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『酒場の大激闘!〜吟遊詩人はかく語れり 』
ガイ3547)&(登場しない)


「どうだろう?雇っていただけるか?」
ガイの問いかけに初老の老人―店主は鍛えられたガイの姿をぐるりと眺める。
店主は一度深くうなづく。
そうして白いものが混じった顎髭をなでながら、惚れ惚れとした口調で告げた。
「うむ、住み込みが条件で雇わせていただこう。お前さんほどの男なら店の者たちともすぐになじめるだろう。」
満面の笑みを称えた店主にガイは目を輝かせて契約書にサインをした。


ガイが雇われた店は地方の町によくある酒場兼賭博場。
だが、その辺りにある同業の店に比べると管理も行き届いていて、揉め事が横行して起こるといった危険性は少ない。
それでもアルコールを提供していることもあって、皆無というわけではない。
なるべく穏便に済ませることに超したことは無いが、手に負えない者から無関係の客たちをごく安全に守るために用心棒を何人か雇っていた。
しかし腕に覚えがあるからといって簡単には雇われない。
なぜなら店主は人を見る目が確かで定評があり、たとえ腕が立ってもお眼鏡にかなわなければお断りという―かなり厳しい人選だ。
その中でガイは店主のみならず、店で働く使用人や他の用心棒達から信頼を置かれていた。
腕がいいことや表裏の無い豪快な性格もさることながら、とにかく人に好かれる。
お陰で皆から厚い信頼を受けるようになった。

今では店の奥にある席に陣取り、店内に目を光らせる半裸裸足の男は常連客の間で知られる存在となっていた。
テーブルに足を乗せ、椅子に深々と座ったガイがいつものように目を鋭く光らせる。
豪快でがっしりとした体格のガイはそれでなくとも目につく。
今も酔いに任せて少しばかり気の大きくなった客達ががっしりとしたガイの姿に怯え、そそくさと店を後にする。
騒ぎらしい騒ぎはなく、平穏に一日が過ぎようとしていたが、そうはすまないのがやはり店の属性なのだろう。
「ガイ、来てくれ!こっちでとんでもない騒ぎになっている。」
慌てた様子でやや幼さを残した―やはりがっしりとした体格の用心棒の男がガイのところにかけてきた。


酒場というものに喧騒というものはつきものだ、と思う。
加えていうなら、少々治安の危うい街ならば金品をかけて勝負する―いわゆる賭博というものが横行するのもまた事実。
旅回りの吟遊を続けている少年にはもはや日常茶飯事の光景で大して気にも止めない。
もっとも身ぐるみはがされるような真似はするな、と師匠から釘を刺されているので絶対に手を出さない。
が、さすがに目の前の光景はどうにかした方がいいんじゃないかな〜と一抹の不安を覚えていたりする。
「ぬわぁんだとぅ〜俺がわりぃってのかよぉぅ!!」
完全に泥酔したとしか言えない座りまくった双眸をぎらりと向けて、少々逃げ腰になっているディーラーに食って掛かる筋肉隆々とした大男。
わずかながらに覚えがあった。
鍛え上げられた筋肉から察せられるように、相当の腕っぷし立つ男だと聞いた事がある。
が、見るからに酒癖はかなり悪そうだ。
険悪になりつつある客の様子を察して、店に雇われた―これまた見事なまでに鍛えられた屈強の男達が慌てて駆けつけてくる。
―巻き添えはごめんだよ。
身の危険を察して少年がその場を離れた瞬間。
突如、怒号が割れた。

