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『謹賀新年・屋台村だもぅ 』
ワグネル2787

□Opening
 いらっしゃいいらっしゃい。さぁさ、新春屋台村はこちらです。え? ここですか? はい、ここは、見ての通りの屋台村ですもぅ。
 昨日まではなかった?
 その通り、イベント商売でね、ここは正月のみの営業だもぅ。
 ちょっと覗いてみてください。色んな屋台をご用意しています。おでん、綿菓子、林檎飴、ラーメン、射的、金魚すくいにヨーヨー釣り。大人はゆっくり温まり、子供は楽しく遊んだら良い。勿論、その逆もしかり。
 年始のご挨拶に顔合わせ。パーティーなどにご利用ください。
 え? 去年は鍋? ははは。毎年持ち回りでしてね。今年は、私が店主だもぅ。だから、屋台村にしたんですよ。え? ははは。今年はヘルシー路線だからね。肉料理はないよ。ヘルシー路線だからね!!
 ささ、私の事などどうでも良い。
 どんな遊びを楽しみますか?

□01
「さぁさ、いらっしゃい、いらっしゃいませもぅ」
 ぱんぱんと愉快な手拍子が響く。
 白と黒の特徴的な柄のエプロンを身に付けた男を見てワグネルは両手を広げた。
「だってさ。どうするよ?」
 隣にいるのは白山羊亭のウェイトレス、ルディア・カナーズだ。
「ええーと。ちょっと確認したいんだけど、ルディア達は確かデザートの買い出しに来たんだよね?」
 ルディアは困惑気味に首を傾げた。
 白山羊亭本日のオススメデザートが切れてしまった。だから、ルディアが仕入れに行く事になって……丁度、その場にいたワグネルが荷物持ちに抜擢されたのだ。
 けれど、色々寄り道をしているうちに、いつの間にか見た事も無いような道に出た。
 ワグネルは見知らぬ風景を見ても全く動じる事がなかった。
 だから、ルディアも、言われるまま付いて来たのだが……。
「うん?」
「いや、うん、じゃなくて。どうしてルディア達、こんな所に来たんだろ?」
 その質問は、もっともな事だった。
 見知らぬ道に出たと言うよりも、色々寄り道をした時点で目的をすっかり見失っていた気もする。
「さぁ、どうしてだろう?」
 その事に気が付いているのかいないのか。
 ワグネルは、普段見せないような人懐っこい笑顔を浮かべた。
「ほらほら、お二人さん。もし道に迷ったなら、この屋台村で一休みすると良いもぅ」
「え? ルディア達、やっぱり迷子だった?」
 がぁん、と、分かりやすくルディアはショックを受ける。
「迷子なら仕方ないな。寄ってくかい?」
 ワグネルは慰めるようにルディアの頭を撫でた。そして、さも仕方が無いような仕草で屋台村へ向かう。
「?? え、あ、うん、そうだね」
 一度ショックを受けたルディアは、流されるままワグネルの後に続いた。
 ……。
 尤も、本当にワグネルが道を見失ったかどうかは非常に怪しいのだけれども……。
 ともあれ、二人は仲良く期間限定新春屋台村へと向かった。

□02
 入口から一歩中へ入ると、外観からは想像も付かないような広い場所へ出た。何とも不思議な空間だ。
 あちらこちらで屋台へ呼び込む声が聞こえる。その声に誘われる客も多い。周りをぐるりと見ると、本当に沢山の人達が遊んでいるようだ。
「うわー。人、いっぱいだねー。ねぇ、どこに行く?」
 入口の店主が言っていた通りだ。
 金魚すくい、ヨーヨー釣り、射的にラッキーおみくじ、お菓子ならば林檎飴や綿菓子がある。とにかく、店の種類が豊富で、どれも楽しげ。ルディアは先ほどの困惑など忘れて、ニコニコと遊ぶ場所を物色し始めた。
 走ってくる子供とすれ違う。その手には、ビニールの巾着の中で泳ぐ金魚。
 寄りそう男女ともすれ違った。女性は嬉しそうに林檎飴を持っている。
 ああ、どこから遊ぼうか、どれから食べようか。
「どこでも。あんたの好きなところで」
 これほどルディアが喜ぶとは思わなかった。
 ワグネルはきょろきょろと屋台を見て回るルディアの後に付いていく。入口とは全く立場が逆になってしまった。
「ようよう。そこ行く嬢ちゃんっ。サイコロで遊んで行かないかもぅ?」
「え? ルディアのこと?」
 さて。
 そのルディアが、小さな屋台の前で呼び止められた。
 入口の店主とお揃いのエプロンを付けた店番が小さなテーブルの前でしゃがんでいる。ここは他の屋台と少し雰囲気が違った。男の手には、小さなサイコロが二つ乗っかっている。男がころころとサイコロを器用に動かす様を見て、店側が損をしない賭け事だと、ワグネルは気がついた。けれど、ルディアは興味深そうに男の説明を聞いている。
「そうそ、お嬢ちゃん。よく聞くもぅ。簡単な予想ゲームだもぅ。二つのサイコロの目の合計をあてるんだもぅ」
「ええー。2から12までって事だよね? それって、かなーり幅があるよ?」
 説明を聞き、ルディアが頬を膨らませた。
「ちっちっちっ。説明は最後まで聞くもぅ。嬢ちゃんが当てるのは、6よりも高いか低いか。それだけだもぅ。ちなみに、6だと引き分けだ」
「えっ?」
「どうだい? 試しに、一回賭けてみるもぅ。嬢ちゃんが当たれば、掛け金を二倍にして返すもぅ」
 ああ、きっと一回目はルディアが勝つだろうなぁと思いながら、ワグネルは二人のやり取りを黙って聞いていた。

