▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『〜少女と空と蛇の呪い〜 』
白神・空3708)&エスメラルダ(NPCS005)

ライター:メビオス零




●●

 人が魔物に攫われて石にされる‥‥‥‥この幻想に満たされた世界においても、かなり珍しい現象である。
 生物を石に変えると言うことは、並大抵の呪術師では出来ることではない。
 秘術に秘術を尽くした高度な魔術か、近付くことすら困難な魔物に一睨みされるか‥‥‥‥‥‥どちらにしても危険極まりないことに変わりはない。
もちろん、それを解呪するのも一苦労であり、このソーン全体を見回しても石化を解呪出来る者など数える程しかいない。

「はぁ、はぁ、はぁ‥‥‥‥これは‥‥商売にしたくはないわね」

偶然にも、めでたくそんな貴重な人材の一人に入った白神 空は、数時間の格闘の末、ようやく一人の少女を石化の呪いから助け出した後には息も絶え絶えになっていた。
少女の全身を余す所なく舐め、撫で、味わい堪能し至福の時を過ごしていた空ではあるが、少女の全身に行き渡る程の量の体液を出したりすれば、いくら怪人でも体力を消耗するのは当然である。血液も唾液も、身体の中の水分であることには変わりはない。
途中で水分補給をしてはいるものの、長く大量の唾液を出し、舐め続けていた口内も舌も乾ききり、必要以上の乾きを訴えてくる。

「むにゃ‥‥」

 石化の解けた少女は、今では空の隣でスヤスヤと静かに寝入っている。空が石化を解くために服を脱がして全裸にしたため、寒いのだろう。掛けられたシーツを身体に抱き締め、身を縮ませて小さく震えている。
 空は少女の身体を拭いてやろうと、手近なタオルで少女の身体を拭い、流れる汗を拭き取った。長時間石化していたため、まだ体力が底を付いている状態なのだろう。少女は空に身体を拭われても一向に目を覚ますような気配を見せず、無防備な身体を晒している。
大抵の場合、この手の呪術に掛かっていた者は、術が解けても半日以上は目を覚まさない。それこそ大手術を受けた患者のように熟睡しており、空が多少の悪戯を施したとしても‥‥‥‥まぁ、目覚めることが出来ないだろう。

「はぁはぁ‥‥‥‥ふぅ‥‥‥‥」

 身体を拭いながらも少女の肢体を思う存分に堪能した空は、額から流れる汗を拭って一息つくと、少女の隣に体を横たわらせて少女の寝顔を眺め始めた。
 少女の身体は、空の責めによって所々が薄紅く染まっている。揚した顔はまだ幼く、年の頃は十代前半‥‥これから青春が訪れる時期と言った所だろうか。肩まで伸ばされている髪は茶髪混じりの黒髪で、石になっていたとは思えぬ程にサラサラと掬った指の合間を流れていく。横になっているので正確な背丈は分からないが、恐らく空の胸上辺りまではあるだろう。長身な空にとっては自分よりも小さな相手は珍しくもなかったが、それにしても小柄な少女である。
 まだ男など知らない年頃だろう。身体にも傷の類はなく、この少女を石化して売りに出していた組織の人間達は、少女達をそれなりに大切に扱っていたらしい事が伺える。
 しかし、一体どんな事情があってこんな裏の世界とは縁の遠そうな子が組織の手に落ちるまでに至ったのか‥‥‥‥気になるところである。少女が目を覚ましたら、そこら辺の事情を聞いてみるのも良いだろう。空は少女を救った恩人だ。多少は相手の事情に踏み込んだところで、拒まれるとは思わない。

