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『華麗に岩砕競争ッ 』
シュライン・エマ0086

□Opening
 広々とした会場に、ごろごろと岩が並べられている。周囲にはTSFと書かれたのぼりがいくつも立てられているので、ここはTSFの会場なのだろう。どんな道を辿ってここに至るのかは、良く分からない。ただ、ここに会場があるのだから、それで良いと思おう。
 さて。
 会場の真ん中、並べられた岩の間を一人の少女が現われた。
「レディース、アンド、ジェントルメーンッ。スポ魂してますかー?!」
 少女は手にしたマイクを空にかざし、わっと巻き起こる声を想像する。
 そして、満足げに頷き、拳を握り締めた。
「熱血競技に身体中の血液をたぎらせている貴方ッ! 麗しいチアガールに目を奪われている貴方ッ! スポーツなど関係ないと傍観を決め込んでいる貴方ッ! どなたもご注目あれ。さぁ、さぁ、ここに鎮座する岩です!! この岩を、華麗に、美しく、木っ端微塵に粉砕しましょう!!」
 きーんと、ハウリングの音が響く。
 少女は全く気にせず、説明を続けた。
「これは、岩を砕く競技です。会場を吹き飛ばしてしまわない限り、どのような技を使っていただいても構いません。但し、華麗に美しく! 砕いた岩の大きさも点数に加算されます。でもでも、お気をつけください。大きな岩ほど、粉砕するのは難しい。繰り返します。これは岩を砕く競技です。勝敗は各要素の合計点。岩の大きさ、砕く美しさ、そしてスピード、最後に審査員が一人一ポイントずつ持つ特別点を加算します」
 つまり、岩を砕く競技なのだ。
 審査員席には、どこかで見た事のある顔ぶれが並んでいた。
「何で、俺はこんな所にいる?」
「兄さん、ほら、楽しそうですよ」
 顔をしかめるのは、草間武彦。その隣には草間零が座っている。
「あはははは。と言うか、ここ、どこなんだろうね、本当」
 そのまた隣では、ルディアがエプロン姿のまま苦笑いを浮かべていた。
 砕く岩は、小さい物から大きな物まで五段階に別れている。当然、一番小さい物は一ポイント。その次が二ポイントで一番大きな物は五ポイント。
 競技のエントリーが始まる。
 貴方は、どの岩を、華麗に砕くのか。

■05
 一通り説明を受けたシュライン・エマは、マイクを持った少女に確認する。
「ええと、素手との注意は無かったし、道具はオッケーかしら?」
「道具……武器とかでしょうか?」
 突然の申し出に、マイク少女は首を傾げた。スポーツだと言うのに、道具イコール武器、と言う発想が出てくる時点で、普通の競技とはズレている気もする。しかし、それもそうかもしれないと受け流し、シュラインは手元からドリルを取り出した。
「穴あけドリルなんだけど」
「おー。先端、ぐるぐるですかー」
 ダボ穴用の、穴あけドリルだ。
 マイク少女は、どうしたものかと上空を見上げる。すると、どこからともなく、機械の合成音のような声が降ってきた。
「ドリル、有効!」
 有効、有効と、会場に有効コールがこだまする。マイク少女は、ぱっと顔を明るくし、シュラインへ笑顔を向けた。
「お聞きの通りです、ドリル、有効です!」
「そう、良かった」
 その時、ふと、審査員席から視線を感じた。いつもは、ずっと近くに居るはずの二人が、揃ってこちらを見ている。今は、手も届かない距離だ。けれど、確実にこちらを見ている。
 シュラインは、こっそり小さく手を振ってみた。
 零はそれに気がついたのか、遠くから大きく手を振り返してくる。いつもの、笑顔だ。その隣で、武彦は、こちらに気がついたはずなのにそっと目をそらした。照れてる。照れてる。シュラインは、それで十分だったのだが、零が武彦の手を取り勝手に振ってみせた。
 武彦本人は、そのパフォーマンスに耐えられなくなったのか、自由なほうの手で顔を覆ってしまった。そんな仕草をされたら、こちらまで恥ずかしくなってしまう。
 新鮮と言うか、照れくさいというか。
 ともあれ、珍しい物も見たことだし、楽しもうっと。

