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『 ノルンの贈り物 』
千獣3087

 //////////ノルニル洋菓子店・クリスマス限定商品////////////////////////////////////////////

『ノルンの贈り物』

 何時も傍らに添う貴方へ、普段は恥ずかしくて伝えられない、そんな想いを。
 遠く離れた地へ住まう彼の人へ、心よりの言葉をお菓子に代え、贈ってみませんか?
 当店自慢の配達員が、彼等を何処へと導く種火を携え、貴方の想いをお届けに参ります。
 ※追加料金にて、お手紙のトッピングも承っております。
 お申し込みは店頭にて、『ノルンの贈り物』専用用紙をお求め下さいませ。

 ※当店では、別途期間限定のアルバイトを募集しております。
 詳細は直接、店主のヒナタまでお問い合わせを下さいませ。

 ノルニル洋菓子店
 ヒナタ

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「二人共、怪我にはくれぐれも注意してね? 知らない人に、闇雲に付いて行ったら駄目よ?」

 既に夜の帳を下ろした聖都の一角。アルマ通りに店舗を構えるノルニル洋菓子店の軒下にて、店の店主であるヒナタがアレスディアと千獣の両名を交互に見遣り、ともすれば子供に対するかの様な念を押し終える。

「……配達……行って、来る……」
「うん。いってらっしゃい、千獣ちゃん」

 了承の代わりに一つの頷きを落とし、ヒナタから支給されたランタンを片手に白昼の喧騒を潜め、闇夜に沈むアルマ通りへと消える千獣の背を見届ければ、徐にヒナタへと姿勢を改めるアレスディアに視線を交えた当人は、幾度か瞬きをして首を傾げた。

「ヒナタ殿に、折り入ってご助力を願いたい事があるのだが」

 暫くの間、アレスディアの言葉に耳を傾けていたヒナタは、その内に湛える微笑みを一層に深めて頷き。
 一礼の後に己が目的地に向けて急いた歩みを見せる背を見届ければ、忙しくも機嫌よく店内へと身を隠した。

 //////////case.1‐千獣の場合‐////////////////////////////////////////////////////////////

 千獣はランタンの放つ灯かりを頼りに、懐へはヒナタによって包みの縁をレースで拵えられ、愛らしく包装を施した純白のお菓子袋を潜めて独り、森の夜道を歩んでいた。
 ヒナタが丹精を込めて作ったその菓子は、聖都エルザードから数キロ程離れた森の一角、一際高い針葉樹の根元を指した、ユカルと言う者へと宛てられ。お菓子袋に括り付けられたその宛て先の裏には、差出人としてジェイナスの名が、恐らく本人自身の物であろう筆跡で記されている。

(――……ユカ、ル……?)

 千獣の記憶違いでなければ、宛て先に記された物の名も、記した物の名も、そう遠くない過去に、千獣と相対する機会の有った者だ。
 個人のみならず、二名に及んで立て続く他人の空似等、早々起こり得るとは考えられず、ヒナタより自身が受け持つお菓子袋を受け取った際には、現在での千獣以上に様々な思いを脳裏に巡らせた物であったが、未だそれを確認する術は無く。
 しかし、宛て先から然程に距離の無い聖都から、今も尚煌々と揺らめく灯や、木々の隙間から柔らかに射し込む月光の助けもあってか、漆黒に覆われた幾分と深い森の内からでも労せず目的地を探し当てた千獣は、その根元に感じる人の気配に自然と己が思考を留め、息を潜めた。
 茂る草木に遮られながらも、周囲を照らさんと力を振るう物の正体は、焚き火であろうか。千獣は対象との距離を保ちながら、深過ぎるこの闇夜の中では些か目立ち過ぎるランタンの灯を躊躇無く吹き消せば、彼の者の視界に入りかねないその場をゆっくりと離れ、迂回の歩を惜しまず慎重に対象の背後を目指す。
 獣の如く集中力で音もなく己が障害を掻き分け、彼の者の存在する針葉樹の根元まで視界が開けば千獣は、焚き火の灯を受け漸く己の思い描いていた物が有りの儘の姿であったと、人知れず胸に落とす事と為った。

(ユ、カル、ジェイ、ナスと、一緒……?)
(――……良、かった……)