「私も、ちょっと疲れたわね」

 空は少女の隣に寝転びながら、自分の分のシーツを引き寄せ、少女の隣で目を閉じる。
 偶にはこんな事があっても良いか‥‥といった気持ちで眠る少女で遊んでみたが、やはり相手からの反応がなければ物足りない。それに空の手技によって少女の身体は汗だくで、見るからに体力を消耗していっている。その体力の消耗具合は空の比ではないだろう。
これ以上無駄に少女の身体を昂ぶらせていては、身体を害する可能性もある。少女の治療は自分が楽しむためでもあったのだが、助けた身としては自分から苦しめるようなことは出来る限りしたくない。
 ‥‥‥‥自分が楽しむために随分と苦しめてしまったような気もするが、したくはないのだ。
 空は少女を抱き枕にするように抱き締め、少女の顔を胸元に埋めながら、静かに寝息を立て始めた。
 少女の身体が回復するまでの数時間‥‥‥‥空は少女の隣で仮眠を取る。少女を拘束するようなこともなく、逃げようと思えば逃げられる‥‥‥‥そんな状態のまま、空は無警戒に眠りに入った。
まだ会話らしい会話もしていないが(少女が寝ぼけ気味に起きた時に一方的に話したが、少女が覚えていない可能性があるのでカウントせず)、少女が空の眠っている間に勝手に出て行くというようなことはないと踏んだのだ。
何故なら‥‥‥‥少女の服は、少女を捕まえていた者達が用意したドレスのみ。しかもそのドレスとて、空の体液でベットリと濡れている上、所々に破れが見えており、治安が良いのか悪いのか微妙なベルファ通りに出て行けるような恰好ではない。
悪気はないのだが、それが少女の逃走防止に繋がってしまっている。
もしかしたら、少女は目覚めた時、空に襲われたと勘違いするかも知れない。

「‥‥‥‥‥‥」

 ‥‥目を閉じた空は、微かに冷や汗を流した。
少女には、石化を解呪したことは伝えてある。
 寝ぼけ眼だった上にすぐに二度寝されてしまったが、まぁ、朧気にでも空のことを恩人だと記憶して貰っていれば、空から逃げるようなことは多分ないだろう。‥‥多分だが。恐らくは、ない。伝えてはあるのだ。空に襲われたとか、そんな勘違いをするようなことはない‥‥‥‥筈だ。
 空は言い知れぬ不安感の中、疲れに背を押され、意識を深い水の中に沈めていった‥‥‥‥

‥‥‥‥‥‥‥‥

‥‥‥‥‥‥

‥‥‥‥

 そうして、一体どれだけの時間が経ったのか‥‥‥‥
 陽は高く昇り、既に正午は過ぎている。
 窓の外から聞こえてくるのは喧噪。夜を稼ぎ時として朝は休んでいるような店も、チラホラと開いて仕事を終えた客を迎え、食事を作り、酒を振る舞い、時と共に増えていく常連客を次々に捌いてその懐から金銭を巻き上げていく。

「う〜ん‥‥‥‥」

 そんな具合に騒がしくなっていく外の喧噪と、床を擦り抜けて階下から響いてくる楽しそうな音楽に目を覚ました空は、ゆっくりとした動作でベッドの上から起き上がった。
 上半身を隠していたシーツが落ちて、流れるように空の肢体を晒し出す。陽射しと共に窓から入り込んだ風は部屋の中でとぐろを巻くように小さく旋回し、静かに窓の外へと抜け出ていく。
 ‥‥一体いつ起きたのだろうか。
 空よりも一足早く目覚めていた少女は、自分の居場所を確かめるように窓を開け放ち、服も着ずに外の街並みと人混みを眺めていた。窓枠に身体を隠して外を見回し、自分がどこにいるのかを確認していたのか‥‥‥‥空の声に振り向いた少女の顔には、微かに怯えの表情が見え隠れしている。

(この調子だと、私の話は覚えてないのかしら)

 少女の様子からそう察した空は、内心で小さな溜息をついていた。
予想の範囲内とは言え、少女の説得は一苦労するだろう。出来れば眠る前に行った空の説明を覚えておいて欲しかったのだが、覚えていないのならば仕方がない。
少女を助けたことを説明し、気になっていた石化させられた理由も教えて貰うとしよう。

