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『Troll - 5 』
高科・瑞穂6067)&鬼鮫(NPCA018)



「クソッ! 痛ぇ! じゃねぇか! この野郎!」
 ろくに動かなくなった女を、俺は何度も何度も蹴りつづけた。
 頭、胸、腹、腰、尻、背中、足、腕。あますところなく、まんべんなく蹴りつけた。
 ひと蹴りするごとに、女は呻き声をあげた。「ぐふぅ」とか「うぶぅ」とかいう、動物めいた声。くたばる寸前のブタが、こういう声をあげるのかもしれない。

 俺は頭をおさえながら、ひたすら女を蹴った。蹴って、蹴って、蹴りまくった。
 頭がガンガンする。このザコに頭蓋骨を砕かれたせいだ。もちろん再生するが、治りきるまで痛みはある。ふつうの人間なら死ぬようなダメージだ。その痛みときたら、言葉に尽くしがたい。死んだほうがマシに思えるぐらいの痛み。
 一定のリズムで襲ってくる痛みにあわせて、俺は繰り返し繰り返し女を蹴った。体を丸くしているせいで、腹を蹴れない。かわりに、背中とケツを蹴りまくった。肉付きのいい尻は、笑えるほど蹴り心地がよかった。

 女は、何の抵抗もしなかった。なにをしてもムダだということが、ようやく飲み込めたらしい。さっきの反撃が、最後の抵抗だったというわけだ。
 たしかに、さっきの攻撃はなかなかだった。おそらく、合気道の技だ。いつのまにか床に転がされて、頭を踏まれていた。おまけに手首まで折られた。手首のほうはもう治りかけているが、頭のほうはまだ痛い。これだけのダメージを受けたのは久しぶりだ。半分以上は、俺の油断が原因だが。
 なんにせよ、この女はもう終わりだった。退屈しのぎのお遊びも、そろそろおひらきの時間だ。

 俺は、右足を軽く上げた。そのまま、女の脇腹めがけて踏み下ろした。さっき、肋骨を折ってやった箇所だ。今度は、三、四本の骨がまとめて折れた。
「ぬがっ!」という絶叫が、部屋中に響きわたった。まだそんな大声を出せる体力があったことに、俺はちょっとばかり驚いた。
 女は、脇腹を片手でおさえながら床の上を這いずった。逃げようと考えたのだとしたら、マヌケとしか言いようがない。どうやったところで、逃げられるワケがないからだ。
 女は、三十センチも逃げられなかった。俺はスカートの裾をつかんで引きずりもどし、狙いさだめて膝を踏みつぶした。ゴキャッ、という音。動物めいた悲鳴。いい声だった。
 俺は、もう片方の膝も踏みつぶした。デッサン用の人形みたいに、足が不自然な方向へ曲がる。これで、女は二度と歩けなくなったわけだ。もっとも、とっくにそうなっていたかもしれないが。歩くだけじゃなく、四つんばいで這うことすらできなくなったわけだ。

 両足をねじまげたブザマなその姿を見下ろして、俺は一つのことに気付いた。まだ蹴っていない部分があったのだ。
 床に投げ出された、女の左腕。その手首から先──五本の指を、俺は踏みつけた。女の頭が、弱々しく横に動いた。まるで、おしおきされる子供だ。いい気分だった。
 ぐっ、と足の裏に体重をかけた。ペキペキと、枯れ枝を折るような音。「いいいいいっ!」という、甲高い悲鳴が心地良く耳に届いた。
 足を上げてみると、親指だけが元の形を保っていた。残りの四本は、第一関節か第二関節で折れている。爪の剥がれている指もあった。
 俺は、もういちど足を踏みおろした。今度は親指の根元を狙って、かかとでゆっくり踏み抜いた。ボリッという、湿った枝を折る音がした。いい音だった。
 おなじように、右手の指も片付けた。こっちはなかなかうまくいかず、合計四回踏まなけりゃならなかった。そのあいだ、女は子供みたいな泣き声まじりの悲鳴をあげるだけだった。これで、もう完全に女は両手両足を使えなくなった。いいザマだ。

 それでもまだ、女はカーペットの上でもがいていた。まるで、足をもぎとられた昆虫みたいに。たいした生命力だった。屠殺場の豚だって、もうすこし諦めがいい。だが、豚と同じでコイツは死ぬ運命だってことを知るべきだ。
 俺は数歩うしろにさがり、助走をつけて女の背中を蹴った。
 女の体はゴミみたいに転がって、壁にぶつかった。それきり、二度と動かなかった。いまので、死んだかもしれない。腎臓を狙って蹴ってやった。まちがいなく、腎臓が破裂しているはずだ。即死してもおかしくない。
 ところが、よく見ると女はまだ息をしていた。どうやら、想像以上にしぶとい。
「遊びの時間は終わったんだよ! とっととくたばれ!」
 床と壁の間に押し込むようにして、俺は女を蹴った。何度も何度も、ところかまわず蹴った。女がなかなか死なないことに、俺はイラつきはじめていた。まるで、俺が非力だと言われてる気分だ。女一人も殺せないのかとバカにされている気分。胸クソ悪い。
 俺は、女の顔を蹴り、脇腹を踏みつけ、胸元に爪先をブチこんだ。
 女は、完全に失神していた。一回蹴るごとに体をピクピク震わせるが、それ以外なんの動きも見せなかった。このまま蹴りつづければ、死ぬのも時間の問題だ。しかし、それにしても異常な生命力だった。

 五、六分も蹴りつづけただろうか。さすがに疲れてきて、俺は足を止めた。
 女はダンゴムシみたいに体を丸くしたまま、手足を折りたたんで、全身あちこちから血を流していた。鼻と口から流れた血はカーペットの上に溜まって、赤黒い血の染みを作っている。鮮血は、耳の穴からもこぼれていた。鼓膜が破れたのかもしれない。
 ワンピースやエプロンの脇にべったりと血がにじんでいるのは、折れた肋骨のせいだ。見ている間にも、エプロンの白い部分は赤く染め替えられていく。どう見ても致命傷だ。この女は、もう俺が何もしなくても絶命する。

 そのとき。しずまりかえった休憩室に、時計の針の音が響いた。壁掛け時計だ。見ると、七時をさしている。
 ちょっと驚いた。ずいぶん長いあいだ遊んでいたらしい。俺の感覚だと、せいぜい十分ぐらいしか遊んでなかったはずだが。たのしい時間が短く感じられるとかいうのは、本当のことかもしれない。
 ともかく、遊びの時間は終わりだった。この女の身柄を、クライアントに引き渡さなけりゃならない。それが、俺の仕事だ。一応は。

 俺は女の両腕を持ち上げ、手首を右手で握った。ほそい手首だ。二本まとめて、右手ひとつで十分だった。一本のこらず折れた女の指は、なぜだか妙に笑えた。
 手首をひとまとめにつかんだまま、俺はドアを開け、廊下に出た。
 ボロ雑巾みたいになったメイド姿の女をひきずりながら、俺は廊下を歩いた。すぐに肩が脱臼したが、女は目をさますこともなく、ただ引きずられるままだった。おおかた、クライアントの部屋に着くまでに死んでるだろう。
 まだ痛みの残っている頭をさすりながら、俺はこの女の名前を思い出そうとしてみた。どういうわけだか、まるっきり思い出せなかった。べつに、どうでもいいことだったが。

PCシチュエーションノベル(シングル) -
牛男爵 クリエイターズルームへ
東京怪談
2009年03月09日

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