□06
「さぁ、ではでは、改めまして、競技に参加する皆様をご紹介いたします!」
 出場者が揃ったところでマイクを持った少女が会場の中心で声を張り上げた。色々と準備をしていた参加者達が手を止める。
「まずは、クールビューティー黒・冥月選手。ちなみに、各選手の紹介は、私の独断と偏見です。道具も武器も持たない彼女が一体どうやって岩を砕くのか! 岩を選んでください!」
「……細かく砕くだけなら簡単だが、それだと見た目が地味だな」
 冥月は一番大きな岩を選んだ。武器も道具も持っていないのだが、全く問題が無いようだ。それどころか、一番大きな岩を砕くと言う。一体どうするつもりなのか。
「さて、次は可愛い女の子、千獣選手です! 千獣選手も武器を持っていません。勿論道具も! だ、大丈夫なのでしょうか?! さぁ、岩を選んでください!」
「……岩、……ん。……じゃあ、これ」
 千獣も冥月と同じく一番大きな岩を指差す。こんな少女が大丈夫なのだろうか。本当は、競技を理解していないのでは? マイク少女は、一瞬不安そうな表情を見せたが、それはそれで面白いかもしれないと思いなおす。
「さてさて、続きまして、アレスディア・ヴォルフリート選手です。凛々しい騎士様とはまさに彼女のためにある言葉! さぁ、お好きな岩をお選びください」
「ふむ。中途半端な大きさを選んでも仕方ない。五でいこう」
 総身漆黒の衣服を身に付けたアレスディアも、一番大きな岩を選ぶ。手にした槍で岩を砕くのだろうか。今から期待に胸膨らむ。
「お次は、唯一の男性参加者。ワイルドアンドワイルドなジェイドック・ハーヴェイ選手です!」
「俺は生憎と素手で割れるような力は持っていない」
「ふんふん。そうなんですか? 意外です。見たところ、かなりワイルドな感じがしますが……では、何か武器でも?」
 問われ、ジェイドックは二丁のリボルバーを取り出した。選んだのは、一番小さな岩を12個。追加のルールとして、岩はいくつ選んでも良いがポイントとして加算されるのは5まで。どんなに岩を追加しても、最大5ポイントと言うことだ。
「最後は、普通の綺麗なお姉さんシュライン・エマ選手です。手にしたるは、ダボ穴用の穴あけドリル! しかし、穴を開けるのと岩を砕くのは少々違う気もしますが、どうなるのでしょうか!」
 マイク少女の力の入った解説を聞きながら、シュラインが選んだのは手ごろな3サイズ。槍や銃と比べれば、随分生活観あふれる道具を笑顔で構える。
 選手の紹介が終了し、マイク少女が諸注意とルールを繰り返す。
 岩を砕くこと。いかに華麗に砕けるか。いかに早く砕けるか。そして、審査員のポイントを加算し、勝者を決める。
 最初に提示したルールから急遽追加された点は、二点。岩をいくつ選んでも良い事、但し、ポイントは最大を5とする。道具も利用可能だと言う事。
 また、紹介されていた審査員の他、どこからともなく花の配達に現われた花屋の店員鈴木エアが新たに加わった。
「それでは、競技をスタートします! 選手の皆さんは、十分他の選手との距離を取り、位置についてください!」
 晴れ渡る空の下、高らかに開始の合図が鳴り響いた。

