして心臓の位置めがけて刀を突き刺した。狒々の叫び声が境内に響いた。
「私を正妻にしようとした事が、貴方の悲劇の始まりね」
 崩れ落ちる狒々に向かって、ミネルバは呟いた。遠くで鶏が鳴く声が聞こえてきた。空はどんどん白く染まっていき、太陽の朝を告げる光が境内に差し込んだ。
 夜が明けたのだ。(続)
PCシチュエーションノベル(シングル) -
朝霧 青海 クリエイターズルームへ
東京怪談
2009年03月10日

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