 焚き火の番をしているのであろう、此度の贈り物の差出人である何時ぞやの青年、ジェイナスの傍らには彼に寄り添う様に身を丸めてあどけない寝息をたてる、見知った少女の姿。
 何時かと変わらず互いが信頼を寄せる事の窺える情景に、意図せず和らぐ自らの表情を千獣自身しかと自覚は出来ぬ儘、更に一歩、樹木越しに彼等との距離を縮めんが為に出した足の先で微かに小枝を踏み締める音が響き、千獣は自らの失態に身を強張らせた。

(――…………!!)
(贈、り物、見付からない、様に……こっそ、り……)

 瞬間、反射的にジェイナスへと視線を走らせた千獣は彼の肩が僅かに反応する様を視認するも、寧ろ千獣はジェイナスこそが、何処かぎこちなく視線を彷徨わせ、恐らくは自らの存在に気付きながらもそれを指摘する事さえ無く、凡そ彼らしからぬ、不審な挙動を匂わせている事に気付く。

 既に、ジェイナス自身が贈り物の贈り主である事は明白で、今日と言うこの日に何者かがユカルへとお菓子を配達しに来る事も、無論知っている事と為る。故に、送り主に対し、配達人が自らの存在を示すか否かは半ば、相互の任意による物ではあるのだが。
 知っていて、ユカルや自らを護る寝ずの番の中、敢えて己の務めを全うするべく励む千獣の存在に気付かぬ振りをしてくれている、のかも知れない。
 そうと取れば、千獣はジェイナスへと何の弁解も語る事無く、懐から取り出したお菓子袋をユカル側に当たる樹木の根元へそっと凭せ掛けた。

(おや、すみ、ユカル……――)

 爆ぜる火の粉の音を耳に入れながら、ユカルの寝顔を遠目に覗き見ればジェイナスの傍らで、僅かに緩められた様に思う無防備な頬を目に留め。安堵に自身もたどたどしく微笑みを浮かべて千獣は胸中、二人へとささやかな挨拶だけを残し、彼等から遠く身を離し森を抜けるその時まで、再び一つの灯かりすら掲げる事無くヒナタの下へと一路、漆黒の闇夜を駆け抜けた。

 //////////case.2‐アレスディアの場合‐////////////////////////////////////////////////////

 一方、聖都での配達をそつ無くこなし、アレスディアは千獣の務めを終えた針葉樹を更に越え、ヴ・クティス教養寺院の戸口にて、両手大の箱を手に悶々と佇んでいた。
 箱の中身はバイトへ出る間際、個人的にヒナタへと注文を嘆願したケーキであるのだが、夜半の務めを終え更に数時間を要し辿り着いた寺院の様相は想像通り、疎らに灯る窓の数すら既に片手で数えられる程。却って迷惑になるまいか、当人が相変わらずの熟考に耽り始めた頃、聞き慣れた幼子の様な声音が上方に響き、アレスディアは散漫した意識に俯き掛けていた顔を上げる。

「アレスディアのねぇちゃん? 何してんだぁ? そんなとこで」
「ヴ、ヴァ・クル殿!?」

 珍しくもアレスディアの声音が幾分と上擦る結果と為ったのは、前触れなく現れたヴァ・クルの頭が、荘厳なる寺院の扉から身体を残して突き出ていたからに他ならない。実際は、実体を持ち得ない付喪の神である彼の稀有な能力の一端であって、ささやかな動揺を抑えればアレスディアは気を取り直し、改めてヴァ・クルへと向かい合った。

「先まで務めていた洋菓子の店舗で、店主殿にケーキを作って頂く機会があって」
「ふんふん」
「予定が空いておられるようなら、一緒に……と思っているのだが……駄目だろうか?」
「なるなる、ケーキを一緒にケーキケーキ……ケーキぃ!?!?」

 元より寺院に勤めるアレスディアの知人へと贈る為に嘆願し、この瞬間に唯一つ存在するケーキだ。しかし、深夜に訪れて添えた理由がそれでは一層気を遣わせてしまいかねないと、当人が要点を省いて掛けた問いに、アレスディアの言葉へと大人しく耳を傾けていたヴァ・クルがみるみる興奮を露に声を荒げ始めた。

「って事は、ねぇちゃんの持ってるそれの中身が、ケーキ!?」
「あ、あぁ……」
「うひゃあ!! そうと決まれば……ねぇちゃん、入って!! 今直ぐ!! 早く!!」

 ヴァ・クルから滲み出るあからさまな食への渇望に気圧されながらも、当人の掛け声と共に微かな地面を震わせ開かれた扉を更にヴァ・クルから背を押されて潜れば、やがてアレスディアは寺院の中庭付近、植物栽培園に接するテラスへと辿り着き。既にその一角へ腰を落ち着け瞬く星空の下、テーブルへと置かれたランタンの灯かりだけを頼りに一見、お茶会に興じるオイノイエとツヴァイの姿を認めれば、予想外の展開に一、二度瞳を瞬かせた。

