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『 至高のスパイス 』
宵待・クレタ7707)&ハルカ(NPC5126)

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 うん。良い感じね。上出来だわ。
 時間は……まだ少し余裕があるわね。どうしようかしら。
 あぁ、そうだ。パンに添えるジャムを用意しなくちゃ。
 全員が全員、好みが違うのもまた面白いところなのよねぇ。
 テーブルが色鮮やかに染まって、素敵な雰囲気になると嬉しくなるのよ。
 微笑みながら、パタパタと動き回っているハルカ。
 アルペジオ:ギルド本部にあるLDスペースにて。時刻は16時半。
 彼女は今、夕食の準備に勤しんでいる最中だ。
 そんなハルカの姿を、壁に隠れるようにして、こっそりと窺っている人物。
 どうしよう……と、戸惑い気味のクレタが、そこにいた。
 声を掛けようにも、何となくタイミングが掴めない。
 忙しそうだし……邪魔になってしまうのではないだろうか。
 日を改めて御話しようか。そのほうが良いかもしれない。
 あれこれ考えるクレタだが、姿が丸見え故に、すぐさま発見されてしまう。
「クレタくん? どうしたの、そんなところで」
「あ……え、と……」
「お腹空いたのかしら? 待ってね、もうすぐだから」
「あ、ううん……えと……」
「ん?」
 トレイ片手に首を傾げるハルカ。
 クレタは俯き、照れ臭そうな表情を浮かべている。
 ここに来た目的。声を掛けようとした、その理由。
 唐突に思いついたわけでもない、その理由。
 日を改めて御願いしようかと思ったけれど、せっかくの好機。
 今伝えなくては、また機会を逃してしまいかねない。
 クレタは意を決し、恥ずかしそうに俯いて『目的』を口にした。
「あの……あのね。料理の作り方、教えて下さい……」