▽黒・冥月の場合
 開始と同時に、冥月は片腕で岩を上空に放り投げた。係員五名でようやく持ち運びが可能だった大岩を、軽々と空へ。冥月は眉一つ動かさず、それをしてのけた。真っ直ぐに伸ばした腕の先まで優雅だ。
「あーっと、これは凄い! どんな魔法かマジックか!! 冥月選手、大岩を空へと投げた」
 マイク少女の解説に、審査員が空を見上げる。
 あんなに大きな岩が空に浮かんでいる事がどう言う事なのか、すぐに理解ができない。
 あっけに囚われる一同をよそに、冥月は口の端を持ち上げ少しだけ笑った。
 パチン、と、指を鳴らす。
 すると、どうした事か、大岩が砕けた。これには、マイク少女も驚いて、解説の言葉を失う。あっと驚いた観客達をよそに、更に一度指を鳴らせば、砕けた岩が更に細かく割れる。その一つ一つの動作は、流れる風のよう。パチン、パチンと指の音が響くたび、岩が砕ける。
 実は、岩を持ち上げたのは自在に操れる影の力。岩を砕いたのも、冥月の操る影だ。岩の影を膨張させて砕いた。
 影の力を利用した、冥月ならではの作戦だった。
 審査員達は、ぱらぱらと降ってくる岩の破片を眺めて、拍手を贈る。零、エア、ルディアの頭上には、影でできた盾が用意されている。勿論、冥月の心遣いだ。おかげで、女性は誰一人、岩の破片を被る事はなかった。
 そうそう。
 審査員の中で、ただ一人。男性である武彦だけは、若干、埃まみれになったようで、目を細めて冥月に抗議していたのだが、冥月はそ知らぬふりでスルーした。
 ふわりと、冥月の黒髪が揺れる。
 たったそれだけの、短い時間の出来事だった。

▽ジェイドック・ハーヴェイの場合
 同じように、岩を上空で砕こうとしている選手が居る。
 12個の小さな岩を選択したジェイドックだ。
「では、行きますよっ」
 マイク少女が、両手に小岩を抱えジェイドックに確認する。
 あらかじめ、12個の岩を上空へ投げるようにマイク少女に頼んでおいたのだ。
 ジェイドックは、静かに二丁のリボルバーを構えた。小さなトラブルはあるとはいえ、聖都は平和なところ。ここしばらく、銃を抜く事はなかった。
「……まぁ、平和で結構なことだが、さて、上手く撃ちぬけたらお慰み、だ」
 そう言って、合図を少女に送る。
 マイク少女は、それではと勢いを付けて岩を上空へ放り投げた。
 久しぶりに銃を抜く、とは言うが、そこはソレ。凄腕の賞金稼ぎであるジェイドックの事だから、しっかりと一つ一つ、岩の動きを見ていた。
 ぱん、ぱぁんと乾いた音が響く。それが、火薬の弾ける音なのか、岩の飛び散る音なのか、ただ見ていただけの者には到底判断がつかなかった。
 続けて、ぱんとまた一つ、音が響く。
 二丁のリボルバーを片手で一つずつ支え、見事に岩を撃ち抜く様は、力強さを感じる。身体の向きを調整し、また一つ、岩を撃つ。
 一つ一つの動作は、ジェイドックにとってはゆっくりとしたものだ。けれど、マイク少女には、それが神速に感じられた。引き金を引く動作すら、目に映らない。ただ、目の前で、岩が砕けて行くだけなのだから。いや、その表現すらも生温い。本当は、岩の滞空時間なんて瞬きするほど。その一瞬に、全ての岩がなくなっていたのだから。
 そうして、ジェイドックは、ほとんどその場を動く事無く、全ての岩を撃ち砕いた。
「これは、ジェイドック選手、息をもつかせぬ超スピードです!」
 マイク少女は、それだけを素直に伝えた。