「あなた、気分は?」
「だ、大丈夫ですけど‥‥‥‥」

 少女はカーテンを身体に巻き付け、空の視線から身体を隠しながら言う。全裸のままでベッドから起きておきながら、やはり羞恥心は年相応に持っているらしい。
 しかし身体を隠しているのは、羞恥からだけではないだろう。
 空に襲われたと思っているのか、少女は空に近寄ろうとはしない。いや、実際に空は少女を襲っていたので言い訳が出来る状況ではないが、少女は意識を失っていたのだから記憶に残っていないはずだ。
 だが警戒されている現状、空は少女の信頼をまだ得られていないのは確かだ。
 今後、この少女をお気に入りとして飼うにしても飼わぬにしても、まずは現在の状況を説明して近寄ってきて貰わなければ話にならない。
 空は少女の返事にホッとしたように一息つくと、ベッドに腰掛けたままでニコリと微笑んだ。

「そう、良かったわ。ちゃんと石化が解けるかどうか、心配だったんだけど」
「石化‥‥ですか?」
「そうよ。覚えてないかしら」

 少女は記憶を辿るように目を頭上にまで泳がせ、「うーん」と小さく唸りながら空に視線を止めた。
 ‥‥‥‥その視線が、段々と険しいものへと変化していく。

(な、なに? 遊んでたのがバレた?)

 少女の視線に、空の頬を冷や汗が流れていく。
 もしかしたら、少女は空が悪戯に夢中になっている時に、微かに意識を取り戻していたのかも知れない。もし、そんな時のことを少女が覚えていたとしたら‥‥‥‥

「あの、あなたが私を買ったんですか?」
「ち、違うわ! 飼おうとはしたけど‥‥そうじゃなくて、買ってないから!」

 わたふたと手を大袈裟に振り、少女に弁解する。
 人身売買の類はこの街では御法度だ。少女が大声で助けを求めれば、空に被害が及ぶ可能性もある。
 どこの悪党がどんな事情でこの少女に手を出していたのかは知らないが、子悪党の客にされて捕まるようなことは避けたかった。

「あのね、私は仕事の報酬としてあなたを受け取ったんだけど‥‥‥‥」

 空は、少女の石化を解呪した経緯や少女が何故裸なのかを説明を始めた。
出来るだけ自分にとって不利になりそうな話は省略し(全身を舐め回したとか)、少女を助けたのは何故なのか、少女が無事に目覚めて安堵したことを語る空に、少しずつ少女の警戒が薄れていく。
しかしそれと反比例するように、少女の顔には不安の影が差し始めた。

「‥‥と言うことなんだけど、分かって貰えたかしら」
「‥‥‥‥はい。その‥‥助けていただいて、ありがとうございます」

 空の話を聞き終えた少女は、聞き逃してしまうのではないかという程の小さな声で返事をしながら頭を下げた。少女を包む不安の影は、話が終わった時にはより確かなものとして空の胸中を刺激する。

(どうしたのかしら?)

 せっかく石化から解放されたというのに、喜ぶ素振りをまったく見せない少女に、空は微かに眉を顰める。
少女は自分が助かったことよりも、自分がこれからどうなるのかを不安に思っているようだ。空は少女を報酬として貰ってはいたものの、だからといって束縛する権利があるかどうかはまた別だ。そもそも奴隷や人身売買の類は、基本的に御法度である。空が話を持ちかけて少女の了承が得られれば、少女を空の物とする事も出来るが、どちらか一方が拒否すればこの場でお別れと言うことになる。
 もし少女が自由になりたいのならば、ただ空の申し出を断ればいい。しかし、そうしたところで自分の境遇が良くなるわけではないからこそ少女は不安がっているのだ。
 空は少女の感じ取り、その不安の元となっている原因を探りに入った。

「そう言えば、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「はい」
「あなた、どうして石になってたの? 滅多にないことだと思うんだけど」