□03
「あっ、今度は負けちゃったかー」
「うっしっし、申し訳無いもぅ、お嬢ちゃん」
 そう言って、男はルディアの差し出した硬貨を懐にしまいこんだ。
 ルディアは、勝ったり負けたりを繰り返している。ワグネルの睨んだ通り、最初の一回はルディアが勝った。賭けはあくまで客商売なのだから、最初から負けが続くと思われてはいけない。勝てると思わせないと意味が無いのだ。何度か勝たせてもらった客の心情は、もう少ししたら凄く沢山勝てそうな気がする、とか、次はきっと勝てるかもしれない、と言うふうになる。今のルディアがまさにそれだ。しかし、実際の所、だんだんと支払うお金の方が戻って来るお金より多くなっていた。サイコロを振る男は、ある程度目を自在に出せるのだろう。
 まぁ、とは言っても、飴玉が一つ買えるかどうかの掛け金だ。放っておいても、大丈夫だろう。
 しばらくすると、ルディアの負けが目立ってきた。すると、店番の男が、ルディアに笑いかける。
「お嬢ちゃん、ゲームに集中してくれるのは嬉しいけど、彼が退屈じゃないかもぅ?」
 そう言われて、はじめて、ルディアはあっと声を上げた。
「あっ、ごめんね。ルディアばっかり遊んじゃったよ。ワグネルさんもやってみる?」
 結局負け越しているのが恥ずかしいのか、ルディアは照れたように笑う。
「いや、俺は……」
 こんなお遊びに参加するほど暇じゃない、と、手を振るワグネル。
「がははっ。嬢ちゃん、無理を言ってはいけないもぅ。女性の前で負けるなんて、男として恥ずかしいもぅ。だから、彼を誘ったら可哀想だもぅ」
「む」
 だったのだが、男の挑発的な態度に、気分を害した。
 まず、何故ワグネルが負ける事が前提なのか。男の勝ち誇ったような顔が気に入らない。ワグネルは、ルディアに気取られることが無いように男に冷たい視線を投げた。すると、男はにこやかに笑いながら口の端をゆがめる。
 男は人の良さそうな顔で笑っているのだが、余裕ぶっている態度がありありと見て取れた。
「?? ワグネルさん、楽しく無いかな? 別の所に行こうか?」
 ルディアは、男達の間に飛び散る静かな火花に気が付かない様子でにこやかにワグネルに提案した。
「うーん。ちょっと興味が湧いて来たかな?」
 質問に、あくまで笑顔を崩す事無く、ワグネルは返事をする。
 男は、微笑ましい二人を見ている、と言うようなにこやかな表情を浮かべていた。
 ルディアは勿論笑顔だ。この場にいるのは皆笑顔で、ここは楽しい屋台村なのだ。だと言うのに、どことなくまとわりつく冷たい空気はなんだろう。
「だったら、ワグネルさんも遊ぶと良いよ!」
「そう、だな。そうするかな」
 結局、ワグネルはルディアに後押しされる形で、男の前に座った。