▽千獣の場合
 一方その頃。
 千獣はと言うと、選んだ大岩をぺたりと触ってみた。
 かなり大きい岩だ。両手を広げても抱えきれない。ゆっくりと、岩の周りを回ってみる。やっぱり、大きい。
 その後も、ぺたぺたと、色んな所を触ってみた。
 岩の上の方、ぺたぺた。側面、ぺた。下の方もぺたぺた。大きな岩なので、色んな所を触るのには、結構時間がかかる。けれど、千獣は時間を気にする事無く、ゆっくり丁寧に岩を調べ続けた。
 大きさ、おおよその質量、感触、などなど、十分に吟味する。
 それから、千獣は、中空を眺めて考えた。
 大きい岩があって、皆が楽しそうに岩を砕いていて、マイク少女は岩を砕くんだと言う。
 ええと……。
 つまり……。
「うん」
 ようやく答えにたどり着き、千獣は頷いた。
 そうと決まれば、ひたひたと岩から離れ十分に距離を取る。その行動の意味が分からないマイク少女は、不思議そうに千獣を見ていた。
 千獣は立ち止まる。
 岩の大きさ、堅さを考え、そして……。
「うあ……あああああぁぁぁぁっ!」
 気合いを乗せた。千獣の身体はみるみる獣化する。可愛い印象だった手も顔つきも身体も、大きく獣のように変化した。
 そして、地面を蹴る。
 強くて、硬くて、鋭くて、速い、力をめいっぱい乗せた一撃が岩を叩いた。
「ええええええええぇぇぇぇ?! これは凄い! 岩がっ! 岩がっ! 砕け散りました!!」
 それも、木っ端微塵に。
 マイク少女の声が響く。千獣の一撃は、あれだけの大岩を一瞬で粉々にした。

▽アレスディア・ヴォルフリートの場合
 木っ端微塵と言えば、アレスディアも負けてはいない。今回は、敵が攻撃してくるわけでは無いので、防御力よりも高い攻撃力を得られる黒装で臨んでいた。
 大岩を前にして、アレスディアは語る。
「……護るということは、何も盾や鎧で相手の攻撃を防ぐことだけではない。刃を向けてくる相手を沈黙させてしまうこともまた、護る事に繋がる」
「ええと、つまり、アレスディア選手、この競技もまた、戦いだと、そして護るだけではいけないと、そう言うことでしょうか?」
 いきなり攻撃や防御と言った、戦いの言葉が飛び出したが、アレスディアは至って真面目な様子だ。マイク少女も、ついつい競技中である事を忘れ真剣に耳を傾ける。
 ふむ、と、アレスディアは頷き言葉を続けた。
「護りとはただ防御するだけでは成り立たぬ。時には防御を解き、自身の全てを刃に乗せて攻撃に転じねばならぬ事もある」
 TSFと書かれたのぼりがいくつもはためく中、アレスディアはきりりと表情を引き締めマイク少女に答えた。そして、危ないからと少女を下がらせる。
「前置きが長くなってしまったな。……全身全霊を刃に乗せて、砕いてみせる」
 大岩までの間合いをはかり、突撃槍を構えた。
 戦闘中一度しか使えぬ大技のために、身体中の力を解放する感覚。
 かっと目を見開き、全ての力を一撃に込める。
「はああああぁぁぁ」
 気合いまでもその槍に乗せ切り、先ほど語った通り、自身の全てを刃に乗せて攻撃を繰り出した。
 どんっと、重い音が辺りにこだまする。
 アレスディアが繰り出した一撃は、確実に大岩を破壊した。
「あああああああっと。これは凄い、大技です! 凄いっ! アレスディア選手、一撃であの大岩を砕きました! 見事です!!」
 興奮を隠せ無いマイク少女は、震える空気を乗り越えてアレスディアへと向かう。
「……きゅ〜」
「はい?」
 その先で少女が見たものは、力を出し切りぐるぐると目を回す、魂の抜けたようなアレスディアだった。