 空は、兼ねてから抱いていた疑問を少女に問いかけた。
 石化は闇商人達が手がけたとしても、そこに至るまでの段階があったはずだ。突然理由もなく攫って石にするような愚を、闇に生きる商人達が犯すとは思えないのだ。
 例えば攫ってきた娘が有名人だったり、権力を持つ者の血縁だったりした場合にはすぐに捜索の手が回るだろう。遠くの街に売りに出すのならばまだしも、この街で攫いこの街で売り捌くのならば、出来る限り背後関係が地味な一般市民を対象にしなければならない。
それでも“突然失踪する”という現象が起きた時、近隣の人々がそれを不審に思えばやはり捜索の手が伸びる。ならば事前に、“失踪してもおかしくない”ような理由を持つ者を攫わなければならない。

「実は‥‥‥‥借金があちこちに‥‥」

 少女は人間が売られる理由の中でも、最も多い理由を持ち出した。

「あら、やっぱり両親とかの?」
「いえ、自分の」
「‥‥‥‥」
「あちこちの賭場に出入りしていたら、いつの間にか‥‥‥‥石には、組織で飼われていた蛇みたいなのに睨まれたら、体が動かなくなって‥‥‥‥」

 訂正。珍しい理由ではないが、かなり普通じゃない理由だった。
 賭場に出入りしている者が借金で首が回らなくなると言うのは、良くあることだ。特に非合法の賭場となると、現金が足りなくなると、その場で金を貸してくれる代貸しという業者がいる。手持ちの金を使い尽くした者が代貸しに金を借り、借りた金で勝負に勝てば借金は返済されると言うことだ。
 だが負けに負け続け、借金ばかりを増やす者がいる。そうして破滅する者も少なくはないが、少女のように未成年、しかも十代前半の子供がそのような賭場で借金ずくめになるようなことは非常に珍しい。
 ‥‥‥‥というか、まず賭場に出入りしている時点で問題である。

(体は清いのに‥‥‥‥)

 少女の全身を余すところなくどころか余計なところまで味わい尽くした空は、少女の意外な一面を教えられてガックリとベッドの上に倒れ伏した。

「あの‥‥‥‥どうしました?」
「ううん。なんでもないわ。私が勝手に期待していただけだから、気にしないで」

 心配そうに空の傍に寄る少女に、空は小さく首を振って笑いかけた。
 あまり落ち込んでいる時間はない。空には、まだやるべき事が残っている。

「それなら良いんですけど‥‥‥‥あの、私、これからどうなるんでしょうか?」

 少女は不安そうに、助けを求めるように涙目になりながら空に問いかけてくる。
 ‥‥‥‥そう、空のやるべき事とは、まずこの少女のこれから先を決めることだ。
 石像として売られていたのは、積み重なった借金を返済するために無理矢理されたのだろう。いくらで売ったのかは知らないが、売買の途中で商人達が摘発されて保護されたのだから、まだ借金が残されている可能性が高い。
 商人達が捕まったことは、すぐに金を貸していた連中にも知られることだろう。
 少女が無事に保護されていると言うことは、少し調べれば分かることだ。少女が売り払われなかったことで、金融業者達は貸し金を回収出来ていないことになる。少女を街中で見かければ、否応なく拘束されてしまうだろう。
 いや‥‥そもそも石像に変えられる程の仕打ちを受ける額だ。多少の費用や時間が掛かっても、向こうの方から積極的に狩りに来るだろう。

「このままじゃ、私は外を歩けません」
「まぁ、そうでしょうね」

 空は腕を組んで考えた。
 自分達の事情で少女を石化から解いておいて、「はい、さようなら」と別れるのは無責任というものだ。しかしだからと言って、空が少女を匿う‥‥と言うのでは、まず空の方が追われる立場になる。「知らなかった」と言えばそれまでかも知れないが、少女の事情を知ってしまっている現状で少女を匿えば、後でどんな方面から火が飛んでくるかも分からない。
 ‥‥‥‥そもそも、空自身がツケの支払いに追われているような立場である。払うという信用があるからこそ生かされているが、そこに他人の借金まで背負い込むような余裕はない。