□04
「じゃあ、お客さん、サイコロの合計は6より高い? それとも低い?」
 店番は、二つのサイコロを握り締めワグネルに問う。
「そうだな、じゃあ、高い、で」
 どうせ最初の一回は客が勝つ。ワグネルは確信して硬貨を差し出した。
 男がサイコロを振る。
 コロコロと、転がったサイコロ。
 出た目は5と4。合計は9。ワグネルの勝ちだ。
「くっくっくっ。お客さん、運が良いもぅ。いきなり、勝ちだもぅ」
 男はワグネルに硬貨を二枚返す。
「そうだな、最初は皆勝ちそうな気がした」
 それが、客をひきつけるテクニックだろう? と言う言葉を飲み込み、ワグネルがにこやかに答える。
「そうかな? 皆さん、運が良いもぅ」
 何をおっしゃる。あくまで、賭けは運。勝ったなら、運が良かった。それの何が悪い? 笑顔でサイコロを再び手にした男は、一瞬、笑顔のまま鋭い視線を覗かせる。
「やったね! いきなり、勝っちゃったよ」
 二人の裏のやり取りにルディアは全く気が付かない。勝ったワグネルに、ぱちぱちと拍手を贈った。傍から見れば、ルディアとワグネルは楽しい屋台村でサイコロ遊びをするカップルのようだった。
「さぁさ、勿論、次のゲームに参加するもぅ? 次はどっちだ? 高い? 低い?」
「……。次も、高い、だ」
 男は、ワグネルが疑っているのをきちんと分かっている。だから、まだ、ワグネルの負けは無いだろう。不自然に勝ち続ける事も、負けが多くなる事もまだ無いと思う。ワグネルは、じっと考えるそぶりを見せ、最後には笑顔で賭けを申し出た。
 予想通り、二回目もワグネルが勝った。
 こんな調子で、何度か賭け続けた。
 相変わらず、笑顔の下で腹の探り合いも怠らない。
 最初のうちは、二回勝って一回負ける、くらいの確率だった。それが、だんだん一回勝って一回負ける、と言う風に変わってくる。このまま続ければ、ルディアのように一回勝って二回負けるようになるだろう。
 いつまでも、このままだらだらと賭ける気はなかった。
「悔しいねぇ。こちらの負けだもぅ。ささ、次はどうする?」
 男は悔しそうに、頭をかいた。ワグネルが勝ったのだ。けれど、いつの間にか、次も賭けるか? と言う質問から、次はどちらに賭ける? と言う質問に変わっている。ゲームにのめりこんでいる客なら、それに気付かず店側の利益が出るまで延々賭け続ける事になる。
 そろそろ潮時だと、ワグネルは笑顔の下で考えた。
「じゃあ、次は、高い、で」
「……、お客さん、高いが好きだもぅ」
 男の言葉通り、ワグネルは基本的に『高い』を選択している。客側が同じほうへ賭け続けると、サイコロの目のランダム要素が本当にランダムなのかどうかがぐっと分かりやすくなるのだ。
 が、それは、もっと回数を重ねなければ、はっきりとは指摘できない。
「そうかなー。気のせいだろう?」
 ワグネルは、あくまで紳士的な態度で、首を振る。
 男はやれやれとため息をつきながらサイコロを放り投げた。
「でも、今回は俺の負けだなー。きっと、合計で4が出そうな気がする」
 ワグネルは、男がサイコロを話した瞬間、そう、呟いた。男からサイコロが完全に離れ、目が確定するまでの一瞬の出来事だった。
「!」
 男は、ぐっと奥歯を噛み締める。
 出た目は1と3。合計で4だった。
「すごーい! 凄いね、ワグネルさん!! 予想が大当たりだよ」
 結果を見て、ルディアが興奮の声を上げる。ただ純粋に、ワグネルの予想が大当たりしたのだと、喜んでいるようだ。
 一方、男は笑顔こそ崩さなかったが、完全に瞳が笑っていない。
 ワグネルは、何度かサイコロを振る男の仕草を見て、男のクセを見抜いていた。
「さて、随分遊んだなー。何か食べる? ご馳走しちゃうぞ」
 これ以上、この場所にいる必要は無い。ワグネルは、席を立った。
 手元には賭けで増えた硬貨が数枚。二人分の飲み物代金には遠く及ばない。小さな小さなゲームだった。

□Ending
 二人並んで、適当に駄菓子や飲み物を購入する。子供のように歩きながらお菓子を食べるのは屋台ならではだ。
「もしかして、ワグネルさん、次にどんな目が出るか分かってた? だったら、もっと勝負したら良かったのに」
 先ほどのサイコロの事が気になっているらしい。
 確かに、次に何を出すのか、大方の予想はできる。ただし、それはこちらが賭けた後店番の男がサイコロを振ってからの事なので、どのみち意味は無いのだ。
 それにあの店番の男は、ルディアの負けがこんで来た所でゲームを切り上げた。客が大損しないための配慮だろう。そんな良心的な男から大金を巻き上げるだなんてとてもとても……。いや、きっと、多分……。ワグネルはできない。
「さぁ、どうだかな」
 適当にはぐらかし、肩をすくめる。
「それより、そろそろ帰るか?」
「そうだね……って、どうしよう、ルディア達迷子だったんだ……」
 さんざん遊んだ後だけれども、ルディアは今更ながらに不安いっぱいの表情を浮かべた。
 ああ。確かにそうだった。
 頷きながら、ワグネルは帰り道を目指す。
「あれ?」
 迷子だったんじゃないの? 不思議そうに、ルディアはその後を追いかけた。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【2787 / ワグネル / 男性 / 23歳 / 冒険者】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ワグネル様

 明けましておめでとうございます。ご参加有難うございます。
 お供をルディアにしてみました。お姉様系の方としっとり……と思ったのですが、無邪気に明るいルディアとワグネル様だったらどうだろう。楽しいのとクールなのとバランスが良いかもと思いました。いかがでしたでしょうか。
 それでは、今年もよろしくお願いします。
LEW・PC迎春挿話ノベル -
陵かなめ クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2009年01月30日

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