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『■音楽に手を重ね、想いを重ね踊る時 』
栄神・万輝3480

●想いの丈を込める時
 スポーツ大会で行われるダンスといえば、花形は各組の点数を競う競技ダンスだが、競い合うのではなく、主にレクリエーションとして全員参加で行われるダンスといえば‥‥。
「フォークダンス、だな!」
 フォークダンスといえば‥‥
「あの子と踊れるかどうかで、すっげ、変わるよな?」
「そうそう、何番目でまわってくるかとか数えてさ」
「直前で曲が終わった目には、もうどうしてくれんだって話だよなー」
 と、ダンス直前まで盛り上がったりもする。
 盛り上がる筆頭は、輪になって男女ペアで踊る曲‥‥テラスポで取り上げられる曲も例にもれずである。
 一節踊りきったらペアは交代。
 曲が終わるまで幾人ものペアが、手をつないでは、離れ。
 離れては、つなぐ。
 短い間に、想いを寄せる相手と踊れるか、それはとても大切な事。
 そして、ダンスに想いをかけるのは、男子だけではなく、女子も一緒。

 誰しもが、どこかで聞いたことのある、耳で覚えた曲のイントロが流れ始めた。


●ある種の‥‥ノスタルジアタイム
 ここ最近で聴きなれてしまった曲が始まる。
 スポーツフェスティバルの練習や段取りをする間にすっかり身体に馴染んでしまったメロディが流れ出すと、自然に身体も動き出した。
 考えるよりも先に身体が動く。何度も振りを練習して、すっかり覚えきってしまったからだ。
 覚えるというほど難しいものでもないから余計かもしれない。
 小さく『SAKAGAMI』と刺繍された黒の体操服を着た栄神・万輝は、一時だけのパートナーになる女性の手を取ると、挨拶として微笑む。
 始まる前には、自分へ呼びかける千影に応えてにっこり笑って手を振ったものだが、踊りの輪の中に入ってしまった今は、千影の姿が遠い。
 近しい大切な千影への笑みは、周りにいる女の子達にとっては、目の毒だったかもしれない。それほど惹き付けられずにはいられない鮮やかな空気を纏った万輝は、千影ではない女の子にも丁寧に踊りのパートナーを務めていた。
(「ちゃんと踊れているかな、チカの奴」)
 内心の心配はちらとも見せず、女の子をリードする万輝は完璧だった。フォークダンスではない、ダンスに慣れているのもあるのだろう。パートナーを不快にさせることなど無い華麗なリードで、組んだ女の子を赤面させていく。
 女の子の離れがたく躊躇う手指に気づきながらも、万輝は微笑み、優美なまでの動きで次の男性へと送り出してやった。
(「さて、チカとはもう少しで組める‥‥か?」)
 あと幾組ペアを作ればよいものか、万輝が目算しているうちに‥‥。
「‥‥仕方ない、か」
 終わりを告げる小気味よいメロディに代わり、万輝は目の前にいる千影ではない女の子に一礼し、フォークダンスを終えたのだった。


●二人だけの‥‥星月夜
「うにゃー‥‥チカ、万輝ちゃんと踊りたかったの」
 しょんぼり肩を落とした千影の目から碧玉の瞳からぽろぽろと涙が零れた。雫玉のような涙はやがて、さやさやと密やかに降る雨のように頬を流れ落ちていく。
 万輝は小さく息を吐いた。膝をついて目の高さを合わせると、指の腹で涙をぬぐってやる。
 ぬぐってもぬぐってもこんこんと湧き出る泉の如く流れる千影の涙に、万輝は眉尻を下げて小さく笑った。
 立ち上がり、その場から促すように肩を押した。
「万輝‥‥ちゃん?」
 主の腕に押され、ぐいぐいと瞳を拭いながら歩き出した千影は、万輝の意図がわからずその名を呼ぶ。呼ばれて千影を見た万輝は、唇に人差し指を当て、くすと小さく微笑んだ。万輝脳でが押さなくても歩き始めた千影の手を、今度は引くようにゆっくり歩き進んでいく。
 賑わうグラウンドを背に、人影も疎らな校舎へ入り。
 階段をひたすらに登って辿り着いたのは‥‥屋上。重たげな音を立てて開かれた扉の先に広がっていたのは、フェスティバルの〆に盛り上がるグラウンドだった。後夜祭のような盛り上がりに沸くグラウンドから、見上げればいつの間にか幾つモノ星が瞬いていた。
「うわー‥‥きれいだね、万輝ちゃん♪」
 屋上のフェンス越しに周りを見回す千影の目に先ほどの涙は無い。「ね?」と振り返った千影の目の前に差し出されたのは万輝の白くきれいな手。
 千影の瞳が、大きく見開かれた。
「お嬢さんお手を‥‥一緒に踊ろうチカ?」
 差し出された手の向こうには、大好きな主が大好きな微笑を浮かべていた。万輝の気持ちと、微笑みに千影はみるみるうちに胸に温かいものが広がるのを感じていた。「どうだろう」とばかりに首を傾げた万輝へ、千影は満面の笑顔を返した。
「うん!」
 万輝の手に己の手を重ねて、千影は大きく頷いた。
「ちゃんと踊れるんだろうね?」
「チカ、ちゃんと覚えてるもん!」
 その意気だと笑って万輝が最初のステップを踏み出した。千影も釣られて足を踏み出す。身体で覚えたダンスを思い浮かべるだけで、頭の中であの曲が流れ出す。万輝が千影と重ねた手を、くるりと返せば千影もふわりと回る。
 主従である二人の心は強く結びついているけれど、繋いだ手のぬくもりは別のもの。触れる指先から伝わる温もりが、伝わる想いが‥‥あたたかくて、嬉しい。
 嬉しい楽しい――幸せ。そんな気持ちを全身で表して踊る千影は可愛らしく。年相応の笑みを浮かべ、万輝も軽やかにステップを踏む。くるくると回って踊ってくるりターンを決めたなら、先程までだったら互いに礼を交わして、次のパートナーへ代わるもの。でも、その手は離れない。次の人なんていない、この場には万輝と千影の二人だけだから。
 離れる事無く、重ねた手をしっかりと互いに引寄せて。万輝のリードで軽やかに千影は踊り続けた。

 グラウンドの喧騒から離れた場所で、星だけが見ている二人きりのフォークダンス。


 fin。。。


●参加PC
・栄神 万輝
・千影
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姜 飛葉 クリエイターズルームへ
東京怪談
2008年12月02日

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