▽シュライン・エマの場合
 さて。
 会場のそこここで大技が飛び交う中、シュラインはこつこつと作業にいそしんでいた。
「あのぉ〜。シュライン選手、今は何をなさっているのでしょう?」
 そこへ、マイク少女が興味深げにやってくる。
 丁度、三つほど、岩に穴が開いたところだった。
「うん。今ね、穴あけが大体終わったところ。後は、蜘蛛の巣状に溝を付けて行くの」
「ははぁ」
 だから、何だと言うのだろうか? マイク少女は、首を傾げるばかりだ。
 シュラインは、にっこりと微笑み作業を再開する。ドリルの強さを調節し、岩の表面に丁寧に溝を付けていくのだ。科学の粋を結集したと言っても過言では無い、どこにでもある日曜大工のこのドリルで、彼女は一体何をするのか。
 他の参加者と比べて危険が少ないようなので、マイク少女は身を乗り出してシュラインの岩を観察していた。安全第一、どるどるとドリルがまわる。
「さて、こんなところね」
 作業を進めていたシュラインの手が止まった。どうやら、これで完成らしい。しかし、岩は砕けていない。穴が開いているとは言え、中くらいの岩は、まだその形を保っている。
 次に、シュラインが取り出したのは、何の変哲も無いメガホンだった。
「――ッ、――――――!」
 シュラインが、口を開く。寸前に息を吸い込んだので、何か声を出すつもりだったのだと思う。けれど、マイク少女には何も聞こえなかった。
 だが、シュラインは確実に何かを発している。
 その時、メガホンの先が触れていた岩に亀裂が走った。
「え? どうして?!」
 不思議そうな声を上げるマイク少女。シュラインは、そんな彼女に一度微笑んで見せ、また何かをメガホンに向かって叫んだ。
「皆さん! 私の目がどうかしてしまったのでしょうか?! 岩が……、砕けたんです!」
 シュラインは、声で振動を起こし、岩を内側から砕いていたのだ。開けた穴を目指して振動させ、そこから瓦解させる。
 そう説明されたのに、マイク少女は最後まできょとんとして、砕けた岩を見ていた。

□Ending
「さて、それでは結果発表です!」
 全ての参加者の岩が砕けた。マイク少女は最初の位置へと戻り、審査員達へ最終確認を行う。
「まずは、岩ポイントの確認です」
 マイク少女の声に合わせて、会場内に電光掲示板が現われた。

 黒・冥月 +5
 千獣 +5
 アレスディア・ヴォルフリート +5
 ジェイドック・ハーヴェイ +5
 シュライン・エマ +3

 選手の名前が列挙され、点数が加算されていく。
「続いて、スピードです! リボルバー二丁に寄る射撃ジェイドック選手が最速でした! 以下、冥月選手とアレスディア選手はほぼ同時、続いてシュライン選手、最後は千獣選手となります」

 黒・冥月 +5
 千獣 +5
 アレスディア・ヴォルフリート +5
 ジェイドック・ハーヴェイ +5+1(S)
 シュライン・エマ +3

「さて、続きましては、美しさ……ビューティーポイントですが、こちらは審査員推薦の冥月選手に一ポイント加算したいと思います」
 これは、パフォーマンスと審査員への気配りが評価された結果だった。一人、埃まみれの武彦だけは、かたくなに唇を尖らせていた。

 黒・冥月 +5+1(B)
 千獣 +5
 アレスディア・ヴォルフリート +5
 ジェイドック・ハーヴェイ +5+1(S)
 シュライン・エマ +3

「最後に、審査員からポイントを付加していただきます! いいですか、私情は無しですよ?!」
 最初にポイントを入れたのは零だった。彼女は、シュラインに一ポイントを加算する。理由は、『日常道具をあんな風に使うなんて凄い! まさに家事手伝いの鏡!』だと言う。あのドリルが、どう家事の鏡なのかは少々疑問だが、いたく感動した事は伝わってきた。次に、武彦はジェイドックに一ポイント加算した。『二丁拳銃……。男のロマン』そう、呟いていた。ハードボイルド的な何かが疼いた様子だった。二人が早々にポイントを決定した様子を見て、ルディアは困っていた。どうしようどうしよう。よくよく話を聞くと、千獣の岩を観察する様と砕く様のギャップに一票入れたいらしい。それと同時に、アレスディアの抜群の破壊力にも魅了されたらしい。
「もうね、二人に入れたいな! だから、半分ポイントって事で、許して欲しいよ」
 その熱意に、マイク少女は折れた。ルディアのポイントは、千獣とアレスディアが半分こする。
 最後になったが、花屋の店員鈴木エアは、ジェイドックに一ポイント入れた。ポイントの理由を聞けば、『私……筋骨隆々な人の見た目と行動のギャップ……良いと思うんですよねぇ』とか何とか。大きな身体で、素早い動きと言うのがツボだったらしい。
「ではでは! 最終ポイントを確認します!!」