「あら、あら。ヴァ・クル、今宵は珍しいお客様を、お連れになったようですね」
「あれま、こりゃ一体、どう言う星のお導き?」

 盲目の身の上で、逸早くアレスディアの気配を察したのであろうオイノイエから、然して驚く様子も無く告げられた歓迎の言葉に、ツヴァイが吃驚の中にも揶揄を含めて純粋に瞳を丸くしてみせる。
 対して先と同様、ヴァ・クルへと掛けたあらましを説明すれば、二人は浮かべていた微笑みを一層深め、アレスディアをテーブルを囲う椅子の一つへと促した。

「この様な時刻に、何時も各々方でお茶会を催されて……?」
「いいえ、何も決め事と言う訳では無いのです。ですが此度の様な……世間の催し事の前後には。――……幾つになっても、心躍る行事には、急かされてしまう物なのかしら」

 ケーキの箱をツヴァイへと手渡し、断りを添えて示された椅子へ腰を下ろしながらも何気なく掛けられたアレスディアの問いに、己のティーカップを指に掛けつつ返されたオイノイエの答えは寺院の院長として振る舞う態度とはまた違った朗らかさを持って、周囲の雰囲気を和ませる。

「ツ〜ヴァ〜イ〜!! 早くっ、ケーキ!! 見せろぉ!!」
「お前なぁ。人様の前で、はしたない真似は止めなさい」

 その間にも、急いて箱の中身を覗き見ようとするヴァ・クルに、丸で良い物を食べさせていない様だとツヴァイが顔を顰め、馴染みの遣り取りにアレスディアが小さく破顔する。やがて切り分けられた砂糖細工も見事に尽きるショートケーキが温かな紅茶と共に手元へと差し出されれば、各々に贈った物を初めに手にする訳にはと躊躇する当人に構わず、引き下がる気配の無いツヴァイの両手に根負けし、ソーサーを受け取ろうとした白磁のカップの内、暖かな紅茶の表面に、はらり――……と白雪が触れて溶け合った。

「――…………雪?」
「あら、まあ」

 アレスディアから落とされた呟きを境に、一つ、又一つと舞い散る雪は止む事を知らず、弱々しくも各々の肢体へと触れては儚くその形を変えて、己が役目を終えてゆく。

「聖夜に初雪とは。我々の、日頃の行いの賜物ですか」
「オレ、知ってる。ツヴァイみたいな奴の事を、じいしきかじょうとか、なるしすとって言うんだよな」

 ツヴァイの軽口にヴァ・クルの茶々が入れば、凝りもせず勃発した睨みの利かせ合いも、眼前の白雪の前にはそれすら一時の事で。
 暫し誰もが漆黒の夜空から生まれる幻想の情景に心を奪われ、オイノイエが肌へと落ちる冷気を辿る様に盲目の視線を上方へと向けた儘、穏やかな声音の中にも傍聴の席を思わせる奥床しさを持って、唇を震わせた。

「寺院と、其れを取り巻く総ての者達に、遍くヴ・クティスのご加護があらん事を……――」
「――……オイノイエ殿」
「!! げっ、おまっ、おチビ!!」

 何処か儀式めき、威厳さえ感じさせるオイノイエの姿を視界に認め、アレスディアが紡ぎ掛けた言葉は敢え無く、焦燥に満ちたツヴァイの悲鳴によって掻き消される。何事かと、一同が視線を当人の先へ集めれば、ヴァ・クルが待ち切れ無かったのであろう、レースペーパーの上に残る、一つ分の隙間を空けたケーキへと玉の様な顔面を埋め、ほぼワンホールの形を残すそれを夢中で咀嚼していた。

「ねぇちゃんのケーキも、雪も、ツヴァイにはやらん!!」
「お前なぁ!! ちょっ、お二方共、呑気に見てないで、こいつを止めて下さいよ」

 顔面をクリームとスポンジで万遍無く汚しながらも、既にケーキを分配されたアレスディアは元より、オイノイエの分だと小さな前脚で分けた一人分を、ちゃっかり端へ寄せる姿がいじらしい。
 だが、この儘本当にワンホール分のケーキがヴァ・クルの腹の内に収められてしまっては事だと、遅れてアレスディアは当人へと視線を合わせ、出来得る限り穏やかな声音で制止を掛けた。