 ハルカの料理は美味しいよ。
 外で食べる御飯も美味しいけれど……ハルカが作る料理は、もっと美味しいんだ。
 何て言えば良いのか理解らないけれど、優しい味っていうか……ほっとするっていうか……。
 豪華で煌びやかな食事も素敵だけれど、この温かい感じは味わえないんだ。
 一見、何の変哲もない簡素な料理でも、ハルカが作ると御馳走になる。
 初めて口にした瞬間、ビックリしたのを覚えてる。
 どうして、こんなに優しいんだろうって……。
 何でなのか、ずっと理解らなかったけれど。
 人と触れあい、想いを重ねていく内に、その理由が理解ったような気がする。
 とっても丁寧に、手抜きなんて一切しなくて。
 食べる人のことを何よりも考えて作ってくれてるから……なんじゃないかって。
 みんなとね、ハルカの料理の上手さをテーマに盛り上がったことが何度もあるんだ。
 結論はね、いつも一緒。料理は気配りなんだって。
 料理の上手さは、その人の優しさでもあるんだって。
 僕もね……ハルカみたいに、料理を作れるようになりたいんだ。
 人の心を温かくするような、そんな料理を作れるようになりたい……。
 クレタの御願いには、やたらと褒め言葉が入り混じっていた。
 ハルカは照れ臭そうに微笑んだ。もちろん、嬉しくて。
 そんなの嫌だなんて断れるはずもない。そんな気もない。
 ハルカはクレタの御願いを受け入れ、優しく淡く微笑んだ。
「何か具体的に作りたい料理とかは、あるのかしら?」
「えと……ね。ポトフを……作れるようになりたい……」
「あぁ。クレタくん、好きよね。ポトフ」
「うん……。あとね、パンを……焼けるようになりたいなって思う……」
 クレタの言葉にクスクス笑いながら手招きするハルカ。
 呼ばれるがまま歩み寄ってみて、クレタは目を丸くした。
 準備段階にある料理が、自分の御願いと重なり合ったからだ。
 本日のメニューは、アイントプフとカラーブレッド。
 図ったかのようなタイミングだが、お見事な偶然である。
 一緒に調理しながら、覚えていきましょうかと微笑むハルカ。
 クレタは手を洗いながら、コクリコクリと二度頷いた。
「アイントプフ……」
「ふふ。聞き慣れないかもしれないわね」
「これ……ポトフだよ、ね……?」
「そうよ。これは、ドイツ版のポトフね」
「ちょっとだけ……においが違う、かも……」
「あぁ、これね。今日は、いつもと違うハーブを入れたの」
「ハーブ……」
「ほんの少しで良いのよ。ちょっとした遊び心」
「遊ぶ……?」
「そうよ。楽しく作れば、料理も応えてくれるんだから」
「そうなんだ……。花とかと……一緒?」
「ふふ。そうね」
 肩を並べて一緒に料理。
 その姿は、何とも微笑ましい。
 アイントプフは昨晩から時間をかけて作られたもの。
 ほぼ完成しており、あとは、ちょっとしたアクセントを加えるだけで完成だ。
 コショウを加えてみてと言われ、クレタは応じてパパッと鍋にコショウを落とす。
 味見して御覧なさいと、小皿を渡すハルカ。
 スープを掬い、コクリと飲んでみる。
「……何か、辛い……」
「どれどれ。……。……ふふ。ちょっと入れすぎたみたいね」
「……うん」
「大丈夫。これはこれで美味しいわ。私は好きよ」
 微笑むハルカの横顔を見やりつつ、クレタは神妙な面持ち。
 ほんの少し自分が手を加えただけで、クルリと味が反転するように変わってしまった。
 失敗ではないとハルカは言ってくれるけれど、複雑な心境。
 コショウを入れるくらい誰にでも出来るし簡単だと思っていたけれど、そうでもなかった。
 料理の奥深さを、ひしひしと感じつつ、次に取り掛かるのはカラーブレッド。
 その名のとおり、色鮮やかに染まったパンだ。ハルカのオリジナル料理。
 外界から取り寄せた特殊な粉をまぶすことで、ごく普通のパンが綺麗に染まる。
 目で楽しむ要素の強い料理だ。もちろん、味も最高だけれど。
 ハルカが作った手本を確認しながら、やたらと慎重に粉をまぶすクレタ。
 どうしてだろう。同じようにやっているつもりなのに、仕上がりが全然違う。
 ユノッカという粉を選び、パンにまぶした。
 色はココアのような、淡い茶色。
 ハルカが作った方は、とても綺麗だ。
 まるで樹の年輪のように、グルグルと綺麗な渦を巻いている。
 だが、クレタが作った方は、ボテッとしている。
 渦とは呼べぬ、何とも幾何学な模様……。
 うまくいかないことに首を傾げながらも、クレタは熱心に調理を続けた。
 どうすれば綺麗になるだろう。美味しそうに見えるだろう。
 一生懸命考えながら手を動かすクレタに、ハルカは微笑みながら言った。
 見た目も大事だと思うけれど、それよりも何よりも大切なのは気持ちよ。
 口にする人の笑顔を思い浮かべて作っていくの。どんな料理でもね。
 喜んでくれますように、じゃ駄目なのよ。
 喜ばせるために作ってるわけじゃないでしょう?
 何が違うのかって、そのあたりはちょっと難しいかもしれないけれど。
 何も考えないのが一番良いのよ。雑念を払うっていうか……。
 ただ、笑顔を思い浮かべながら作るの。
 クレタくんだって、見たいと思うでしょう?
 喜ばれたいだとか褒められたいだとか、そういう気持ちの前に、
 口にした人が微笑んでくれたら……って思うでしょう?
 大切なひとを思い浮かべながら作るの。
 その人が、微笑む姿を思い浮かべながら。
 そうするとね、あれこれ思いつくものなのよ。
 あの人は、こういう感じが好きだから……とか。
 そうやって、相手のことを思いながら作っていると、自分まで楽しくなるの。
 楽しい気持ちになったら、成功は確定するものなのよ。
 何よりも先ず、笑顔を思い浮かべること。
 大切な人の笑顔を想像することが、至高のスパイスになるの。
 クレタくんにも、いるでしょう? 大切な人。
「…………」
 ハルカに尋ねられた瞬間、クレタの動きが、一瞬ピタリと止まった。
 確かに。今、頭の中に浮かんでいる人物がいる。その人物の笑顔を思い返している。
 覗き見られたような感覚に、クレタは気恥ずかしさを覚えて俯いた。
「照れることないじゃない。ふふ」
「…………」
 頭を撫でられながら、一生懸命調理を続ける。
 浮かんでいるのは、大切な人の笑顔。
 優しく温かい素敵な料理を作るための極意。
 それを実感したクレタの胸に、ポッと謙虚に灯った自信。
 今すぐには、ハルカが作る料理に追いつくことは出来ないけれど。
 大切なことを学び知り、それが自信へと繋がっていく。
 クレタの成長と共に時は流れ。時刻は17時半過ぎ。
 お腹を空かせた仲間たちが、LDスペースに集まってくる時間。

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7707 / 宵待・クレタ / ♂ / 16歳 / 無職
 NPC / ハルカ / ♀ / 36歳 / 時守 -トキモリ-

 シチュエーションノベル発注ありがとうございます。
 メッセージ、有難く頂戴致しました。とっても嬉しいです^^
 こちらこそ、不束者ですが、これからも宜しくお願い致します。
 発注、ありがとうございました^^
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 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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PCシチュエーションノベル(シングル) -
藤森イズノ クリエイターズルームへ
東京怪談
2009年01月15日

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