(心当たりを当たってみましょうかしら)

やはり少女の身の安全を確保しておいてから別れるべきだろう。
助けた手前、ちゃんと最後まで面倒を見てあげたいものだったが、しかし借金まみれになったのは自業自得だ。住居と職を紹介すれば、それで十分と言える。
そこまで考え、空はハッと顔を上げて手を打った。
 心当たりがあるのだ。職と住居の両方を得られる打って付けの場所。
 しかもそこは、多少大きな組織でも迂闊には手出し出来ない場所で、借金取りだろうが何だろうがそこでのトラブルは御法度となっている。

「うん。いけるかも」

 少女の顔と体をしげしげと眺め、値踏みする。
顔立ち少々幼いかも知れないが、それはそれで需要がある。体付きは、年の割には上等の部類だろう。仕事は後から覚えさせればいいし、相手も少女の事情を知っている可能性が高いため、相手の説得も上手くいくだろう。

「大丈夫よ。私に任せなさい。住むところも仕事も用意出来るし、悪いようにはしないから」
「は、はい‥‥」

 空の考えが読めない少女は、空の「大丈夫」という言葉を聞いても不安そうに体を震わせていた。
 石化させられた恐怖が身に染みているのか、裏の世界には踏み込みたくないという思いがあるのだろう。空が裏方面の人間なのだと察し、果たして本当に任せてしまっても良いのかと思っているのかも知れない。

「では、お願いします」
「うん。よろしい」

 しかし、少女に選べる選択肢などほとんどない。多少なりとも危険を感じていたとしても、少女にとって味方と言える人物は空以外に存在しないのだ。
 少女は空に頭を下げると、目尻に溜まっていた涙を拭ってベッドの上に横になった。

「でも、そこまでして貰って申し訳ありません。私の方から返せるものなんてないのに‥‥」
「まぁ、これも乗りかかった船って言うのかしらね。ここまで来たら、最後まで面倒見るわよ」
「甘えっぱなしと言うわけには‥‥‥‥」

 少女は自分に出来るお礼はないかと、室内を見渡し自分を見つめて溜息を吐いた。
 借金まみれで金銭はなし。身包みを剥がされて出品されたので手持ちの荷物もなく、石化された反動か(空は破いてしまった理由を誤魔化した)、商人達に着せられたドレスは破れている。
 今の自分では、空が満足するようなお礼など何も‥‥‥‥

「今、お礼が出来れば‥‥って考えてるでしょ」
「はうっ」
「気にしなくても良いのよ。これは私が勝手にやってるんだから」

 そう言い、空は少女の頭を撫でる。
 本音を言えば少女をもっと“味わえるようなお礼”が欲しかったが、目の前にいる少女はこれまで相手にしてきた少女達とは違い、まだ自分を売っているわけではない。意識がない時には好き放題に弄ってはいたものの、助けるのを口実に強引に迫るのは好みではないのだ。

(今回は見送りかぁ‥‥まぁ、前払いで楽しませて貰ったしね)

 滅多にないことではあるが、偶にはこんな事があっても良い。

「でも、アテの方に声を掛けるのは明日にしましょう。今日は、これから忙しい時間帯に入るから。疲れてるみたいだし、寝ておきましょうね」
「はい‥‥‥‥寝る、ですか」

 空の言葉に思うところでもあったのだろうか‥‥‥‥少女は僅かに考えるような仕草をしてから、そっと空に寄り添った。

「えっと‥‥‥‥どうしたの?」
「いえ、ちょっと一緒に寝ようかと‥‥」

 だからといって、肩を寄り添わせ空の手に手を重ね、空の体に自分を重ねるようにして倒れ込んでくるのはいかがなものか。空はあっと言う間に少女によって倒され、そして下に敷かれるようにして乗りかかられる。