 でけでけでけでけ。
 派手な音楽が鳴り響き、電光掲示板がぴかぴかと光る。
 だだんっと小太鼓の音が止んだ瞬間、ぱっと画面に文字が映し出された。

 7pt
  ジェイドック・ハーヴェイ +5+1(スピード)+2(武彦・エア)
 6Pt
  黒・冥月 +5+1(ビューティー)
 5.5Pt
  千獣 +5+0.5(ルディア)
 5.5Pt
  アレスディア・ヴォルフリート +5+0.5(ルディア)
 4Pt
  シュライン・エマ +3+1(零)

「じゃじゃーんっ。と、言う訳で、総合優勝はジェイドック選手でした!! 参加選手の皆さん、お疲れ様でした! 審査員の皆さん、有難うございました! 観戦の皆さんも、有難うございました! これにて、岩砕競争、終了させていただきます!!」
 どどどどどどどっどどんっ。ぱっぱらぱー。
 どこからともなく、ファンファーレが鳴り響く。
 これにて競技終了です。参加者の皆さん、本当に有難うございました。
 盛大に砕かれた岩の残骸を残し、競技は何の問題もなく終了した。

▼A bonus truck
 東京への帰り道、シュラインは武彦と零の真ん中を歩いていた。
「二人とも、審査員お疲れ様でした」
「それを言うなら、シュラインさんもお疲れ様でした! 本当、凄かったです」
 まだ興奮冷めやらぬ、と言った表情で零が肩を弾ませる。
「そう。有難う。零ちゃんだったら、どうやって岩を粉砕してた?」
「え? そう……ですね」
 今回は審査員だったけれど、もし零や武彦が競技に参加していたならば、一体どんな風に行動したのだろう。問われて、零はうーんと唸った。
「じゃあ、シュラインさんを見習って……私、掃除機で、何とか!」
「絶対、何とかならないぞ?!」
 一体、掃除機で何をしようとしているのか。真剣を構えるポーズを取った零を見て、武彦は首を振る。けれど、彼女なら、掃除機でも何とかしちゃいそうだと、シュラインは心の中でそっと笑う。
 その隣で。
 武彦は、こっそり左手の親指と人差し指で拳銃の形を作っていた。
「そうね。リボルバー、格好良かったわね」
「……見た?」
 もし、自分が参加したなら、拳銃を使っただろうなと、武彦は思った。そして、それを表すように左手が動いたのだろう。ちょっぴり子供っぽい仕草を見られ、武彦は気恥ずかしそうにシュラインを窺う。
 みちゃった、と、笑顔を作ると、武彦はあーと低い声で呻いた。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【2778 / 黒・冥月 / 女 / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒/ 東】
【3087 / 千獣 / 女 / 17歳 / 異界職/ ソ】
【2919 / アレスディア・ヴォルフリート / 女 / 18歳 / ルーンアームナイト/ ソ】
【2948 / ジェイドック・ハーヴェイ / 男 / 25歳 / 賞金稼ぎ/ ソ】
【0086 / シュライン・エマ / 女 / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員/ 東】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 皆さん、競技参加お疲れ様でした! そして、有難うございました。
 今回の競技開催にあたり、皆さんのあの手この手を楽しみにお待ちしておりました。ただ岩を粉砕するだけなのに、色んな手段を有難うございました。
 せっかくですので、審査員ポイントは世界の垣根を考えず付加させていただきました。
 □・▽部分が共通、■・▼部分が個別描写になっております。

■シュライン・エマ様
 こんにちは、いつもご参加有難うございます。いつもながら、工夫を凝らしたご参加有難うございます。岩を砕くのに、ドリル、と言うのは、言われてみればあまりに当たり前な道具ですよね。それを、出してくると言うのが凄いなーと思わずうなずいてしまいました。
 少しでも楽しんでいただければ幸いです。
 また機会がありましたらよろしくお願いします。
TSF・PCスポ魂ノベル -
陵かなめ クリエイターズルームへ
東京怪談
2008年11月25日

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