振り返った少年の目に飛び込んだのは、酔った男にぶっ飛ばされて床に倒れ伏す何人もの用心棒たち。
しかも綺麗に弧を描いて用心棒の一人がまた吹っ飛ばされた瞬間を目撃してしまったから、ある種の貧血に似ためまいを起こす。
店に入って気付いていたが、ここの用心棒は皆、屈強と呼ばれるほどの筋肉がっしりの男達で腕もかなり立つ強者ぞろいのはずだ。
それを酔っているとはいえ、片手で次々とぶっ飛ばしていく男に呆れを通り越して笑うしかない。
「い〜かぁぁぁっ〜おぇれ〜はな、何も無茶言っているんじゃ〜ねーんだよっ!」
―いや、おっさん完全に酔ってる。支離滅裂だよ。
ぐでんぐでんに酔った口調の男に少年は内心、即座にツッコミ入れる。
だいたい前後不覚になるまで酔ってるのに賭けなんかするな、とも思うがこの手の輩は突っかかるとろくなことにならないのをよく知っているので他の客や使用人たちと同様に傍観者を決め込む。

「だけどなっ、だけどなぁっ〜こりゃぁぁ、イカサマじゃねーか?!!俺らみたいな連中から巻き上げんじゃなくてよぉぉ、もっと金持ってそうな奴から巻き上げろっていうんだよぉぉぉっ!!」
酔った男は手近にあった木製の椅子を掴むと、勢い任せにブンと振り回す。
普通に使えば何のことは無い家具だが、酔いまくった男の手に掛かれば最悪の凶器と化す。
唸りを上げて振り回される椅子を用心棒たちが避けた途端、近くにあった強固な柱に直撃して砕け散る。
あっという間に飛び散った破片があちらこちらに悲鳴を巻き起こしていく。
「だぁ〜いい迷惑だっ!」
こちらに飛んできた木片を外套で振り払い、逃げ惑う人々にさりげなく気を配ってみるが、もはや無駄。
用心棒達が身体を張って守っているが収拾がつかない。
酔った男は相変わらず意味不明な喚き声をがなりたてて、暴れだす。
酒の相乗効果か、妙に力が増しているのは決して気のせいでない。
派手にあちこちを破壊し始める男の勢いがさらに激しくなっていくのが傍目からも分かる。
絶対酒なんて飲むもんか、とあちこちが切れだした外套を手に少年が強く決意した瞬間、やけに鈍い風切り音が響いた。

「ちょっとやりすぎだな、お客さん。」
突如立ちはだかった手にあっさりと受け止められた拳を見て暴れていた男が驚愕し、瞠目する。
それはそうだ。いきなり目の前に現れたのは半裸、裸足のがっしりした大男がこの展開を楽しんでいるようにしか見えなかった。
笑顔を全開にしたガイはそのまま男の拳を掴み、押し返す。
男の拳からは妙に軋む音が響いてきたが、そんなことはおかまいなくガイは笑顔絶やさずのたまわる。
「いくらなんだって店のものを壊すのはご法度だろう?無関係なお客にまで当たることはないはずだ。」
「っ…うるせーっ!!こんな店、潰れちまえ!!」
酔っているとはいえ、痛いところを痛烈につかれ男は憤りをそのままに空いていた拳をガイの顔面に振り下ろす。
「おらぁ〜な、そこのイカサマ賭博のせいで無一文だ!責任取りやがれ!!」
それは自業自得だろう!!という皆の声無き叫びを無視して振り下ろした拳は届くことなく、寸前で手首を掴み取られて止められる。
がっしりとしたガイの左手の指がゆっくりと男の手首に握りこまれていく。
「周りのご迷惑になります。お引取りくださいませんか?」
念を押すような静かなガイの問いかけに一瞬、気温が下がったのは気のせいでなかったはず。
怒りを押し殺した笑みがものすごく怖いな〜と極冷静な客達が頬やら額やらを引き攣らせながら、ガイと男から離れていく。
「へっ…誰が雇われもんなんぞに従うかよ!」
「おう、分かったぜ……なら、一つ話し合いといこうじゃねーかっ!!」
そこに生まれたのは、場外乱闘を想定したような格闘空間。
―この展開がものすごく怖かった。
のちに吟遊の少年は力説した。
それもそのはず。
この瞬間、ガイと男が互いに何かを見出したように目を光らせて笑ったのだ。
まるで獲物を見つけた狩人のごとく、ぎらりと合う。
それが合図だった。

「うおぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
「でぇりゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
一瞬にして男の腕の筋肉が盛り上がり、捉えていたガイの手を振り払う。
同時にガイが身体をばねのようにしならせて後方へわずかに下がる。
そこへ唸りをあげた男の拳が振りぬけ、わずかにガイの髪を捕えたのか数本が空を舞う。
しかし間髪いれずガイの拳が男の顔面を捕らえ―空を切った。
寸前で身を屈め、男はその鉄拳をかわすと即座に足技をもって反撃に打って出る。
が、振り上げた右ひざで男の攻撃を受け流し、続けざまにガイが無防備になった男の腹へと左拳を繰り出す。
半身を回転させて受け流すと男は威力をつけてガイの鳩尾目掛けて右拳を振り上げ―これまたガイが見事な身のこなしでかわすと反撃に転ずる。
はっきり言ってこれはもう達人の領域である。
取り囲んでいた客は完全に観衆と化してガイと男の闘いを見守り、熱狂していく。
「なかなかやるな!!」
「ああ…だが、そろそろ終わりにしようやぁぁぁぁっ!!」
酔いなんて冷めてんじゃないか?と疑いたくなるような嬉々とした声でガイに最後の一撃とばかりに男が殴りかかる。
いい腕をしているとガイは内心思いながらも最後とばかりに拳を繰り出す。
ガイの腕が一瞬鮮烈に輝いたかと思った途端、その拳が金色に近い輝きをまとって男の腹に決まった。
「ふっ…俺の……負けだ。」
どこかの英雄譚に出てきそうな台詞をほざいて、男はその場に崩れ落ちる。
熱狂ともいえる空気が瞬時に途切れ―大喝采へと変貌した。
町で評判の腕自慢と互角以上の勝負を演じ、見事に倒したガイへの賞賛が沸き起こる。
それにわずかばかり応えながらガイは仲間の用心棒達に声を掛け、見事に気絶した男を店の奥へと運び出した。
こうして酒場兼賭博場を熱狂させた臨時格闘戦は幕を閉じたのであった。

「静かなもんだな。」
店の奥にあるテーブルに両足を乗せ、椅子に座りながら店内に目を光らせていたガイの口から零れたのは物騒とも取れる剣呑な台詞。
あの騒ぎから数日が過ぎ、変わらず店は大繁盛だった。
だが、一つ違うのは訪れる客達が皆、大人しくなったことだろう。
当然といえば当然である。
なにせ大乱闘の末に勝利した凄腕用心棒の話はあっという間に広がり、たちの悪い輩はガイを恐れて些細な騒ぎさえ立てなくなったのだ。まぁ中にはあの大激闘をもう一度見られればという酔狂な連中もいたらしいが、大半は揉め事を起こさないように気をくばる。
それに僥倖といえば、あれだけの騒ぎにも関わらず椅子が一つダメになったのと仲間の用心棒の数人がかすり傷程度の軽傷を負ったくらいですんだことだ。
「たまには起こってもいいもんだけどな〜」
隙なく店内を見渡しながら、ガイは不謹慎にもぼそりと呟く。
が、まもなく迎える夜の喧騒に飲まれて消える。

ほぼ同じ頃、周囲の町でこんな唄が流行った。
―雇われ用心棒に凄腕あり。類稀なる格闘が武芸か演舞かいずれかか。
―冴えたる技の真髄の見ゆるはいつの時か。
歌い手は不明だが、誰のことを指しているのかはすぐに知られることとなり、ガイの退屈はしばらく続いたという。

                      FIN
PCシチュエーションノベル(シングル) -
緒方 智 クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2009年02月02日

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