「ヴァ・クル殿、出来ればこのケーキは、皆で平等に味わって貰えればと思っているのだが」
「ん、が。むぐ、う?」
「その様に喜んで貰えるのは私も嬉しいが、そう意地悪をせず、仲良く皆で分け合って貰う事は出来ぬだろうか?」
「……むぅ〜、ねぇちゃんが、そう言うなら……」

 渋々ながらも、その手元に一人分には充分な量のケーキの残骸が残っている辺り、ツヴァイも少なからずオイノイエと同じ枠の中で愛されている事が窺えて。そんな偏った愛情を受ける当人は些か不服げではあったが、アレスディアは各々が美味しそうにケーキを頬張る姿を認め、己もたっぷりとクリームの絡む柔らかなスポンジを一口、唇へと運んでは口腔に広がる甘味に表情を綻ばせた。

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 後日、個別に仕事を終え、配達のお礼もそこそこに私事と退店した二人の下へ、郵便屋と名乗る一人の少年から、掌大の箱に丁寧に包装を施されたスイーツが届けられた。
 ヒナタからの手厚い感謝の念が記された手紙と共に添うそれが、二人に一体どんな幸福を齎したのか。

 ――……それは又、別の機会に……――。

 了

 ━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

 登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【2919】
 アレスディア・ヴォルフリート(あれすでぃあ・う゛ぉるふりーと)
(女性/18歳(実年齢18歳)/ルーンアームナイト)

【3087】
 千獣(せんじゅ)
(女性/17歳(実年齢999歳)/異界職)

【NPC】
 ヒナタ(ひなた)
(女性/19歳/パティシエ)

【NPC】
 ツヴァイ(つう゛ぁい)
(男性/23歳/寺院師長)

【NPC】
 ヴァ・クル(う゛ぁ・くる)
(無性/999歳/付喪神)

【NPC】
 オイノイエ(おいのいえ)
(女性/139歳/寺院院長)

【NPC】
 ジェイナス(じぇいなす)
(男性/21歳/傭兵・用心棒)

【NPC】
 ユカル(ゆかる)
(女性/9歳/傭兵・用心棒)

 ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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【アレスディア・ヴォルフリート様】
 この度は、「ノルンの贈り物」へのご参加を誠に有難うございました。
 今回頂いたプレイングを拝見し、恐れながら配達後、ヴ・クティス教養寺院での一幕を重視し描写させて頂きましたが、問題等ございましたら遠慮なくご指摘を下さいませ。
 そして思いがけず、寺院への贈り物に寺院の面々も喜びを隠し切れない様子です。
 一番の大喰らいが栄養を糧に出来ない天然ブルドーザーにて、アレスディア様も度々手を焼かれる事と思いますが、宜しければこれからもお付き合いを頂ければ幸いです。

【千獣様】
 この度は、「ノルンの贈り物」へのご参加を誠に有難うございました。
 今回、贈り物の宛て先は以前からの交流を踏まえユカルにて描写をさせて頂き、千獣様のアルバイトへの忠実さ、類稀な身体能力を考慮して贈り物は無傷にて、ユカルへと目撃されない代わりにジェイナスに気配を察知される、と言う形を取らせて頂きました。
 ノベルの内容に何か問題等ございましたら、遠慮なくご指摘を下さいませ。
 恐縮ながら、ユカルやジェイナスを交えた、千獣様とのノベルから生まれるこそばゆい暖かさが千獣様のお人柄の、一つの糧となれば幸いです。

 ※尚、当ノベルへのイラスト、ボイス商品のリンクに関しまして、ご希望がございましたらCHIRO名義のイラストレーター、ボイスアクトレス個室より「ノルンの贈り物」での一幕である事をご明記の上、「PC&NPCツインピンナップ」「PCミニミニ全身図」、若しくは「PCシングルボイス」にてお書き添えを頂ければ、通常受注、ノミネート受注中出来得る限りご希望に添わせて頂きたく思いますので、常時お気軽にお声掛けを下さいませ。※ノルンの贈り物にてご指定を頂いたPCミニミニ全身図は、ご希望の服装に、ランタンを所持した状態での描写をさせて頂く事となりますので、こちらも前以ってご留意頂ければ幸いです。

 CHIRO
LEW・PCクリスマスノベル -
CHIRO クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2008年12月09日

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