「まさか‥‥‥‥」
「私、こう言うの初めてですけど‥‥‥‥気持ちよくなって貰えるように頑張りますね」

 少女は空の体に乗りながら、不敵な笑みを浮かべて空の体に指を這わせる。
 それに抵抗するようなこともなく、空は冷静に少女の手を止めた。

「私の言った“寝る”は、そういう“寝る”のつもりじゃないんだけど‥‥」
「でも、こう言うのが好きなんですよね?」
「え‥‥」
「報酬として私を受け取ったって言ってましたけど、報酬として貰うって言うことは、やっぱり私を買おうとしていた人達と似たり寄ったりの趣味の人なのかな‥‥と」

 図星を指され、ギクリと空の肩が揺れる。
 反論出来ない。少女を飼おうとは少なからず思っていた事であり、何より少女が眠っている間にも石化している間にも、思う存分に楽しんでいたのだ。少女がそれを覚えていないにしても普段の行いが脳裏を過ぎり、否定しようとする空の言葉を阻んでしまう。

「やっぱりそういう人なんだ」
「これはその‥‥‥‥」

 まずい。何かがまずい。
 何がまずいかと言えば、普段は自分の方から攻めに回っている空である。このように迫られたことなどそうはなく、対応に慣れていない。普段は自分の方から女の子達を買っているだけに、こうして女の子の方から迫ってくると言うことがなかったのだ。
 しかしそれはそれとして、これまで数多くの少女達と夜を共にしてきた空である。“お礼に”と少女の方から了解が取れたのならば、いつもの通りに無敵モードに‥‥‥‥

「えっと、ここでしょうかね?」
「はぅ!」

 少女の手が空の服の中に滑り込み、反射的に止めようとした空の手をビクリと止めてしまう。脇腹や下腹部をまさぐられても快楽よりも先にくすぐったさが先行し、伸ばそうとした手を縮めてしまう。そして、その隙に少女は体を倒して空の首筋に唇を付け、舌を這わせてきた。首筋から鎖骨へと下がり、胸元のボタンが外され、ただでさえ露出度の高い空の服がはだけて押さえつけられていた胸が外気に晒されヒヤリとした風に撫でられる。
 少女は両手で空の体を撫でながら拘束し、主に空の体に口付けを施し、舐めながら責め始める。まるで空が少女にしていたことを再現しているかのようだ。
 思わぬ少女の責めに、空が身を捩らせ必死に声を押し殺して抵抗する。

(い、意外とテクニシャンだけど‥‥‥‥私は責められるよりも責める方が好きなはぅぅっ!!)

 特に敏感な場所を強くこねくり回され、体が跳ねる。思考が一瞬だけ真白く染まり、目の前にいる少女の姿さえフラッシュを受けたかのように見失う。少女の責めは稚拙ながらも空の反応を見ることで動きを覚え、弱点を発見しては執拗に責め立て、そのたびに空の思考を飛ばしてくる。
 最初こそまだ余裕のある大人の対応で止めようともしていた空ではあるが、今ではそんな気は完全に消し飛んでしまっていた。

(まさか‥‥‥‥私が‥‥こんな‥‥‥‥)

 まるで勇者に倒される魔王のような心境で少女に反撃に出ようとした空は、少女の身体を引き放し態勢を入れ替えようと手に力を籠めて‥‥‥‥

「くりくりっとね♪」
「はぅん!!」

 空の反撃を読み切った少女の巧みな手技によって、下腹部に伸ばされた手が動き、空の体が一際大きく跳ね上がる。

「あぁ‥‥うぁ‥‥」

 波のように絶え間なく押し寄せる快楽。白く染まる視界に、悪魔のような笑みを浮かべる少女が映る‥‥‥‥
 不意を打たれて一息に攻略された空には、もはやこれ以上抗う気力は残されていなかった。



‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

‥‥‥‥‥‥‥‥

‥‥‥‥‥‥


「それで、結局負けちゃったわけなのね?」
「引き分けよ! 翌朝にはちゃんと借りを返しておいたんだから!!」

 二日後、酒場『黒山羊亭』に訪れた空は、迷うことなく最も奥でのんびりと酒を飲んでいたエスメラルダの隣に座り、捲し立てるように愚痴をこぼしていた。
 いや、もはや“叩き付けるように”と言った方がしっくり来るかも知れない。
 空は余程少女の稚拙な技によって追い詰められたのがショックだったらしく、唯一事情を知っているエスメラルダに絡んで大酒を飲んでいた。手持ちの金銭はなかったため、店のツケである。
 それを咎めることもなく、エスメラルダは空の愚痴に付き合い、そして騒がしい酒場に目を向けた。

「あなたがくれたあの子、ここに来た時に『借りは返してきた』って言ってたわよ。もしかして、あの子起きてたんじゃない?」
「かも知れないわね。その仕返しのつもりなんでしょうけど、私にとっては初黒星よ‥‥‥‥ああ、絶対にそのうち泣かすわ」

 空は振り返り、酒場で忙しそうに給仕に走り回っている少女を見る。
 空は、少女の働き口としてエスメラルダの酒場を紹介したのだ。
 ここならばあらゆる組織に顔が利いているし、そう簡単には手が入らない。
 下手にここの店員を連れ出すような手段に出れば、それこそどこの組織から報復されるかが分からないからだ。

「いらっしゃいませ!! そちらの席に‥‥‥‥って何触ってるんですか! 捻り切りますよ?」
「ひぃっ! すいませんすいませんすいませぐべっ!!」

 少女はお客からの注文を運びつつ、来店した客を席に案内しては騒ぎを起こしている。
 時にはセクハラ行為に対して悲鳴と血が撒き上がっているが、そこは荒くれの多い酒場のこと‥‥日常の光景として、取り立てて周りが騒ぐようなこともない。
 酒場の光景を見ながら、二人はそっと溜息を吐いた。

「泣かしてきなさい。夜の予定は空けさせて置くから」
「了解。お客に対しての対応を、ちゃんと躾ておくわ」

 リベンジを誓い、空は酒の入ったジョッキを追加注文して頬を叩く。
 あの少女の相手は、かなり気合いを入れていかなければならない。飲み込みの速さ、相手の感情を正確に感じ取る才能、そして何より、情け容赦のない好奇心は舐めてかかると空を食いかねない。

「たっぷりと可愛がってやるわよ。年上の女を怒らせると恐いんだからね‥‥!」
「‥‥‥‥‥‥」

 空は、運ばれてきたジョッキを一気に飲み干しながら、不敵な笑みを浮かべて更に追加を注文する。
 エスメラルダはその様子を静かに見ながら、「問題児が増えたわね‥‥」と、小さく呟き溜息をついた‥‥‥‥





〜完〜




●ライター通信●
 ども、インフルエンザ的なメビオス零です。
 マジでこれきついです。
 もうダメ。隔離されるわ頭痛いわ怠いは最悪です。予防はちゃんとしておきましょう。
 今回のお話は‥‥‥‥なんて言うか、あれです。えっと、『偶には空さんを受けにしてみたかった』と言う感じのお話でした。
 すいません。
 少女はこれからは、エスメラルダさんの酒場で給仕兼踊り子見習いとして働く日常となります。と言っても借金が消えたわけではないので、給料はしばらくの間は無いのです。天引きされてます。そこら辺は、やっぱりけじめとして一人で返済して貰いましょう。
 えっと‥‥短いですけど、インフルエンザ的に頭が痛いので早々に締めに入ります。
 今回の発注、誠にありがとう御座いました。
 毎度毎度、ファンレターを送って頂いてありがとう御座います。これからも何とか言い作品が書けるようにと頑張りますので、よろしければこれからもお付き合い下さいませ(・_・)(._.)


PCシチュエーションノベル(シングル) -
メビオス零 クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2009年02月02日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.